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三章
3-21 生意気VS生意気、ファイッ!
しおりを挟むオレが呆れながら見ているが、シアはちっとも気にした様子を見せない。それどころか、「やっぱり香草焼きとか食べたいな。でも、所長の頼んでおいた奴が何なのか見てからの方が」などと楽しそうにメニューを見ている。
お前の呟いた香草焼き、オレの知ってる香草焼きに0を足したような値段がついてるんだけど。お前、見間違えてるわけじゃないよな?
「所長、もはやどれが一番高いのか分からなくなってきたんですけど」
「値段じゃなくて、食べたいもので選びなさいって言ったでしょ」
メニューとにらめっこしていたスティアは、大きく息を吐き出した。気持ちは分かる。
値段がオレ達の知っているようなものではないせいで、判断力が死ぬのだ。あと、あれだろ。高級な店って、高くてちょっぴり盛られてくるんだろ? それは親父に聞いた事があるから知ってる!
「あの、所長さん。さすがにこれをご馳走になるのは……」
「こんなの僕、食べた事がないんですけど」
「何遠慮してるの。いいから好きにしなさい」
エーアトベーベン兄弟はすっかり委縮しながら所長に話しかけた。委縮していないのは精霊のエーアトベーベンで、そいつは勝手にウロウロして、その辺で出会った大きな亀をツンツンしていた。
この店、亀がいるのか。あ、ちがう! あの大きい亀、ヴァイスハイトの大元か!
「子供が遠慮するものじゃないよ」
「いえ、俺達、もう大人で……」
「え? 得する時は皆子供に戻るんじゃないの?」
「ちょっと何を言ってるのかわからないです」
オレもよくわからない。が、隣でスティアが「いい考えだ。次からその手でいこう」と呟いているあたり、分かる人には分かるのだろう。
「あ、名物はスープだって」
「スープは先に頼んでおいてあるから、直ぐに来ると思うよ」
マイペースに、さっきまで「香草焼き」がどうとか言っていたシアは、スープの項目で止まっていた。確かに「名物」と書いてある。
そして名物なだけあって、その辺だけは抜かりなく頼んでおいたらしい。そんなに美味しいのか。
「今日のスープは?」
「あんにぇー、今日はジャガイモのポタージュスープらよ」
「美味しそうだね」
所長が頷いた。確かに美味しそう。
「いいな。ジャガイモか」
お、好物に反応したか。スティアがぽそっと呟いて、そのままメニューをめくる。その先には、なんかオシャレすぎてどんな料理か想像が出来ないが、名前に「ジャガイモ」という文字が入っているものがあった。
オレ、分かった。高級なご飯は仕上がりが想像できない。
もっと「肉をこんがり焼いたやつ」とか「野菜に美味しいソースかけたやつ」とか書いていてくれたら分かりやすいんだけどなぁ。
「アリアの分はねー、おれが直々に作って置いてあげたからねー」
「わ、わーい……」
全然嬉しそうじゃないです、アリアさん。
食の細いアリアさんにとっては、沢山食べなくてはいけないというのは負担なのかもしれない。が、テロペアがこんな風に言うんだから、多分食べやすく作ったんじゃないかな。
アリアさんには優しいっぽいし。
「はい、おまちどおさま」
オレ達がメニューを見ている内に、ベルがスープを運んで来た。
いや、ベルだけではない。長い銀髪を二つに結んだ女の子と、紺碧色の長い髪を持つ美人なお姉さんも出来上がった料理を続々と持ってくる。
三人ともお揃いの給仕する人の服――おそらくこの店の制服に身を包み、丁寧に全員の前に置いていく。
……いや、ベル、おかしいだろ! すっかりなじんでるけど、お前は何でも屋! レストラン・ヴァイスハイトの店員じゃないから!
「あ、クルト、スティア」
「ん?」
「どうした?」
オレの内心なんか全く知らないベルが、唐突に声をかけた。
「あ、ついでにディオンとラナンキュラスも」
「え? 俺達?」
「僕達も?」
ベルはこの場の精術師を呼ぶと、隣に立った女性二人を指した。指した、とはいっても、人差し指で「これー」って感じじゃなくて、手のひらを使って「こちらの方」みたいな感じだ。
「この二人は、テロペアのお姉さんと妹さん。妹さんはまだ学生なんだけど、お店のお手伝いをしているんだ」
「初めまして。ヴァイスハイト。プロテア・アイン・ヴァイスハイトです。よろしくお願い致します」
「ヴァイスハイト。ルイザ・ヴァイスハイト。あんた達が精術師だっていうし、一応名乗っておいてあげる」
お姉さんはおしとやかに、妹は生意気に自己紹介をする。うんうん、やっぱり妹は生意気な生き物だよな。
「私はツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲルだ。そこの礼儀のなっていない男の妹と言うだけあって、大した生意気な口だな。大人に対しての口の利き方というものを知らないのか」
「ふん、そんなの関係ないでしょ。それとも、あたしが年下だからっていうただそれだけの理由で、あんたにへりくだらなきゃならないの? それはごめんなさいね、スティアさん。まさかそんなに心の狭い人がこの場にいらっしゃるとは思わなかったものだから」
オレ達が自己紹介を返すよりも早く、スティアが突っかかった。そして倍以上の反撃をされた。
妹同士、馬が合わないのか。生意気VS生意気、ファイッ!
「えっと、俺はエーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベン。よろしく」
「僕はエーアトベーベン。ラナンキュラス・ツヴェルフ・エーアトベーベンだよ。女の子同士いがみ合うのは止めにしない? スティアも、ちょっと大人げない気がするし」
「ふん、大人として礼儀を教えてやっているだけだ」
「頼んでないし、そんな事。押し売りは勘弁して下さーい。」
ディオンとラナが続けたが、問題はラナの方だ。
問題を広げ、結果的にスティアとルイザが再び火花を散らし始めたのだ。まずいまずい。ここはオレが間に入ろう。
「えっと、オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル。スティアの兄だ」
「え? 兄だったの? 弟じゃなくて?」
「ん、んんんん……!」
我慢! 我慢するんだ、オレ! 子供にキレちゃダメ!
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