輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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人類の見守り役

42話 人間の知能を持つ虐殺ガニ

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 マルファーニがメルミアを背負い洞窟内を疾走する。

 時速で40、50キロは出ているのではないだろうか?しかも、壁や障害物に当たる事も無く洞窟を抜けていっている。この勇者の身体能力と反射神経は一体どうなっているんだろう。

 なのに、俺たちはどういうわけか難なくマルファーニに付いていけてる。
 移動の原理がマルファーニと俺達とで違うからかもしれない。

 マルファーニはニンファルに属する物的肉体によって空間を進むのに対し、俺たちはマルファーニという精神体に同行している。その違いゆえなのか、マルファーニに意識を向けるだけで猛スピードのマルファーニに追いつくことができる。

 何となく歩いて追ってはいるが、足を止めても追いつくことができるのかもしれない。

 

 と.....

 そんな事を考えている間に、通路から大きな空洞に出たマルファーニが足を止める。
 
 目の前で巨大なカニみたいなのが洞窟の通路を塞いでいたからだ。
 このカニ.....高さは体長10mぐらいあるぞ。横幅は20m少々だろうか。全身が水晶と同じような光を放って保護色のように背景と融け込んでいる。
 飛び出た目の部分が真っ黒いのだが、ツヤっとした光沢が不気味さを増している。


 俺はすぐにこのカニを解析する。なぜなら、仮にこの魔物が元人間であった場合、マルファーニが見逃すように何とか導きたいからだ。

 直後、その判断は正しかったのが分かる.......

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 実体 丸橋幸雄
 ニンファル顕現体 ビツラウラスロータークラブ

 グラブダル地域の、各地、洞窟内に稀に生息する魔物。殺戮本能に突き動かされ、洞窟に侵入してきた人間を虐殺してきた歴史から、スローター(虐殺)の名前が付けられた。この種はビツラウラ洞窟の環境に適応している。
 動きが速く、強力なハサミや足による攻撃、さらに、魔法まで行使する知能があり、グラブダル地域において危険度はSランクとされている。
 数百名規模の精鋭兵をもってしても全滅することがある極めて危険な魔物。

 前世、アースの日本で誕生した丸橋幸雄は大工として生計を立てていた。一見、大人しい性格であったものの、欲に忠実であり、先天的に危険な事に手を染めやすい精神構造であった。
 その結果、女児数名を誘拐し強姦し殺害、死体を山中に遺棄した。その罪により死刑が確定したものの、刑務所内にてハサミを使い自殺。
 アースを離れて以後はバゴスにて、8年ほど自身の犯行場面・殺される前まで女児が幸福だった場面を何度も繰り返し見せられ続け、反省の思いがわずかに芽生えた。
 それと同時に、丸橋幸雄はニンファルにビツラウラスロータークラブとして転生した。
 ----------------------------
 
 このカニもアースからの転生者か......!
 ただ、女児を誘拐し殺害という明らかな罪を背負っている。


 それでも、マルファーニに人間を殺させたくはない。

 俺はマルファーニにこのカニを殺させないよう導くことを決めたが.......数百名規模の精鋭兵を全滅させるこのカニに勝てるのか?いくらこの勇者と言えど、やられてしまうのでは?
 しかも、今はメルミアも同行している。極めて不利な状況だろう。

 
 カニとの戦闘を避けられないと判断したのか、マルファーニは瞬時にメルミアを大きな水晶の陰に連れていく。

 そうしている間に、マルファーニへ向けてカニが突進してきた。
 カニなのだが正面を向いたまま前進してくる。

 巨体なのに足音をさせず高速で接近してくる。その速度は80キロを超えそうだ。

 マルファーニは残像を伴う速度で横に回避する。
 直後、元居た場所にカニの巨大なハサミが突き刺さった。あの頑丈そうな壁と水晶が呆気なくズガアァアアン!という音を立てて砕け散った。

 マルファーニはカニの足を狙い、一瞬で距離を詰めると抜刀し切り込んだ。

 が、水晶が絡みついたカニの足は想定以上に固かったらしく、表面の水晶だけ砕き剣が弾かれた。
 マルファーニは驚いた顔を見せ、残像を伴わせながら後方へ退避した。


 あの光の剣が効かないのか!?

 剣による攻撃が効かない以上、マルファーニに打てる手立てはあるのだろうか?俺は自分が戦っているかのような気持ちで恐怖を感じた。


 カニは後方に退避したマルファーニを正面から見据えた。

 すると、カニの周囲を囲むように無数の小さい魔法陣が出現し.........


 なんと、魔法陣から無数の小型ミサイルが発射されてきた。
 それは全体が深緑色で少し丸みを帯びている。


 ウソだろ!?
 魔法と言えど、こんなカニが文明的なミサイルを撃ち出してくるなんて。
 デザイン的には旧日本軍が使用していたミサイルのようなフォルムだ。

 ま、まさか...........このカニ。

 
 マルファーニも旧日本軍的なミサイルを観て、眼を見開き驚きの顔をしている。
 無数に飛んでくる小型ミサイルに対し、回避行動を取る。

 マルファーニは斜め上へと跳躍し天井へと回避した。が、ミサイルはマルファーニの方向へとカーブを描き向きを変えていく。
 この小型ミサイル、ホーミング機能があるのか。

 このカニ、マルファーニの回避速度を観て捉えられないと一回のハサミ攻撃で判断するや、すぐにホーミング能力付きの攻撃魔法に切り替えやがった。

 この判断力......俺の嫌な予感が的中しそうで寒気がし始める。
 
 
 マルファーニは地面に降り立ち、壁まで小型ミサイルを引きつけ、逆の方向へと瞬時に回避することで壁に着弾させる。

 ドガァアアン!ズドォオン!
 ミサイルの破片らしきものが散らばる。
 
 いくつかの小型ミサイルが破壊されたが、まだマルファーニへ向けた小型ミサイルは半分残っている。
 マルファーニは先ほどと同様のやり方でミサイルを破壊しようとした........

