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第三部 王都の社交
93.晩餐会の客人達
目を閉じた女神の髪は円形の天井の縁に沿って流れ、その元に美男美女の精霊が従っている。
冬の女神の瞳が閉じられているのは、死の淵に近い再生のための眠りと閉じ込め。
そして両性具有の地の精霊は、叡智を司どる精霊として魔術師には特別視されている。
応接間の天井画へと向けていた視線を、垂れ下がる銀髪に隠れた端正な横顔へと移す。
葡萄のような暗紫色に極細の青い縞の入った艶のある絹地に、銀糸を使った白蝶貝や水晶のビーズ刺繍に飾られた上着の夜の装い。
そんな彼が出迎えも兼ねた食前酒を勧めるのは、灰色がかった燻んだ薄薔薇色に金の縁取りをした上着に中着と脚衣の三揃え、服の色に馴染むような薔薇色がかった淡い褐色の髪を撫でつけた坊っちゃまことモンフォール伯の三男、ベルトラン・ド・モンフォール。
そういえば……大人になって、こんな装いの坊っちゃまを見るのは初めてかも。
鍛えているだけに体格はいい、顔も……見ようによっては、凛々しいといえるかも?
黙っていればだけれど。
中身は短期で血の気が多くて思い込みの激しい、子供の頃とあまり変わらない……。
椅子に掛けてそんなことを考えていたら、不意にこちらを流し見て細まった、坊っちゃまの深い森のような濃い緑色の瞳と目が合って、反射的に眉を顰めてしまう。
「モンフォール殿」
わたしの正面に掛けているソフィー様が、明るい橙色のドレスの袖を揺らし、閉じたレースの扇をぱしりと彼女自身の掌を軽く打って、挨拶だけは一通り済んでいる坊っちゃまに声をかけた。
「お身内の事では、貴方の高潔なご協力あってと耳にしております。こうしてお会いしてみれば、お噂通り、お人の良さのわかる方ですね」
「……ソフィー様」
にこにこと人好きのする微笑みのソフィー様だったけれど、その言葉はまったく彼を相手にする人物として認めていらっしゃらない。
たしかに彼は大領地の伯爵家の息子といっても三男。家督は継がない。貴族の息子だけれど厳密には平民だ。財産分与はいくらかあったみたいだけれどそれすら放棄している。
ソフィー様から見れば、完全に平民の下っ端武官。
わたしを介しても彼の名前を呼ぶ気もなく“モンフォールさん”位の扱いで、おまけに人の良さなんて……取り立てて魅力も興味もないと仰っているも同然だった。
わたしでもわかるくらいなのだから、見ているこちらがひやひやする。
坊っちゃまは、ソフィー様から距離を置いたまま彼女を困惑気味に眺め、どう答えていいか考えあぐねている。
元王族で現法務大臣の妻、おまけに軍部の長官職の妹君と、前触れなしにいきなり引き合わされたのだもの、坊っちゃまの困惑は無理もない。
「マリーベル様とは、幼少の頃から兄と妹のようにお過ごしになられたとか」
「……はあ。あっ、いや……ええ」
「どうぞ楽になさって。ですが弁えてはくださいね。マリーベル様はトゥール家の養女となられる前でもユニ領の領主のお嬢さまですもの。婿になる方に領主の地位を与えられたのですから」
つんと澄ましているソフィー様に、坊っちゃまは困り果てた様子でルイから受け取った硝子杯の中身を呷る。その様子を見て、本当にお人のよろしいこととソフィー様は若干呆れ気味に繰り返して目を細めた。
なにか一言くらい返してくると思っていたのかもしれないけれど、いくら坊っちゃまでもそこまで馬鹿ではないと思う。
気まずい……。
「護衛騎士にはいいのじゃございません?」
「頼みもしないのに審査いただいて、貴女も大概人のいい」
ルイに至っては完全にソフィー様への嫌味だ。
