輪廻を終える方法~無限進化と創造神の法則~

たぶり

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マルフィに起きた大異変

60話 エルトロンとユリアナが引き離される理由

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 46話の続き

 荒川恵美(ユリアナ)視点

 前回のあらすじ

 マルフィの宮殿の中でストラウスと話す
 ↓
 エルトロンとユリアナが結ばれると真相界全土で大戦が引き起こされると聴かされる
-------------------------------------
 真相界全土を巻き込む大戦??

 あまりにも飛躍した話に思考が追い付かない。
 ストラウスは何を言っている?

 私が混乱している最中、続けてストラウスは言う。

 「天使側の創造主は悪魔を駆逐するための機会を狙っています。あなたとエルトロンが深く関われば悪魔と神々による大戦の引き金が引かれるでしょう。

 エルトロンは天使側の創造主の秩序を破壊する力を秘めていて、あなたと結ばれエルトロンが完全体に近づくと、天使側の創造主すらも看過できない状況になってきます。
 天使側の創造主は自身の秩序の破壊を恐れていると考えられます。

 しかし、天使側の創造主が創った法則には、創造主自身も逆らえません。
 エルトロンとあなたは引き合い、エルトロンは完全体へと向かっていきます。

 そのため、エルトロンに秩序を破壊されるより前に、真相界全土において悪魔を駆逐する方向へと舵を取ろうとします。

 天使側の創造主がエルトロンを消すことはできなかったようですが、その上で、天使側の創造主に残されたカードの中でもっとも有効なのは

 ”悪魔を駆逐する事でこちら側の創造主の力を弱体化させ、その結果、エルトロンをこちら側悪魔側の創造主の影響から離脱させること”でしょう」


 私はあまりの話に言葉が出てこない。
 ソファーの上で、膝においた手を握りしめながら話を聴く。


「これまでも、あなたとエルトロンは前世において何度も関わりあってきましたね。それはあなたを通じ、こちら側の創造主の影響からエルトロンを離脱させるための天使側の創造主の計画の一部でもありました。

 ただ.......今のあなたはこちら側の創造主の影響も大きく、今のあなたがエルトロンと深く関わればエルトロンはこちら側の創造主の意志を体現するものとして、完全体に近づいていきます。

 そうなれば、エルトロンは天使側の創造主の秩序を破壊していくでしょう。

 天使側の創造主はそれを懸念しているがゆえに、そうなる前に、真相界全土において悪魔を駆逐するための戦争を引き起こしてくるだろう、ということです」

 エルトロンが父の秩序を破壊する力を秘めている。

 この話の内容自体信じがたいものだが、そもそも、一人の天使や神にそんな事ができるのだろうか。

 同様の事を思ったのか、マルシャがストラウスに質問をした。

 「う~ん.....エルトロンが悪魔側の創造主の意志の体現者だったとして、父の秩序法則をどうやって破壊するの?」

 「先ほどもお伝えした通り、エルトロンは天使側の創造主の法則を外れた力を持っています。その力により、こちら側の創造主が意図した秩序へと近づけていくことになります。
 エルトロン自身は無自覚でしょうし、ただ、そこに存在しているだけでこちら側悪魔側の創造主が望む秩序を広げていくでしょう。

 私の聴いた所によると、エルトロンは真相界に入界した後に、立て続けに襲われ続けているようです。しかも、同じ界にいないはずの魔神や雷神などに.......です。実は、それはエルトロンを中心にこちら側の創造主による秩序が顕現してきたことによるものです。
 まあ、襲われている件に関しては、転生後に出来上がった自我が持つ課題点ゆえのようですが」

 エルトロンが襲われていると聴いても、それはあまり私にとって心配には及ばなかった。
 あのエルトロンであれば、襲われてもやられる事は無いと確信している。

 ただ、気になるのは........

 「”悪魔側の創造主による秩序”って一体、どんなものなの?」

 「私などが、あの遥かなるお方の秩序を表現するなどおこがましいのですが、私が考えるに.....

 ”全存在にとって区別差別などの無い、全てが平等な世界”です。

 例えば、天使側の創造主は精神年齢に合わせた住み分けを重視し、事実上、神以外には自由に界を行き来できないよう転移魔法なども禁じていますね。

 こちら側の創造主はそうした制限を無くそうとしておられます」

 これを聴いて、私が天使として長年疑問に思ってきた事の謎が解けた。

 謎だと思っていたこと。
 それは、《天使にもできない転移魔法を悪魔が行える理由》である。

 なぜできるのか?
 
