145 / 228
三章
3-39 よいみっかかんをー!
さぁ、ヴニヴェルズムは次も来るのか!?
「変わりまして、第三王位継承者のアネモネ・アウフシュナイターです」
『アネモネもいいこ』
きたー! ネモフィラに似ている女の人……っていうか、アネモネ様の両肩に乗って、ヴニヴェルズムが来たぞ!
「この国の大きな催しに、これほどの方々が足を運んで下さった事を嬉しく思います」
『ありがとう。とおいところからきてくれて、うれしい』
長いオレンジ色の髪の毛が風で揺れて、ヴニヴェルズムにぶつかった。だが、ヴニヴェルズムは気にする事なく肩に佇んでいるだけだ。
アネモネ様はそんなヴニヴェルズムに手を伸ばし、手の上に乗せる。
……え? ヴニヴェルズムを手の上に乗せるって、え? なんで?
でも今の行動は、明らかに見えている人の動きだった。偶然にしては違和感がある。
「皆様に楽しんでいただけますよう、精いっぱい準備をしてまいりましたが、先ほどクレマチスの言葉にもあった通り、不測の事態もあるかもしれません」
『そうなの。みんなでじゅんび、がんばったんだよー』
ヴニヴェルズムはアネモネ様の手のひらでぴょんぴょんと飛び跳ねているし、アネモネ様はそれを全く気にしていないようだ。
気にしていないだけなら、見えていないって事なのだろうが、手のひらに乗せたままの格好で動かないからなぁ。えー、なぜか見えてるのか?
「もしもそういった事になってしまった際には、必ずわたくし達王族が、そして管理局が動きますので、どうかご心配なさらずに、ごゆるりとこの祭りをお楽しみ下さいませ」
『えらい! アネモネも、みんなも、えらいの。がんばってるの』
ま、まぁ、見えているにしても優しくしてるしいいか。仮に見えていなくて偶然そうなったとしても、ヴニヴェルズムが振り払われたわけでもないし。
「わたくし達は、皆貴方達の喜ぶ顔が好きなのです。どうか悲しむ事の無いよう、楽しい記憶をお土産にして帰れるよう、お過ごし下さいませ」
『ヴニヴェルズムもー。にこにこ、だいすき』
あ、今のお土産発言で、所長がスティアに「巨乳をそぎたい気持ちはお土産で持って帰れ」みたいな事を言ったのを思い出してしまった。今回は違う、今回は違う。
……でもアネモネ様の胸部もそれなりだけど、スティア、まさか……。
そーっと見て見るが、どうもそのような危険な感情を持っているようには見えない。むしろ、手にしているヴニヴェルズムを気にしているようだ。
セーフ! 謎の行動のおかげで、そぎたい感情が芽生えていないぞ!
「列車、汽車、共に臨時便も走っております。必要な時には直ぐに使えるようにしておりますので、お役立て下さい」
『びゅーん』
びゅーん。
お前、乗り物をびゅーんって言うのか。可愛いヤツめ。
「皆様あってのこの行事でございます。皆で一丸となり、この祭りを盛り上げてまいりましょう」
『みんなでたのしもうね! あぶないことしちゃ、だめだよ』
そうしてアネモネ様は丁寧に腰を折り、ヴニヴェルズムを手に乗せたまま壇上を後にした。
あれ、見えてるよなぁ? いいんだけどさ。
「続きまして、ネモフィラ・アウフシュナイターですわ」
『ヴニヴェルズムです……わ』
ついに見知った顔が壇上に現れた。それと同時に、頭のてっぺんに乗ったヴニヴェルズムも。
ヴニヴェルズム……無理にネモフィラと同じように「わ」ってつけなくてもいいんだぞ。
「えっと」
ネモフィラはごそごそと懐から紙を取り出すと、一瞬目を落として顔を上げた。
もしかして、本番までに覚えきれなかったのか?
「本日はお集まり頂きまして、ありがとうございますわ」
『うんうん、いいちょうし』
保護者ー! 保護者気分になってるぞ、あの精霊!
「わたくし達は、えっと……皆様に楽しんでいただけるよう、準備してまいりましたわ」
『ゆっくりでいいよー。だいじょうぶ、だいじょうぶ』
ネモフィラは「えっと」の声と共に、またチラッと紙を見て続けた。
なんだろう、この、見知った人のぽんこつ具合に安心しつつも、王族がこれでいいのかっていう不安。相反する感情が二つ、オレの中に生まれた。
「よろしければ、三日間、ゆっくりとお楽しみ下さいませ」
『うんうん、あとちょっとでごーる』
お、もうすぐ終わるのか。他の人よりもはるかに少ないな。
ん? カサブランカ様の言葉も少なかったか。そもそも言付けだったし。
「短くはありますが、これを挨拶とさせて頂きます。皆様と共に、この祭りを盛り上げていける事を、楽しみにしておりますわ」
『よしよし、よくがんばったね』
ヴニヴェルズムは真っ白な羽でネモフィラの頭をなでている。可愛がってはいるんだな?