半ば予想はしていたけれど。
思わず同情の眼差しで坊っちゃまの顔を見れば、とても居心地悪そうな表情を浮かべていて嘆息してしまう。
仮にも貴族の息子なんだから、そんなあからさまに表情に出さないでほしい。
ルイやソフィー様が面倒と言っているのも同じだ。
「そ、そろそろお食事にしましょうか」
気を取り直して、わたしが明るくそう彼等を促せば、ルイにまだ揃っていませんと言われて、えっと首を傾げる。
「ジュリアン殿がまだ来ていません」
「父様? あの……聞いていませんけど」
「おや。言っていませんでしたか?」
ええ、まったく。
そもそも、どうして父様なの。
ロザリーには伝わっているはずなので問題ありませんよ、となんでもない調子で言ったルイを睨みつければ、オドレイもわかっているのでこちら側も問題ないはずですとさらに言い添えた。
それも大事だけれど、そういうことじゃない――。
「あら、早耳ですのね」
ソフィー様が少しばかり感心したといった様子で、長椅子の背後に離れて立っているルイを振り仰ぐ。
けれど、彼の意図とソフィー様の言葉は一致しなかったらしい。
なんのことだと言わんばかりにわずかに目を細めるルイに、あら違ってとソフィー様は呟いた。
「貴方のことだからてっきり何処かから聞いたのかと」
「なんの話です? 私はこの彼に関連することで我が家の法務顧問を呼んだまでですよ」
「俺……私のことで、どうしてマリーベルの父親が?」
「……人の妻と舅を気安く呼ばないでもらいたいですね」
「気安い間柄だから仕方ない。私が生まれた時からの付き合いですので、閣下」
王都の広場で決闘騒ぎなんか起こした二人だから、仲は良くないだろうけど。
ルイと坊っちゃまの、子供みたいなやりとりにもうんざりする。
はあっ、とため息を吐けばほぼ同時にぱしんとソフィー様が掌の上で閉じたままの扇を打った。
「殿方のくだらない小競り合いは、結構です。その様子ではご存知ではなさそうね」
「あの……ソフィー様? わたしの実父がなにか?」
「よろこばしいお話ですよ、マリーベル様」
よろこばしい?
ソフィー様がそう仰っても眉を顰めてしまうわたしに彼女は、先日貴女の実のお父様に称号もといった声をあるお話がありましたでしょうと微笑む。
そういえばそんなことをちらりと聞いたような。
「法科院で正式に授与が決まったそうです。“偉大なる署名者”。叙爵も働きかけているとか」
称号!? 叙爵!!
父様に!?
いやいやいや、いくらそれなりに実績を積み上げていたらしいとはいえ、そんな……。
「ほう。ジュリアン殿が正当に評価されるのはたしかに喜ばしいですが、私を差し置いて聞き捨てならない話ですね」
「あら、ルイ様と繋がりがあるからこそ、慎重に進めていたに決まっています……昔から気に入った者には執着しますもの。お兄様が補佐に付けようとしていた方も横から攫って」
「王族から離れることを本人が望んでいましたしね」
それって……もしかして。
――元東部騎士団支部の後方任務士長。書類仕事が早く騎士団支部との折衝役としてルイが統括組織に引き抜き、とても揉めた……かつて熟読したフェリシアンの書類を思い出す。
ムルト様は末端とはいえ王族の庶子。
中級魔術の使い手で宮廷魔術師になれる資格を持つ。
とても揉めたって、まさか……。
「呆れた方が下級の女官に手をつけて生まれた庶子とはいえ、お兄様は才覚ある者を蔑ろにはしませんわ」
「本人が望んでいないのですから仕方ないでしょう。それにとうの昔に片付いた話ですよ」
絶対、ムルト様のことだ。
てっきり東部騎士団支部と揉めたのかと思ったら、もっとひどいことだった……!
