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三章
3-101 派手に殺ろうぜ
目の前にはアイゼアと死を刻む悪魔。
いくらこちらが、管理官のジギタリス、カラー、ゼラニウムさん、がいたとしても。精術師のオレとスティア、エーアトベーベン兄弟がいたとしても。プレートかっちーんをつけているベルがいたとしても。オレには勝機が見えなかった。
さっきのひと際強く黒色が光ってから、血の匂いがより濃厚になっている。
鼻の良いジギタリスは何度か「うっ」と声を漏らし、ゼラニウムさんは小声で「あと何回使えるかなぁ」とおそらく魔陣符の残り回数を気にしている。カラーは無言を貫き、精術師は全員もれなく武器と精術を封じられてた。
魔陣符以外の攻撃力の高い武器を持っているのは、鼻を殺されかけているジギタリスと、プレートかっちーんのベル。強い魔法が使えるのは12枚のラナ。
対して、アイゼアは大きな鎌の武器を出したままで、死を刻む悪魔の手の内は全くと言っていい程わからない。主に飛び道具としてナイフを使う、程度の知識しかないのだ。
どうやって勝つ……いや、せめて、どうやって生き残るか、という話である。もしもあの誘拐未遂変態野郎の言っている「入れない」っていうのが嘘で、ジギタリスのお父さん達が戦ってくれるのならその限りではないだろうが、可能性はあまり期待できない気がする。
「なんとか間に合ったな」
「そうだね。これだけの管理官達の相手を、一度にするのは御免だからね」
アイゼアが観客席の方でぎゃんぎゃん騒ぐ変態野郎に手を振りながら笑った。死を刻む悪魔も喉の奥で笑ったようで、不明瞭な「くくっ」みたいな声が聞こえる。
「間に合わなかったら帰ってたぞ。俺は」
「私もだよ。勝てない戦いはしたくないんだ」
ここまで語ると、死を刻む悪魔はこちらへと顔を向けて恭しく頭を下げた。
「殺し合いのステージへようこそ。君達は私の作った結界の中にいる、囚われた子羊。いや、子犬かな?」
「どっちにしても、お前の台詞格好いいな」
「ありがとう」
アイゼアが茶々を入れるのが、どこか「平和」に感じられて、ミスマッチさで余計不安が煽られる。
「以前顔を合わせた面々は知っている通り、私は結界の魔法を使う。これは外部からの干渉を受けないようにする魔法」
「どうして、それを教えて下さるのですか?」
「私は少しでも君達に愛着を持ちたいんだ。その為には、君達が私に近づいてくれないと困る」
ジギタリスの質問に対し、死を刻む悪魔はほんの少し首を傾げながら続けた。
「興味を持って、私への理解を深めて欲しい。そうして貰ってから殺したいんだよ」
死を刻む悪魔が言っている事は全く理解出来ない。ただ一つ分かった事があるとすれば、ここが昨日体験した結界の中で、それによって精霊がみんないなくなった。
そしてこの結界が発動した事によってあの変態野郎が入って来れない……ひいては、外部の管理官も全員入って来る事が出来ない。さっきの「クソっ、入れない」みたいな言葉は、この結界が作用したが故のものなのだろう。
「ああ、もっと簡単な説明が出来るね。私の美学として、私が殺すに値すると思った人間を殺したい。故に、君達には私が殺すに値する人間になって欲しい」
殺人鬼の美学は、正直どうでもいい。
恐ろしいのは、オレ達はこいつの使った結界により、閉じ込められたらしい、という事実。逃げる事も、助けられる事も出来ないのだろう。
「さあ、ここからが本当のパーティーの始まりだよ」
「派手に殺ろうぜ」
死を刻む悪魔は沢山のナイフを両手に構え、アイゼアは鎌を構え直す。
こちらも皆警戒の体制を取り、ジギタリスは腰に一度刺した試合用の剣をスティアに一本渡した。
「さて、一番の標的はわんこ君として、後、何人殺ろうかな。大会期間での獲物の数を十三にするのなら、一人多いんだけど」
死を刻む悪魔は不満げな声色でスティアとベルの方へと顔を向ける。
「君達がいないなら、全部で十二人って事で満足出来たのに。何で入ってきたの?」
「お前こそ、出て来なければ殺意なんか湧かなかったのに、何で出てきたんだ?」
ベルは死を刻む悪魔が言った言葉になぞらえながら不満を口にする。殺意って、怖い。
「お前の事情なんか知るか。そんな事よりもなぜジギタリスを狙う?」
スティアはベルの「殺意」発言をスルーして、続けて問う。これにはアイゼアが「くくっ」と笑ってから「教えてやるよ」と口元をニヤッとさせた。
「こいつが負けず嫌いだから、わんこ君を狙うんだよ。この間、わんこ君に結界の中に入られて、獲物の爪を持ち帰れなかったからご不満なんだと。ま、ただの逆恨みだ」
「うるさいよ、アイゼア」
明らかに面白がっているアイゼアに、死を刻む悪魔はナイフを一本投げつけたが、彼は「恐怖ねぇな」と言いながらひょいっと避ける。
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