17 / 17
17 魔物狩り
しおりを挟む
俺とジェーンは一旦トラックに帰ることにした。ジェーンに関しては認証協会に行かなければならない。すぐに村に戻る必要があるが、馬のフリードのこともある。トラックに戻ることにした。
それと、買取で得た金はいくらかマリアに渡し、明日の昼にまた会うと約束した。
イリスとヒバリには俺が手に入れた魔石を渡し、売るように頼む。値段設定は出来るだけ安くていいと伝えた。
村を出てトラックに戻ってからは、フリードをトラックに収納。ジェーンに関してはまた村に戻って行ったが、俺はレベルアップと魔石の確保の為、魔物を狩りまくることにした。
基本は増えすぎたグレイジャッカルや、それに類する小型魔物の駆除だ。俺のレベルもそう簡単に上がらなくなってきている。グレイジャッカルをたくさん狩っても問題ないだろう。
荷台にフリードがいるので、出来るだけ振動を与えないように走り、グレイジャッカルの群れを見つけては、チェーンマシンガンで狩りまくった。
夜になる頃にジェーンが帰って来た。人体生成を解除して、竹林付近で停車していた。
俺は狩りまくったグレイジャッカルを一か所に集めており、ジェーンに解体してくれと頼んだ。
さすがのジェーンも疲れていたのか、解体は明日にしてくれということで、グレイジャッカルの死体はそのままになった。
★★★
翌日。
ジェーンは俺が狩ったグレイジャッカルを必死になって解体している。金になるとはいえ、血まみれになって解体するジェーンを見ると、俺も辟易する。
ついでに言うと、大量のジャッカルを狩ったことにより、俺のレベルは50に上がった。
ガソリン満タン、各種オイル類の交換がなされ、俺は元気を取り戻している。
レベルアップ特典には、ナビのアップデートを頼み、通信販売の充実を図る。魔石の買取値段もアップする。
すべてが順調に済み、俺はイリスとヒバリに大量の魔石を届けた。
「な! なんだいこの魔石の量は!!」
イリスは俺がたくさん魔石を持ってきたから驚いているようだ。フリードの背中にたくさん積んできたからな。
「一体どうやってこれほどの魔石を? 盗んできたっていうレベルじゃないよこれは」
イリスとヒバリは驚いているが、もはや俺にとっては当たり前になりつつある。
「ジェーン。あたしはあんたが犯罪はしない奴だって分かってる。だけど、出所がはっきりしないものは売れない。どうやってこれだけの量の魔石を手に入れたんだい?」
ジェーンはイリスの言葉に「うっ」と詰まる。俺も無言になる。
トラックのことはあまり多くの人に喋るべきではない。イリスが信用できないとか以前の問題だ。俺のことで無用なトラブルに巻き込む可能性だってある。
いや、すでに巻き込んだも同じか? 取ってきた魔石を売ってくれっていう時点で、すでに巻き込んでいるよな。
「ジェーン。言えないなら、悪いけど持って帰っておくれ。私もこの店を立て直したいけど、犯罪を犯して奴隷になるのだけは嫌だからね」
つい昨日渡した量とは比べ物にならない。今回持ってきたのは、まさに米俵いっぱいの魔石と言っていい。それくらいの量があるのだ。さすがのイリスも、個人でこれだけ取ってくるのはおかしいと思うだろう。昨日渡した、幼稚園児用のポーチに入る量じゃないからな。
「私たちのことを思ってしてくれたのは嬉しいけど、ごめんね」
イリスは頭を下げる。
俺とジェーンは悩んだ。魔石をいっぱい持ってきすぎた。張り切りすぎたのが失敗につながった。いらぬ不信感をイリスに与えてしまったようだ。
こうなると、真実を話すべきだろうか?
騎士団のシェルツ団長を味方に引き込めば、この村である程度自由がきく。それを踏まえたうえで、彼女たちに本当のことを話すべきか?
