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三章
3-27 兄とアリアとチェンジ
しおりを挟むおお、床が木じゃない! なんか……つるつるした何か! つるつるっていっても、転ぶようなつるつるではないんだけど、何だこれ! 材質不明!
後ろでシアがカメラの構造をペラペラ話し始めているが、オレはどうしてもこのつるつるだけど滑らない板が気になって入ってこない。
「どうする? 席」
「俺はテロペアと一緒に座る」
「ねー!」
はっ。床に気を取られていたら、席決めになってた!
「私達もこのまま行きたい」
「シアをちゃんと捕まえておかないと」
うんうん。シアは保護者が必要だもんな。
「じゃ、クルトも入れてその六人で座って」
「は、はい!」
オレ、何か言う前に決まっちゃった。でも床に気を取られていたオレが悪いからなぁ。
「僕はスーさんの所にお世話になって、依頼主と一緒に行くから。ね?」
「あ、はい! 問題ないです」
「はい! どこまでもお供します!」
ラナ、お前は所長にもなついたのか。所長がちょっと呆れた顔してるぞ。
「それじゃあ、後は家族で座ります。テロペアの事、よろしくね」
「うん。任せといて」
テロペアのお母さんの発言に、ベルが大きく頷いた。
決まったら早い。オレ達は決められた席に着く。
ドアこそないものの、六人一組で一室、みたいに区切られている席は、全然大衆的な感じがしない。
「クルト、窓際な」
「アリア、窓際ね」
スティアとテロペアが指示を出したのは、ほぼ同時だった。
「……クユト、酔いやすいの?」
「ああ。アリア、お前も酔いやすいのか?」
「えっと……ちょっとだけ?」
アリアさんの、ちょっとだけって可愛かった。
それにしても、アリアさんも酔いやすいって聞いてたら、酔い止めハーブはアリアさんの分も持って来たんだけどな。オレが持ってるやつあげたら、オレも酷い事になるし、そうなったらかえって心配させちゃいそうだし……。
「おい、クソ女」
「何だ、クソ野郎」
テロペアとスティアが、互いの名前すら呼ばずに声をかけ合った。
「兄とアリアとチェンジ」
「は?」
スティアはテロペアの意図が理解できないようで、眉間に皺を寄せる。もっと可愛い顔で「わかんない」って言えばいいのに。元は悪くないんだし。
「おれ、アリアの世話をするから。今回は慣れている人が隣の方がいいだろ」
「なるほど。確かにな」
合点がいった、というように、妹は偉そうに頷いた。
「だが、クルトの隣にはシアに座って貰う」
「あたし?」
急に名前を出されたシアは、首をコテっと傾げた。そうそう、こういう仕草をスティアもすればいいと思うんだ。お兄ちゃんとしては。
「小さい壁があるとはいえ、お前を通路側に座らせるなんて、自殺行為もいいところだ」
「た、確かに!」
「自分で認めるのかよ」
自覚があるのなら普段からちゃんと気を付けて! 頼むから!
「安心しろ。私とクルトでサンドイッチの具にしてやる」
「やったー。あたし、具はジャムがいい」
「ああ。好きなジャムになっていろ」
空想ジャムなら匂いもしないし、オレも嫌ではない。
「でもフルーツサンドもいいよね」
「間に挟まって、何になりたいのか考えていればいい」
「そうする」
そうしたら大人しいもんな! フルーツサンドも、妄想なら全然甘い香りがしないし。
というか、挟まってるのがフルーツのみならオレだってそんなに嫌ってわけでもない。問題はもれなく一緒に挟まっているクリームだ。どの道妄想の具材だから良いんだけども!
「それじゃあ、こっちはテロペアが具だな」
「テロペア君、何になる?」
「えー……おれ、食事のバランスはいいからたっぷり野菜のサンドイッチの具かな。ハムも入れよう」
「美味しそう」
お腹空きそう。
オレ達はサンドイッチの具の話をしながら、席に着く。オレは荷物から、フルールに貰った酔い止めのハーブを出し、もみもみして匂いを嗅いでおく。
「はい、アリア。これ持っててね」
「林檎?」
「しょう。持ってて、酔ってきたら齧ってみて」
アリアさんがコクンと頷いた。
林檎を持って頷くって……滅茶苦茶可愛い。しかも片手じゃなくて、両手で持ってるの、最高に可愛い。
あまりの可愛さに、オレの隣のシアがツンツン突いて「あれを撮るんだ! 今すぐに!」などと興奮していた。いいアイディアだ、と、オレは酔い止めのハーブを膝に置いて、アリアさんを撮った。ついでに、三人で並んでいる様子も撮影。
「えっと、それ、酔い止めの方法?」
オレは写真を撮って満足してから、テロペアに聞く。
「しょう。知らなかったの?」
「う……うん」
せ、責められてる? 知らなかったの、よくない?
「持つっていうか、置いておくだけでも効果があるんだよ。今度試してみたら?」
「そうする。ありがとう」
「べちゅにー。クユトに感謝される為に教えてあげたわけじゃないでしゅしー?」
照れてるのか? わかりにくいけどこれは照れてるんだな!?
なんだ、じゃあ責めたんじゃなくて普通の確認か。
「新聞買ってきたの?」
「そう。また死を刻む悪魔が出たって」
「大会中に出ないといいけど……」
オレ達の席の前を通って行った人達が、聞いた事があるような、ないような、そんな単語を口にしていった。
なんだっけ? 死を刻む悪魔って。多分人、だよな?
「なぁ」
オレはこの場にいる誰かが教えてくれたらいいなー、と思いながら、全員に対して声をかけた。
「死を刻む悪魔って、誰だっけ?」
オレの質問に、この一帯は一気に静かになった。と、同時に、列車が走り出す。
お、すげぇ、汽車よりも揺れない!
「クルト、貴様本気でそんな事を言っているのか?」
「クルト、むしろどうやったらその情報から逃げて生きていけるんだ?」
「ルト、流行に疎いにもほどがあるよ」
「クルト君、事務所で取っている新聞にも載っているわよ」
「クユト、さすがに情報専門の精術師でしょれは、引く」
オレの様子を見て、五人はそれぞれオレに辛らつな言葉を投げかけた。アリアさんも言うから、ちょっと悲しい。
「えっと、まず、なんでそんな話を急に?」
「え? 今通って行った人達が喋ってたから」
皆顔を見合わせて「聞こえた?」「聞いてなかった」と口々に話すが、それもほんのちょっとの事。直ぐに俺へと向き直る。
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