精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-12 ほう、喧嘩を売ったな?


「えっと、作戦会議の前に、改めて自己紹介しよう」

 ミリオンベルがそう促したのは、クルト達が外に出た後の事務所の中での事だった。
 スティアとテロペアは互いを睨み合い、舌打ちをする。
 それを尻目に、ネメシアとアルメリアがこそこそと話し合っていた。この二人がこそこそと話している内容は、決してこの場の雰囲気の悪さではない。いかにしてスティアの髪形も三つ編みお団子にするかの作戦会議である。
 先ほどまではここにいたフリチラリアは、ディオンとラナンキュラスの件で隣の雑貨屋へと足を運んでいる。今頃「ありがとう」だの「よろしく」だの、そういった挨拶の類をしているだろう。

「私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲルだ」

 睨み合った二人のうち、先に動いたのはスティアだった。彼女はふん、と鼻を鳴らし、偉そうに腕組みをしてテロペアを見る。

「……バイシュハイチョ。テリョペア・バイシュハイチョ」

 対してテロペアは、どこからどう聞いてもわざと噛んでいる回答をした。

「なんだそのふざけた名乗り方は」

 名前を重要視する精術師の中で、あるまじき暴挙だった。事実、たった今までテロペアの肩にいた亀の形をした精霊は「おいとまをいただく」などと言いながら去っていったのである。

「け、喧嘩か?」
「まだ喧嘩まではしていないが、この男があまりにもふざけているものでな」
「えー、おれ、噛んじゃうだけにゃのに? 人の欠点をふじゃけてりゅ、とかいうのー? こういうにょ、性悪って言うんじゃにゃい?」
「ほう、喧嘩を売ったな?」
「売ってましぇーん」

 二人の間に、火花が散っているようだ。ミリオンベルはおろおろと二人を見比べ、どう止めたものかとすっかり頭を悩ませてしまった。
 もし仮に、テロペアの「噛み癖」が本来のものであるのなら、精霊が離れていく事はない。今離れて行った時点で、彼がわざとそうしているのだという事は明らかなのである。そしてそれがわかるからこそ、スティアは憤っている。
 ミリオンベルには精霊が見えないが故に、そういった理由で怒っているとは分からず、困惑するに至った。

「ミリィ、大丈夫」
「な、何が?」

 そのピリピリとした空気の中、ネメシアがのんきな声を上げた。

「スッティー、人見知りってだけだから」
「ひと、みしり?」

 スティアは眉間に皺を寄せる。

「そっか、テロペア君も人見知りなのね?」

 スティアが何かを言う前にネメシアの言葉を追ったのは、アルメリアだった。彼女はおっとりと首を傾げ、テロペアを見ている。

「そっか。テロペア人見知りだったんだもんな」

 ぽん、と、ミリオンベルが手を打つ。どうも合点がいったらしい。

『……まあ、それでいいけど……』

 結局二人とも、分かり合ったわけでもないがそこでこの話題を切る事にした。天然二人に散々引っ掻き回されそうになっている気配を敏感に察知したのだろう。

「ってゆーかしゃー」

 テロペアは雑に椅子に座りながら、スティアに挑発的な視線を送った。

「この怖ぁい女と話ちゅじゅけても仕方にゃいし、とっとと作戦会議とかいうやちゅ、終わらせよ」
「ああ、奇遇だな。私も貴様のような信用のおけないような男と仲良く話す趣味はない。とっとと終わらせよう」

 同じく乱暴に椅子に腰かけながら、彼女は足を組む。そうしている様は、まるでこの事務所の主であるかのようだ。
 だが、そのような態度も何のその。座った事により頭部が近くなったとネメシアはぴょんぴょん跳ねまわる。

「スッティー、終わったら三つ編みね!」
「はぁ⁉」
「スティちゃんもお揃いにしましょう」

 まさかのアルメリアも参戦である。スティアが目をむいてそちらを見るも、ネメシアは満面の笑みを、アルメリアは微笑みを浮かべていた。

「……そっちは、まぁ、後で話すとして」
「やったー、許可が出たー!」
「え、そうなの? やったー」
「出してない!」

 ちっとも話が伝わっていない。テロペアが小さな声で「話が通じないって怖い」と呟く。ネメシアの事だ。

「え、えっと、ほら。作戦会議、しよ」

 必死に流れを変えたのは、ミリオンベルだ。彼は椅子を持って来て、スティアとテロペアの間においてから座った。

「しょーだね」
「あぁ、そうしようか」

 険悪なまま、二人は頷く。一応「人見知りだから」だと思ってはいても、ミリオンベルにとってはあまりありがたい空気ではない。

「で、あんた、何できゆの?」
「貴様こそ」
「ま、待った待った」

 口を開けばすぐに喧嘩腰。ミリオンベルは慌てて止める。

「スティアは普段はレイピアを使ってて、テロペアは――」
「今回は支給されるやつぶん回しゅんだし、武器はいいじゃん」

 一応説明を、と口を開いたミリオンベルを遮ったのは、テロペアだった。それからニヤッと笑う。

「でも、ま、あんまり強いとは思えないし?」

 スティアの上から下までをじろじろと無遠慮に見るさまは、彼女でなくとも不快感を覚えるだろう。その際、ネメシアは除外するが。

「男のおれとベユの二人が前衛、そこの女を後衛にしてシャポートでもしてもらったらいいんじゃにゃい?」
「貴様、私ではいけないと?」
「配慮でしゅー。は、い、りょ!」

 どこからどう見ても、そんなに相手の立場に寄り添ったような言い方と態度ではない。

「大将をベユにして、お前を前衛に引きずり出してもいいんでしゅけどねー?」
「駄目だって」

 ミリオンベルは困ったように首を横に振る。

「いや、私は構わんぞ。大将もベルがやるといい」

 対してスティアは、強気な態度を崩そうともしない。

「へぇぇ、お前が前衛とかできゆにょー?」
「はっ、貴様こそ、今回は精術ありだがどうにかなるのか?」
「待った待った」

 どこまでも不穏になっていく空気の中、ミリオンベルは再度割って入った。どうにもこの二人は相性が悪い。

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