魔石の知識は欲しいし、遅かれ早かれ俺のことは知られる。ならば彼女たちと専属契約を結んでもいいのではないか?
「エル。すまん。私が先走りすぎたせいで、イリスを不安にさせてしまった。どうしたらいいか分からない。エルのことを話すべきだろうか? トラックのことを」
「そうだな。シェルツ隊長にも話すし、いずれはばれることだ。イリスやヒバリは良い人そうだし、何とかなるんじゃないか?」
俺とジェーンはこそこそと話すが、二人には丸聞こえ。
「あのさ、トラックって何?」
「うっ! それは!」
ジェーンはイリスさんに聞かれ、後ずさる。俺はそんなジェーンの姿を見て、面倒くさくなった。
「もういいや。魔石に関していろいろ聞きたいし、魔法も勉強したい。二人には協力者になってもらおう」
あまりに楽観的で、短絡的で、危険だが、大丈夫な気がする。イリスさんとヒバリさんは人が良さそうだし。秘密など、どうとでもなる。俺は魔石に興味が湧いたし、これから役に立つかもしれない。二人の知識を利用させてもらおう。
俺は二人へ簡単に説明し、トラックに招待することにした。
ジェーンだが、少し複雑な表情をしている。どうしたのか聞くと、トラックのベッドは私の物だと言ってきた。エルのトラックにあるベッドは、私だけのベッドだと言った。
どういうことか聞くと、イリスとヒバリが増えると、トラックでの生活が窮屈になると言うのだ。今まで一人で独占して使っていたからな。イリスやヒバリが増えると、ベッドがなくなるもんな。
「ははは。ジェーンは機械騎士なのに欲張りだなぁ」
「私は人間と同じ感情を持って生まれたのだ。精神構造に少し違いがあるが、欲を張るのは人間のお家芸だ。仕方ないだろうが」
ふうん。精神構造? よく分からないがそうなのか?
まぁ、ジェーンの不安に思うことはないだろう。きっとレベルアップ特典に、居住区の拡大があるはずだ。それに、イリスとヒバリは、店がある。トラックでの旅に同行するとは思えない。
★★★
まだマリアとの約束の時間までは時間がある。それまでに俺のことを説明するとイリスとヒバリに伝えた。
俺について説明するには、トラックを見せるしかない。
善は急げだ。すぐに行動に移そう。
馬のフリードに、ヒバリとイリスを乗せる。俺はジェーンにおんぶされて、トラックまで移動だ。
街の門番にはこれで何度もすれ違ったが、魔石の採取があると言えば普通に通してくれた。もはや顔なじみだぜ。
そこからしばらく移動。魔物を出来るだけ避けて移動し、小さな竹林に到着する。
「着いたぞ。これがイリスとヒバリに見せたいものだ」
竹林に隠してあるトラックは、威風堂々と貫禄たっぷりに停車している。
うむ。竹という「和」の雰囲気になじむ、素晴らしいトラックだ。さすが俺。
俺とトラックはリンクしているから、どんなに遠く離れても意識は繋がっている。トラックに危機が訪れれば、俺はすぐさまトラックを発進できる。問題ない。
イリスとヒバリは大型トラックを見て腰を抜かしていた。まるでドラゴンでも見るような驚き方だ。
やはり、大きな車はこの世界では珍しいんだな。
腰を抜かした二人を何とか立たせ、運転席まで登らせる。
「な! なんだいこのキッチンは!! 冷蔵庫もすごい!!! 食材がいっぱい!! というか、貴族様のお屋敷みたいじゃないか!!」
こんな小さな屋敷があるか。
それに人の家の冷蔵庫を勝手に開けないでほしい。さらに言うと、反応がジェーンと同じなんだが。業務用の巨大冷蔵庫はそんなにすごいのか?
