精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-75 現金なものだな

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「スティア……その、大丈夫か?」
「大丈夫だ。クルトも、みんなも、来てくれたしな」

 オレはスティアに近づくと、ぎゅーっと抱きしめた。直ぐそこでスティアを守ろうとしていたアリアさんとフルールはオレの為に場所を開けてくれたし、シアは「今後も頼ってくれてもいいのよ」などと、出来たらあまり頼りたくない言葉を口にしている。

「……とりあえず、食事の続きでもしましょう。事情聴取はそのテーブルででも」
「ああ、そうしてくれ」

 ジギタリスと得体のしれない人は周囲の人や店の人に謝罪をしてから、オレ達と一緒に最初の席についた。
 スティアもオレ達も落ち着き、やっと、昼食の続きだ。テーブルの食事は冷めてしまっていたが、食べないなんていう勿体ない事は出来ない。大体にして、冷めてたって美味しい!
 カラーは急に大人しくなり、事情聴取の間、黙って食事を口に運び続けた。本来ならジギタリスと得体のしれない人と一緒に事情聴取をする立場なのだろうが、びっくりするほど静かだ。

「最初は卑怯者だと言っていた癖に、現金なものだな」

 あまりにも露骨に静かになったせいだろうか。事情聴取(とはいえ、スティアを責める感じではなかった)を終えた後、スティアはため息交じりにカラーを見た。

「で、どうだった? 私達精術師が受けている特別扱いは?」
「それ、は……」

 カラーは口ごもる。

「さっきの奴等が言っていたように、村の管理官までもがあの態度なんだ。それを特別扱いか。たしかに特別扱いだな。他の者達にはそれなりに真摯な対応をしていたんだからな。私達精術師だけにトクベツな対応だな」
「……どこでも、そうなのか?」

 絞り出した声は、どこか不安そうだ。
 そうか、こいつが生まれ育った場所には精術師がいなかったのか。だからこそ、精術師をいい意味で特別だと思った。

「田舎って、あんなものだよ」
「結局、ヴルツェルの管理局もあまり変わっていませんし……」

 続いたアーニーとフルールの言葉に、ジギタリスの目がカッと見開く。こ、怖い……。

「同じ管理官として、本当に申し訳ありません。今後、ヴルツェル村及びフリーゲン村の管理支局には適切な指導をして参ります」

 お、おう……。ありがとう。
 どうやらジギタリスが、精術師蔑視についてものすごく怒っている事だけはよくわかった。
 オレとしては、調書を取ったとはいえ、オレ達の出身地までばっちり頭に入っている事に驚いたわけだが。こいつ、頭の中に全国民の情報が入ってるんじゃないよな?

「困りましたよねぇ。勘違いしやがるやつが多くってぇ」
「そうですね」
「……指導は、そちらの彼にも必要なのでは? 先ほどまでの態度もありますし」

 支局の話をしている所に、少々怒った声でディオンが口を挟んだ。指導が必要、と言っている相手は、当然カラーだ。
 対象とされたカラーは居心地悪そうにわずかに身じろぐ。

「そうですよ。いくら知らなかったとはいえ、特別扱いでずるいずるい、ばっかりなのは、それこそ管理官としてよくないですよね! 人を平等に、って言うのであれば、精術師も魔法使いも平等に見なきゃいけないわけでしょう? でもあれじゃあ、他の人はズルくって自分だけ可哀そうだからお前達が平等にしろって言っているようなものだし、かといって生まれ持ったものはどうしようもないし、僕達はどうしたらいいでしょうか?」
「ラナ、気持ちは分かるけど、最終的にただの質問になってるよ」

 ラナ、一回喋るといっぱい喋るな。

「ごめんなさい、兄さん。でも、どうしたら彼は平等の本当の意味に気が付くのかと思ったら止まらなくなって。みんなそれぞれにそれぞれのいいところがあるし、羨み続けるのは変な話だと思うんだ。それに――」
「ラナ、それくらいで」
「わかったよ、兄さん! ありがとう、いつもしゃべり続けてしまう僕を適度なところで止めてくれて。そんな兄さんが大好きだよ」
「ははは……ありがとう……」

 ディオンは乾いた笑いを浮かべた。ちょっと疲れたようだ。

「ここで多くを語る事はしませんが、カラーさんが羨ましいと言った精術師の現状は、あのような状態である事が多いのです」

 ジギタリスは咳払い一つすると、カラーに語り掛けた。一応軽く指導をするらしい。
 タイミング的に、まぁ、最適と言えば最適だもんな。

「ですから、スティアさんに言ったような、ご自分ばかりが貧乏くじを引いているなどという言葉を、軽々しく投げかけるものではありませんよ。貴方の育ってきた環境は他の方にわからないのと同じように、他の方の環境も貴方には分からない。それは今、よくわかったのでは?」
「うっ……」

 カラーは怯んだが、事実は事実だ。こいつが思ってるようなものではないのだ、精術師というものは。
 オレ達は精術師である事を誇りに思っている。けれども、決していい扱いを受けるわけでもない。
 あまり沢山吸い込みたくないような、なんとなく陰鬱さを混ぜた空気がその場に流れる。
 ここには精術師が多いから、みんな思う所があるのだ。
 ジギタリスはこちらに寄り添った考えをしてくれるが、こういう管理官は少ない。だからこそ、オレだって初対面の時には反感を持ったくらいだ。

「マジッスか? あんたそんな事言ったんスか? 駄目ッスよー、ヤキモチ焼いたからってあたっちゃー」

 この空気をぶち壊したのは、ルースだ。彼はちゃらちゃらケラケラと笑うと、テロペアにアイコンタクトを送る。

「ヤキモチ焼いて当たり散らして女に腹刺されたのはお前だろう」
「そッスよー。その刺されたオレが言うんスから説得力があるかもなんッスけどー」

 ルースはテロペアにパチッとウインクをしてから、カラーへと視線の先を変えた。

「カラー、このままじゃスティアちゃんに腹刺されるッスよ! そしたらオレとおソロッス」
「誰が刺すか!」
「刺されてたまるか!」

 スティアとカラー、ほぼ同時でのツッコミ。
 そしてそのあと、カラーはムッとした顔をして、これ以上この話題には触れるのを止めた。それは食事が終わるまでずっとであったが、途中で流れた変な空気が消えたのは幸いである。
 たまにはルースのチャラさも役に立つんだな、と、オレはこっそり思った。

   ***

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