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人類進歩の大役
74話 ムスカリ君からの頼み
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「本当だ......めちゃくちゃ綺麗だな」
母さんが言った通りだ。
夜になったら、内庭にある花や噴水の水が発光し、夢のような光景を醸し出している。
闇の中を照らす赤や紫、青、ピンクなどの花々の色。
噴水の飛び散った水が、パステルカラーの光の粒子となり蛍のように辺りを漂い、消えていく。
アースで付き合ってた彼女と、イルミネーションが名物の遊園地に一度行った事があるが、比較にならないほど綺麗である。
今となっては、あまりいい思い出じゃないんだが。
俺は、廊下の途中にある木製のベンチに座って、内庭を眺めていた。
なぜか、この豪邸、温泉なども付いていて、さっき上がってきたところである。
今俺が座っている後ろが温泉への入り口だ。
何となく温泉に入ってみたが、やっぱりしっくりこなくてすぐに上がってきた。
ぬるま湯程度にしか温度を感じないのもそうだし、何か一人でおままごとをしてるような、空虚な気持ちになるんだよな。
温泉に入るぐらいならこうやってベンチで何もせずにいた方が心の満足感が得られる。
実は、これはアースに居た頃から同じである。
俺はスーパー銭湯が好きだったのだが、死の数年前から突然、”娯楽全般”を、空虚に思い始めた。それはおままごとに感じる気持ちと同様である。
そして、スーパー銭湯に行く意味も感じなくなり、週末は家でぼーっと過ごすか、公園でぼーっと過ごすか、公園の子供達とぼーっと過ごす.....いや、子供達と遊ぶか....そんな余暇を過ごしていた。
今思えば、けっこう変人だよな。
そんな俺に対し、この家、なんで温泉がついてるんだろう。
俺の性質を具現化した家という話なんだが。
あ......でも、家の様々な場所に謎のスペースがあるのは、俺が大雑把でゆるい性格だからという点は納得。この家、家具とかが少なくて、全体的にスペースが異様に広くとられている。
もしかしたら、街もそうなのかもしれない。
「周さん、隣座っていいかい?」
ぎょっ!?いつのまに!!
この家に図書室があるのを知って、ムスカリ君はさっきまで図書室にこもっていた。
いつからそこにいたのか、ムスカリ君が立っている。
「ああ、いいよ。ほら、内庭の景色がえらいことになってるよ」
「うわぁ、本当だね」
.........................
男二人で木のベンチに座り、内庭を黙って眺める。
「........周さんは、自分の中に化け物がいるって感じたことある?」
内庭から目を逸らさずにムスカリ君は言った。
「へっ?? 化け物がいるとまでは思ったことは無いけど......ああ、でも、醜い感情が出てくる事はあるかな」
(さっきエルトロンに嫉妬したように)
「周さんでもそういう気持ちが湧いたりするんだね」
こちらを向き、意外そうな声でそう口にした。
俺を妖精とでも思ってるのか。
そして、ムスカリ君は続ける。
「僕はマルフィの洞窟で成長してから、世界を救うヒーローみたいな自己像っていうのかな?そういうのが生まれたんだ。ほら、ヒーロー物の映画を観たあとって自分が強くなった気がするでしょ。それがずっと続く感じ。
ただ.......そんな自分を嘲笑う”もう一人の自分”も同時に生まれた。
そいつは、今は傍観者だけど、時が来たらヒーローとしての自分を食い尽くし、自分に成り代わってやろうと隙を伺っている。
ハッキリ言って、そいつはヒーローとしての自分がどれほど強くなっても手が届かない化け物なのが、自分でも分かるんだ」
目を虚ろにして視線を落とすムスカリ君。
「......ムスカリ君」
「周さん.......お願いがあるんだけど、いいかな」
「うん?何だい?」
「僕がこの化け物に飲み込まれる事があれば、僕に代わって、周さんが退治してくれない?」
「...........あぁ、分かった」
「ありが........」
「ただ、条件が一つある。俺は、ムスカリ君が強くなるためにあらゆる手を施すつもりだ。一緒に強くなる努力をしてくれるか?
