この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~

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第一章 伝説の水魔法使い

54 オアシスはここにある

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「クー。やっぱり俺たちと来るのか?」 

「まだ、仲間がどこかでつかまっているかもしれない。ここで旅は止められない」

「でも、あいつら(オーガの子供たち)を教会に残したままでいいのか? お前は族長の娘なんだろ?」

「ここの司祭が運営する教会なら、きっとオーガも悪く扱われない。大丈夫だ」

「そうか。ならこれ以上言わない」

「あぁ」

 俺は水で満ちていく王都を眺め、クーからの決意表明を聞いた。

「よし。あいつらにはもう話しているし、さっさとここを出るぞ!」

「ああ!」


★★★


 俺はポニーのオルフェに跨ると、リザとライドに準備が出来た事を伝える。リザ達はすでに牛を牛車につないでいた。今回の牛車は幌ではなく、きちんとした木の屋根がある豪華な牛車だ。金で新しい牛車に変えてやった。

 牛は六頭いて、大型の牛車である。

 牛は足が遅いと思われるが、それは間違いだ。この異世界の牛はアメリカバイソンのような体つきで、本来はとても強い種だ。水が無く餌もあまりないので、やせ細っているに過ぎない。しかも牛車には魔導エンジンが取り付けられていて、牛たちが走るのをアシストしてくれる。そこらへんの馬車よりもずっと早い。

 俺の計画は穴だらけだが、一応考えて行動している。……つもりだ。

 必要な物資はすでに積み込んである。俺たちは司祭たちに挨拶して、教会を出発した。

 俺を慕ってくれていたプルウィアはどうするか悩んだが、連れて行けない。彼女は普通の子供だ。いくら俺を勇者様と慕ってくれても、今は無理だ。俺が大人になったら迎えにこよう。そう、彼女に伝えようとしたが、プルウィアは俺と会ってくれず、別れの挨拶は出来なかった。俺に連れて行ってほしかったのだろう。

 残念だが、ウジウジ悩んでもいられない。王都が水であふれている今がチャンスだ。市民たちはお祭りのように騒ぎ立てていて、井戸から出た水を汲もうと必死になっている。逆に水を高額で売りつけていた水屋たちは、絶望の表情をしていた。

 俺たちは街が混乱しているのに乗じて、牛車を走らせる。俺はオルフェに乗って、先頭を走って牛たちを誘導する。

 ロイドや神殿騎士が津波で流されていったが、行方は分からない。奴が生きているなら必ず追ってくる。早めにこの国を出なければならない。

 そして俺たちは王都の門前に到着。湖にかかる橋が見えた。門前には王都の騎士たちが横一列に並んでおり、市民たちと押し合いへし合いをしていた。なぜこんな状況になっていたのかというと、市民が聖水となった湖に殺到していたからだ。

 この世界には水が無い。泳いだことすらない人間が水に飛び込めば、確実に溺死する。だから騎士たちが湖に近づくのを制限していた。

 門前はものすごい人だかりで、俺たちにとっては好都合。この波に乗じて、逃げる。

 市民をかき分けて進むのは大変そうだが、橋の向こうは人がいない。そこまでいければ逃げるのは容易い。

 …………と、そう思ったが。

 やはりルドミリア教会は出張ってきた。こんな人ごみだというのに、気にせず魔法を発動し、俺たちが来るのを待っていた。

「やぁネズミさん。どこへ行くのですか?」

 神殿騎士の姿は無い。ロイド一人だけが、俺たちの進行方向に現れた。

「よくもやってくれましたね。私が何年もかけてこの国の水を汚してきたのに、あなたはたった一日で綺麗に浄化した。さすがにこれは無視できない損害ですよ」

 ロイドの着ている法衣はボロボロで、頭から血を流している。息も切らせているし、大怪我をしているようだが、それでも奴は強い。今の俺たちではかなわない。

 このまま牛車でひき殺してやりたいところだが、奴は水の槍を宙に浮かべて、ニヤリと笑う。

「ルドミリア教会に属さない水魔法使いなど、害悪でしかない。ここで死んでもらいますよ」

 まずい。俺の魔力は残り少ない。市民もたくさんいるし、ここで戦えば死者が大勢でる。ロイドはこの国の市民をなんとも思っていないのか? ここで戦えば奴の立場も無くなるぞ?

