夢の中で生きる

首吊りうさぎ。

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花園の影

## 第一章 表と裏

桜ヶ丘女学院の制服に身を包んだ生徒たちが、優雅に校門をくぐっていく。白いブラウスに紺色のプリーツスカート、そして胸元に輝く校章。彼女たちの足音は石畳の上で軽やかに響き、朝の陽光に包まれた校舎は、まさに令嬢たちの楽園のようだった。

「おはようございます、美咲さん」
「おはようございます、由香さゆ」

丁寧な挨拶が交わされる中、隣の敷地から聞こえてくるのは全く異なる声だった。

「おい、遅刻すんじゃねぇぞ!」
「昨日のケンカの続きやるか?」

桜ヶ丘女学院の隣に建つのは、悪名高い「黒竜高校」。リーゼントヘアにズボンの裾を絞った学ラン姿の生徒たちが、バイクのエンジン音と共に校門に集まってくる。

二つの学校は高い塀で仕切られているが、その対照的な雰囲気は誰の目にも明らかだった。お嬢様学校とヤンキー学校。水と油のような存在として、地域の人々に認知されていた。

しかし、真実は誰も知らない。

## 第二章 秘密の使命

黒竜高校の生徒会室──といっても、煙草の匂いが染み付いた薄暗い部屋で、総長の風間竜也が椅子に深く腰掛けていた。

「また北斗学園のやつらが動き出したらしいな」

副総長の田中が報告書を置く。北斗学園──市内でも最も荒れた男子校として知られ、他校への嫌がらせや暴力沙汰で問題になっている学校だった。

「あいつら、今度は桜ヶ丘の生徒を狙ってるって話だ。可愛い子が多いから、文化祭に乗り込んで騒ぎを起こすつもりらしい」

竜也の表情が険しくなる。彼らには誰にも言えない使命があった。

十年前、桜ヶ丘女学院の理事長から黒竜高校の前総長に密かに依頼があった。「娘たちを守ってほしい」と。

当時、名門女学院を狙う不良グループによる事件が多発していた。美しく上品な令嬢たちは、まさに格好の標的だったのだ。しかし、警察に頼んでも限界がある。そこで理事長が考えたのは、「毒をもって毒を制す」作戦だった。

黒竜高校の生徒たちを隣に配置し、他の不良たちを近づけさせない。表向きは対立しているように見せかけながら、実際には桜ヶ丘女学院の影の守護者として機能させる──それが秘密の契約だった。

「分かった。今回も俺たちが動く」

竜也は立ち上がった。彼の背中には誰にも見せたことのない優しさが宿っていた。

## 第三章 見えない戦い

文化祭当日、桜ヶ丘女学院は華やかな装いに包まれていた。手作りのケーキやアクセサリー、上品な演劇やコンサート。訪れた人々は、令嬢たちの洗練された文化に魅了されていた。