もし、そうでないなら、化け物に加担して世界を滅ぼしちまうぞ」
「え!!?そ.....それはちょっと.....」
「それが嫌なら、俺と一緒に強くなろう。もちろん、俺だってそれほど強い人間じゃない。だから、一緒に強くなろうぜ。化け物なんかに取り込まれない、真に強い男になろうよ」
少し間を置いて、ムスカリ君は
「うん......どうせ目指すなら最強だ!!」
と、元気に言った。
姿が変わってから初めてみる無邪気な子供らしい姿だった。
男の子はなにかと最強って言いたがるからな。
”一緒に強くなる努力をしないなら、化け物に加担して世界を滅ぼしちまうぞ”
という趣旨の事を言ったのは、今のムスカリ君が何者かを探るためでもあった。
その時の反応で、ムスカリ君の実体が魔神ベルギウスなのか、それも違う何かなのかを知りたかった。
この程度で正確に分かるわけはないが、今の反応を見た限りでは、世界を滅ぼされては困るといった価値観を持つ何かなのか?
やっぱり、魔神ベルギウスの悪性を中和できるほどの何かがムスカリ君に宿っていて、それが今のムスカリ君なのかもしれない。芽が出た程度の段階だろうけど。
あと、ムスカリ君....《ヒーロー物の映画を観た後、自分が強くなったように感じるでしょ》っていう例えを使っていた。ムスカリ君は古代人だったはずなんだが.....おそらく、その感覚はムスカリ君の実体のものだろう。
その後、ムスカリ君は自室に戻り、俺も自室に戻った。
5階にある10畳ほどの部屋が俺の自室だ。
この部屋は装飾がさほど施されておらず、壁は白くキラキラしていて、床は赤茶色の木のようなもので出来ている。ただ、変わった点は、床全体がどうみても一枚板で出来ていることだ。
木の渦巻いた模様に寸断されたところが一つも無い。木目が美しくて、いつまでも観ていられるな。
屋根には大きな天窓がついていて、環のついた黄土色の巨大な惑星が空に浮かぶのが見える。
その向こうには月ほどの大きさの蒼い惑星がある。
窓からは街を見渡せる。
だいたいの家は灯りがついていないが、1軒だけ灯りのついた家が見えた。
主任かマルシャさんだろうか。
俺の部屋はそんなに広くない所が気に入っている。
それでもアースに居た頃の部屋より倍ぐらい広いのだが、このデカい家からするとかなり狭い方だろう。
........にしても、睡眠が必要ない身体なのに夜が来るっていうのは不思議な感覚だ。
その内慣れるかな。
俺も図書室に行って色々本を読んでみようかなと思ったが.....なぜか気が乗らないので、自室でこうやってベッドで寝転んでいる。
今まで一か所でじっとする場面なんて無かったから分からなかったけど、真相界は暇だな。
食べる必要も無い、寝る必要も無い、だけど、時間だけはある.......って、人によっては相当な苦行じゃないか?
何かやる事は無いだろうかと考えたが、何もしたいことは無い。
どうせ何もしないなら、積極的に何もしないでみようと思った。
すなわち、瞑想である。
床に座り、座禅を組んで目を閉じてみる。
数十秒後.....意識が闇に包まれた。
・・・・・・・
ん?なんだこれ?
明晰夢みたいなやつか?
俺の家の会議室に二人の女性と一人の男性がいる。
赤髪短髪のやんちゃそうな顔をした男性。
赤と紺が混ざった不思議な髪色で長髪の女性、メガネをかけた委員長タイプ。
赤に黄色が混ざったような髪色で活発そうな顔をした女性。
何か俺が前に立って話してるな。
客観的に観ると、自分で言うのも何だが、美しい。
深紅色と金の混じった長髪が宝石の如く輝き、美女とも美男ともつかない両性具有のただただ美しい何かだ。
人間という感じが全然しない。俺がこんな容姿でいいのか?中身とギャップありすぎだろ。
「人間がそれぞれの課題点を克服するにあたって、まずは自信をつけさせる事が大切だと思う」
声は、透き通って染み入る感じの.....女性と言われても納得できそうな声だ。
聴いていて心地いい。俺、こんな声なのか?