 
 その瞬間、マルファーニの背後にカニが迫った。足音が聴こえない上に、体全体が水晶と保護色になっているので気が付きにくいのだ。

 このカニ、ミサイルを引きつけ、逆の方向へと回避するであろう事を予測したらしい。
 一回観ただけで次のマルファーニの行動を予測してきた。

 マルファーニは咄嗟に剣を横に構え、球状の魔法障壁を張った。
 直後、巨大なハサミにマルファーニは魔法障壁ごと突かれ、壁へと叩きつけられる。

 「うぐぅ!!」

 マルファーニは苦痛に顔を歪め、呻き声をあげた。


 間違いない!!このカニは人間並みの知能を持っている。前世の記憶まであるかは分からないが、動きに人間の知能を感じる。
 
 
 俺は必死に考えた。
 明らかにマルファーニの分が悪い。
 剣による攻撃以外にも何かあるのかもしれないが、この状況を打開するには俺が何か手を貸す必要があるだろう。

 魔人の時に使わせた睡眠魔法はどうだ?
 しかし、俺の内なる声があのカニには効かないと言っている。

 じゃあ、どうすれば?

 考えろ。考えろ。どうしたらいい!?


 俺が焦りのままに取り乱したその時だ。


 突然、内側から荒っぽい声が聴こえてきた。

 《おい!!オメーが不安に飲まれてやがるから俺の天才的な知恵を発揮させられねえじゃねえか!!!》

 へ......?なんだこれ??
 
 《どなたでしょうか!?今、忙しいのですが!?》
 万が一、以前お世話になった謎の声であった場合のために、少し丁寧に応答する。

 《俺が精神時間をいじってやってるからまだ話す余裕がある。大丈夫だ》

 時間?どういうことだ?と、マルファーニとカニを観ると、動きが超スローモーションになっている。もしかして.......

 《度々、スローモーションにしてたのはあなたなのでしょうか?》

 《あなたってのはやめろよ。気持ちわりいな。敬語もやめろよ、言葉の使い方で意識差が生まれるとやりづれえから。俺の名前は破壊神のイドだ。説明は省略するが、訳あってオメーと精神が同化している。あと、オメーに色々な知恵や力を与えていたのはエルトロンじゃなくて俺だ》

 《そ....そうなのか。それはどうも.....》

 《色々な制約があって、こういう通信はあまり多くは出来ない。だから、重要な事だけ言うぞ》

 《ああ、分かった》

 《オメーが不安で感情に流されると、こちとら迷惑なんだよ。意念が阻害されちまう。不安や感情の動きに逆らえ.....それが正解だ。以上!!》

 ............

 え?まじでそれだけなの!?

 《もしもし。もしもーし?》

 どうやら、イドとかいう奴からの答えは無いようだ。

 不安や感情の動きに逆らえ、か。女神様から教えてもらった瞑想にも通じることかもしれない。それほどに重要なのだろうか。
 
 
 イドからの通信が切れても、スローモーションは続いている。

 この時間を使って不安に対処しろってことか。荒っぽい口調だが、案外、親切な所がある。


 俺は”マルファーニ(吾郎)が殺されたらどうしよう!”と、自身の心をソワソワさせる不安を確認すると、その不安を掴むような感じで意識した。
 
 すると、しだいに.........
 ”不安な自分を客観的に観察する自分”のような存在が心の中に現れた気がする。
 
 その直後である。
 一つのアイデアが浮かんだ。

 あのカニは人間の知能を持っている可能性が高い。
 だったら、俺があのカニの意識に干渉できるのではないか?

 マルファーニの行動に影響を与えられたのだから、あのカニにも出来るのでは?

 早速、俺はあのカニが出口を明け渡し、マルファーニを通してやるイメージを浮かべた。
 
 その瞬間、世界は通常の速度に戻った。
 カニはマルファーニに追い打ちをかけようと迫っていたが、ピクリとした後、動きを止めた。

 すると、ぎこちない動きでカニは横へと移動し、マルファーニと出口を結ぶ直線上を退く。

 マルファーニは片手を地につけて苦悶の表情を浮かべていたが、困惑の表情を浮かべていた。
 
 「...................?
 何をしてるの?」

 今だ!!メルミアを連れて早く行くんだ!!!
 俺は拳を握りしめ、マルファーニが逃げるよう願った。

 が.........あろうことか、マルファーニは立ち上がり剣を構えるとカニと闘う意思を見せた。

 ぐはぁ!!俺の意図が全然伝わっていない。まあ、仕方があるまい.......


 俺はカニだけでなく、マルファーニの行動にも干渉しようと考えたその瞬間である。


 突然、マルファーニの足元に魔法陣が広がった。
 すると、マルファーニの髪色が銀とオレンジを混ぜたような色で輝き始めた。

 身体全体が髪色と同様の光輝を放ち始める。
 
 え!?何だこれ?
 この色って、マルファーニの解析時に観た”女神エラールユリオプス”の髪色にそっくりなのだが.........

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