128 / 228
三章
3-22 テーくん含めて反抗期だと思ってた
しおりを挟む「あたし、精術師じゃないけど名乗るね。ネメシア・ツェーン・でいしゅたべいく」
「ディースターヴェーク」
「それ!」
毎回のごとく自分の名前を言えないシアを、いつも通りスティアがささっとフォローした。
妹VS妹の最中であっても、シアのフォローは出来る。これが……大人の余裕ってやつか?
「え? 自分の名前も満足に言えないの?」
「えへへ、ごめんね。テーくんと同じように噛んじゃうんだよね」
「……あ、うん。別に……謝るほどの事でも、ないけど」
あ、シア、勝った。しかも不快な思いもさせず、戦った感じも全くなく。
この兄妹、シアに弱いのかな。
「思春期っていいねー。可愛い」
「ししゅっ! ち、違うわよ!」
シアにかかれば、思春期も可愛いものの一種なのか。こいつにとっての可愛くないものってなんだ。
「え? 今反抗期なんじゃなくて?」
「違うってば!」
ルイザが必死に否定するも、シアは首を傾げるばかりだ。その様に、ディオンが苦笑いを浮かべている。
うん、その気持ちは分かる。何しろうちのスティアまで呆れた顔になっているのだから。
「テーくん含めて反抗期だと思ってた」
「違うってば!」
「……ま、しょれでいいですけどー」
あくまで否定する思春期と、諦めて容認する反抗期。この年頃は皆こんなもんなのか。
しまった。そういう事で容認すると、オレも思春期兼反抗期になってしまう。えーっと、人それぞれ! 人それぞれだな!
オレ、思春期じゃない。ちゃんと大人。
「あたしも反抗期こじらせて家出してるし、そんなもんなのかなーって思ってた」
「なるほど、家出ね……」
シア、お前そんな理由で何でも屋に来てたんだっけ? あ、でも確かに大魔法使いとして親が見るから嫌になったー、みたいな事を面接の時に言っていたもんな。その事か。
っていうかテロペア、なんで家出に反応した。お前も反抗期こじらせて家出するのか。
「……そろそろ、お料理の続きを運んできましょう。ね?」
「そ、それもそうね」
オレ達がわちゃわちゃ話していると、プロテアさんが話を切り上げた。そうだよな。精術師としての挨拶は終わったもんな。
「こんなよくわからない大人ぶった人達に時間を取られ続けるなんて馬鹿みたいだし」
「貴様――」
「スッティー、今のルイちゃんは反抗期なんだよ」
「ルイちゃんなんて馴れ馴れしく呼ばないでよ! どこぞの猫耳野郎を思い出すでしょ」
ルイザが再びツンケンした態度を取り、スティアが怒った。が、それもシアによって強制鎮火。
それよりも気になるのは、猫耳野郎の方だ。
「ねこみみ」
「やろう」
シアとオレが一言ずつ口にする。あ、もしかして、あいつの事かな。
「サフラン?」
「誰よ、それ」
オレの頭の中に過った人の名を言ってみたが、どうやら違うらしい。
「とにかく、今食事を運んできてあげるから、待ってなさいよね」
「君の態度は改めた方が――むぐ」
「なんでもないよ。ごめんね」
まとまりかけた時にラナが蒸し返そうとしたが、上手くいかなかった。隣にいたディオンが慌てて口をふさいだのだ。
ナイスアシスト。
「何よ、喧嘩なら買うわよ」
「ルイザ。お客様相手よ」
「でも――」
「ルイザ、早く運ばないと食事が冷めるぞ」
最終的にルイザを止めたのは、ベルだった。ベルは暫くオレ達の会話をおろおろと聞いていたのだが、ついに口を出したのだ。
「ふん、このくらいにしてあげるわ」
お、引き下がった。食いつくかと思ったのに。
「あたしはとっとと食事を運んで、ベルに座って食べてもらわなきゃいけないんだから」
「え、俺もずっと手伝うけど」
「駄目に決まってるでしょ! 今回、誰の為に貸し切りになってると思ってるのよ」
確かに。
こんな風におめでとうだかお疲れ様だったかの会の為に店を貸し切る、だなんて、ベルの為でもなければやらないだろう。
だって所長だぞ。ベルの事を溺愛している所長がやる事なんて、ベルの為以外ありえないだろ。
「それにベルは、ほっとくとその辺の草とか食べそうだから、ちゃんとご飯食べて行ってよね」
「流石にもうそんな事しないって。余程の事がない限りは」
「どうだか! 小さい頃にセミを食べようとした時は、本当にびっくりしたんだから」
草どころじゃねぇ! それは虫だ!
驚いたのはオレだけではなかったようで、ディオンとラナも「セミ?」と困惑していたし、スティアも眉間に皺を寄せている。
シアなど分かりやすくドン引きして「……みーんみん」と鳴いていた。だよな!
所長とアリアさん、ついでにテロペアがそのまま特に気にしている様子を見せないのは、知っているからだろうか。
「あれは、マーガレット母さんが手に握らせてきたから、おやつかと思って」
「確かに母さんは小さい子が喜ぶと思い込んで虫を握らせてくる事はあったけど、ベルが食べようとして以降はあんな事を止めたのよ。そのくらいショッキングだったの!」
何それ、怖い!
急に虫を握らせる母親も嫌だけど、握らせたものを食べようとする子供も怖いわ!
あと、マーガレット母さんって誰だ。テロペアのお母さんか?
「み、ミリィ、虫食べるの?」
「もう食べないってば。余程の事がない限りは」
「だって、虫は食べ物じゃないんだよ?」
シア、ほんとにドン引きしたんだな? お前がそこまで顔を引きつらせているのを初めて見たぞ。
「普通の食べ物を与えられない状態じゃなきゃ、俺だって野生のものに手を出したりはしなかった」
「あっ、そ、そうだよね。ごめんね」
……やっぱり昨日のって……。ベルの環境、どうなってたんだろう。
「いいけど。いざって時はシアにも食べ方を教えてやるからな」
「え、えええ……えっとぉ……」
それ、お嬢様にはハードルが高くないか?
「ほら、ベル君も一緒に行きましょう。それとも、座る? それでもいい……というよりも、その方が正しい気がするんだけど」
「ううん、手伝う」
どうやらまだ手伝うらしい。もしかしてベル、席に着く時もここの制服のままかな。
「テアさん、聞いて。じーちゃんが新しいソースの作り方を教えてくれたんだ」
「よかったわね」
そう言いながら、三人は再度厨房の方へと向かった。
「……相変わらず、ベルには甘い事で」
ぼそりと、テロペアが呟いた。やきもちか?
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる