188 / 228
三章
3-82 これは、中止になるかな
「バンクシア、アンスリウム」
短い息とともに、クレマチス様が後ろに仕えるムキムキ二人の名を呼ぶ。
「率直な意見を聞きたい」
ここから、管理官の偉い人の意見を聞く事になりそうだ。オレは真剣な顔をして、口を挟まぬように手で押さえたまま見つめた。
「オレとしては、中止にしたいですね」
口火を切ったのはアンスリウムさんだ。
「すでに昨日の時点で犠牲者が出ている上に、今日もモンステラという男が一人犠牲になってるわけじゃないですか」
「一人か?」
「あ?」
思いがけず、だったのだろう。バンクシアさんの横やりっぽいものに、行儀悪くジロっと見ながら返す。
「死を刻む悪魔の被害者が、本当に一人で済んでいると思うのか?」
「……多分、あと二人犠牲者が出ているわけじゃないですか」
管理官は悪い人を取り締まるのも仕事。ずっと死を刻む悪魔を追ってきたからこその発言だったのだろう。
テロペアも詳しかったけど、管理官もみんな凄く詳しそうだ。
「仮にまだ犠牲者が出ていなかったとしても、今回の発言と、前回のジギタリスからの報告を鑑みるに、他者にバレずに殺害する術を持っているから、未然に防ぐのは難しいでしょう。勿論警備は増やしてはいますけど」
……ジギタリスの、報告? あ、行きの列車でテロペアがそんな話してたかも。元気そうに大会に出てたから、無事だったんだな。よかった。
「と、なれば、二日目にして推定犠牲者は六人。明日何かやらかして、大会での犠牲者数を全部で十二人とか十三人に調節されたらたまったもんじゃありませんよ」
ありえそうな話だ。三日間で十三人、とか、好きそうなイメージはある。えーっと、もう一つくらい三に関連した何かもあるかもしれないが。
「大体にして、こんな危険人物が犯行予告をしているのに、そのまま続行なんて、オレは推奨出来かねます」
「私はアンスリウムの意見と対峙します」
「あ?」
今度はバンクシアさんの番だ。またしても行儀が悪い声がアンスリウムさんから出たが、バンクシアさんは全く気にせずに続ける。
「明日現れると分かっているのなら、この機に捕まえてしまう方が結果から言えば犠牲者は少なく済むと考えます。仮に明日、十二人や十三人に調節しようとしていても、それを封じ込められるのならそれでいいのでは?」
なるほど。こっちはあえて大会をやっておびき出して捕まえたい、って意見か。
「わざわざ犯行を予告した事から考えられるのは、大会の盛り上がっているタイミングで、試合中の会場に乗り込む可能性が高いという事です」
こ、怖い……。試合の最中に乗り込んでこられる可能性があるのか……。そうだよな。選手であるオレ達にわざわざ言ったんだもんな。あの殺人鬼。
「で、あれば、いっその事管理官だけで固め、市民には被害のないように万全を期して捕らえてしまった方がいい」
あ、ああ! 大会は続行だけど、オレ達には遠慮して貰おうって話か!
「長期的に考えれば犠牲者は少なくて済みますし、大会を中止するとなれば、今晩、入り込めるかもわからない死を刻む悪魔の結界とやらを探して駆けずり回るというあまり現実的ではない策が必要となります。明日の捕らえるチャンスが潰えるわけですから」
もう、あいつの残り二人の殺人は終わってるかもしれないけど、それでも大会を中止となれば、明日警備に当たる予定の管理官含めて全員での捜索になるのか。仕事とはいえ、とんでもない集団だ。
ちゃんと給料は見合ってるか? いっぱい貰えよ。
「ふむ、二人の意見は分かった」
クレマチス様はここまで聞くと、わずかに頷いた。
「その上で私の考えも聞いて貰いたい」
今度は後ろの二人が「はい」という番だ。きっとさっきと違って、どちらも途中で口を挟む事はないだろう。
「私としては、確実に明日捕らえられるという保証がない以上、中止にすべきではないかと思う」
これは、中止になるかな。
「大会を続行しても、被害者の件は伝えないわけにはいかないだろう。それは死を刻む悪魔が現れるハイルから、ほんの少しでも早く出てしまいたい市民の混乱を招く事になるのでは?」
そうか……。明日の事だし、どうなるかは分からないけど。観客がパニックでいなくなる可能性まで考えてる。
「その辺りを緩和するためにも、中止を早々に決定し、今日の夜からでも、遠方から来て下さった方々が帰りやすい体制に変えてしまった方がいい気がするのだ」
この時間から、もしかして列車や汽車のダイヤも見直すのか?
