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第二章 湖の村日常編
7.報恩謝徳
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黒ずくめの魔人族の女、名はなく、ルマリアの奥方からはウバと言われていたらしい。
二人の乳母でもあったためだろう。
彼女は奥方の身の回りの世話もしていた召使の一人で、且つ教育や護衛もしていたそうだ。
先の戦いで行方知れずとなっているが、その時杖の魔王たちと共にある程度の場所に絞ることが出来たらしい。
いるというよりも幽閉という方が正しいのかもしれない。
ウバは多くは語らなかったが、身動きできない状態で、出来れば自分もその救出に向かいたいと思っているようだ。
「お前達だけでなんとかなるのかえ?」
ステイシアがある程度話の落ち着いたところで口をはさむ。
「杖の魔王以外にも中立や穏健派の魔王が居り、救い出すことは可能とおもいます。それに、助力は個人的にもうれしく思えるのですが、場所が場所だけに・・・。
それゆえにミカゲ殿やステイシア様には、奥方様の宝で有るお二人を守っていただきたいのです。」
「母上のその様な事態に私は助けに行けないのか?」
「ルマリア様、お察しください。場所が場所なのです。」
ウバはルマリアの方になおり、又俯いてしまった。
「勇者と魔王が激突したあの大陸じゃな。」
ステイシアはいつの間にかミカゲが持ってきていた水差しを手に取り、グラスに水を灌ぐ。
ウバは何も発さず、ただ俯いていた。
「あそこは魔力の乱れも魔物もかなりの難所だ。つまりは足手まといと言う事じゃ。」
ステイシアはルマリアに言う。
「少なくともミカゲでさえ、帰ってこれるかわからんほどじゃ。まぁ二人はわしらの村の住人じゃし、ルマリアにはミカゲが付いておる、バカなことをしない限りは心配は無用じゃ。」
ステイシアはウバにそういうとティタに水を入れたコップを渡す。
ティタはコップを受け取る。
柑橘系の匂いのする水。
「それでも行きたいというなら、魔界とこちらでは時間軸にかなりの誤差がある。
ミカゲに鍛えてもらえばよいではないか。」
髪留めを又さりげなく触り、ティタに微笑んで見せる。
ティタ自身母親との記憶がほとんどない。
姉上は記憶の端にまだ遊んでもらっていた頃や父親との記憶もあるそうだ。
魔界からこの、人の居る大地に来るまで、彼は気づけば戦いの日々であった。
幼き頃の一瞬の記憶など、今までの戦いの人生という闇に、一瞬にして埋もれてしまっていたのだ。
立ち上がっていたルマリアも、ステイシアの落としどころに同意するしかなかった。
ミカゲ殿さえ帰れる保証はない。
それがルマリア自身の心の暴走を留める楔となった。
しかも、それでも行くのであれば鍛えて力をつけて行けという・・・。
「とりあえず、ウバ、お前も一緒に昼飯でもどうだ。すぐに発つにしても準備はいるだろう?」
ステイシアとティタの腹が大きくなった。
ルマリアは最近イートに料理を習っている。
ミカゲの調理補佐を買って出たが、そこそこ動きもよい。
テラスに長い板を数枚足場のような台において長テーブルにすると、そこにミカゲの調理した料理が並ぶ。
コメ、スープ、そして香ばしい油で揚げた物や、葉物の野菜の盛られたサラダなどだ。
パンもあり、コメでもパンでもと言った処か。
なかでも、生ものの魚をさばいた刺身(さしみ)というもの。
ティタは、焼き魚を食べたことがあるが骨も多く何より苦いイメージがあった。
ミカゲ曰く、それもよいが中身の内臓や処理をして焼いたり炙ったり、こうして鮮度が保てれば生で食べるのもうまいとテーブルに出す。
ステイシアは「レイシュ」をどこからかだすとそのさしみを黒い液体につけて食べる。
ティタもステイシアがすすめてくるので一口食べてみたが・・・ウマイ。
日頃こういった料理を口にしていなかったウバだったが、黙々と食べれる時に食べる。を慣行していた。
ミカゲはウバの装備の革素材が気になっていたらしく、素材の仕立て方や作りなど詳しく聞いていた。
ティタも武器や携帯している苦無の様な投擲できる刃物を手に取ってみている。
「二人とも似た者同士じゃな。」
ティタの隣で酒とさしみに舌鼓をうつステイシア。
「そうですね。弟も元々こういうものを作ることの方が性に合っていますから・・・」
