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1.woman 再会
しおりを挟む初めて彼に名前を呼ばれた時、人生で1番の幸せだった。
彼に改めて名字を呼ばれた時、人生で1番の虚無だった。
彼とは高校生になった時に出会った。高2の初めに付き合って高3の夏に振られた。その夏から約4年、私は大学4年の春を迎えていた。ごくたまに彼のことを思い出すことはあるけど、さすがにもうあの耳が痺れるような熱い感覚はついてこない。きっともうどうでも良いんだと思えていた。うまくはいかなかったけど、大学に入ってから違う男の子とも1人付き合ってみたらそこそこ普通の生活ができたし。それも今は別れたから何とも言えないけど、でも確かに高校の時の彼が私を苦しめるようなことはもう無くなっている。
なのになぜか、今日、就活で偶然に同じ会場で彼を見かけてしまった時、私は思考が停止した。どうしてだろうか、耳は熱くて指先は冷たくて血管の収縮が怖いほどはっきり感じられる。見かけたのが面接後で良かった。とりあえずトイレに避難。リップを塗り直しながら、色々と頭を落ち着けようと考えている。大丈夫、もう好きではない。それに会っても仲良く話すようなことにはならない。彼の中で私は何でもないはず。というより、何にもなれなくて今こうなのだから。何でこんなに泣きたい切ない気持ちが溢れてくるの。本当は、今から明後日の他社の面接分の準備しないといけないのに。今日はもうさっさと帰って寝よう。
トイレを出てエントランスに向かい始めた私は、急に肩を叩かれて振り向いた。避けたかった彼自身が私の肩を叩いてきたようだった。
「久しぶり、、。その、まぁ見かけたから声ぐらいかけようかなって。就活どんな感じ?」
とても気まずそうだったけど、彼はどうにか言葉を繋いで話しかけてきた。変わらない。とりあえず話しかけてくるこの感じ。この人はいつも、会話することでこっちの気持ちを探しに来る。それで落ち込んでいれば完璧なほどに話を聞いてくれるし、元気ならちょっと遊び行こうよなんて気軽な展開をする。良い奴なんだ。とても。男の子で一度も押し付けがましいと思わなかったのは、この人だけだった。そんな他人軸でできてる彼の価値観がどうしようもなく好きだった。当時、きっとこの人は私を裏切らないと信じてしまっていた。だから高3の時にあんな風に切り捨てられた身としては、久しぶりだからと自然に話しかけられるのは少し嫌だった。あの後の私の気持ちすらも、この人は見事に想像して理解しているはずだと思っていた自分が虚しい。どうして、どうしてこんなに普通に私に話しかけてこられるのよ。
「就活の情報共有とか嫌よ。たまたま会ったからって4年も話してなかった人に親切にする理由ないでしょ。」
女は怖い。ただ冷たくするくらいのことならデフォルトで無感情でこなせるようになる。20歳くらいから突然に。そのスキルも格段に上手くなっていくと思う。
ツンとした回答だけ残して、私は振り向かずに帰った。まぁ振り向いてしまえばきっともう、私のペースなんてものは無くなるから。正直に言えば彼の最近を知りたい、4年間私は1度も登場しなかったのか知りたい。もう恋愛感情ではないと思う。でも、何で振られたのか。振って何も思わなかったのか。後悔の1回くらいしたのか。どうしても知りたいと女としての意地が燻っているのが分かる。
この会社は、今日が二次面接だから私も彼も受かっていたならきっとまた会うことになる。だから今日は気持ちを抑えて一旦帰るのが賢明だ。
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