あー、精霊いるって考え方になってたもんな。それで歩み寄ったのかな。
『いっぱいれんしゅうしたもんね。じょうずだったよ』
……フォローしてる。
ネモフィラがゆっくりと壇上を後にすると、司会が「次は運営委員長の挨拶です」と続けた。
そして大柄な男がゆっくりと登壇したが、王族の挨拶が終わった後だからか、少しずつ人の声がざわめきとして上がってきている。
「あー、手短に。本日はお集まり下さり、ありがとうございます。すでにお言葉があったように、皆さまが楽しく過ごせるように万全を期しておりますが、万が一の時にはお知らせ下さい。それでは、よい三日間を」
『よいみっかかんをー!』
大柄な男がさくっと挨拶をすると、その腕の影からひょこっとヴニヴェルズムが飛び出して挨拶をした。
王族が終わったからもうないのかと思ったら、嬉しい誤算だ。
最初は面妖な生き物かと思ったが、ここまで来ると可愛くて仕方がない。姿よりも性格だな、やっぱり。
ツークフォーゲルも可愛いが、ちょっとこ憎たらしいところがある。エーアトベーベンは大雑把。ヴァイスハイトは細かい。
この性格を考えると、ヴニヴェルズムは随分と可愛らしく見えるというものだ。
運営委員長? の挨拶した後は、もうそろそろ雑談人口が増えてきた。
司会が「各支局長からの挨拶です」と言っていたから、壇上では、そりゃあもう大量の人が長々と何かを語っている。多分真面目に見ていれば、あの、フルールやアーニーの時にお世話にな……お世話になっていない、必殺技がヒゲ揺らし、みたいなあのおじさんも出てきていたのだろうが、興味がなかったからスルーしていた。
オレの周りもぼちぼち雑談を始め、ヴニヴェルズムの演説だったみたいだ、という話で盛り上がった。案の定、見えても聞こえてもいないベルは悔しそうだったし、シアに至っては「どうにか見えるような魔法を作れないかな」などととんでもない事を考え始める。
そうこうしている内に時間が流れ、ようやっと支局長の長い話が終わった後、前回の優勝者代表としてジギタリスが壇上に上がった。
もれなく大量のヴニヴェルズムをくっつけながら、注意事項の説明をし、最後に「これより、大会を開幕致します」と締めくくった。
そう、ようやっと始まったのだ。
アリアさんも余裕の顔色になった頃に、やっと。
「それじゃあ、選手の控室に行こうか」
一日目の試合は多いわけではないが、一発目を引き当てたディオンはオレとラナに声をかけた。
「うん、兄さん! 楽しみだね」
「そうだね」
ラナはその場で両手でわちゃわちゃと楽しさを表現している。
「クルトも。楽しんでいこう」
「おう!」
オレも声をかけられて、にこっと笑った。
ここにいるメンバー全員に「頑張れ」と後押しをされ、オレ達はその場所へと向かったのだった。
***
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~
ネコ軍団
ファンタジー
魅惑の新大陸へようこうそ! 冒険者支援課にお任せください!
二十年前に発見された新大陸ノウリッジでは、未踏の地である大陸の東端を目指して開発が進んでいた。
港町テオドールはノウレッジの南西に位置する新大陸の玄関口だ。魔王の出現により遅れていた、新大陸の開発が本格的に始まってから五年、この町には一攫千金を夢見る冒険者たちが日々たくさん訪れていた。同時に未知の魔物や厳しい自然、罠が張り巡らされた遺跡やダンジョンなどで幾多の冒険者が傷つき命を落としていた。港町は夢と希望を抱く者たちが希望に満ちて旅立つ場所であり、夢破れ新大陸から去っていく者たちを静かに見送る場所でもあった。
冒険者ギルドは冒険者たちの新大陸離れを危惧し、新たに冒険者支援課を設立した。彼らの仕事は道案内から始まり、冒険者が発見した遺物などの研究や運搬の手伝い。他にも支給品の配布や死体回収などの地味な作業から、魔物が巣食う遺跡やダンジョンの休憩所であるセーフルームの確保、さらには大型モンスターの討伐を手助けしたりと様々だ。それに時には有害と判断された冒険者を秘密裏に処理したりするこも……
支援課に所属するグレンはかつて冒険者だった。しかし、五年前に仲間に裏切られ死にかけ、支援員の先輩であるクレアに救われた。クレアはグレンの特異な才能に気づき、彼を引き取り冒険者支援員として育てたのだった。
今日もたくさんの冒険者が新大陸へやって来る。その中にエリィとキティルという二人の少女冒険者がいた。彼女らも他の冒険者と同じく新大陸で一旗揚げることを夢を見ていた。
ある事件をきっかけに二人と親しくなったグレンは、新大陸に存在すると言われる伝説の”白金郷”をめぐる争いへ巻き込まれていくのであった。
※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
※3/15~3/19 は投稿を休みます。
【最終話執筆済完結保証】悪役令嬢の『影』に転生した俺、ポンコツな主の破滅を物理で無言回避させる
積野 読
ファンタジー
喋れない。触れない。警告できない。——それでも俺は、このポンコツ令嬢を死なせない。
ブラック企業で過労死した中間管理職・黒田忠司(34)が目覚めたのは、乙女ゲーム『月光のエトワール』の悪役令嬢ロゼリアの「影」の中だった。
声は出せない。主から10メートルも離れられない。光の強い場所では力が半減する。できるのは、物をほんの少しだけ動かすことだけ。
それでも——破滅フラグは待ってくれない。
ドレスの裾を引っ張り、シャンデリアを落とし、毒杯を弾く。影の全力の裏方工作で主の破滅をへし折るたび、なぜかロゼリアは「底知れぬ黒幕令嬢」として周囲に畏怖されていく。
情報の女帝。軍神。守護者。革命家。——全部、影のせい。
本人は何もしていない。
だが令嬢は知らない。自分の足元で、存在が薄くなりながら守り続けている者がいることを。
「いるなら、おやすみなさい」——その一言が、影のすべてを変えた。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…
【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)