なんてこと……と、額に手を当てて項垂れる。
「あー、その、やんごとない方々の聞きたくもない話を聞かされるの、本気で勘弁願いたいのだが」
いつの間にか、ソフィー様と斜向かいに椅子に座っていたわたしの近くまで移動していた坊っちゃまが、硝子杯を弄ぶように顔の前に掲げてそう言えば、ルイとソフィー様の視線が彼に集中し、彼より先にわたしが驚く。
「はっ、おめでたくても愚かではないでしょう貴方は」
「そうよ。父親と訣別するのにあの状況ならすぐさま取れるものも取らず、人妻のマリーべル様に一途だなんて実直を練り上げて作ったようなおめでたい方、迂闊なことは漏らさないはずです」
話くらい周囲にいる人を見て話している、といわんばかりの二人だけれど。
その言い方は、たとえその通りであっても流石に失礼だと思う。
「人が立場で大人しくしてれば、言いたい放題だな……」
「私が誰と知っていて、外で決闘騒ぎなぞ起こしておいて今更」
「同じ伯爵家ですもの。マリーベル様に弁えてくださるなら、遠慮はいらなくてよ」
なんだか、よくわからないけれど。
打ち解けた……の、かしら?
「……マリーべル」
「なんですか?」
「女のくせに度胸あるのは知っているが、こんなのに囲まれて本当に大丈夫なのか?」
びしぃっと、応接間の空気が凍りつく音が聞こえた気がする。
「坊っちゃまが、いらないことを言わなければっ」
やっぱり動けない程度に痛めつけておくのがよかったか……いいえああいった方はなにしたって懲りませんわなどと、恐ろしいひそひそ話が聞こえる気がするのも気のせいだ。
「いくら貴族でも、謀殺や傷害はなしだろ」
「そうあって欲しいものですね」
「まったくですわね、苦労しませんもの」
ええですね。
少年の頃から付け狙われてきた人と、王族でも飛び切り美しく有望な政略道具の姫と幼少期からご自覚なさっていた方ですから、もう言葉の重みが違う。
「お願いですからっ……坊っちゃま」
「どうした?」
「これ以上、余計なことは言わないでっ!」
わたしが坊っちゃまに凄めば……わかったと彼が虚を突かれたように頷いたのに、本当ですよと念押しし、壁際に控えていたシモンに目配せして彼の手にある空になった硝子杯を下げさせたところで、父様がやって来た。
食事の前から、疲れる……。
冬の女神の瞳が閉じられているのは、死の淵に近い再生のための眠りと閉じ込め。
そして両性具有の地の精霊は、叡智を司どる精霊として魔術師には特別視されている。
応接間の天井画へと向けていた視線を、垂れ下がる銀髪に隠れた端正な横顔へと移す。
葡萄のような暗紫色に極細の青い縞の入った艶のある絹地に、銀糸を使った白蝶貝や水晶のビーズ刺繍に飾られた上着の夜の装い。
そんな彼が出迎えも兼ねた食前酒を勧めるのは、灰色がかった燻んだ薄薔薇色に金の縁取りをした上着に中着と脚衣の三揃え、服の色に馴染むような薔薇色がかった淡い褐色の髪を撫でつけた坊っちゃまことモンフォール伯の三男、ベルトラン・ド・モンフォール。
そういえば……大人になって、こんな装いの坊っちゃまを見るのは初めてかも。
鍛えているだけに体格はいい、顔も……見ようによっては、凛々しいといえるかも?