一方、黒竜高校では──

「よし、配置につけ」

竜也の指示で、生徒たちが学校周辺に散らばっていく。彼らは制服を着ているが、実際にはプロの警備員顔負けの連携で女学院を監視していた。

午後2時、予想通り北斗学園の不良たちがやってきた。

「おい、桜ヶ丘の文化祭見に行こうぜ。可愛い子たちと仲良くなれるかもな」

彼らが女学院の門に向かおうとした時、黒竜高校の生徒たちが現れた。

「おっと、どこ行くんだ?」

風間竜也を先頭に、黒竜高校の主力メンバーが立ちはだかる。

「邪魔すんじゃねぇよ、黒竜の連中」
「ここは俺たちの縄張りだ。勝手に通すわけにはいかねぇな」

小競り合いが始まりそうになった時、桜ヶ丘女学院の生徒会長、白石美咲が現れた。

「あの、何か問題でも?」

美咲の清楚な姿を見て、北斗学園の不良たちは一瞬動きを止めた。しかし、竜也は彼女に向かって言った。

「関係ねぇよ、お嬢ちゃん。さっさと中に戻ってな」

表面上は冷たい態度だったが、その目には「危険だから下がっていろ」という意味が込められていた。

## 第四章 隠された想い

結局、北斗学園の不良たちは黒竜高校の生徒たちに追い払われた。しかし、美咲には疑問が残った。

なぜ黒竜高校の生徒たちは、いつも彼女たちの文化祭や学校行事の日に限って、門の前で騒ぎを起こすのだろうか。そして、なぜか他校の不良たちが来なくなるのだろうか。

ある日、美咲は偶然、塀の隙間から黒竜高校の中を覗いてしまった。そこで見たのは、風間竜也が怪我をした子猫に優しく餌をやっている姿だった。

「あの人も、優しい心を持っているのね…」

その時、竜也が振り返った。目が合ってしまう二人。

「見られちまったな」

竜也は苦笑いを浮かべた。美咲は慌てて逃げ出そうとしたが、足を滑らせて転んでしまう。

「大丈夫か?」

竜也は塀を乗り越え、美咲の手を取って起こした。その手は意外にも温かく、優しかった。

「あ、ありがとうございます…」

「傷はないか?スカート汚れちまったな」

竜也は自分のハンカチを取り出し、美咲のスカートについた土を払ってくれた。

「どうして…どうして私たちに優しくしてくれるんですか?」

美咲の問いに、竜也は少し困ったような表情を見せた。

「別に優しくなんかしてねぇよ。ただ…」

彼は空を見上げた。

「俺たちみたいな連中だって、守りたいものがあるんだ」

## 第五章 真実の告白

文化祭から一週間後、桜ヶ丘女学院に事件が起きた。校内に侵入した不審者が生徒たちを脅したのだ。警察が到着する前に、黒竜高校の生徒たちが駆けつけ、不審者を取り押さえた。

この事件をきっかけに、美咲は確信した。黒竜高校は彼女たちを守ってくれている。

放課後、美咲は勇気を出して黒竜高校を訪れた。

「風間さん、お話があります」

竜也は驚いたが、美咲を生徒会室に案内した。

「あなたたちは、私たちを守ってくれているんですね」

竜也は観念したように頭を掻いた。

「バレちまったか。まぁ、隠し通せるとは思ってなかったけどな」

「どうして?私たちはあなたたちと対立しているように見せかけて…」

「理事長との約束だ。十年前、他校の不良に狙われる女学院を守るために、俺たちの前の総長が契約した」

竜也は窓の外を見ながら続けた。

「表向きは仲悪くしてるけど、実際は俺たちが盾になってる。他の連中も、黒竜と桜ヶ丘が対立してるって思ってるから、女学院に近づかない」

「そんな…私たちは何も知らずに…」

美咲の目に涙が浮かんだ。

「泣くなよ。俺たちは別に嫌々やってるわけじゃない」

竜也は美咲に背中を向けた。

「お前たちが笑顔で学校生活を送ってるのを見てると、悪くない気分になるんだ」

## 終章 新しい関係

それから、二つの学校の関係は少しずつ変わっていった。

表向きは相変わらず対立しているように見えるが、実際には密かな協力関係が築かれていた。桜ヶ丘女学院の生徒たちは、黒竜高校の生徒たちが自分たちを守ってくれていることを知り、感謝の気持ちを抱くようになった。

ある日、美咲は手作りのクッキーを竜也に渡した。

「お礼の気持ちです」

「俺たちヤンキーが、お嬢様の手作りクッキーなんて食えるかよ」

そう言いながらも、竜也は嬉しそうだった。

「でも、ありがたくもらっとく」

二人の間に、新しい理解が生まれていた。

黒竜高校の生徒たちは今日も桜ヶ丘女学院の影の守護者として、令嬢たちの笑顔を守り続けている。誰にも知られることなく、しかし確かな絆で結ばれて。

桜の花びらが舞い散る春の日、二つの学校の間には見えない橋が架かっていた。それは信頼と感謝、そして少しの恋心で織られた、特別な絆だった。

*~完~*
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