輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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人類の見守り役

43話 虐殺ガニの実体と話をしてみる

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マルファーニは身体強化魔法でも使えるのだろうか?

 しかし、マルファーニ自身も変化に戸惑っているようだ。
 驚きつつ、銀オレンジ色の光を放射している手や髪を眺めている。

 すると、マルファーニの放つ光輝を観た瞬間、カニが我に返ったかのように突進してきた。
 巨体のカニが音もさせず高速で迫ってくる。

 マルファーニもハッとした顔をして、迫ってくるカニに目を向けた。

 すると、先ほどとは比較にならない速度でカニに回り込み.........背後を取った。

 あまりにも速すぎて、俺にはマルファーニの放つ光輝の帯が一瞬線を描いたようにしか見えなかった。

 カニの背後を取ったマルファーニはカニの後ろ足へと切り込んでいく。
 マルファーニが剣を薙ぎ払うとネギを切るようにカニの足を切り飛ばした。薙ぎ払った際の衝撃波が空洞全体を揺るがしたのが分かる。

 なんて威力だ。さっきは少しもビクともしなかったのに、剣の切れ味も遥かに向上しているようだ。

 カニはバランスを崩しつつ、マルファーニの方向へ向き直ろうとするが、その間にもマルファーニは剣舞のように、さらに2本の足を連続して切り落とした。

 一番最初に切った足が遅れて、地面にズドオォオン!という音を立て、メルミアの近くに落ちた。
 メルミアはビクっとして、落下してきた足を観ている。

 マルファーニは一番最初の足が宙を舞っている間に、2本の足を切り飛ばしていた。
 カニはバランスを崩し、マルファーニの方を振り向くことすらもはや叶わない。

 痛みがあるのか無いのかは様子からは分からないが、勝負はすでに決まっている。
 カニに分があったのはマルファーニの剣が効かなかったからだ。それがネギのように切れるのでは、すぐに切り刻まれてしまうだろう........


 俺はさっき、マルファーニに出口を譲ったカニの行動を思い返していた。
 それは俺の影響によるものとはいえ、俺が干渉できるほどの知能を持った元人間である。
 
 俺は甘すぎるのだろうか。
 そう思えなくもないが、マルファーニ吾郎に人間殺しをさせたく無い。

 って............あれ?マルファーニのあの速さなら、今頃カニの全ての足を切り飛ばし、ハサミも切り落としているはずなんだが。



 いつのまにか、マルファーニとカニがスローモーションになっている。

 再度、イドが精神時間とやらをいじったのだろうか?
 俺は、この流れじゃカニが殺されても仕方がないと半分割り切っていたので、今度は冷静であった。

 この間にどうするか考えることにする。
 わずかな焦りをわきに置き、心を静める。


 すると...........

 うわ!?
 目の前のマルファーニからは赤黒いオーラが立ち昇っているのが見えた。

 物的空間では銀オレンジ色のオーラが美しく輝いているだけにその対比は奇妙であった。

 カニの方に目をやると、青黒いオーラが立ち昇っている。
 イドの知識によるものなのか、俺は直感で分かった。カニを解析した時に書いてあった”バゴス”とか言う世界を象徴するオーラじゃないだろうか?

 カニが青黒いオーラを出す事の意味は掴みかねるが、マルファーニに赤黒いオーラが出ている以上、俺はあのカニを殺させるわけにはいかない。
 それはマルファーニをパーゲトルの人間の操り人形にしてしまうという事なのだから。

 
 どうするのが最善だろうか?



 ポクポクポク.....チーン。

 なんてこった。

 なぜ、今まで思いつかなかったのだろう。
 マルファーニかカニを転移させればいいじゃないか。
 メレディスの時もそうしたし。

 
 はじめからそうすれば良かったよ!


 なぜか全然思いつかなかった。ていうか、イドも思いつかなかったのだろうか。

 
 カニを転移させるのはどうか?
 
 俺の知っているどこの場所であってもカニを送り込むことは大惨事を起こしかねない。当然、転移させるならマルファーニとメルミアだ。


 俺はニンファルに最初連れてきてもらった際の、”レンガ造りの家が立ち並び、その奥には城があった光景”を思い浮かべ、マルファーニとメルミアがそこに転移したイメージを浮かべた。
 
 まあ、あの場所が二人にとって知っている場所かは分からないが、後でフォローすればいいことだ。
 

 俺がイメージすると、瞬時にマルファーニとメルミアはこの場から転移した。
 その瞬間、世界は通常の速度に戻った。

 宙を舞っていた2本のカニ足がズドォオン!ドォオン!!という音をあげ、地面に落下する。

 この場所に残されたのは、俺とアガパンサ、足を3本切り落とされ巨体を上下にガクガク震わせている化けガニだけである。

 さて........このカニはどうしようか?
 
