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三章
3-61 ひとだすけはすきかー?
しおりを挟む今日もスーさんの家族の席にお邪魔したが、結構な大人数だ。
スーさんの一家と、オレ達何でも屋、それからエーアトベーベン兄弟。ここにルースの家族と、祖父母を除いたヴァイスハイト一家、ベルンシュタイン一家に、グレンツェント一家。総勢32人ともなると、ちょっとした施設の団体割引も期待できそうだ。
一番良い席ではなく、一般席の中のグレードの高い一角だというのだが、もはや貸し切り状態だ。この区画に入る前に、管理官がいて、この席の人に許可を貰っているかどうかなどの確認をされたくらいなのだから、どれほどの立場の人なのかと、ドキドキしてしまう。
まぁ、立場は「王族御用達の仕立て屋」なのだが。
今日もまた、めいめいに好き放題話をして、アリアさんの周りには世話焼きが群がっている。オレも混ざりたいけど、邪魔しちゃ悪いよな……。
オレは大人しく適当な席に座って、試合開始を待つことにした。
『クルトー』
そんなオレの周りに、ツークフォーゲルたちが群がり始める。
『ひとだすけはすきかー?』
『こまっているひとがいたらー?』
『たとえひのなかみずのなかー?』
「火の中水の中は、ちょっと助けに行けるって断言できないけど、普通に人助けはするぞ」
急にどうしたんだ? オレは首を傾げながら話の先を促した。
『それはよかった』
『ぎょうこう、ぎょうこう』
「お前ら、オレを何だと思ってるんだよ。思いがけず人助けが好きでラッキー、みたいに思うのはやめろ」
お前ら、ちゃんとオレの性格知ってるじゃん! たまたま人助けする気分、っていう感じで動く人間じゃないってわかってくれてるだろ? なぁ、わかってるんだよな!?
『あっちでおんなのこがからまれてるの』
『そう。へんたいに』
「変態に!?」
オレの気持ちはあっさりと、女の子が変態に絡まれているという情報へと向かう。
『クルト、へんたいからおんなのこをたすけたくない?』
「助けたいよ!」
見過ごせるわけがないだろう。どこの子だか知らないけど、変態に絡まれてるって知って、放置できるわけがない。
「と、いうわけで、オレちょっと行ってきます!」
オレががたっと席を立つと、所長は「え!?」と反応し、他の精術師メンバーが簡単に説明をしつつ「気を付けてね」と送り出してくれた。
ツークフォーゲルに導かれるがままに人波を縫ってその場所に行くと、ジギタリスとどうだろうな、というくらい大きくて、ジギタリスよりもムキムキで横幅の広い男が、小柄な女の子に声をかけているようだった。
しかもこの子、見たことがある子だ! 確か死を刻む悪魔の被害者だっていう女の子。で、お兄さんは今からベル達と戦うチームの人だったはずだ。
「おい、おっさん……爺さんか? どっちでもいいけど、人に迷惑を掛けちゃだめだぞ!」
オレは近づいて、おっさ……爺さ……微妙な年齢の男に声をかける。
真っ白い管理官っぽい服を着て、寝ぐせだらけの紫の髪に、顔には無精ひげを携えたそいつがまともな奴には到底見えなかった。その上、ツークフォーゲルが変態って言ってたし!
「爺さんって誰のことー?」
「お前以外いるかよ」
「いるいる。だっておっちゃん、まだ爺さんって歳じゃないもーん」
そいつは無駄にくねくねした動きっていうか、あの、下品に腰をふりふりしてみせている。ちょん切ってやろうか、その下半身を。
「おっちゃんはただ、管理官として一人でいる女の子に声を掛けただけだもーん」
「本当?」
「う、ううん、多分嘘だと思います」
オレは変態野郎を無視して、絡まれていた女の子に尋ねる。彼女はすぐに首を横に振りながら、オレの傍まで駆けてきた。
うんうん、怖かったんだな。オレが守ってやるからな。なんとなく昔のスティアを思い出して、お兄ちゃんとしての心が湧き出てくる。
「どんな状況だったか聞いてもいい?」
「わたし、あの、お兄ちゃんの応援をしようと思ってここにいたら、急に話しかけてきて」
女の子はオレの後ろに隠れながら小さい声で話し始めた。怖いだろうし、ゆっくりでいいからな。
「うん、女の子が一人だけで不用心だなぁって思って。もしも迷子なら困るから、おっちゃんはお仕事として声を掛けただけだよ」
変態野郎は尚もくねくねしながら何か言っているが、全面的に信用できない。オレは「何て声を掛けられたんだ?」と、女の子の方に尋ねた。
「お嬢ちゃん一人? おっちゃんといいトコいかない? って」
「はい、アウトー」
完全に人攫い案件じゃん。
「知らないヤツについて行こうとしなくて偉いぞ!」
「あ、ありがとう」
「え? じゃあお前らは知らない奴同士じゃないの? なぁ、選手のクルトきゅん」
オレ達が話していると、変態野郎はくねくねしつつ割って入ってくる。いちいち気持ちが悪い。
「何でオレの名前を?」
「おっちゃん、管理官だもん。出場選手の顔と名前くらい一致してるよ」
「あ、はいはい」
管理官っていう部分は嘘だろうけど、選手として出ているからそこで覚えたのか。
「で? 知らない管理官のおっちゃんとは一緒に行かないのに、知らない男の子とは一緒にいられるの? ねぇねぇ、お嬢ちゃん、どうなの?」
オレ達が知り合いじゃない、っていう部分がネックなら、そこは解消しよう。その方がこの変態野郎も静かになるかもしれない。
「オレ、ツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル」
「デンドロビウム・ゲゼル、です」
オレが名乗ると、直ぐに意図を察した女の子も名乗った。そうだそうだ、デンドロビウム、って、テロペアが言っていた気がする。
「ほら、これでもう知り合い」
「そ、そうです。それにクルトさんとは、わたし、会ってますし!」
「そうそう。ご飯も近くで食べた仲だし!」
食堂とかで、やたらと近くになる機会があったし!
「えー、でもぉ」
「――見つけましたよ! アキメネスさん!」
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