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第一章 湖の村攻防編

18.娯楽

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 ステイシアの放った白い光の筋は薄暗くなりつつあった空を煌々と照らした。
 照明弾よりも暗く、光り続けるそれは花火といった所か。
 ミカゲ達のいる場所を大きく囲むかのように小さな火が上り始める。
 しかしそれは草や大地を燃やすことなく、揺らめきと光を放つだけの存在だった。
「みやすいじゃろぅw」
 戦車に腰かけ酒瓶から直接酒を飲み始める。
 舞台は整ったというところか。

 ヴィートの顔の横から鋭い光の筋がミカゲを襲う。ミカゲはそれを手に当てて落とす。
 何本かの筋がミカゲを襲うが、躱した矢が再びミカゲを襲う。
 当たる迄、永遠に対象者に向かう追い続ける矢ホーミングアローだ。
 ミカゲはそれを見切り、手刀や掴んで落とす。
 その間にヴィートやティタが仕掛ける手筈であった。
「うgっ!」
「うがっ!」
 左側の4人いたティタの部下がその場でどたりと倒れ、その後間もなく右を囲った5人も同じように動かなくなった。
 ミカゲの姿が少しぼやけて見える。
 ティタは一層警戒する。
 しかし、その一瞬ミカゲの姿はじんわりと消えた。
「警戒しろ!縮地しゅくちだ!!」
 ヴィートが皆に叫ぶ。
 その一瞬皆の一番背後のアルテが真横に数メートル吹き飛ばされる。
 軽い呻きを皆は聞き取り振り返るも、脇を九の字に曲げ吹き飛んだアルテの姿のみ。
 ヴィートの目の前でケットも無言で膝から崩れ落ちた。
 スチュアートは盾を鳴らし、ヘイトを稼ごうとするが、ミカゲの姿は現れない。
「ちょっと、本気出すかな。」
 ミカゲの声が聞こえ、開始時向いていた方向に皆が顔を向ける。
 ミカゲが3人。
 3人とも薄っすらとぼやけているが、それぞれ別の動作をしている。
 そのミカゲが散開。
 ティタの方にフェイントをかけ、視界に潜り込むミカゲ。
 ヴィートに蹴りを放ち、反撃に出たヴィートにまた姿ごと消失するミカゲ。
 そして、パーチとスチュアートを手刀で気絶させるミカゲ。
アルテなかまが飛ばされても乱れなくなったな。いい器になって来たな。ルワース」
 ミカゲの声が耳元で聞こえ、振り向きざま大剣をかざす。
 雷が周りに放たれるがその雷が不器用に、中途半端に終わる。
 掌底を鳩尾に喰らい、そのまま崩れ落ちたのだ。
 カエデは背中に抱えたミカゲと同じ刀種の、やや気持ち長いカタナを背中から抜きざまミカゲに切りつける。
 滲むようにミカゲが消える、残像か?!
 「こっちだ」
 声のするほうに勢いよく刀を振る。
 普通の物なら首くらいすぱりと落ちそうな程その振りは素早かった。
 「くぅっ」
 短い呻き、嗚咽に近い音をカエデは上げて正座をするように前かがみに座り込む。
 ミカゲの拳が腹に打ち込まれ、そのまま倒れこんだのだ。
 吐しゃ物等で窒息しても困るのでミカゲは顔だけよこにしてやる。
 ティタが動いた。
 巨大な鈍器を振り回し、ミカゲを追撃する。
 その後ろからヴィートが上段から切りかかる。
 横に躱せばティタのフルスイング。下にくぐれば恐らくヴィートの切り上げが待っているだろう。
 だが、またしてもミカゲは消えた。
 神出鬼没。
 まさにその言葉を形容するかのごとく、現れては消え、消えては現れる。
 ヴィートもティタも、申し合わせること無く背中を預ける。
「凄いな・・・・。」とティタ。
「こんなもんじゃねえぞ。本気の団長おやじは。
 ああは言ってたが、その証拠にまだ抜いてもいない。」
 ティタはどこから現れるかもわからないミカゲに警戒し、より一層身構えた。
 
「ヴィートと弟か。どうする、タイマンでするか?同時に来るか?」
 ミカゲが姿を現す。
「連携も取れてるようだし、同時でも構わんぞ。」
 ミカゲが提案してくる。
「ティタ、一対一でやらせてくれ。」
「わかった。だが俺が先だ。」
 ティタがヴィートの前に一歩出る。
 ヴィートは少し後ろに離れる。

 ティタは盾を構え、凶悪な鈍器モルゲンステルンを上段に構える。
 ミカゲは少し歩幅を広くするようにして構える。
「行くぞ」
 ミカゲが盾に向かって突き進む。
 ティタはミカゲを盾ではじく様にして鈍器を振り下ろそうとした。
 しかし、盾にミカゲの掌底が放たれた瞬間、凄まじい威力で盾を押し戻されるようにしてティタはバランスを崩す。
 後ろに何回か転げて立ち上がった時には目の前にミカゲが立っている。
 首筋に鋭い一撃を受け、そのまま倒れた。
 背後にヴィートが上段から切り付ける。
 しかし獲った!と思った瞬間ミカゲの姿は蜃気楼に浮かぶ現像のように霞み、
 数メートル前に腰を落として刀を抜こうと構え始めていた。
「いい攻め方だったぞヴィート。」
 ミカゲの周りの気配が重く、熱くなっていく。
 ヴィートも剣を中段で構え、警戒する。
 動こうにも物凄い殺気と闘気の織り交ざるような、絡みつく気配に、ヴィートも構える事しか出来ないのが本音であった。
「カチン。」
 金属の音がした。
 それはミカゲの手元からしているようで、
 刀を鞘から少し抜いて、又鞘に直す音のようだ。
「カチン。」
「カチン。」
「カチン。」
 計四回その音が鳴る。
 ミカゲは構えを解き狼の変わり兜を上げる。

 ヴィートの左肩当てと胴鎧がバックリと裂け、ロングソードも叩き折れて額から、薄っすらと血を流すヴィート。
 全く見えない剣筋になすすべなく、ヴィートは膝を地につけひざまずいた形で倒れてしまった。
 観客としてみていた村人も息をのむ。
「勝負あったな。」
 ステイシアの言葉に、観客賭けてた人達も一斉に歓声を上げる。
 回復魔法を得意とする騎士の数人と、その扱いに長けた者達が歩み寄る。
 気絶した者達など開放しているようだ。
 すぐに回復したヴィートは、ミカゲに詰め寄り、自分の喰らった斬撃の事をさっそく聞き始めた。
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