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〚第五章〛〜不幸な少女の”日常”編〜

〚156話〛「気まぐれの慈悲」

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 もうすっかり大人になった妹を抱き締めながら頭を優しく撫でた。
 
 ナナの姿は最期のままの姿だけど、お姉ちゃんとしてちゃんと迎えに来れた。僕はお母さんに言った約束を果たす為、妹を連れて帰ろうと、
 
 「………ぁ…」
 
 妹から一旦離れると、両腕についた鎖を魔導ミスリルで形作ったナイフで切った。
 そして妹を抱き上げようとするが、身長的に無理なので。
 
 「家に帰ったらナナになるから、少しの間だけ戻るね」
 
 そう言うとヴェレナの姿に戻った。
 
 そういえば、と横に居る死にかけの女に目をやる。気が付かなかったがいつの間にかこちらを向いて、何か口を動かしていた。
 
 こ…ろ…し…て。
 
 僕が何かしなくてももう何時間かで死ぬ………。あの男のせいで死ぬのと僕が殺すの…そう変わりはないが…。
 
 「覚えてる…?」
 
 そう言いながらあの頃の姿になっていた。
 
 「…………」
 
 喋れないのか、口を僅かに動かしながら頷いていた。空いた口からは切り取られた舌が見えていた。
 
 「…これは、紅葉とリーネに会えて気分がいいから…ただの気まぐれ」
 
 僕は、名前も知らない女の首目掛けて。
 
 
 
 
 
 
 一閃した。
 
 
 
 
 
 「…帰るか」
 
 僕はヴェレナの姿に戻ると、リーネをおぶってその部屋を後にした。
 
 「凄いね…シアル…いろんな姿になれるんだ」
 
 「全部元自分の姿だけどな」
 
 「へぇ…」
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