147 / 228
三章
3-41 もう少し頑張れそう?
とはいえ、さすがはディオンだ。三対一であるとは思わせぬほどの力で相手を薙ぎ払い、しっかりと目標をシランさんに向けたままだ。
「我はエーアトベーベンの名を継ぐもの。エーアトベーベンの名のもとに、大地の精霊の力を寸借致す」
この隙にラナは呪文を口にする。
「この場に脈動を」
そして、発動。グラグラとした微弱な揺れが、オレ達を襲う。正確には、管理官を、か。
三人とも見事にバランスを崩したところで、ディオンが当初の狙い通り、シランさんに拳を叩き込んだ。
攻撃をした場所は、白く色を変える。だが、ディオンはまだ止まらない。
断続的に細かな揺れを刻む大地をものともせず、次は大将であるオダマキさんを見据えた。直ぐに拳を叩き込もうとしたが、オダマキさんは片手で受けると、そのままもう片手に持った剣を薙いだ。
とはいえ、ディオンだって伊達に大将ではない。己に向けられた剣を片腕で受け止める。
パキ、という小さな音が、相手の剣に亀裂を入れた事をまざまざと想像させた。い、痛そう……。木製とはいえ、木が折れるって。ディオンの腕、無事なのか?
いやいや、そんな事を考えている場合ではない。この場合、ディオンは一度引こうとするはずだ。だとすれば、オレのする事はサポート。
「我はツークフォーゲルの名を継ぐ者。ツークフォーゲルの名のもとに、風の精霊の力を寸借致す」
相手はディオンへの攻撃を緩め、オレをちらりと見た。
「あいつに突風を!」
オレが呪文を唱え終えるのとほぼ同時。ディオンはあっという間に下がり、オダマキさんはオレの放った風を受け、強制的に距離を取る。
風に乗って後ろへジャンプした、ともいえるような華麗な着地を見せると、歓声が沸いた。オレ、見せ場を作っちゃったわけじゃないよな?
「クルト、助かったよ」
「さすがだね、クルト。使い方もばっちりだったし、僕は思わず見とれちゃいそうだったよ」
上手くいったんだな?
こんな風に褒められると、ちょっと照れそうだ。よし、この調子で頑張ろう!
もっと二人の役に立ちたい。役に立てる場面は、どこだ? この場で勝利を収める為に、オレは何をすればいい?
さっきディオンに攻撃されたシランさんはすでに端っこに移動しているし、ディオンはオダマキさんをまた狙っている。ラナはディオンのサポート。
……一人、動けていないヤツがいるな。
茶髪の、背の高い男。ノラナさん、だったかな。ジギタリスと同じくらいの年齢に見えるし、もしかしたら実戦経験が浅いのかもしれない。ジギタリスと同じくらいって事は、オレと同じくらいだろうし!
だったら、このチャンスを逃す手はない。オレはそいつに狙いを定めた。
よし、次にラナの精術があったタイミングだ。そのタイミングで、オレはあいつに攻撃を仕掛ける。
「二人に土の飛礫を」
タイミングは直ぐに来た。
ラナが二人に向かって精術を使い、細かい土の塊が跳んで行ったのだ。オダマキさんはそれらをひびが入っているであろう剣で弾き、ディオンはさらに畳みかける。
オレはと言えば、必死に精術を避けているノラナさんへと向かって走り、剣を振りかぶった。
「おりゃぁぁぁ!」
大きな声と共に振り下ろすと、簡単に剣で防がれる。ぐぬぬ。
オレは歯噛みして、仕方がなく後ろに飛ぶ。反撃が来ると思ったからだ。
だが可笑しな事に、彼は特にこちらに攻撃をする様子はない。どこか困ったような顔をしているだけなのである。
なんだこれ、オレじゃ相手にならないって事か? むっとするなー。
「真面目にやれよ!」
「……ごめん」
思わず文句を言ったものの、ノラナさんは困ったような表情のまま、じりっと下がるだけだ。なんか様子がおかしいな。
オレじゃ相手にならないのか、という憤りはあっという間に消える。だってこれ、なんかおかしいもんな。お腹痛いのかな。
「えっと、大丈夫か? 具合悪い? 棄権する?」
「いや、大丈夫」
とはいっても、到底大丈夫そうには見えない。どうしたんだろう。
オレは心配で、つい相手の出方を見ていると、何かをぼそぼそと言っていた。
「ちゃんと動かないと。周りを見て、冷静にならないといけない。足を引っ張ったら駄目だ。もう、仲間を失いたくない」
ぼそぼそと何を言っているのかを理解すると、オレの身体からサーっと血の気が引いて行った。
これ、って……仲間を亡くした、って事だよな? もしかして、オレが勝手に動いたせいで死なせてしまった、あの管理官の事か?
