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三章
3-16 クルト、お互い頑張ろう!
翌日、ディオンとラナ、テロペアが迎えに来たところで、全員で予選会場へと向かった。
何でも屋には「本日臨時休業」の札をかけてきたので、もしも今日依頼人が現れたらちょっと申し訳ない。
大会はクヴェルの中心部で行われる。Aブロック、Bブロック、Cブロック、Dブロックにクジで別れ、それぞれのブロックで頂点に立ったチームが本戦に臨む。
中心街は簡易的に作られた四つの予選会場と、その周辺にひしめくように現れた屋台でぎゅうぎゅうだ。ただでさえ、このお祭り騒ぎに街中が沸いているものだから、スティアは道中、シアの手をがっちりと握っていた。
だよな。この中ではぐれたらこいつ、二度と何でも屋には帰って来られないだろうし。
「代表者の方ー! クジを引きに来て下さい!」
予選会場の内の一つの前で、管理官が大きな声を出していた。ブロック分けをするらしい。
「じゃ、行ってくるね」
「俺も」
うちのメンバーからは、ディオンとベルがそちらへと向かった。
ちなみにオレ達は、今日は何でも屋としてきているわけではないので私服だ。
ベルはいつもの見慣れた高級な制服ではなく、ちょっとラフな感じで、でも清潔感のある服を着ている。あれ、オレが同じものを着たら、「服に着られている」みたいに見られそうなんだけど。服って、デザインじゃなくて着る人が重要なのか?
今朝ベルにそれを言ったら、「本戦に進んだら、折角だしオシャレしていく」という謎の回答を頂いた。今日のはオシャレじゃないらしい。
オシャレと言えば、本日のオシャレ大賞はやはりアリアさんか。淡い水色のワンピースに、レースのショール。さらに白い日傘と来たものだ。
見た瞬間のオレは、心の中で「夏よ、私服よ、ありがとう!」と大声を上げていた。清楚大爆発。可愛いと綺麗が同時に存在している。さすが、オレの天使。
「クルト、俺とお前のチームは別のブロックだった」
「お、おう。爽やかで眩しくて溶けるかと思った」
「お前、何言ってるんだ?」
オレがデレデレ……間違った。美しいものを見て心を洗っていると、クジを引き終えたベルが現れた。
この暑い中でも清涼感すら感じさせるのは、イケメンのせいだろうか。羨ましい限りだ。
「クルト、俺達もベル達も勝てたら、本戦には皆で出る事が出来るよ」
「おお、そっか。そういう事か」
一緒に戻ってきたディオンに補足して貰えなかったら、よくわからないところだったかもしれない。ナイスフォロー。
「クルト……なんだと思って俺の話を聞いたんだ?」
「い、いけめん」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
ベルが呆れたようにこちらを見たが、思っていた事を素直に口にすると彼はわずかに頷いた。イケメンって、直ぐイケメンって認める! でもこれだけのイケメンで「そんな事ない」って言われる方が悔しいから良いんだ。
「で、スティア」
「ああ」
ベルは視線をスティアに向ける。正確には、スティアが握ったままのシアの手に。
「シアは誰に任せる?」
「これはアリアか所長だが……」
今度はスティアが応援組の方を見た。誰にシアを押し付け……預けるかで迷っているらしい。
「所長、誰の応援に行きます? それとも誰の応援もせず、その辺の露店でも楽しみます?」
「ベル! 僕がベル以外に現を抜かすとでも思ってるの!?」
「……いえ」
聞くだけ野暮ってものか。所長はベルが大好きだ。
テロペアもよく知っているらしく「だよね」と呆れたように相槌を打っている。
「んじゃ、あたしはルトの応援するね!」
「おい、ちびっこ」
元気に手を上げたシアに、テロペアは近付いた。
「チビじゃないもん」
「んな事はどうでもいいんらよ」
それ、シアにとってはどうでもよくないところだと思うぞ。
「アリアと手を繋いでなしゃい」
「え? あぁ、うん」
よくわからない、という顔をしながら、シアはスティアから離れて、アリアさんの日傘をさしていない方の手を握った。羨ましい……じゃない! じゃないじゃない! 羨ましいのは事実だが、それはそれとして、何でこの場をテロペアが仕切り出したんだ!
「アリア、しゅぐ無理すりゅから、ちゃんと様子を見ておいて」
「おっけー!」
合点がいったらしい。シアはアリアさんと手を繋いだままぴょんぴょん飛び跳ねた。
お前、そのままアリアさん巻き込んで転んだりするなよ? 頼むぞ?
「アリア、一緒にルトの応援に行こうね!」
「それはいいけど、わたし、シアに見られてなくったって、しっかりしているわ」
「アリア、耳かして」
テロペアは、今度はアリアさんの耳元に口を寄せた。う、羨ましい!
「あのちびっこ、はぐれたらヤバイんれしょ? 手を繋いで、こっそり監督してて」
こそこそと話している声が、わずかに聞こえる。なるほど、そういうつもりで……。
「テロペア君、こそばゆい」
「ねぇ、ちゃんと話は聞いてたのかにゃ?」
「大丈夫よ。任せて!」
アリアさんは「わたし、大船だもの」とにこにこ笑っている。いやいや、アリアさん、たまに豪華客船の沈没って感じになるじゃないですか。自分を過信しないで。
「とりあえず決まったね」
全部まとまった感じになったところで、所長がぱんぱん、と引率の先生みたいな感じで手を打ち鳴らした。だったら所長が、皆纏めればよかったのに。何故かテロペアがうまい事調節してたじゃん。
「クルト、お互い頑張ろう!」
「おう!」
ベルが機嫌良さそうにオレに手を上げた。
オレも頑張らないと。それで、ベルと一緒に本戦に出なければ。
「よかったな、クルト」
「何が」
スティアが、含みのあるような視線をこちらに向けた。
「アリアがお前の応援をしてくれるそうだ。よかったな」
「な、なななななな! なっ、え、そ、そりゃあ! そりゃあアリアさんに応援して貰えるっていうのは滅茶苦茶嬉しいけど、何で、そっ、そんな、なぁ?」
「ルト、あたしの応援はいらぬとな?」
突然シアが入ってきたが、確かにオレのこの言い方だと、シアの応援はいらないっていう風にもとれるもんな。ごめん!
「いるよ! いる! ありがとう!」
「どういたしましてー!」
本人はそれほど気にしていなかったようで、またアリアさんと手を繋いだままぴょんぴょんした。
「えーっと、そろそろ向かわない?」
オレ達の反応を見かねてか、ディオンが苦笑いを浮かべながら促した。そのディオンはディオンで、すぐ隣のラナに「兄さん、あっちで売っているものが美味しそうだよ」だとか「帰りにあのお土産を買わない?」だとか声をかけられ続けていたので、すでに疲弊している感じも見受けられる。
ラナ、結構はしゃいでるな?
「そ、そうだった」
オレは咳払いをしてから、改めて今の面子を見回した。
「じゃあ、その、またあとで!」
「ああ。頑張れよ」
「そっちもな!」
こうしてオレ達は分かれて、それぞれの会場へと向かったのだった。
***
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