黙っていればだけれど。
中身は短期で血の気が多くて思い込みの激しい、子供の頃とあまり変わらない……。
椅子に掛けてそんなことを考えていたら、不意にこちらを流し見て細まった、坊っちゃまの深い森のような濃い緑色の瞳と目が合って、反射的に眉を顰めてしまう。
「モンフォール殿」
わたしの正面に掛けているソフィー様が、明るい橙色のドレスの袖を揺らし、閉じたレースの扇をぱしりと彼女自身の掌を軽く打って、挨拶だけは一通り済んでいる坊っちゃまに声をかけた。
「お身内の事では、貴方の高潔なご協力あってと耳にしております。こうしてお会いしてみれば、お噂通り、お人の良さのわかる方ですね」
「……ソフィー様」
にこにこと人好きのする微笑みのソフィー様だったけれど、その言葉はまったく彼を相手にする人物として認めていらっしゃらない。
たしかに彼は大領地の伯爵家の息子といっても三男。家督は継がない。貴族の息子だけれど厳密には平民だ。財産分与はいくらかあったみたいだけれどそれすら放棄している。
ソフィー様から見れば、完全に平民の下っ端武官。
わたしを介しても彼の名前を呼ぶ気もなく“モンフォールさん”位の扱いで、おまけに人の良さなんて……取り立てて魅力も興味もないと仰っているも同然だった。
わたしでもわかるくらいなのだから、見ているこちらがひやひやする。
坊っちゃまは、ソフィー様から距離を置いたまま彼女を困惑気味に眺め、どう答えていいか考えあぐねている。
元王族で現法務大臣の妻、おまけに軍部の長官職の妹君と、前触れなしにいきなり引き合わされたのだもの、坊っちゃまの困惑は無理もない。
「マリーベル様とは、幼少の頃から兄と妹のようにお過ごしになられたとか」
「……はあ。あっ、いや……ええ」
「どうぞ楽になさって。ですが弁えてはくださいね。マリーベル様はトゥール家の養女となられる前でもユニ領の領主のお嬢さまですもの。婿になる方に領主の地位を与えられたのですから」
つんと澄ましているソフィー様に、坊っちゃまは困り果てた様子でルイから受け取った硝子杯の中身を呷る。その様子を見て、本当にお人のよろしいこととソフィー様は若干呆れ気味に繰り返して目を細めた。
なにか一言くらい返してくると思っていたのかもしれないけれど、いくら坊っちゃまでもそこまで馬鹿ではないと思う。
気まずい……。
「護衛騎士にはいいのじゃございません?」
「頼みもしないのに審査いただいて、貴女も大概人のいい」
ルイに至っては完全にソフィー様への嫌味だ。
半ば予想はしていたけれど。
思わず同情の眼差しで坊っちゃまの顔を見れば、とても居心地悪そうな表情を浮かべていて嘆息してしまう。
仮にも貴族の息子なんだから、そんなあからさまに表情に出さないでほしい。
ルイやソフィー様が面倒と言っているのも同じだ。
「そ、そろそろお食事にしましょうか」
気を取り直して、わたしが明るくそう彼等を促せば、ルイにまだ揃っていませんと言われて、えっと首を傾げる。
「ジュリアン殿がまだ来ていません」
「父様? あの……聞いていませんけど」
「おや。言っていませんでしたか?」
ええ、まったく。
そもそも、どうして父様なの。
ロザリーには伝わっているはずなので問題ありませんよ、となんでもない調子で言ったルイを睨みつければ、オドレイもわかっているのでこちら側も問題ないはずですとさらに言い添えた。
それも大事だけれど、そういうことじゃない――。
「あら、早耳ですのね」
ソフィー様が少しばかり感心したといった様子で、長椅子の背後に離れて立っているルイを振り仰ぐ。
けれど、彼の意図とソフィー様の言葉は一致しなかったらしい。
なんのことだと言わんばかりにわずかに目を細めるルイに、あら違ってとソフィー様は呟いた。
「貴方のことだからてっきり何処かから聞いたのかと」
「なんの話です? 私はこの彼に関連することで我が家の法務顧問を呼んだまでですよ」
「俺……私のことで、どうしてマリーベルの父親が?」
「……人の妻と舅を気安く呼ばないでもらいたいですね」
「気安い間柄だから仕方ない。私が生まれた時からの付き合いですので、閣下」
王都の広場で決闘騒ぎなんか起こした二人だから、仲は良くないだろうけど。
ルイと坊っちゃまの、子供みたいなやりとりにもうんざりする。
はあっ、とため息を吐けばほぼ同時にぱしんとソフィー様が掌の上で閉じたままの扇を打った。
「殿方のくだらない小競り合いは、結構です。その様子ではご存知ではなさそうね」
「あの……ソフィー様? わたしの実父がなにか?」
「よろこばしいお話ですよ、マリーベル様」
よろこばしい?