「このふわふわのベッド。すごい。寝たい」
ヒバリはふわふわのベッドにウットリ。腰を下ろして柔らかさを確かめている。
「だ! ダメだ! そのベッドは私のだ!」
「ええ!? ジェーンさんここに住んでいるんですか!? ずるいです!!」
「だ、ダメだぞ! これは私んだ!!」
なんだジェーン。「私んだ」ってのは。俺はお前のトラックになっちまったのか?
「使うならそっちの二階のベッドを使え!」
ジェーンは運転席の上にある簡易ベッドを指さした。小さな階段を上った所にある寝台だ。
「上にも寝る場所があるの? すごい、秘密基地みたい」
年の若いヒバリは冒険心があるのだろう。目をキラキラさせてトラックの中を探検している。しかも確認もせずに、あちこち引出を開けたりしている。どこかの勇者がやる行動だ。そのうち壺を割って中身を確認するんじゃないだろうな? 薬草なんて入ってないからな?
「二人とも! 遊びに来たんじゃないぞ! エルがどういう存在か説明しに来たんだ! ちゃんと話を聞け!」
ジェーンが怒鳴りつけ、備え付けの椅子とテーブルに着席させる。
それから二人をトラックにあれこれ説明する。これまでのいきさつと、魔石をどうやって得たかを。
彼女らは驚愕の表情をしつつも、どこかウソだろうと思っているみたいだ。
そうだよな。
俺がトラックだもんな。日本語おかしいよな。
俺、トラック。
どう聞いてもおかしいよ。疑う。精霊とかの概念があっても、信じられないよ。
でも、俺が人体生成を解除し、光になったら半分信じてくれた。スピーカーから話しかければ、嫌でも信じざるを得ないだろう。この世界にはない技術みたいだしな。
完全には信じてくれていないが、俺は二人に言った。
「二人はシートベルトを締めて。俺が魔物を倒すから。今から魔石を取ったやり方を見せる」
ジェーンがシートベルトの締め方を二人に教える。
レーダー(中)で探知したら、近くに巨大なトカゲがいることが分かった。ナビが言うには、サンドドレイクという、竜種らしい。初めて聞く名前だが、今の俺には関係ない。チェーンマシンガンで蜂の巣にしてくれる。
俺はトラックをゆっくりと走らせる。少し開けた土地に、馬のような魔物を食っている、サンドドレイクが見えてきた。
見ると、かなりデカい。砂の鎧をまとった、馬鹿でかいトカゲだ。大きさ的に、ミニバンくらいあるぞ。
俺はゆっくりと近づく。明らかにサンドドレイクは気づいているが、俺を無視している。倒されないとでも思っているのか。
俺は完璧な位置に着く。遮蔽物がなく、風向きも追い風。チェーンマシンガンの射程距離だ。
狙いを定め、「すまんが俺の糧になってくれ」と言って、魔力弾を掃射した。
サンドドレイクは意外と硬く、何発か魔力弾を「チュイン」と弾いたが、圧倒的な面攻撃の前にすぐに死んだ。
チェーンマシンガンの連射で、土煙がもうもうと上がっている。
俺の大火力の前に、イリスとヒバリは絶句していた。
「どうだ。すごい威力だろう」
運転席に座っているジェーンは、そんな二人に対して、自分のことのように偉そうだ。
『レベルが上がりました。レベルが58に上がりました』
かなりレベルが上がった。なんと、サンドドレイクはかなりの強敵だったらしい。一気に8ものレベルが上がった。
「ジェーン、あの魔物にフックを取り付けてきて」
「わかった」
ジェーンはウインチのフックを持って走っていく。
『レベルアップによる、新しい改造があります』
お? なんだ?
いいのを頼むぞ?
『荷台の空間領域を拡張できるようになりました』
おお!! ついに来たか! 居住区の拡大じゃないが、荷台の拡張は欲しかった改造だ!!