.........3人がふむふむと話を聴いている。
あ、場面が変わった。
何か様子が変だ。場の雰囲気が酷く悪い。
今度は俺が頭を下げている。
「人間にとって”自信”というものがこんなに厄介だったとは.....すまない。浅はかだった。」
「ん....これは、周さんのせいではないです」
メガネの委員長がフォローの言葉を投げかける。
「だけど、これで島崎さんは進歩の道筋を外れることになりそうだぞ。パーゲトルの連中の意のままになっちまう。島崎さんの守護神に何といったらいいか」
「ちょ!ケンゴ、口を慎みなさいよ。今回は運が悪かっただけ」
場の雰囲気から分かるが、俺が何か大きな失敗をやらかしたようだ。
・・・・・・・
おや、明晰夢は終わったらしい。
意識が通常に戻った。
今のは一体なんなんだ。
目を開いて、今観た明晰夢?の意味を考える。
自信が人間にとって厄介?
どういうことだ。
この先、見守り仕事をする上で重要そうな内容なんだが。
んん、まあ、考えてもよく分からん。
その後も、瞑想を続けたり、夜の街を散歩してみたりしていたら、いつのまにか空は明るくなっていた。アースよりも大分、昼と夜のサイクルが短いらしい。
そして.........顔合わせの時がきた。
どういうことだ。これ。
さっき明晰夢で見た会議室に3人が入ってきた。
俺はエスパーになったらしい。
「ん....この先、周様と共に見守りの仕事をさせて頂くユーリ・アルサレムと申します」
「俺.....いや、私はカシワザキ・ケンゴと言います」
「私はマルメ・クロムと申しますっ!」
容姿は明晰夢で見た通り。
って、領民って....3人かよ。
これは予想外。
あれだけ大きな街が作られたのだから、さぞかし、領民は多いのだと思ったが、来たのは3人だけだった。
しっかり一人一人と関係を築きたい派の俺には好都合だが。
どうやら話を聴いてみると、見守りの仕事の成果に合わせて領民が増えていくらしい。
「俺は野田周と申します........って敬語はやめませんか?今後、一緒に仕事する仲だし、気楽にいきましょう」
「おお!流石は話が分かりますね。じゃあボス、これからヨロシク頼む」
「ケンゴ....ちょっとそれくだけすぎじゃない?でも、堅苦しい人じゃなくて良かったよ」
おお!確かに、何か俺と波長が合う。
この二人はどうやら知り合いらしい。
「ん......私は敬語のままでも良いでしょうか?これがデフォルトなもので。でも、見た目ほどは堅苦しくないので安心してください」
だよな。メガネの委員長タイプのユーリがいきなり敬語を外したら、逆に驚きだ。
残りの二人も「ああ、全然構わないよ」と、にこやかに了承した。
ユーリさんは大和撫子という言葉がそのまましっくりくる、相当なメガネ美人だな。
他の二人は、ケンゴは精悍な顔つきで、暴走族のリーダーかというようなやんちゃさが滲み出ている。ただ、笑った時の目尻の皺が人の好さを醸し出している。
マルメは面倒見の良い感じがする。ちなみに、眼も体形も全然まるめではない。どちらかというと全体がキリっとしていて、ポニーテールの近所にいる美人のお姉さんといった感じだ。
真相界は精神の成長と共に容姿が整っていく傾向があるが、そういう意味では、彼らの容姿もかなり整っている。
ただ、何と言うか、アガパンサや主任のような、神のような感じとは少し違う。
やはり、人間という範囲の容姿だ。ある意味、すごく親しみやすい。
とりあえずは、俺を含めたこの4人で人類の見守りの仕事を進めていくのか。
成果を出すほどに共に仕事をする領民が増えていく.....まあ、当然と言えば当然だよな。
不安もあるが、この先を楽しみにする気持ちの方が強い。
母さんが言った通りだ。
夜になったら、内庭にある花や噴水の水が発光し、夢のような光景を醸し出している。