ソフィー様がそう仰っても眉を顰めてしまうわたしに彼女は、先日貴女の実のお父様に称号もといった声をあるお話がありましたでしょうと微笑む。
そういえばそんなことをちらりと聞いたような。
「法科院で正式に授与が決まったそうです。“偉大なる署名者”。叙爵も働きかけているとか」
称号!? 叙爵!!
父様に!?
いやいやいや、いくらそれなりに実績を積み上げていたらしいとはいえ、そんな……。
「ほう。ジュリアン殿が正当に評価されるのはたしかに喜ばしいですが、私を差し置いて聞き捨てならない話ですね」
「あら、ルイ様と繋がりがあるからこそ、慎重に進めていたに決まっています……昔から気に入った者には執着しますもの。お兄様が補佐に付けようとしていた方も横から攫って」
「王族から離れることを本人が望んでいましたしね」
それって……もしかして。
――元東部騎士団支部の後方任務士長。書類仕事が早く騎士団支部との折衝役としてルイが統括組織に引き抜き、とても揉めた……かつて熟読したフェリシアンの書類を思い出す。
ムルト様は末端とはいえ王族の庶子。
中級魔術の使い手で宮廷魔術師になれる資格を持つ。
とても揉めたって、まさか……。
「呆れた方が下級の女官に手をつけて生まれた庶子とはいえ、お兄様は才覚ある者を蔑ろにはしませんわ」
「本人が望んでいないのですから仕方ないでしょう。それにとうの昔に片付いた話ですよ」
絶対、ムルト様のことだ。
てっきり東部騎士団支部と揉めたのかと思ったら、もっとひどいことだった……!
なんてこと……と、額に手を当てて項垂れる。
「あー、その、やんごとない方々の聞きたくもない話を聞かされるの、本気で勘弁願いたいのだが」
いつの間にか、ソフィー様と斜向かいに椅子に座っていたわたしの近くまで移動していた坊っちゃまが、硝子杯を弄ぶように顔の前に掲げてそう言えば、ルイとソフィー様の視線が彼に集中し、彼より先にわたしが驚く。
「はっ、おめでたくても愚かではないでしょう貴方は」
「そうよ。父親と訣別するのにあの状況ならすぐさま取れるものも取らず、人妻のマリーべル様に一途だなんて実直を練り上げて作ったようなおめでたい方、迂闊なことは漏らさないはずです」
話くらい周囲にいる人を見て話している、といわんばかりの二人だけれど。
その言い方は、たとえその通りであっても流石に失礼だと思う。
「人が立場で大人しくしてれば、言いたい放題だな……」
「私が誰と知っていて、外で決闘騒ぎなぞ起こしておいて今更」
「同じ伯爵家ですもの。マリーベル様に弁えてくださるなら、遠慮はいらなくてよ」
なんだか、よくわからないけれど。
打ち解けた……の、かしら?
「……マリーべル」
「なんですか?」
「女のくせに度胸あるのは知っているが、こんなのに囲まれて本当に大丈夫なのか?」
びしぃっと、応接間の空気が凍りつく音が聞こえた気がする。
「坊っちゃまが、いらないことを言わなければっ」
やっぱり動けない程度に痛めつけておくのがよかったか……いいえああいった方はなにしたって懲りませんわなどと、恐ろしいひそひそ話が聞こえる気がするのも気のせいだ。
「いくら貴族でも、謀殺や傷害はなしだろ」
「そうあって欲しいものですね」
「まったくですわね、苦労しませんもの」
ええですね。
少年の頃から付け狙われてきた人と、王族でも飛び切り美しく有望な政略道具の姫と幼少期からご自覚なさっていた方ですから、もう言葉の重みが違う。
「お願いですからっ……坊っちゃま」
「どうした?」
「これ以上、余計なことは言わないでっ!」
わたしが坊っちゃまに凄めば……わかったと彼が虚を突かれたように頷いたのに、本当ですよと念押しし、壁際に控えていたシモンに目配せして彼の手にある空になった硝子杯を下げさせたところで、父様がやって来た。
食事の前から、疲れる……。
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