「アオ君。私が奴の気を引く。一応、手りゅう弾をいくつか持ってきている。こうなれば、私が命を捨ててなんとかする」

「私も加勢しよう」

 なんと、リザとクーが捨て身の特攻をすると言い出した。絶対そんなことはさせたくない。

「ライド、何か策は無いか?」

「アオがさっき使った魔法は使えないのか?」

「無理だ。あれは偶然発動したものだ。もう一度水魔石をぶつけても発動しないだろう」

「なら、俺とリザが奴に突っ込むしかないぞ」

 まずい。まずすぎる。これ以上喋っている時間も無い。ロイドが不気味な笑みを浮かべて、俺たちに近づいてくる。

 くそ。とんでもない展開の連続で、頭が痛くなる。どうして奴はここが分かった。わざわざ教会とは反対方向の東門に来たんだぞ。どうしてだ。

 パニックになりつつも、俺は残り少ない魔力を掌に集中させた。もはや、どうにでもなれと言う感じだ。

 何度自分の命をあきらめたか分からないが、またしても奇跡は起こる。

 俺の強運は、女神様の加護があるってくらい、最強だ。

 その、起こった奇跡というのは、とある知り合いが現れたことだった。

「やぁやぁアオ様。なにやらお困りのご様子。このヌアザ。アオ様の為なら命をも捨てる覚悟でやってきましたぞ」

 ロイドの背後、橋の向こうから、市民をかき分けてダーナの聖騎士たちが現れた。その数は三百人強。しかもその聖騎士を率いているのは、カイトの街にいた、廃教会の神父。ヌアザだ。

「アオ様のおかげで、私も司祭になりました。これからは戦闘司祭として、アオ様をバックアップしましょう」

 戦闘司祭? なんだそりゃ? 