「そうだ。改造するのはいいが、トラックの大きさはどうなる?」
『変わりません。荷台の空間のみを広げます。ただし、荷台のウイング展開機能はなくなります。空間を保持するので、大きく荷台を開くことはできません』
ナビがなんだか分からないことを言っている。空間がどうのこうのと。
「空間の話は分からない。要は、荷台のウイング展開機能がなくなるのか? 荷物の出し入れはどうする?」
『主が許可したものを自動的に荷台へ転移させます。半径5メートル以内にあるものは、主の意思で荷台へ転移可能です』
え。何? 近くにあるものを転送だって?
荷物を荷台に瞬間移動させるのか? まじか?
「そんなことが可能なのか? 念じただけで荷台に転送できるのか? 使用する魔素は?」
『可能です。一回の荷台への転送で、一律1リットルの消費です』
すげぇなそりゃ。今回の改造はすげぇぞ。ガソリンを食うが、すごい機能だ。
「そうか。他の改造は後回しにするから、まずは荷台の拡張を行ってくれ」
『かしこまりました』
それから、荷台が光り輝く。いつもの謎の技術が使われたらしい。
『完了しました』
「おう。ありがとう」
俺とナビはそんなやり取りをしているが、イリスとヒバリは未だ絶句したまま。
そんなに珍しいのか? この世界の技術水準はそんなに低くなさそうだが。飛空艇とかあるくらいだし、機械騎士もすごい技術だ。ナビとかの、人工知能は珍しいのだろうか?
俺がナビとやり取りをしていると、満面の笑顔でジェーンが走ってくるのが見えた。かなり良質な素材を剥ぎ取れるんだろう。
「ウインチは引っかけたぞ! 引っ張ってくれ!!」
と、ジェーンが言ってきたが、すでに荷台の拡張改造をしたあとだ。いつのまにかウインチが外に設置され、荷台のウイングが閉じてしまった。
仕方ない。近くまで引っ張った後で、新技の「荷台への転送魔法」を使ってみるか!
それと、買取で得た金はいくらかマリアに渡し、明日の昼にまた会うと約束した。
イリスとヒバリには俺が手に入れた魔石を渡し、売るように頼む。値段設定は出来るだけ安くていいと伝えた。
村を出てトラックに戻ってからは、フリードをトラックに収納。ジェーンに関してはまた村に戻って行ったが、俺はレベルアップと魔石の確保の為、魔物を狩りまくることにした。
基本は増えすぎたグレイジャッカルや、それに類する小型魔物の駆除だ。俺のレベルもそう簡単に上がらなくなってきている。グレイジャッカルをたくさん狩っても問題ないだろう。
荷台にフリードがいるので、出来るだけ振動を与えないように走り、グレイジャッカルの群れを見つけては、チェーンマシンガンで狩りまくった。
夜になる頃にジェーンが帰って来た。人体生成を解除して、竹林付近で停車していた。
俺は狩りまくったグレイジャッカルを一か所に集めており、ジェーンに解体してくれと頼んだ。
さすがのジェーンも疲れていたのか、解体は明日にしてくれということで、グレイジャッカルの死体はそのままになった。
★★★
翌日。
ジェーンは俺が狩ったグレイジャッカルを必死になって解体している。金になるとはいえ、血まみれになって解体するジェーンを見ると、俺も辟易する。
ついでに言うと、大量のジャッカルを狩ったことにより、俺のレベルは50に上がった。
ガソリン満タン、各種オイル類の交換がなされ、俺は元気を取り戻している。
レベルアップ特典には、ナビのアップデートを頼み、通信販売の充実を図る。魔石の買取値段もアップする。
すべてが順調に済み、俺はイリスとヒバリに大量の魔石を届けた。
