マリア様の奴隷

無名

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1 宝箱に入っていたのは

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 俺は今、目の前にある生首を見て、頭を悩ませていた。

 テーブルの上に、置物のようにある、生首。この処分について、どうするか悩んでいた。

「うあぁぁあ。どうしようどうしよう。この女の生首、どうしよう」

 俺は自宅の部屋で、ガラステーブルに鎮座する生首を見て、不思議な踊りを踊っていた。




 そう。事の起こりは半年前。




 決死の末、迷宮から持ち帰った豪華な宝箱。

 見事な装飾が施された宝箱で、古代の魔法封印が施してあった、すごい物だ。きっと金銀財宝が入っているに違いない。俺は迷宮を管理するギルドには内緒で、その宝箱を自宅に持ち帰った。

 宝箱にはカギがかかっている。特殊な魔法封印鍵が施され、並みの盗賊では開けることは不可能だ。もちろん俺は並みの盗賊ではないので、何か月もかけてその封印を一つ一つ解き、宝箱を開けることに成功する。

 宝箱の中身は、一生遊んで暮らせる金。もしくは神の力が宿った神具を期待した。……が、入っていたのは生首。

 ものすごく美しい顔をした、女の生首であった。それ以外、何も入っていない。

 完璧な、外れ宝箱だった。

 その生首を見たとき、一瞬、呪いの人形かと思ったほどだ。だが、少し調べてみると、違う。本物の、ヒトの頭部だ。なぜ腐っていないのか不明だが、人形の頭ではなく、ヒトの頭部だった。

 俺は、その生首を見て、へこむ。

 迷宮の最奥から、命を賭けて取ってきた宝箱。

 言葉で言うのは簡単に感じるかもしれないが、これは命がけだった。魔物に襲われて何度も死にそうになったし、迷宮に仕掛けられた罠で、右腕も失った。ドラゴンの炎や悪魔の魔法をかいくぐり、ようやく手に入れた、最高の宝箱だったのだ。

 それが、こんな生首一つだけとは、悲しくなる。

「しかし、この生首、どうにかならんか」

 俺は自分の部屋をグルグル回って考えた。

 どこかの死体愛好家に売れないだろうか? 絶世の美女と言うくらいに美しい生首だ。髪も金髪で肌は真っ白。気乗りしなかったが、触ってみたら肌がモチモチしていた。

 これは、変態貴族に売れそうではある。

 次に、生首の耳には宝石が付いたピアスをしていた。見たことも無い、黒い宝石が付いたピアスだ。これも高級そうだ。売れば金になるだろう。
 
 頭にかんざしのような髪飾りもしている。金色なので、メッキでなければ純金だ。これも高価なはずだ。

「うむ。これしかない。ピアスやかんざしを取ったのち、闇のオークションに出して売り払おう」

 俺はそう考えた。失った右腕を治さなければならないので、どうにか金を作りたい。

「まずはこの女の頭からかんざしを取ろう」

 俺はそう思って手を伸ばした。あまり触りたくないが、生首の頭からかんざしを取ろうとした。

 その時、目が開いた。生首の目が、がっつりと開いた。

 すごく大きな目で、宝石のように赤い瞳をしていた。

「なっ! なに!!」

 開いた瞳は、ギョロリと動き、俺を見る。この生首、動くぞ。生きているかどうか不明だが、とにかく動いてる。
 
 俺は絶句して一瞬思考停止。どうするか考える間もなく、『生首』は言った。

「ここはどこじゃ? わらわの部屋ではないようじゃが」  

 喋った。生首が喋った。

 俺は、長年の迷宮ハンターとしての経験から、喋る生首がなんなのか考えた。そして導き出した答えが。

「ア、アンデッドか!?」

 首だけで動くのは、アンデッドくらいしかない。それもこんなに綺麗な状態で喋ることが出来るなら、間違いなく高位のアンデッドだ。低級のゾンビなどではない。

「いかにも。妾は魔王の一角、アンデッドの女王なり。貴様は誰じゃ? ここはどこなのだ? く答えよ」

 テーブルに置かれた生首は、尊大な声で喋る。すごく偉そうだが、聴いているだけで魅了されそうな、美しい声をしている。

「ばっ、馬鹿な! なぜ宝箱にアンデッドが! しかも女王だと! ふざけるな!」

 完全に失敗だ。

 街中に、しかも自分の家にアンデッドを連れ込んでしまった。今すぐ始末しないと、大変なことになる。聖騎士などに見つかれば、斬首だけでは済まないぞ。一番きつい、火あぶりの刑だ。 

 俺は腰に装備していたナイフを手に取り、生首に襲い掛かるが、一言で片づけられた。

「ひれ伏せ」

「ぐわッ!!」

 魔力の乗った言霊なのか、一言で俺の体は動かなくなり、床に突っ伏した。魔法抵抗力は決して弱くない俺が、一瞬でやられた。

「貴様が誰なのかは、あとで聞くとしよう。まずはここがどこなのか答えよ」

「うぐぐ。まさかこの俺が、たった一発で……」

「答えんか」

「うああああ!!」

 床に突っ伏したままの俺に、さらなる重圧がかかる。このままでは魔力波だけでぺしゃんこに潰されてしまう。首だけなのに、とんでもない魔力をしている。まさかアンデッドの王と言うのは、本当なのか? 俺は、最悪の宝箱を開けてしまったのか?

「もう一度言うぞ。ここはどこじゃ」  

「くっ。ここはヴァース帝国にある都市の一つ、ラングの街だ」

 俺は息も絶え絶えに、ヴァース帝国と言った。すると生首は驚いた顔をして、急に笑い出した。

「ヴァースじゃと? ここが? まさかあの小僧。ついにやりおったのか!! ハハハハハ!!!」

 俺は意味が分からない。生首だけで高笑いされると、本当に気持ち悪い。いかに美しい顔をしていても、アンデッドはアンデッドだ。

 どうにかこの重圧から逃れられないか考えていると、奴はとんでもないことを言った。

「よし。この世に復活した記念じゃ。見たところ貴様はなかなか良い男じゃし、奴隷とする。妾に命と魂を、未来永劫みらいえいごう捧げよ」

「…………は?」

 俺は奴が言っていることを理解できず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「これから貴様は、妾の奴隷じゃ。良く仕えれば、望みの報酬を与えよう」

 俺は床に突っ伏したままになっていると、腕に鋭い痛みが走った。見たことも無い烙印が刻まれていた。あとで分かったが、これは死んでも奴隷になって仕える、永劫奴隷紋だった。

 俺は、この日、生首の奴隷になった。

  


 
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