闇の中を照らす赤や紫、青、ピンクなどの花々の色。
噴水の飛び散った水が、パステルカラーの光の粒子となり蛍のように辺りを漂い、消えていく。
アースで付き合ってた彼女と、イルミネーションが名物の遊園地に一度行った事があるが、比較にならないほど綺麗である。
今となっては、あまりいい思い出じゃないんだが。
俺は、廊下の途中にある木製のベンチに座って、内庭を眺めていた。
なぜか、この豪邸、温泉なども付いていて、さっき上がってきたところである。
今俺が座っている後ろが温泉への入り口だ。
何となく温泉に入ってみたが、やっぱりしっくりこなくてすぐに上がってきた。
ぬるま湯程度にしか温度を感じないのもそうだし、何か一人でおままごとをしてるような、空虚な気持ちになるんだよな。
温泉に入るぐらいならこうやってベンチで何もせずにいた方が心の満足感が得られる。
実は、これはアースに居た頃から同じである。
俺はスーパー銭湯が好きだったのだが、死の数年前から突然、”娯楽全般”を、空虚に思い始めた。それはおままごとに感じる気持ちと同様である。
そして、スーパー銭湯に行く意味も感じなくなり、週末は家でぼーっと過ごすか、公園でぼーっと過ごすか、公園の子供達とぼーっと過ごす.....いや、子供達と遊ぶか....そんな余暇を過ごしていた。
今思えば、けっこう変人だよな。
そんな俺に対し、この家、なんで温泉がついてるんだろう。
俺の性質を具現化した家という話なんだが。
あ......でも、家の様々な場所に謎のスペースがあるのは、俺が大雑把でゆるい性格だからという点は納得。この家、家具とかが少なくて、全体的にスペースが異様に広くとられている。
もしかしたら、街もそうなのかもしれない。
「周さん、隣座っていいかい?」
ぎょっ!?いつのまに!!
この家に図書室があるのを知って、ムスカリ君はさっきまで図書室にこもっていた。
いつからそこにいたのか、ムスカリ君が立っている。
「ああ、いいよ。ほら、内庭の景色がえらいことになってるよ」
「うわぁ、本当だね」
.........................
男二人で木のベンチに座り、内庭を黙って眺める。
「........周さんは、自分の中に化け物がいるって感じたことある?」
内庭から目を逸らさずにムスカリ君は言った。
「へっ?? 化け物がいるとまでは思ったことは無いけど......ああ、でも、醜い感情が出てくる事はあるかな」
(さっきエルトロンに嫉妬したように)
「周さんでもそういう気持ちが湧いたりするんだね」
こちらを向き、意外そうな声でそう口にした。
俺を妖精とでも思ってるのか。
そして、ムスカリ君は続ける。
「僕はマルフィの洞窟で成長してから、世界を救うヒーローみたいな自己像っていうのかな?そういうのが生まれたんだ。ほら、ヒーロー物の映画を観たあとって自分が強くなった気がするでしょ。それがずっと続く感じ。
ただ.......そんな自分を嘲笑う”もう一人の自分”も同時に生まれた。
そいつは、今は傍観者だけど、時が来たらヒーローとしての自分を食い尽くし、自分に成り代わってやろうと隙を伺っている。
ハッキリ言って、そいつはヒーローとしての自分がどれほど強くなっても手が届かない化け物なのが、自分でも分かるんだ」
目を虚ろにして視線を落とすムスカリ君。
「......ムスカリ君」
「周さん.......お願いがあるんだけど、いいかな」
「うん?何だい?」
「僕がこの化け物に飲み込まれる事があれば、僕に代わって、周さんが退治してくれない?」
「...........あぁ、分かった」
「ありが........」
「ただ、条件が一つある。俺は、ムスカリ君が強くなるためにあらゆる手を施すつもりだ。一緒に強くなる努力をしてくれるか?