とルマリア。
「ワシにも魔界の知り合いはいるでな、気を揉まずともミカゲに色々と教わるとよい。
そうそう悪いことばかり続くことはないのじゃ。」
ステイシアなりにルマリアをフォローする。
馬の合うティタとミカゲ。そんな二人を見るルマリア。
母親の安否にはやはり気にならないとウソになるが、それでも助けに行ける可能性や、その手段もある。
何より、そのために周りが動いてくれていることにルマリアは心打たれていた。
彼女自身母親がこれほどの人物であったとは思っていなかった。
ティタ程少なくはない両親との記憶。
確かにウバのような召使は数人いたような気はする。
結局、昼食は昼酒となり、ミカゲとそれを手伝うルマリアがメインで晩飯と酒のアテが作られていった。
油で肉を上げるフライというものにティタは初め感動しており、レシピなどをきいていたが、武器や防具の装備話になると、更に二人の会話と酒は止まらくなった。
ウバは結局泊まり、明日にでも大櫓やここで向かう準備をすることになった。
下の店には馬具や長旅用の調理器具などもそろっており、着の身着のまま行ける距離や場所ではなく、ここで準備できるならと言う事だった。
夜になるとルードとカエデも酒の肴とワインを数本持ってやってくる。
ミカゲも、倉庫から発酵食品のチーズなどをだして、なかなかの宴会となった。
ミカゲの横にはルマリア、
ステイシアが向かいに座りその横にはティタ。
ミカゲとティタの斜め前にはウバ。ステイシアの隣にカエデ、ルードと続く。
ミカゲの斜め後ろには半円上の大鍋。そこに木炭を燃やし、その上の網で肉やお湯、鍋ものも話しながら調理している。
濛々と煙を上げる筒もあり、何だろうと思ったが、即席のスモークをしているようで、お客さんの肉のベーコンは絶品だった。
「ティタ」
談笑しているなか、ステイシアはティタを呼ぶ。
ティタは隣のステイシアを向くと又わざとらしく髪留めを触りながらくすりとわらう。
「最近ワシを熱すぎる視線で見すぎじゃ。判らなくもないが、眼光の熱線で体が焼かれてしまいそうじゃ。」
「す、すいません。」
「素直なやつはきらいじゃないぞ。」
酔った風で体を預けるステイシア。さりげなく腕に唇が触れる。
皆は談笑や食事がすすむ中ティタの鼓動は早くなっていた。
二人の乳母でもあったためだろう。
彼女は奥方の身の回りの世話もしていた召使の一人で、且つ教育や護衛もしていたそうだ。
先の戦いで行方知れずとなっているが、その時杖の魔王たちと共にある程度の場所に絞ることが出来たらしい。
いるというよりも幽閉という方が正しいのかもしれない。
ウバは多くは語らなかったが、身動きできない状態で、出来れば自分もその救出に向かいたいと思っているようだ。
「お前達だけでなんとかなるのかえ?」
ステイシアがある程度話の落ち着いたところで口をはさむ。
「杖の魔王以外にも中立や穏健派の魔王が居り、救い出すことは可能とおもいます。それに、助力は個人的にもうれしく思えるのですが、場所が場所だけに・・・。
それゆえにミカゲ殿やステイシア様には、奥方様の宝で有るお二人を守っていただきたいのです。」
「母上のその様な事態に私は助けに行けないのか?」
「ルマリア様、お察しください。場所が場所なのです。」
ウバはルマリアの方になおり、又俯いてしまった。
「勇者と魔王が激突したあの大陸じゃな。」
ステイシアはいつの間にかミカゲが持ってきていた水差しを手に取り、グラスに水を灌ぐ。
ウバは何も発さず、ただ俯いていた。
「あそこは魔力の乱れも魔物もかなりの難所だ。つまりは足手まといと言う事じゃ。」
ステイシアはルマリアに言う。
「少なくともミカゲでさえ、帰ってこれるかわからんほどじゃ。まぁ二人はわしらの村の住人じゃし、ルマリアにはミカゲが付いておる、バカなことをしない限りは心配は無用じゃ。」
ステイシアはウバにそういうとティタに水を入れたコップを渡す。
ティタはコップを受け取る。
柑橘系の匂いのする水。
「それでも行きたいというなら、魔界とこちらでは時間軸にかなりの誤差がある。
ミカゲに鍛えてもらえばよいではないか。」
髪留めを又さりげなく触り、ティタに微笑んで見せる。
ティタ自身母親との記憶がほとんどない。
姉上は記憶の端にまだ遊んでもらっていた頃や父親との記憶もあるそうだ。