いや、管理官という仕事の性質上、そうとは限らない。
ただ、この場合、誰が死んだのかが重要なのではない。誰かが死んだ、という事実が、彼を苦しめているのだから。
オレは、そんな人に攻撃を出来るのか?
だってこの人は、傷ついている人だ、そして、大切な仲間を失って、こうして上手く動く事も出来ないほどに、追い詰められている。いくら大会だとは言え、ほとんど無抵抗の相手に剣を振るう、というのは、憚られた。
大体にして、オレだって同じだったじゃないか。
どうしよう……こんなの……。
「――クルト!」
動揺しているオレの耳に、唐突に焦ったようなディオンの声がクリアに聞こえた。はっとして顔を上げると、もうすぐそこにオダマキさんが迫っていたのだ。
木製の剣が確実にオレを狙っている。これはもう避け切れない、と、ぎゅっと目を瞑った。
……。
…………。あれ?
いつまでたっても痛みは来ず、恐る恐る目を開くと、目の前には真っ白な制服。えっと、状況が、飲めないな?
「この馬鹿」
どこか優しい、「馬鹿」だった。オレが困惑していると、とん、と背中に軽い衝撃。
そうか、攻撃されたんだな。
この馬鹿、は、オダマキさんの声だったのだ。ゆっくりと目の前の事を処理すると、何故かノラナさんがオレを庇っていたらしい。
「――この場に脈動を!」
オレがゆっくりと状況を飲み込んでいる内に、ラナは呪文を唱えていたらしい。いつの間にか収まっていた微弱な揺れは、またしても相手を襲った。
だが、オダマキさんは一度食らった手を二度は食らわないらしい。最初はバランスを崩したが、今度は全く効いている様子を見せず、一直線にディオンへと向かう。
向こうはもう、大将一人。こうなると、確実にうちのチームの大将――ディオンを狙うのは、当然と言える。
「我はエーアトベーベンの名を継ぐもの。エーアトベーベンの名のもとに、大地の精霊の力を寸借致す」
対するディオンは、早口に呪文を唱える。その後ろではラナも呪文を唱えながら様子を見ているようだ。
「彼に衝撃を」
最後の一節を言い終えると、ラナの放った精術よりもはるかに強い衝撃が放たれ、会場をグラグラと揺らした。そうか、これが……大元付きの実力か。
さすがに体勢を崩したオダマキさんに、ディオンはこの機を逃すものかと攻撃をする――。
「そこまで!」
審判がすかさず声を上げる。オダマキさんのゼッケンは、白く染まっていた。
そしてオレ達の勝利を告げられると、観客は歓声を上げた。
所長の、「クルト、よく頑張った」という声も聞こえる。嬉しい。
……嬉しい、の、だが、結局オレは上手く動けなかったし、ノラナさんの事は気になる。ちらっとそちらを見ると、ノラナさんにオダマキさんが手を差し出していた。
「あの子は、今は君の敵だったんだよ。敵を庇うのはよくないね」
「ウッス。すみませんでした」
だよな。オレ、あの人に庇ってもらったし……。
「でも、君がちゃんと誰かを守りたいと思った事は、嬉しい」
おお、フォローばっちりな人だ。えーっと、上司、に、なるのか?
「次は状況を見て、行動しよう。これが今後の君の課題だね」
「……ウッス」
「どう? もう少し頑張れそう?」
「ウッス。大丈夫、です」
頑張れそう、というのは、このまま管理官を、という意味だったのだろうか。きっと凄く傷ついて、この感じだと仕事を辞めるかどうかも相当考えていたのかもしれない。
オレはノラナさんに近付いた。
「えっと、さっきは庇ってくれてありがとうございました」
「い、いや、こちらこそ、ちゃんと試合に出来なくてすみません」
ぺこっと頭を下げれば、彼はちょっと困惑しながらも返事をくれた。さっきよりもちょっとすっきりとしたような声だ。
「オレ、庇って貰えて嬉しかったです。ありがとうございます」
「……ウッス。それが、管理官の仕事なので」
オレがノラナさんに言っていると、オダマキさんはにこにこと微笑んでオレの頭と、ノラナさんの頭を撫でる。ついでに、近寄ってきていたシランさんも、ノラナさんの頭を撫でた。
「クルトさん」
「ん?」
名前を呼ばれて返事をすると、頭を撫でられまくっていたノラナさんがオレの頭を撫でた。なでなでの連鎖か?