「明日は中止となれば、死を刻む悪魔も今晩の分で満足して去る可能性も高いだろう? 何しろ、あの殺人鬼の好みそうな三日やる大会、という部分が変わってしまうのだから」
大会三日間、って部分、本当に好きそう。テロペアも言ってたし。
その時だった。コンコンとノックがされ、返事を返してもいないのにドアが開いたのは。
ドアの辺りにいた従者のモルセラとかいうクソ野郎は、ぎょっとした顔で来訪者を見る。
「はいはーい、ごめん下さいね」
「……リリウム」
来訪者は、オレも知っている人だった。丁度昼に見たばかりの、ちょっと胡散臭い言付けお兄さん。
昼と違う所を上げるのなら、一緒にいるのがライリーさんではないところだろうか。ライリーさんとそっくりの髪色、髪形、目の色、顔立ち、年頃、佇まいで、制服に蕾のバッジをつけた男。
勿論性差はかなりあるが、それでも血縁者であるのは誰の目にも明らかだ。彼は複雑そうな表情を浮かべながら、リリウムさんと一緒に入室する。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
新大陸の冒険者支援課 ~新大陸での冒険は全て支援課にお任せ!? 受け入れから排除まであなたの冒険を助けます!~
ネコ軍団
ファンタジー
魅惑の新大陸へようこうそ! 冒険者支援課にお任せください!
二十年前に発見された新大陸ノウリッジでは、未踏の地である大陸の東端を目指して開発が進んでいた。
港町テオドールはノウレッジの南西に位置する新大陸の玄関口だ。魔王の出現により遅れていた、新大陸の開発が本格的に始まってから五年、この町には一攫千金を夢見る冒険者たちが日々たくさん訪れていた。同時に未知の魔物や厳しい自然、罠が張り巡らされた遺跡やダンジョンなどで幾多の冒険者が傷つき命を落としていた。港町は夢と希望を抱く者たちが希望に満ちて旅立つ場所であり、夢破れ新大陸から去っていく者たちを静かに見送る場所でもあった。
冒険者ギルドは冒険者たちの新大陸離れを危惧し、新たに冒険者支援課を設立した。彼らの仕事は道案内から始まり、冒険者が発見した遺物などの研究や運搬の手伝い。他にも支給品の配布や死体回収などの地味な作業から、魔物が巣食う遺跡やダンジョンの休憩所であるセーフルームの確保、さらには大型モンスターの討伐を手助けしたりと様々だ。それに時には有害と判断された冒険者を秘密裏に処理したりするこも……
支援課に所属するグレンはかつて冒険者だった。しかし、五年前に仲間に裏切られ死にかけ、支援員の先輩であるクレアに救われた。クレアはグレンの特異な才能に気づき、彼を引き取り冒険者支援員として育てたのだった。
今日もたくさんの冒険者が新大陸へやって来る。その中にエリィとキティルという二人の少女冒険者がいた。彼女らも他の冒険者と同じく新大陸で一旗揚げることを夢を見ていた。
ある事件をきっかけに二人と親しくなったグレンは、新大陸に存在すると言われる伝説の”白金郷”をめぐる争いへ巻き込まれていくのであった。
※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
※3/15~3/19 は投稿を休みます。
【最終話執筆済完結保証】悪役令嬢の『影』に転生した俺、ポンコツな主の破滅を物理で無言回避させる
積野 読
ファンタジー
喋れない。触れない。警告できない。——それでも俺は、このポンコツ令嬢を死なせない。
ブラック企業で過労死した中間管理職・黒田忠司(34)が目覚めたのは、乙女ゲーム『月光のエトワール』の悪役令嬢ロゼリアの「影」の中だった。
声は出せない。主から10メートルも離れられない。光の強い場所では力が半減する。できるのは、物をほんの少しだけ動かすことだけ。
それでも——破滅フラグは待ってくれない。
ドレスの裾を引っ張り、シャンデリアを落とし、毒杯を弾く。影の全力の裏方工作で主の破滅をへし折るたび、なぜかロゼリアは「底知れぬ黒幕令嬢」として周囲に畏怖されていく。
情報の女帝。軍神。守護者。革命家。——全部、影のせい。
本人は何もしていない。
だが令嬢は知らない。自分の足元で、存在が薄くなりながら守り続けている者がいることを。
「いるなら、おやすみなさい」——その一言が、影のすべてを変えた。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…