精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-33 首を洗って待っているといい!

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 会場まで行くと、テロペアのお祖父ちゃんは「若いもんは若いもんだけで遊んでいろ」と言い残していなくなった。お祖母ちゃんも申し訳なさそうにしながら「あの人に付き合うから」と消えたので、メンバーが大分減った印象だ。
 スーさんとコスモスもいなくなったから、四人も離れたし。
 さらにここからオレを含めたディオンのチームと、ベルのチームがクジ引きの方へと吸い寄せられたので、他のメンバーとはちょっと離れる。
 一応所長達の方にツークフォーゲルをつけておきつつ、ディオンにクジ引きをして貰った。

「何番?」
「A1。一番最初の試合だったよ」

 オレがディオンに尋ねると、ディオンはにこにこと答える。
 そっかー、一番か。緊張するなぁ。

「クルト、大丈夫だよ! 僕もついているし、兄さんだっているんだ。絶対勝てるよ!」
「お、おう。そうだな」

 ラナがにっこにこでオレを励ます。相変わらず距離感は近いが、こいつなりにテンションを上げさせようとしての事だ。

「あー! また会ったな!」

 そんな風に雑談していた時だった。さっき見たシアの従兄妹のゼフィランサスが現れたのは。
 オレにビシっと指をさすその姿は、先ほどと全く印象が変わらない。

「あ、さっきはどうも」
「どうも。列車での旅は快適でしたでしょうか? またのご利用を……じゃない!」

 オレが会釈すると、直ぐに仕事モードになった。悪いヤツではないんだけどな。

「こーら! 急に突っ走って行って人に絡むのはよくないでしょ?」
「ぐえ」

 そのゼフィランサスも、唐突に後ろから現れた長身の男に首根っこを掴まれ、あまり可愛くないうめき声を上げる。
 こいつ、長身の上にイケメンだ。羨ましい。

「これだからゼフィンは、子供扱いされるんだぞ」

 更に現れたツンツン頭の男。こっちは長身というほどではないものの、体系はがっちりしている。
 ……この場で、同じ制服を着た男が三人って事は、こいつらも大会に出るのか。

「……番号は?」
「い、一番クルト、歌います?」
「え? 歌うの? 上手い?」
「え? 聞きたいの?」

 なんだこいつ。よくわからないヤツだな。

「クルト、大会の抽選の番号の事だと思うよ」
「あ、あぁ。なんだ、それならそうって言ってくれればよかったのに」
「ご、ごめん。つい」

 ディオンが言ってくれなきゃわからないところだった。

「兄さん、この人、突っかかってくるけど悪い人ではないの?」
「見るからに悪い子ではないね」

 ラナとディオンのこそこそ話も、確かになーと聞き流す。
 こいつらは列車での出来事を知らない……わけないか。精霊に聞いているだろうが、目の前で繰り広げられるやり取りに困惑しているようだ。

「そうなんだよ。この子は全然悪い子ではないんだけど、ちょっと突っ走りやすくって」
「すみませんね、ご迷惑をかけてしまって。列車内でも絡んだんだとか?」

 ゼフィランサスをとっ捕まえていたイケメンと、一緒にいたムキムキが、ゼフィランサスの代わりに頭を下げた。けれど、それに対してゼフィランサスが申し訳なさそうにするものだから、どうも憎めない。

「チーム、列車関係者。大将のクレオメ・シェルマンです。A4だったのですが、どの辺りで当たりそうでした?」
「このチームの大将の、エーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベンです。A1でした」
「それじゃあ、順当にいけば二回戦で当たりますね」

 大将同士が和やかに話している。二人の脳内には、しっかりとトーナメント表が浮かんでいる事だろう。
 準決勝まではAブロックBブロックに別れて行われ、その先で二つが合体。三位決定戦、決勝と進む予定のトーナメントの中で、同じAブロックだったというだけでも割と早い段階で戦う事が決まっているようなものだ。

「聞いたか! 二回戦で当たるらしいし、首を洗って待っているといい!」
「望むところだ!」

 絶対にシアが望まないままに、こいつに返したりしないんだからな。

「……後でタオル、差し入れた方がいい?」
「ううん、お風呂の時に洗うから大丈夫」

 そっか、首を洗え、だもんな。配慮は受け取っておくが、タオルは別にいいか。

「と、とにかく、そんなわけでまた明日! 怪我に気を付けて一日をお過ごし下さい!」
「お、おう、また明日。お前も怪我するなよ」
「ありがとう。気を付ける」

 彼らはそう言い残して、去っていった。皆列車関係者なのか。
 こっちまで来る列車に乗りながら仕事して、ハイルで他の人と交代してここに来たのかな。忙しいな。

「クルト、どうだった?」
「あ、ベル。ゼフィランサスに会ってた」

 今度はベルだ。ゼフィランサスと入れ違いのようにオレの前に姿を現した。
 ベル達もクジを引き終えたようで、ベルの手には紙が握られている。これの中に割り振られた番号が書かれているのだ。

「クルト、どっちのブロックだった?」
「Aだった」
「そっか。俺達はBだったから、お前とは戦えるかどうか、だな」
「確かにな。クルトがそんなに上まで来るとは思えない」

 な、なんだとー! スティアめ、失礼な事を言いやがって。

「でも、ま。クユトについているのはムキムキだから案外何とかにゃるかもね」
「そうだそうだ! オレにはムキムキがついてるんだぞ!」
「クユト、バカにゃの? 嫌味だよ」
「え?」

 嫌味だったの? つ、通じない嫌味は嫌味じゃないしー! オレは全然ムッとしてない。大丈夫、テロペアの言葉が棘だらけなのは知ってたし。

「……あれが、今回の管理局の出場者か」
「うわぁ、ジギタリスさんやカンナさんがいるよ。兄さん、強敵だね」

 ん? ジギタリスがいるのか?
 エーアトベーベン兄弟の声に反応し、オレは視線を動かした。ベル達も同じようにしたので、別にオレだけ落ち着きがないわけではない。
 ……確かに、白い制服の集団がいる。集団の中に見つけた見知った顔は、ジギタリスと、この前「精術師はずるい」とか、ちょっとよくわからない暴走していたカラーとか言うやつだ。

「……カンナさんは厄介だな」
「あの人とだけは当たりたくないよにぇー」
「カンナとはどいつだ?」

 スティアはベルとテロペアが警戒している相手がわからず尋ねる。オレもわからない。
 でもその警戒している人の名前は、さっきディオンとラナからも出ていたし、確認しておきたいな。間違いなく強敵だし。

「あの、三つ編みの女性」
「……女性」

 見た目は確かに女性だ。
 だが、普通の女性というには凄くムキムキ。びっくりするくらいムキムキ。隣にいた男の人が、明らかにカンナさんという人よりもコンパクトに見えるくらいだ。
 コンパクトに見えたって、相手は管理官。強いはずなのだが、そんな相手よりも明らかに強そうな女性、か。

「戻るか。アリアがぶっ倒れていないかが心配だしな」
「確かに。アリアに飲み物渡してから来たけど、ちゃんと飲んでるか心配だしー」

 どれだけ強いんだろう、とオレが想像していると、スティアとテロペアが出入り口の方へと歩き出した。
 うん、アリアさん達を置いてきたもんな。早く戻らないと。
 そうしてオレ達は、抽選会場を後にしたのだった。

   ***

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