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三章
3-118 これが、本当に俺達の力だけで勝ち取ったものであったのなら
優勝チームが発表され、オレ達は壇上へと上がる。さっきの今で、滅茶苦茶やりたくない。腹が立つんだか、観客からの視線が痛いんだか、もう、何が何だか!
とりあえず膨らみそうな頬はいつまでも両手で押さえるわけにもいかず、必死に内側から吸い込んでへこませておいた。きっと膨らんでいるよりはいいだろう。
オレ達の並びは、オレ、ディオン、ラナの順で、真ん中のディオンがリーダーとして一歩前に出た。
管理官の「一言お願いします」の後に、彼は頷く。
「このような状況ではありますが、チーム全員で力を合わせ、優勝出来た事を嬉しく思います」
今言える、精いっぱい無難な言葉だ。後は観客席に戻るだけ――
「これが、本当に俺達の力だけで勝ち取ったものであったのなら」
もど、らない? ディオン、何を言い出したんだ?
オレは頬を吸い込むのも忘れて、ディオンの方を凝視した。
「大会中の問題が生じた結果、管理局のチームを優勝させるわけにはいかない。そういう内情を考慮した結果、繰り上がりで俺達が優勝したという事だけであれば、前半の挨拶のみで済ませるつもりでしたが、どうもこれでは納得がいかない発言が多々見受けられました」
あっ、これ、さっきの陛下の発言で怒ってるやつだ。オレは頬を膨らませないように必死になっていたが、ディオンは頬が膨らまない代わりに怒りを膨らませていたらしい。
「皆様もお気づきでしょう? 陛下からのお言葉は、精術師を蔑視する色が大変に強かった事を」
ですよねー!
目の端で「一言」って言っていた管理官が動いたのが見えたが、それに関してはラナが動き、ディオンが最後までちゃんと喋れるようにサポートしていた。
オレは、どうしよう。言わせたいっていうか、言いたい気持ちはある。でも、大会を見に来ている人を巻き込みたいかと言えば……。あー、でも、陛下もみんな巻き込んだしなぁ。
「先程の説明だと、まるで精術師が全て悪いようでした。確かに、精術師はシュヴェルツェを倒す役割がありますが、どうしてその役割が現代まで続いているかと言えば、シュヴェルツェが何度倒しても復活する存在であるからです。二十二年前に不完全な倒し方をしたから今に影響している、と言い切るのは些か暴論であると感じました」
オレが悩んでいる間にもディオンは続ける。しかも親父の一件までフォローしたので、とりあえずオレは静観する事にした。
積極的に、こっちを止めようとする管理官に対して何かする事もないけど、ディオンに対しても何もしない、というスタンスだ。
「今回シュヴェルツェを倒しそこなった事は責められるべき事かもしれない。しかし、今までその役割を担い、国の為に尽くしてきた精術師を国は迫害しました」
……だよな。確かに。
あんな風に言ったって事は、少なくとも国は、「精術師にもこの世を守る役割がある」という考えがあったという事だ。なのに、実際問題、オレ達は村で散々嫌な目に遭ってきた。
精術師に対しての当たりが強いのは、国として把握していないわけがない。少なくともベルンシュタイン家の事件の後の管理官の対応などは報告されているのだから、「全然知りませんでした」とはいかないだろう。
「俺達精術師がシュヴェルツェと戦っていく事はもちろん変わりません。ですが、これ以上この国に尽くす事とそれは別問題」
ディオンの発言は、オレを納得させるに足るものばかりだ。
「だから――」
ディオンの傍にいたエーアトベーベンの大元が『派手にかませ』と一言いうや否や、会場のあちこちから爆発音がした。一気に緊張と混乱に包まれた会場で、オレは呆然とディオンを見た。
何だ、これ。何が起こってるんだ?
「反国家組織、ベフライウングがここで宣言する! 俺達は決して政府に屈服しない!」
騒がしかった会場は、ディオンの一言で一気に静まる。管理官達は爆発元を探すように慌ただしく動いているが、観客はもう一度席に座り直す人間もちらほらと見受けられた。
「精術師や魔法使いの枚数差別を許す国を、全ての人を公平に扱わない国を、俺達は許さない!」
この場の空気を制しているのは、ディオンだ。ラナはこちらに向かってくる管理官をいなし、ディオンの発言の邪魔をさせない。
こいつ、大会中よりもずっと強くないか……?
「皆が等しく、ごく普通の日常を送る事が出来る世界に俺達は変えていく。賛同者はどうか集って欲しい。そして皆で力を合わせ、国の体制を変えてやろうじゃないか!」
オレが呆然としたまま見ていると、ディオンは微笑んでこちらに手を差し伸べた。
「……クルト、君も一緒に行こう」
一緒に、と言うのは、反政府組織に、という意味だろうか?
「今まで苦しかったよね。お父さんの偉業を馬鹿にされて辛かったよね。同じ精術師でも、今はもうバラバラだ。俺達が、精術師としての正しい姿を取り戻すんだ。手を貸して欲しい。君の力が必要なんだ」
ディオンはオレの事をわかってくれた。オレの悔しさも、さっきのモヤモヤも。
大会二日目の夜に死を刻む悪魔に会ったあとの、管理官達――正確には、次期国王候補であるカサブランカ様の意見も思い出す。今の陛下が代替わりしたって、このままじゃ何も変わらないかもしれない。
でも、ディオンについて行ったら? もしかしたら国を変えられるんじゃないか?
オレは……。
「クルト! このっ、クソ兄貴が!」
「ぐえっ」
オレの心が揺れに揺れまくっていたところで、背後から襟を引かれて、情けない声が上がる。振り向けばスティアがいて、アーニーとフルールも一緒だった。
どうやらディオンの誘いに乗るべきか否かと考えている内にここまでやってきたらしい。管理官は……多分、爆発の方に行ったのと、ラナにどうにかされたので、この三人が来る時に邪魔が入らなかったようだ。
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