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人類の見守り役

45話 エルトロンを見つけたけど......

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 荒川恵美(ユリアナ)視点

 40話の続き
 前回のあらすじ

 エルトロンとユリアナの過去の回想
 ↓
 ストラウスに言われ、ユニコーンのリーディングをしてみる
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 ストラウス(モロゾフ)に言われ、ユニコーンをリーディングしてみる。

 数十メートル先のユニコーンの足元に魔法陣が広がった。

 すると、私の脳裏に”白い部屋”が現れ、そこにはモニターがある。
 これはユリアナとしての解析魔法の特徴である。
 ここで対象の情報を閲覧することができるし、やろうと思えば他の人間にも同様の情報を見せることができる。

 モニターには先ほどのユニコーンがおり、隣にこう書かれている。
 それを読んで、私は心臓にヒビが入るかと思うほどの衝撃を受けた。
 
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 実体 ベルモスユフィー
 ニンファル顕現体 リコルヌホペア

 美しい色合いが特徴の一角獣。性格は穏和であり、人間に危害を加える事は無い。
 4億5千年ほど前、メルシアに存在していた種である。様々な事情によりニンファルに80年前から出現した。

 実体であるベルモスユフィーは仮相界ニコルヌゼリにて、女性のクラゲ型知的生命体(クラゲ人)として176年前に誕生した。
 比較的進歩した仮相界であるニコルヌゼリでは文明を持つ必要が無かった。それがゆえに仮相界であるにも関わらず、全ての住民が前世の記憶を持ち、真相界を通じて他の仮相界の情報を得られる。
 さらに、場合によっては、進歩において後を行く他の仮相界の住民の行動に干渉することも可能であった。
 それがゆえに、ベルモスユフィーは他の仮相界の住民が文明に固執しているのを見下し、周囲のクラゲ人と共に馬鹿にしていた。
 さらに、時折、”相手の世界のためだ”として、他の仮相界の住民の行動に干渉し、その世界の文明破壊に繋がる行動を促した。

 ニコルヌゼリは進歩した世界であるがゆえに《他者の悪口を言う・自身の正義を人に押し付ける》といった事だけでも大きなカルマが生成される。世界全体の風習からかけはなれた行動であるほど、良いにしろ、悪いにしろ自身に返ってくる影響は大きくなる。

 上記の事があるため、ベルモスユフィーの行動が自身に及ぼす影響は大きく、今世においては文明を持つ存在への共感力を高めるためにリコルヌホペアとして転生させられる事にまで繋がった。
 実体であるベルモスユフィーは覚醒状態にあるが、物的肉体であるリコルヌホペアの行動をコントロールすることはできない。しかし、イメージを描くことで、その行動に影響を与えることが稀に可能である。

 文明の中に生きるニンファルの人間に動物として仕え、文明に依存して生きる者達へ共感力を築けたなら、次は文明に依存した世界の人間として、仮相界にて転生する見込みである。

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 私が天使としてウラノスで生活していた時、仮相界ニコルヌゼリについては話で聴いた事はある。

 クラゲ型の知的生命体が暮らす世界で、”他者へを認め他者に干渉をしない強い精神”を築くための仮相界である。

 それでもニコルヌゼリについてよく知らないので、解析画面で仮相界ニコルヌゼリについての解説も少し入っていた。
 
 
 ただ....

 私がショックを受けているのは、知的生命体が動物に転生したという事実である。
 私のユリアナとしての記憶の中では一度もこのようなケースを観たこと無いし、他の人間から聴いた事も無い。

 ”知的生命体に備わる肉体の進歩は後に下がることは無く、知性が向上すれば知性に相応した肉体を得る”

 これが父の法則の基本だった。
 例え、どれだけ悪行を重ねても、転生先は人間であったはずなんだけど。

 
 私がショックを受けている顔を察して、ストラウスが言った。

 「エルトロンがパーゲトルを殲滅した後、人間を含む知的生命体が動物や魔物に転生する流れが生まれました。あと、それと共に、ニンファルでは魔物が人間を襲うケースが大幅に増加しているようです」

 私よりも先にマルシャが反応した。
 「う、うそだぁ!知的生命体が動物や魔物に転生するなんて、聴いたことないよ!」
 私と同様に困惑している。解析しなければ到底信じがたいことだろう。

 「これが本当だとしたら、なぜ、そんなことに.......」
 私は顔を俯かせ、顎に手をあてて考える。しかし、その仕草は表面的なものであるのが自分でも分かる。
 この悲劇が過去のパーゲトル殲滅と関係があり、自分が原因の一つではないかという恐れを誤魔化したくて考えているフリをしているのだ。

 
 ストラウスは私の気持ちを見透かしたように、何でもない事のように語った。

 「これはユリアナやマルシャの責任ではありません。また、エルトロンの責任でもありません。詳しい事は分かりませんが、エルトロンの行動を影響したのがこちら側の創造主である以上、こちら側の創造主の御業みわざによって為されたものでしょう。
 人間的存在に輪廻転生の流れを変えることなど不可能なのは、あなたもご存じでしょう?」

 「そ、そうね..........そうであったとしたなら、なんで悪魔側の創造主はこのような仕組みを作ったのかしら?」
 私はストラウスの言葉に少し救われた事に後ろめたさを感じつつ、率直な疑問を述べた。

 「創造主の考えておられる事など私如きに分かるはずが無いでしょう。
 ただ、私自身の考えはあります。神々や天使側の創造主の創った仕組みを破壊するか、あるいは、不完全であった部分を補うため。後、全知的生命体に信奉される事で力を増そうと考える天使側の創造主の意図を砕くため....です。もちろん、これが正しい確証などは無いのですが」
 
 ストラウスの言った通りだろう。私達に創造主の意図など分かるはずが無い。
 
 それにしても、私とマルシャの転生を悪魔側の創造主が行ったものなら、悪魔側の創造主の意図通りになるような仕掛けが私に施されているのではないか?

 さらに言えば、人間が動物や魔物に転生するという事は、天使側の創造主にとって都合が悪く、悪魔側の創造主にとって都合が良いということ。
 ただ、この仮説が正しいのは、二つの創造主的存在が対立している場合に限るだろう。

 それにしても”魔物が人間を襲うケースが増えている”って、人間が動物や魔物に転生している事と関係があるのかしら?

 私は腕を組み考えこんでいると......何だか心の内側がムズムズして大通りに目を向けた。
 あまりにも衝撃的な事を聴かされているので意識してなかったが、さっきから「勇者様!よくぞご無事で!」「マルファーニ様!!」という群衆の声が、通りから聴こえていた。

 群衆が集まって二人の女性を囲んでいるようだ。

 けど.........

 そんなことどうだっていい。

 深紅色に金が加わったような髪色の長髪。中性的というよりは男性と女性の美を同時に最高まで引き上げたかのような美しい顔立ちの男性が、こちらを見ている。なぜか、私には彼が男性であると分かった。

 彼は私の愛するあの人の生まれ変わりではないか、という確信に満ちた思いが内側から胸を突き上げる。

 その思いに突き動かされ、私は彼の元に駆け寄ろうとした。
 エルトロン!!


 
 ..........しかし、後ろから左腕を掴まれた。
 ストラウスである。
 何やらストラウスらしくもなく、焦った顔をして私を引き留めている。


 離してよ!!

 と、声を張り上げようとした瞬間、足元に魔法陣が描かれた。

 次の瞬間、彼のいた大通りの光景は消え去り........

 目の前には淡い光を放つ豪華な宮殿がそびえていた。
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