「な! なんだいこの魔石の量は!!」
イリスは俺がたくさん魔石を持ってきたから驚いているようだ。フリードの背中にたくさん積んできたからな。
「一体どうやってこれほどの魔石を? 盗んできたっていうレベルじゃないよこれは」
イリスとヒバリは驚いているが、もはや俺にとっては当たり前になりつつある。
「ジェーン。あたしはあんたが犯罪はしない奴だって分かってる。だけど、出所がはっきりしないものは売れない。どうやってこれだけの量の魔石を手に入れたんだい?」
ジェーンはイリスの言葉に「うっ」と詰まる。俺も無言になる。
トラックのことはあまり多くの人に喋るべきではない。イリスが信用できないとか以前の問題だ。俺のことで無用なトラブルに巻き込む可能性だってある。
いや、すでに巻き込んだも同じか? 取ってきた魔石を売ってくれっていう時点で、すでに巻き込んでいるよな。
「ジェーン。言えないなら、悪いけど持って帰っておくれ。私もこの店を立て直したいけど、犯罪を犯して奴隷になるのだけは嫌だからね」
つい昨日渡した量とは比べ物にならない。今回持ってきたのは、まさに米俵いっぱいの魔石と言っていい。それくらいの量があるのだ。さすがのイリスも、個人でこれだけ取ってくるのはおかしいと思うだろう。昨日渡した、幼稚園児用のポーチに入る量じゃないからな。
「私たちのことを思ってしてくれたのは嬉しいけど、ごめんね」
イリスは頭を下げる。
俺とジェーンは悩んだ。魔石をいっぱい持ってきすぎた。張り切りすぎたのが失敗につながった。いらぬ不信感をイリスに与えてしまったようだ。
こうなると、真実を話すべきだろうか?
騎士団のシェルツ団長を味方に引き込めば、この村である程度自由がきく。それを踏まえたうえで、彼女たちに本当のことを話すべきか?
魔石の知識は欲しいし、遅かれ早かれ俺のことは知られる。ならば彼女たちと専属契約を結んでもいいのではないか?
「エル。すまん。私が先走りすぎたせいで、イリスを不安にさせてしまった。どうしたらいいか分からない。エルのことを話すべきだろうか? トラックのことを」
「そうだな。シェルツ隊長にも話すし、いずれはばれることだ。イリスやヒバリは良い人そうだし、何とかなるんじゃないか?」
俺とジェーンはこそこそと話すが、二人には丸聞こえ。
「あのさ、トラックって何?」
「うっ! それは!」
ジェーンはイリスさんに聞かれ、後ずさる。俺はそんなジェーンの姿を見て、面倒くさくなった。
「もういいや。魔石に関していろいろ聞きたいし、魔法も勉強したい。二人には協力者になってもらおう」
あまりに楽観的で、短絡的で、危険だが、大丈夫な気がする。イリスさんとヒバリさんは人が良さそうだし。秘密など、どうとでもなる。俺は魔石に興味が湧いたし、これから役に立つかもしれない。二人の知識を利用させてもらおう。
俺は二人へ簡単に説明し、トラックに招待することにした。
ジェーンだが、少し複雑な表情をしている。どうしたのか聞くと、トラックのベッドは私の物だと言ってきた。エルのトラックにあるベッドは、私だけのベッドだと言った。
どういうことか聞くと、イリスとヒバリが増えると、トラックでの生活が窮屈になると言うのだ。今まで一人で独占して使っていたからな。イリスやヒバリが増えると、ベッドがなくなるもんな。
「ははは。ジェーンは機械騎士なのに欲張りだなぁ」
「私は人間と同じ感情を持って生まれたのだ。精神構造に少し違いがあるが、欲を張るのは人間のお家芸だ。仕方ないだろうが」
ふうん。精神構造? よく分からないがそうなのか?
