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三章
3-47 どちらも違ってどちらもいい
しおりを挟む「グレンツェント。ロベリア・ドライツェーン・グレンツェント。可愛いから直ぐに覚えられると思うし、一回しか名乗らなくても大丈夫だよね?」
「グレンツェント! イベリス・ドライツェーン・グレンツェント! えっと、身体を動かすのは大好きで、勉強はエヘヘって感じの十三歳だよ!」
多分双子の残り二人がそれぞれ名乗った。性格は全く違うようだ。
まともそうな服装の方が、傲慢が服を着ているような名乗り方をし、ピンクの塊が元気にどんどん自己紹介を進めていく。個人的には、服装はともかく、ピンクの塊――イベリスの方が仲良く出来そうだと思う。
「あとねー、この服はイベリスが作ったの。凄い?」
「凄いよ! これは君の手作りなの? とっても独創的だね。個性が強くて、遠くからでもすぐにイベリスちゃんだっていうのが分かるのがいいと思う」
「ふひっ、ふひひ……。ありがとう! イベリスねー、お洋服を作るのが大好きなの。ラナくんにも作ってあげようか?」
「本当? いいの!? 嬉しいなぁ!」
「うひひひ……。イベリスの方こそ嬉しいよー」
その派手なイベリスとラナが、早速仲良さそうに会話を始めた。あのラナの距離感の無さを物ともしないとは!
……あ、兄が服を持ってにじり寄る変態だもんな。距離感の無さは気にならないか。ラナ、別に変態ではないし。
その後ろでは、コスモスがまだまともな服を着たグレイスという兄に詰め寄っていた。漏れ聞こえる会話から察するに「今日の服装が地味」である事が納得いかないらしい。
あと、シアの事は、ディオンがそっと救出してくれたっぽい。ごめん、シア、どうしたものかと思ってしまったオレを許せ。
「ロベリアを無視して話を進めないで!」
この状況で怒ったのは、生意気系美少女のロベリアだった。軽く頬を膨らませてたあざとい表情だ。
「ぷんぷん」とか言わんばかりのこれは、果たして本当に怒っているのか。
「世界の中心はロベリアじゃなきゃイヤなの!」
「でもね、ロベリア」
「なに」
怒っているロベリアに声をかけたのは、ラナとキャッキャしていたピンクのイベリスだ。
「ロベリアが中心なら、イベリスも中心になっちゃうよ?」
「なんで?」
「ファイ兄が、いつもふたりとも可愛いって言ってくれるから」
ファイ兄、って、さっきの変態兄貴か。
「……ファイ兄、ロベリアとイベリス、どっちが可愛い?」
「どちらも可愛い。ロベリアの小悪魔のような仕草や、我儘はもちろん可愛い。だが、イベリスの天真爛漫で素直なところも可愛い。どちらも違ってどちらもいい」
「ロベリアが一番じゃなきゃイヤなの!」
「一番可愛い」
外見だけで行くのなら、明らかに一卵性双生児の二人の可愛さはトントンである。性格を加味するのなら、オレならイベリスの方が可愛いと思う。おバカさんで。
「イベリスは?」
「一番可愛い」
「ロベリアが一番じゃないじゃん! もー! バカバカバカバカ!」
ロベリアはファインをぺしぺしと叩き続ける。ずっと「バカバカ」言いながら。
叩かれているファインの表情が幸せそうなのが不気味だが、見なかった事にしよう。
「それにしても、やっぱりツークフォーゲルの家の子だったのね。レヴィン先輩にそっくりだったから、まさかとは思ったんだけど」
「父さんを知っているんですか?」
オレとスティアが、声の方へと同時に向く。声の主は、ささっと大人組に混ざった凄い恰好の女性――グレンツェント五兄弟のお母さんだった。
親父と知り合いなのか! とオレが口にする前に、スティアが聞いた。早い。
「逆に、グレンツェントって名前をお父さんから聞いた事は?」
「ない、よな?」
「ないな」
オレとスティアが顔を見合わせると、グレンツェントのお母さんは「チッ、あのヘタレ野郎」と呟く。親父、いつからヘタレになったんだ。
「チーッス! 応援に来たッスよー。……って、何スか、この空気。テロペアもいないッスし」
なんとも微妙な沈黙が下りた時、唐突に聞きなれた人物が現れた。ベルは直ぐに「ルース」と駆け寄る。
女に腹を刺されたスケコマシ、ルースが車椅子に乗って登場したのだ。車椅子を押していたのは、露出の高い服を着た女性で、隣には足を引きずりながら歩く男性。それから弟と思しき少年が三人と、末っ子感満載の妹っぽい女の子が一人。お前も五兄弟かよ!
「ロワ!」
「わー、エレムだ。学校ぶりー」
ルースの弟の中で一番大きいっぽい少年が、直ぐにロワに近付き、手をぎゅっと握った。ぱっと見は、美少女と言い寄っている男だ。
残念ながら、というのが正しいかは置いておくにしても、この二人はどちらも男で、友人関係のようだが。
「久しぶり。今日の私服も似合ってる。可愛い」
「ありがとう」
「あんた達、相変わらずキモいんだけど」
ルイザが不快そうに二人に視線を向ける。
「別にキモくないだろ。オレがロワに可愛いって伝えてるだけなんだから」
「……あ、そう」
「撤回しろよ! ロワはキモくない!」
「あんた自身はそれでいいの」
ルースの弟も、どうやらロワとルイザの仲間だったらしい。同じ歳で同じ学校なんだな。多分クラスも一緒、かな。
「丁度良かった! 見てよこの子達。レヴィンの子供よ!」
「お? おお、確かにそっくりだな」
ルースのお父さんは、目をぱちぱちさせてから、オレ達に近付き、スティアとオレの頭を思い切りぐりぐりと撫でた。こ、子供扱いか……!
「俺はこの、女に腹を刺されたルースの父親で、レヴィンの大親友。グラジオラス・ドライツィーン・ヒルシュだ」
「えっと、ご丁寧にどうも? ツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルです」
「ツークフォーゲル。スティア・ツークフォーゲルです。失礼ですが、本当に父とは親友だったんですか? 名前も聞いた事がないですが」
ルースのお父さんは、きょとんとした顔をしてから「明らかに作ってます」といった悲しげな表情でヤレヤレと指を横に振った。
「マジか。傷つくなぁ」
本当に傷ついているのだろうか。なんか、嘘っぽいんだよな。
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