「ありがとうございました」
「えっと、どういたしまして?」
よくわからないが、この泣きそうに笑っている顔を見ると、「撫でるなー」とか「子供扱いするなー」という感情は湧いてこない。
ディオンとラナがオレを迎えに来て、こうして第一試合はオレ達のチームの勝利という形で終わった。
オレが役に立ったのはほんのちょっとだけだったし、仲間が亡くなっているという反応は辛かったが……それでも、乗り越えなくてもいけないというのは、よくわかった。
次は、確かあのシアの従兄妹のゼフィランサスとかいうやつの試合だ。よく見ておいて、次にあいつと当たる時の為に作戦を立てなければ。
***
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~
ネコ軍団
ファンタジー
魅惑の新大陸へようこうそ! 冒険者支援課にお任せください!
二十年前に発見された新大陸ノウリッジでは、未踏の地である大陸の東端を目指して開発が進んでいた。
港町テオドールはノウレッジの南西に位置する新大陸の玄関口だ。魔王の出現により遅れていた、新大陸の開発が本格的に始まってから五年、この町には一攫千金を夢見る冒険者たちが日々たくさん訪れていた。同時に未知の魔物や厳しい自然、罠が張り巡らされた遺跡やダンジョンなどで幾多の冒険者が傷つき命を落としていた。港町は夢と希望を抱く者たちが希望に満ちて旅立つ場所であり、夢破れ新大陸から去っていく者たちを静かに見送る場所でもあった。
冒険者ギルドは冒険者たちの新大陸離れを危惧し、新たに冒険者支援課を設立した。彼らの仕事は道案内から始まり、冒険者が発見した遺物などの研究や運搬の手伝い。他にも支給品の配布や死体回収などの地味な作業から、魔物が巣食う遺跡やダンジョンの休憩所であるセーフルームの確保、さらには大型モンスターの討伐を手助けしたりと様々だ。それに時には有害と判断された冒険者を秘密裏に処理したりするこも……
支援課に所属するグレンはかつて冒険者だった。しかし、五年前に仲間に裏切られ死にかけ、支援員の先輩であるクレアに救われた。クレアはグレンの特異な才能に気づき、彼を引き取り冒険者支援員として育てたのだった。
今日もたくさんの冒険者が新大陸へやって来る。その中にエリィとキティルという二人の少女冒険者がいた。彼女らも他の冒険者と同じく新大陸で一旗揚げることを夢を見ていた。
ある事件をきっかけに二人と親しくなったグレンは、新大陸に存在すると言われる伝説の”白金郷”をめぐる争いへ巻き込まれていくのであった。
※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
※3/15~3/19 は投稿を休みます。
【最終話執筆済完結保証】悪役令嬢の『影』に転生した俺、ポンコツな主の破滅を物理で無言回避させる
積野 読
ファンタジー
喋れない。触れない。警告できない。——それでも俺は、このポンコツ令嬢を死なせない。
ブラック企業で過労死した中間管理職・黒田忠司(34)が目覚めたのは、乙女ゲーム『月光のエトワール』の悪役令嬢ロゼリアの「影」の中だった。
声は出せない。主から10メートルも離れられない。光の強い場所では力が半減する。できるのは、物をほんの少しだけ動かすことだけ。
それでも——破滅フラグは待ってくれない。
ドレスの裾を引っ張り、シャンデリアを落とし、毒杯を弾く。影の全力の裏方工作で主の破滅をへし折るたび、なぜかロゼリアは「底知れぬ黒幕令嬢」として周囲に畏怖されていく。
情報の女帝。軍神。守護者。革命家。——全部、影のせい。
本人は何もしていない。
だが令嬢は知らない。自分の足元で、存在が薄くなりながら守り続けている者がいることを。
「いるなら、おやすみなさい」——その一言が、影のすべてを変えた。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。