 悪魔側の創造主の秩序法則が、悪魔を通して顕現しているからである。
 だから、天使側の創造主の法則により転移が禁じられていても、悪魔側の創造主の影響を受けている悪魔は転移を行うことができる。

 もしかしたら、エルトロンだけではなく、悪魔側の創造主の影響を受けた存在を中心にその影響力は広がっていく......ということなのかもしれない。
 まるでそれはウイルスのように。

 ストラウスも悪魔側の創造主の意志を体現する存在なのだろう。

 おそらく、このように一緒に過ごすだけでも、私達に悪魔側の創造主の影響は及んでいくのではないだろうか。果たして、それが良いことなのか悪いことなのか.....私には分からないのだけど。
 ただ、天使としての自我がある今は、あまり心地良いこととは思えない。

 私が考えに耽っていると、マルシャがストラウスに軽く噛みついた。

 「全存在にとって区別差別の無い世界って、綺麗な感じで言うけどさぁ......人間の知性は人それぞれ到達度合いが違うんだよ??それをごっちゃにしたら、世界中で混乱が起こっちゃうよ。戦争なんかもいっぱい起こるかもしれない!それってどうなの??」

 「私には天使や神々特有の”知性が足りない存在は、知性のある自分が手厚く保護しないと”という、傲慢な態度のほうが問題だと思いますね。
 まあ、それが傲慢であるとさえ気が付いていないでしょうが。

 天使は過剰に導きたがりますが、なぜ、相手の行動より、自身の導きの方が正しいと信じられるのでしょう?例え、相手が道を誤ったように見えても、それが10億年、100億年の遥か未来まで先を考えた時、それが誤りだと言い切れるでしょうか?

 無菌状態では人間の体の免疫力が落ちていくように、ばい菌を取り入れることで体が強くなり、長期的に良いということがあります。
 同様に、未来まで考えた時に、愚かにも見える人間の過ちが、未来にとって最善の結果を産む可能性はつねに存在しています。
 天使や神々の傲慢さで人間の無限の創造性を妨げるのはいかがなものでしょう。

 時間が有限であれば導きも多くする必要があるでしょうが、知的生命体の全てが永遠の命を授かっているのですから、”過ちを犯す機会すらも作らせない住み分け”を重視する天使側の創造主の秩序は、逆に人間の成長の妨げになると考えています」

 マルシャはぐむむむ......と、口を結んでいる。

 流石にストラウスは天使の中でも上層の仕事をしていただけはある。
 理論の筋が通っている。

 ただ、この口論はあまり実りが無いだろう。
 お互いの信じる正義を主張しあうに終始するだけだ。

 私はもう一つ、気になっていた事を聴くことにする。

 「人間が動物や魔物に転生しているのは、悪魔側の創造主による秩序と関係があるの?」
 
 「はい。関係があるでしょう。まだ、私にはその意味の多くは掴みかねますが.......転生者が過去の罪を早く償うのと、暴れる動物や魔物に対処することが人間の成長にとって最善ゆえに、そうなっているのだと考えています」

 マルシャがそれに対して何かを反論しそうになった時であった。

 ..........赤く長い髪を三つ編みにした可愛らしい悪魔が走ってきた。

 私が荒川恵美であった頃にお世話になった、メゾニエルである。
 今もメイド服を着ている。

 だが、何やらひどく慌てた様子でストラウスしか見えていなさそうだ。

 「ご主人様!マルフィに神のような存在が入界したようです!!ベゾマープラが次元のゆらぎを観測しました。正確な位置はまだ分かりません」

 「そうですか........どのように来たかは分かりませんが、間違いなく彼でしょう。これに乗じて、天使側の創造主がどう出るか.....。場合によっては彼と戦闘になるかもしれません。彼が入界した事を住民達にも周知して頂けますか?」

 メゾニエルは「はい!」と頷くと、どこかへ転移していった。


 入界してきた人物を....彼と呼ぶことで曖昧にしていたが、あまり隠す気はないようだ。
 おそらく、彼とはエルトロンのことだろう。

 それにしても、場合によっては戦闘になるってどういうことなの?

 「どうやら対処すべき重大事項が現れました。
 マルフィを観光するなり、ウラノスへと飛び立つなり、あなた達は自由に行動されるのが良いと思います。では.......」

 と言った瞬間、ストラウスの足元に魔法陣が広がり、何も言わずに転移していった。
 
 あの話の内容を聴かされて、なおかつ、エルトロンと戦闘になるかも....みたいな会話を聴かされて、ウラノスに飛び立てるわけが無い。

 さて......これからどうしよう。
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