 俺は呆気にとられていたが、助かった。

「全員、あの男に向けて対物ライフルを発射。アオ様には絶対に当てるな」 

 ダーナの聖騎士は全員、蒼い鎧を身に包み、巨大なライフルを持っている。その巨大なライフルの銃口をロイドに向けると、ためらうことなく掃射した。

 弾丸は、ロイドのシールドをごっそりと抉った。

「ふ、ふざけるな!! どうしてあなたたちがここにいるんです! 聖騎士がくるなど聞いていない!!」

 ロイドは水の障壁を張って弾丸を防ぐが、対物ライフルの威力は並ではない。少しずつロイドの分厚いシールドが剥がれていく。

「くぅぅううう!!」

 ロイドが必死に障壁を展開している中、ヌアザは言った。

「行ってくださいアオ様。ここは私たちが引き受けます」

「ヌアザ? いいのか?」

「あなたは世界に必要な方だ。いち教会が、拘束できるお方ではない。さぁ、行ってください」

 ヌアザは列を成している聖騎士たちに命じると、市民たちを押しのけて道を作ってくれた。まるでモーセが海を割ったように、市民たちを押しのけたのだ。

 俺たちはロイドと聖騎士が戦っているのを横目に、牛車を走らせる。ロイドは横を通り過ぎる俺たちを鬼の形相で睨んでいたが、ざまぁみろと鼻で笑ってやった。

「ヌアザ。王都の教会に捕まっていた子供たちがいる。助けてやってくれ」

「子供たち? まさかアオ様。子供達まで助けて下さったのですか? ははは。さすが神の御使い様だ。仕事が早い」

 ヌアザは俺を見ると頭を下げていたが、リザを見るとこう言った。

「どうやら、リザのオアシスは見つかったようだね」

「えぇ。最高のオアシスです」

 リザは言って、ヌアザに頭を下げる。ライドやクーは牛車の中に隠れてやり過ごしていたが、ヌアザは彼らにも頭を下げていた。

「じゃぁ、行ってくるよヌアザ」

「えぇ。お気をつけて」

 俺たちは聖騎士たちが作った道を通り、まるで王のように送り出された。

 ロイドが戦っている姿が後方で見えたが、奴が倒されるのは時間の問題だろう。あとは任せよう。

 俺はヌアザに手を振り、王都を後にした。

 一瞬振り返ったが、王都の湖は聖水が浄化され、蒼く輝いていた。


★★★


「アオ君。私の国へ行くんだろ?」

「そうだな。今のところ行く当てもないしな。金はたくさん稼いだが、使うところがなければ宝の持ち腐れだからな」

「分かった。なら、一緒に来てくれ。私の国へ」

 リザはそう言って、急に俺を抱きしめた。頭の匂いをクンクン嗅いで、後ろから抱き着いてきたのだ。意味が分からなかったが、あれだけ戦った後だ。抱きついてきてもおかしくはないか。

 リザは俺の頭をクンカクンカと嗅いでいると、突然牛車の麻袋から子供が飛び出した。

「アオ様は私の勇者様です! 勝手に触らないでください!!」

 腰に手を当てて、でーんと、ふんぞり返っている女の子がいた。

「え!? なに!? プルウィア!? どうしてここに!?」

「あたしはアオ様に付いていくと決めました! 死ぬまで一緒にお供します!」

 そうか。教会を出る時、プルウィアの姿を見なかったが、彼女は牛車に隠れていたのか。国を出るのを見計らって、隠れていた麻袋から出てきたのだ。

 俺は牛車の小窓を開けて外を見るが、完全に荒野。ユーカリが生えていた王都の道とは、まったく違う方向に来ている。

 しまったなぁ。いまさら王都には戻れないぞ。まわりはサボテンとか生えている荒野だしな。

「何でもします! アオ様の身の回りの世話から、下の世話まで、なんでもします! どうか連れて行ってください!」

 プルウィアは牛車の中でジャンピング土下座。頭を床にこすり付けて懇願している。

 ライドは急に現れたプルウィアに嫌そうな顔をしていたが、クーは構わないと言ってくれた。リザに関しては猛反対で、捨てて行こうとまで言ってくる。

「おいおい。こんな荒野で捨てて行ったら、プルウィアが死ぬだろう。冗談でもそんなこと言うなよ」

「ぐぬぬぬぬ。しかしアオ君。連れて行くと言ってもまだこの子は子供だろう。どうする気だ」 

「いや、俺も子供だろう。プルウィアなら料理も出来るし、洗濯もできる。魔物にさえ気を付ければ、大丈夫じゃないか?」

 俺の癒し要員として、プルウィアは必要だ。ここまで来たら一蓮托生。新しい仲間として一緒に行くぞ!

「よし! プルウィア! 一緒に行くぞ! ちなみに、お風呂に入る時は俺と一緒だからな!」

「はい!!」

 プルウィアは俺に抱き着いて、元気よく返事をしてくれた。どさくさに紛れて一緒にお風呂へ入ることを強要したが、上手くいった。案外言ってみるもんだ。
 
 リザはプルウィアを終始睨んでいたが、子供に嫉妬するとは、大人げない女だ。

 そんなライドは俺たちを見て、「やれやれ」と言っていた。

「さーて。この先の旅はどうなるかな?」

 目指すは砂漠化しているリザの国。これからはさらなる困難が待ち受けると思うが、それもまた一興。

 俺はポニーのオルフェを撫でると、これから先の旅に胸を躍らせた。 





第一章完結

 
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