魔界からこの、人の居る大地に来るまで、彼は気づけば戦いの日々であった。
幼き頃の一瞬の記憶など、今までの戦いの人生という闇に、一瞬にして埋もれてしまっていたのだ。
立ち上がっていたルマリアも、ステイシアの落としどころに同意するしかなかった。
ミカゲ殿さえ帰れる保証はない。
それがルマリア自身の心の暴走を留める楔となった。
しかも、それでも行くのであれば鍛えて力をつけて行けという・・・。
「とりあえず、ウバ、お前も一緒に昼飯でもどうだ。すぐに発つにしても準備はいるだろう?」
ステイシアとティタの腹が大きくなった。
ルマリアは最近イートに料理を習っている。
ミカゲの調理補佐を買って出たが、そこそこ動きもよい。
テラスに長い板を数枚足場のような台において長テーブルにすると、そこにミカゲの調理した料理が並ぶ。
コメ、スープ、そして香ばしい油で揚げた物や、葉物の野菜の盛られたサラダなどだ。
パンもあり、コメでもパンでもと言った処か。
なかでも、生ものの魚をさばいた刺身(さしみ)というもの。
ティタは、焼き魚を食べたことがあるが骨も多く何より苦いイメージがあった。
ミカゲ曰く、それもよいが中身の内臓や処理をして焼いたり炙ったり、こうして鮮度が保てれば生で食べるのもうまいとテーブルに出す。
ステイシアは「レイシュ」をどこからかだすとそのさしみを黒い液体につけて食べる。
ティタもステイシアがすすめてくるので一口食べてみたが・・・ウマイ。
日頃こういった料理を口にしていなかったウバだったが、黙々と食べれる時に食べる。を慣行していた。
ミカゲはウバの装備の革素材が気になっていたらしく、素材の仕立て方や作りなど詳しく聞いていた。
ティタも武器や携帯している苦無の様な投擲できる刃物を手に取ってみている。
「二人とも似た者同士じゃな。」
ティタの隣で酒とさしみに舌鼓をうつステイシア。
「そうですね。弟も元々こういうものを作ることの方が性に合っていますから・・・」
とルマリア。
「ワシにも魔界の知り合いはいるでな、気を揉まずともミカゲに色々と教わるとよい。
そうそう悪いことばかり続くことはないのじゃ。」
ステイシアなりにルマリアをフォローする。
馬の合うティタとミカゲ。そんな二人を見るルマリア。
母親の安否にはやはり気にならないとウソになるが、それでも助けに行ける可能性や、その手段もある。
何より、そのために周りが動いてくれていることにルマリアは心打たれていた。
彼女自身母親がこれほどの人物であったとは思っていなかった。
ティタ程少なくはない両親との記憶。
確かにウバのような召使は数人いたような気はする。
結局、昼食は昼酒となり、ミカゲとそれを手伝うルマリアがメインで晩飯と酒のアテが作られていった。
油で肉を上げるフライというものにティタは初め感動しており、レシピなどをきいていたが、武器や防具の装備話になると、更に二人の会話と酒は止まらくなった。
ウバは結局泊まり、明日にでも大櫓やここで向かう準備をすることになった。
下の店には馬具や長旅用の調理器具などもそろっており、着の身着のまま行ける距離や場所ではなく、ここで準備できるならと言う事だった。
夜になるとルードとカエデも酒の肴とワインを数本持ってやってくる。
ミカゲも、倉庫から発酵食品のチーズなどをだして、なかなかの宴会となった。
ミカゲの横にはルマリア、
ステイシアが向かいに座りその横にはティタ。
ミカゲとティタの斜め前にはウバ。ステイシアの隣にカエデ、ルードと続く。
ミカゲの斜め後ろには半円上の大鍋。そこに木炭を燃やし、その上の網で肉やお湯、鍋ものも話しながら調理している。
濛々と煙を上げる筒もあり、何だろうと思ったが、即席のスモークをしているようで、お客さんの肉のベーコンは絶品だった。
「ティタ」
談笑しているなか、ステイシアはティタを呼ぶ。
ティタは隣のステイシアを向くと又わざとらしく髪留めを触りながらくすりとわらう。
「最近ワシを熱すぎる視線で見すぎじゃ。判らなくもないが、眼光の熱線で体が焼かれてしまいそうじゃ。」
「す、すいません。」
「素直なやつはきらいじゃないぞ。」
酔った風で体を預けるステイシア。さりげなく腕に唇が触れる。
皆は談笑や食事がすすむ中ティタの鼓動は早くなっていた。
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