 理想を言えば、このカニの体を抜け人間として暮らさせてやりたい。
 ただ、その場合に、このカニの実体である丸橋幸雄はどこの世界に属するのだろうか?
 解析した感じを観るに、バゴスは罪滅ぼしの場所であり戻っても愉快とは言え無さそうだが。

 アガパンサに聴いてみよう。

 《魔物に転生した人間を体から抜け出させることってできるかな?》

 《申し訳ありません。そのような方法は聴いた事が無いです........ただ、その世界に属した肉体が著しく損壊すれば自動的に転生することになりますね。人間の場合では、その時の精神に見合った世界に行くでしょう》

 
 な、なんと!考えてみたらそりゃそうだよな。
 マルファーニにカニを殺させれば良かったか?

 ........いや、あの赤黒いオーラを出してるマルファーニにそれをさせて、カニとマルファーニにとって良い未来に繋がるとは到底思えない。
 
 そもそも、実体である丸橋幸雄の意識は今どういう状態にあるんだ?
 話しができたらいいのだが。

 
 《このカニの実体である丸橋幸雄と話す方法とかはあるか?》

 《はい!それはできると思います。ただ.......》

 《ん?》

 《実体と話ができるのは、実体が覚醒し、精神と肉体の分離が進んでいる場合のみです。それは人生に実りがあり今世の課題をある程度終えた人間。または、何らかの試練のために意識不明瞭な肉体に転生した人間のどちらかである事がほとんどでしょう》

 今世の課題を終えて精神が発達した人間なら分かるが、試練のために意識不明瞭な肉体に転生するってのはよく分からない。

 《試練のために意識不明瞭な肉体に転生するってどういうことなんだ?》

 《コントロールの効かない肉体に転生し、その肉体による苦しみを経験し過去の罪滅ぼしをするといった場合。あるいは、忍耐力など精神的能力を向上させるといった場合などがあります。いずれの場合でも、実体は覚醒していて、コントロール不能な肉体の起こした行動の一つ一つをはっきり認識しています。話をすることもできるでしょう》

 そうなのか.......
 丸橋幸雄の過去を考えれば、過去の罪滅ぼしのために魔物の肉体に転生させられた可能性がある。 

 《このカニの実体である丸橋幸雄と話してみたい。その方法を教えてくれるかい?》

 《はい!承知しました。その方法は、解析したい場合とほぼ同様です。
 対象の内側を観るように意識し、語り掛ければ大丈夫です。応答があれば、心の内側から声が聴こえてきます》
 アガパンサは嬉しそうに答えてくれた。なんでこんなに嬉しそうなんだろう?

 《分かった。やってみるよ》

 俺はカニの内側を観るように意識を集中させ.......

 ”丸橋さん、聴こえますか?”

 と語り掛けた。

 程なくして、俺の心の内側に声が聴こえ始めた。

 ”あんたは誰だ。俺に何の用だ?”
 明らかな敵意を感じる鋭く冷えついた声だ。

 何となく声をかけたけど、何を話そう。
 もし、丸橋さんが魔物の身体を抜け出したいなら、俺はカニを安楽死させる必要も出てくるだろう。それに対する丸橋さんの意向を伺うか。

 ”俺は野田周と言います。一時的なんですが転生者達の事を見守る立場にいます。率直にお聞きしますが、丸橋さんはカニの身体を抜け出し、人間に戻りたいと思っていますか?”



 ”戻りたいわきゃねーだろ!!?人間に戻ればあの地獄に戻っちまう。カニとして気ままに暮らすほうがいいにきまってんだろ!!”

 そ、そうなのか。
 俺はてっきり、魔物に転生した人間は、人間に戻りたいのだと思っていた。

 しかし、人間であった時の環境が悪すぎれば、魔物である方がまだ心地いいって事もあるのか。
 じゃあ、俺が何か手出しすることも無いか。
 ただ........気になることがある。

 ”今、人間と戦っていましたが、その身体は自由に扱うことができるのですか?”

 ”いや、全然扱えねー。この身体が自由に扱えればもっと人間を殺してやれるのに!!”

 な、なに??
 コイツはまだ人間を殺したいと思ってるのか。
 バゴスで過去の犯罪の反省を促されてきたようだが、精神構造は中々変わっていないようだ。
 さっきはよくコイツの行動に干渉できたな。赤黒いオーラのマルファーニの行動も影響できたし、仮相界と真相界では影響しやすさが違うのだろうか?


 しかし.........疑問はつきない。

 さっきのカニの動きを観る限り、人間の知能を感じたのだが。
 あれは他の何かがやらせているのだろうか。

 このカニの身体の方が良いというなら、俺に出来る事は無い。

 正直、コイツから伝わってくる精神の波長は耐え難いほど気味が悪い。魔物として洞窟に閉じ込められたのは、丸橋幸雄にとっても他の人間にとっても良かったのかもしれない。

 
 俺はマルファーニとメルミアの方を思い浮かべ、アガパンサを連れ二人の元へ転移した。

 
 すると、俺の目の前で群衆が群がっていた。
 この人だかりはなんだろう?
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