まぁ、ジェーンの不安に思うことはないだろう。きっとレベルアップ特典に、居住区の拡大があるはずだ。それに、イリスとヒバリは、店がある。トラックでの旅に同行するとは思えない。
★★★
まだマリアとの約束の時間までは時間がある。それまでに俺のことを説明するとイリスとヒバリに伝えた。
俺について説明するには、トラックを見せるしかない。
善は急げだ。すぐに行動に移そう。
馬のフリードに、ヒバリとイリスを乗せる。俺はジェーンにおんぶされて、トラックまで移動だ。
街の門番にはこれで何度もすれ違ったが、魔石の採取があると言えば普通に通してくれた。もはや顔なじみだぜ。
そこからしばらく移動。魔物を出来るだけ避けて移動し、小さな竹林に到着する。
「着いたぞ。これがイリスとヒバリに見せたいものだ」
竹林に隠してあるトラックは、威風堂々と貫禄たっぷりに停車している。
うむ。竹という「和」の雰囲気になじむ、素晴らしいトラックだ。さすが俺。
俺とトラックはリンクしているから、どんなに遠く離れても意識は繋がっている。トラックに危機が訪れれば、俺はすぐさまトラックを発進できる。問題ない。
イリスとヒバリは大型トラックを見て腰を抜かしていた。まるでドラゴンでも見るような驚き方だ。
やはり、大きな車はこの世界では珍しいんだな。
腰を抜かした二人を何とか立たせ、運転席まで登らせる。
「な! なんだいこのキッチンは!! 冷蔵庫もすごい!!! 食材がいっぱい!! というか、貴族様のお屋敷みたいじゃないか!!」
こんな小さな屋敷があるか。
それに人の家の冷蔵庫を勝手に開けないでほしい。さらに言うと、反応がジェーンと同じなんだが。業務用の巨大冷蔵庫はそんなにすごいのか?
「このふわふわのベッド。すごい。寝たい」
ヒバリはふわふわのベッドにウットリ。腰を下ろして柔らかさを確かめている。
「だ! ダメだ! そのベッドは私のだ!」
「ええ!? ジェーンさんここに住んでいるんですか!? ずるいです!!」
「だ、ダメだぞ! これは私んだ!!」
なんだジェーン。「私んだ」ってのは。俺はお前のトラックになっちまったのか?
「使うならそっちの二階のベッドを使え!」
ジェーンは運転席の上にある簡易ベッドを指さした。小さな階段を上った所にある寝台だ。
「上にも寝る場所があるの? すごい、秘密基地みたい」
年の若いヒバリは冒険心があるのだろう。目をキラキラさせてトラックの中を探検している。しかも確認もせずに、あちこち引出を開けたりしている。どこかの勇者がやる行動だ。そのうち壺を割って中身を確認するんじゃないだろうな? 薬草なんて入ってないからな?
「二人とも! 遊びに来たんじゃないぞ! エルがどういう存在か説明しに来たんだ! ちゃんと話を聞け!」
ジェーンが怒鳴りつけ、備え付けの椅子とテーブルに着席させる。
それから二人をトラックにあれこれ説明する。これまでのいきさつと、魔石をどうやって得たかを。
彼女らは驚愕の表情をしつつも、どこかウソだろうと思っているみたいだ。
そうだよな。
俺がトラックだもんな。日本語おかしいよな。
俺、トラック。
どう聞いてもおかしいよ。疑う。精霊とかの概念があっても、信じられないよ。
でも、俺が人体生成を解除し、光になったら半分信じてくれた。スピーカーから話しかければ、嫌でも信じざるを得ないだろう。この世界にはない技術みたいだしな。
完全には信じてくれていないが、俺は二人に言った。
「二人はシートベルトを締めて。俺が魔物を倒すから。今から魔石を取ったやり方を見せる」
ジェーンがシートベルトの締め方を二人に教える。
レーダー(中)で探知したら、近くに巨大なトカゲがいることが分かった。ナビが言うには、サンドドレイクという、竜種らしい。初めて聞く名前だが、今の俺には関係ない。チェーンマシンガンで蜂の巣にしてくれる。
俺はトラックをゆっくりと走らせる。少し開けた土地に、馬のような魔物を食っている、サンドドレイクが見えてきた。
見ると、かなりデカい。砂の鎧をまとった、馬鹿でかいトカゲだ。大きさ的に、ミニバンくらいあるぞ。
