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三章
3-23 な、なんで、レヴィンがここに!
しおりを挟むでも、思春期こじらせてるらしいし、あまり突っつくのはよくないよな。オレ、賢いから何も言わない。
料理はどんどん運ばれてきて、やがてベルが着席した頃には、席には所狭しと大きいのにちょっと乗っている皿が並んでいた。
途中でテロペアも席を立ち、アリアさんの前にもいろいろ置いていたので、これがテロペアがアリアさんの為に作ったというものなのだろう。
「本当は一皿ずつ運んでくるんだけど、今回は貸し切りだし、気楽にって事で一気に提供して貰ったんだ」
全員が席について、飲み物も行き渡ると、所長が話し始めた。お、そろそろいただきますだな! 美味しそう!
「皆気にしないで、好きな順に好きなものを食べてね」
よかった。オレ、高級なマナーは心配だったから……。
「それじゃ、飲み物を手に取って」
全員、飲み物を手に取る。
「今日はお疲れ様。それから、おめでとう。乾杯!」
『乾杯!』
飲み物の入ったグラスが掲げられ、パーティーが始まった。
こくっと液体を飲み込むと、しゅわしゅわしたブドウ風味の甘ったるくはない液体だった。なんだろ、これ。美味しい。
さて、どれから食べようかな。
テーブルの上に置かれている、サラダ? みたいなやつとか、名物だというスープ。いい匂いのする肉の塊に、焼き立てのようでホカホカと湯気を上げているパン。どれもこれも美味しそうだ。
やっぱ、スープかな! 名物らしいし!
アリアさんは早速スープに手を伸ばし、美味しそうに口に運んでいる。食べている姿すら天使。
オレもスープからにしよう、と口に運ぶと、あまりの美味しさに気が遠くなった。
なんだこれ。しっかり濃厚なジャガイモの風味。けれどそれだけじゃなくて、邪魔しないように色んな味が詰まっている。
その……なんかいい言葉が思いつかないけど、凄く美味しい! 白いポタージュの中に、一体どれだけのものが詰まっているのか。
隣でスティアが「凄いな。美味しい」と素直な感想を口にしている。お前もスープからいったんだな。
ベルは所長の隣に座って、肉の塊にかかっているソースを指差し、「これ、覚えた。所長、早く食べて」と話している。どれどれ。次はそれにするか。
スープは一回置いて、肉に手を伸ばし、一応切り分けてから口に運ぶ。
「え、このソースって作れるものなのか!?」
そしてオレは、あまりの美味しさに驚愕してベルを見た。
酸味と甘みが混ざり合い、それでいて肉のうまみを引き出すソースは、どう考えても素人が作れる代物ではない。いや、当たり前か! ベル、素人じゃなかった!
「完全一致は無理。ここまで良い素材を日常的に使うわけにはいかないし、俺の技術だとじーちゃんの味に近いというだけで追いつけるわけでもないし」
「ジジィ、腕だけはいいから。腕だけは」
テロペア、それ、お祖父ちゃんの性格は悪いって言ってないか?
「はい、アリアー。こっちも食べてみよ? おれ、アリアの為に夏野菜のテリーヌを作っておいたんだよー」
「う、うん。ちょっとだけね」
もうお祖父ちゃんの話はどうでもよくなったのか、テロペアはアリアさんにスープ以外の食べ物を勧めている。その皿には、カラフルな野菜がゼリー的な何かで固められているものが乗っていた。
「うんうん。ちょっと食べてみよ。アリアが食べやすいように、薄めに切ってきたからね。このくらいはいけるよね? みんな食べちゃお」
「全部?」
「ぜんぶ」
ちょっと食べてみよう、からの全部。結局ちょっとで済ませる気はないのか。
「ディーオ、こっち食べた?」
「で、ディーオ? 俺?」
「うん、そう。食べた?」
シアはシアで、マイペースにもディオンに話しかけていた。この二人が並ぶと、巨人と小人みたいだな。
「うん、食べたけど」
「美味しいよね。同じのを追加するか、別のにするか迷わない?」
「そ、そうだね」
シアが言っているのは、どうやらサラダのようだ。新鮮な野菜に、オリジナルのドレッシングがかかっている。
カラフルなサラダだが、オレはまだ手を付けていなかった、と、そのまま頬張る。シャキシャキ! 美味しい!
ドレッシングは少し香りが強めだが、野菜そのものの甘みと絶妙にマッチしている。
人工的な甘さじゃなかったら、オレだって美味しく食べられるんだけどな。かぼちゃとか。
「兄さん、よかったね! 女の子の友達が出来たよ!」
ひく、と、シアの口元が引きつったのをオレは見逃さなかった。さては苦手だな、距離感の怪しい相手。
シアの距離感の取り方もちょっと怪しいけど。
「シア、僕の事は?」
「……ラナ」
「ありがとう! これで友達だね」
「ん、んん……そ、だね?」
シ、シアが押されてる!
「ラナ、あまり無理強いはよくないよ」
「でも兄さん。シアは愛称で呼んでくれるんだよ。兄さんの事なんて、オリジナルのニックネームだし。それは仲良くしたいという事の現れなんじゃないかな」
「い、いや、噛んじゃうからなんだけど」
「照れなくてもいいんだよ!」
シアが小声で「通じないよぅ……」と言っている。気持ちは分かる。
「ディーオ、これ……」
「う、うん、ごめんね」
どうにも出来なくなってディオンに助けを求めると、彼は苦笑いを浮かべた。どちらも心底困った顔をしていたが、やがて「追加しよっか」「そうだね」と仲良くメニューを見始めた。
スルースキルを発揮したらしい。
「フーさん、こんばんは。本日はありがとうございます」
「あぁ、これはカイルさん。今日は無理なお願いを聞いていただいて」
ベルといろんな話をしながら食事を楽しんでいた所長に、声をかける人が現れた。銀髪青目のイケメンおじさん。
あ、テロペアのお父さんかな。顔立ちは、プロテアさんとかルイザに似ている。
逆か。あの二人が父親似なんだな。
「ベル君、おめでとう。テロペアと一緒に本戦に出るんだって?」
「ありがとう、カイル父さん。しばらくテロペアを貸して」
「いくらでも借りていきなさい」
「ちょっとー、人の事を物扱いしにゃいでよ。そりゃ、仕事は休むけど」
うん、やっぱりお父さんなんだな。あと、もれなくベルに甘い気配がある。
「それで、ルース君の代わりというのは――」
テロペアのお父さんはきょろりと見回し、オレを見た瞬間に息を飲んだ。
「レ、レヴィン?」
レヴィンって、オレの事言ってる? でもその名前、オレじゃなくて……。
「な、なんで、レヴィンがここに!」
「えっと、オレ?」
一応確認すると、こくこくと頷いている。オレの事か。じゃあ、名乗った方がいいな。
どの道相手が精術師なら、名乗っておいた方がいいのに変わりないし。
「オレ、レヴィンじゃないぞ。ツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
「私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲル。レヴィンなら、私達の父ですけど、お知り合いですか?」
オレに続き、スティアも名乗った。そして、レヴィンが親父の名だというのをスティアが言った。
むぅ、オレが言おうと思ってたのに。
「ヴァイスハイト。カイル・ヴァイスハイト」
やっぱりテロペアのお父さんか。焦ってるっていうか、困ってるっていうか、そんな顔をしている。罪悪感があるようにも見えるが、どんな感情なのかオレにはピンと来ない。
親父、何かやらかしたのか?
「……レヴィンの、昔の知人だ。昔、その……シュヴェルツェが復活した時の関係者というか……」
「シュヴェルツェの時の……」
そっか。それで言いにくいのか。
「す、すまない。こんな日に話す事ではないな。あいつは元気か?」
「はい、元気です。多分今日も元気にお金を追いかけてるんじゃないかな」
「父は金の匂いに敏感で、いつも楽しそうに追いかけてますよ」
オレの認識も、スティアの認識も同じだ。
親父はいつだってお金大好き。スティア、変なところ遺伝したな。
「そうか。相変わらずなんだな。よかった」
いい、か? お金にがめついんだぞ?
「ああ、そうだ。追加の注文があったら聞いていこう。何かあるかな?」
「あ、あたし、あるー!」
オレが聞くよりも先に、テロペアのお父さんは他の人を見た。それにシアが手を上げる。
そして追加の注文を受けると、そそくさと厨房へと戻ってしまった。
「ツークフォーゲル、これ、どういう事?」
「というか、知り合いなら教えてくれてもいいではないか」
二人そろって、オレ達の料理をつまもうとしていたツークフォーゲルを見ると、精霊達はこぞって首を傾げる。
『んー、レヴィンにいうなっていわれてるし』
『ひみつひみつー』
『おとこには、ひみつのひとつくらいあったほうがいけてる、っていってた』
わ、わからんでもないが、モヤモヤする!
スティアも同じだったようで複雑な顔をしているが、結局それ以上何かの情報を得る事も出来ず、オレ達はパーティーへと意識を戻したのだった。
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