俺はゆっくりと近づく。明らかにサンドドレイクは気づいているが、俺を無視している。倒されないとでも思っているのか。
俺は完璧な位置に着く。遮蔽物がなく、風向きも追い風。チェーンマシンガンの射程距離だ。
狙いを定め、「すまんが俺の糧になってくれ」と言って、魔力弾を掃射した。
サンドドレイクは意外と硬く、何発か魔力弾を「チュイン」と弾いたが、圧倒的な面攻撃の前にすぐに死んだ。
チェーンマシンガンの連射で、土煙がもうもうと上がっている。
俺の大火力の前に、イリスとヒバリは絶句していた。
「どうだ。すごい威力だろう」
運転席に座っているジェーンは、そんな二人に対して、自分のことのように偉そうだ。
『レベルが上がりました。レベルが58に上がりました』
かなりレベルが上がった。なんと、サンドドレイクはかなりの強敵だったらしい。一気に8ものレベルが上がった。
「ジェーン、あの魔物にフックを取り付けてきて」
「わかった」
ジェーンはウインチのフックを持って走っていく。
『レベルアップによる、新しい改造があります』
お? なんだ?
いいのを頼むぞ?
『荷台の空間領域を拡張できるようになりました』
おお!! ついに来たか! 居住区の拡大じゃないが、荷台の拡張は欲しかった改造だ!!
「そうだ。改造するのはいいが、トラックの大きさはどうなる?」
『変わりません。荷台の空間のみを広げます。ただし、荷台のウイング展開機能はなくなります。空間を保持するので、大きく荷台を開くことはできません』
ナビがなんだか分からないことを言っている。空間がどうのこうのと。
「空間の話は分からない。要は、荷台のウイング展開機能がなくなるのか? 荷物の出し入れはどうする?」
『主が許可したものを自動的に荷台へ転移させます。半径5メートル以内にあるものは、主の意思で荷台へ転移可能です』
え。何? 近くにあるものを転送だって?
荷物を荷台に瞬間移動させるのか? まじか?
「そんなことが可能なのか? 念じただけで荷台に転送できるのか? 使用する魔素は?」
『可能です。一回の荷台への転送で、一律1リットルの消費です』
すげぇなそりゃ。今回の改造はすげぇぞ。ガソリンを食うが、すごい機能だ。
「そうか。他の改造は後回しにするから、まずは荷台の拡張を行ってくれ」
『かしこまりました』
それから、荷台が光り輝く。いつもの謎の技術が使われたらしい。
『完了しました』
「おう。ありがとう」
俺とナビはそんなやり取りをしているが、イリスとヒバリは未だ絶句したまま。
そんなに珍しいのか? この世界の技術水準はそんなに低くなさそうだが。飛空艇とかあるくらいだし、機械騎士もすごい技術だ。ナビとかの、人工知能は珍しいのだろうか?
俺がナビとやり取りをしていると、満面の笑顔でジェーンが走ってくるのが見えた。かなり良質な素材を剥ぎ取れるんだろう。
「ウインチは引っかけたぞ! 引っ張ってくれ!!」
と、ジェーンが言ってきたが、すでに荷台の拡張改造をしたあとだ。いつのまにかウインチが外に設置され、荷台のウイングが閉じてしまった。
仕方ない。近くまで引っ張った後で、新技の「荷台への転送魔法」を使ってみるか!
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。
「あれ?なんか身体が軽いな」
その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。
これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
楽しく読ませていただきました。いつか気が向いたら更新してもらえたら嬉しいです。
面白い設定ですね!トラックが主人公の話は初めてなので凄く新鮮です!続きが気になります。更新楽しみに待ってます!
1話の
180℃とか360℃
の℃は温度の単位ですね。
角度は°です。
発想が面白いので、更新楽しみにしてます。
ご指摘ありがとうございます! あとで直しておきます!