もし、そうでないなら、化け物に加担して世界を滅ぼしちまうぞ」
「え!!?そ.....それはちょっと.....」
「それが嫌なら、俺と一緒に強くなろう。もちろん、俺だってそれほど強い人間じゃない。だから、一緒に強くなろうぜ。化け物なんかに取り込まれない、真に強い男になろうよ」
少し間を置いて、ムスカリ君は
「うん......どうせ目指すなら最強だ!!」
と、元気に言った。
姿が変わってから初めてみる無邪気な子供らしい姿だった。
男の子はなにかと最強って言いたがるからな。
”一緒に強くなる努力をしないなら、化け物に加担して世界を滅ぼしちまうぞ”
という趣旨の事を言ったのは、今のムスカリ君が何者かを探るためでもあった。
その時の反応で、ムスカリ君の実体が魔神ベルギウスなのか、それも違う何かなのかを知りたかった。
この程度で正確に分かるわけはないが、今の反応を見た限りでは、世界を滅ぼされては困るといった価値観を持つ何かなのか?
やっぱり、魔神ベルギウスの悪性を中和できるほどの何かがムスカリ君に宿っていて、それが今のムスカリ君なのかもしれない。芽が出た程度の段階だろうけど。
あと、ムスカリ君....《ヒーロー物の映画を観た後、自分が強くなったように感じるでしょ》っていう例えを使っていた。ムスカリ君は古代人だったはずなんだが.....おそらく、その感覚はムスカリ君の実体のものだろう。
その後、ムスカリ君は自室に戻り、俺も自室に戻った。
5階にある10畳ほどの部屋が俺の自室だ。
この部屋は装飾がさほど施されておらず、壁は白くキラキラしていて、床は赤茶色の木のようなもので出来ている。ただ、変わった点は、床全体がどうみても一枚板で出来ていることだ。
木の渦巻いた模様に寸断されたところが一つも無い。木目が美しくて、いつまでも観ていられるな。
屋根には大きな天窓がついていて、環のついた黄土色の巨大な惑星が空に浮かぶのが見える。
その向こうには月ほどの大きさの蒼い惑星がある。
窓からは街を見渡せる。
だいたいの家は灯りがついていないが、1軒だけ灯りのついた家が見えた。
主任かマルシャさんだろうか。
俺の部屋はそんなに広くない所が気に入っている。
それでもアースに居た頃の部屋より倍ぐらい広いのだが、このデカい家からするとかなり狭い方だろう。
........にしても、睡眠が必要ない身体なのに夜が来るっていうのは不思議な感覚だ。
その内慣れるかな。
俺も図書室に行って色々本を読んでみようかなと思ったが.....なぜか気が乗らないので、自室でこうやってベッドで寝転んでいる。
今まで一か所でじっとする場面なんて無かったから分からなかったけど、真相界は暇だな。
食べる必要も無い、寝る必要も無い、だけど、時間だけはある.......って、人によっては相当な苦行じゃないか?
何かやる事は無いだろうかと考えたが、何もしたいことは無い。
どうせ何もしないなら、積極的に何もしないでみようと思った。
すなわち、瞑想である。
床に座り、座禅を組んで目を閉じてみる。
数十秒後.....意識が闇に包まれた。
・・・・・・・
ん?なんだこれ?
明晰夢みたいなやつか?
俺の家の会議室に二人の女性と一人の男性がいる。
赤髪短髪のやんちゃそうな顔をした男性。
赤と紺が混ざった不思議な髪色で長髪の女性、メガネをかけた委員長タイプ。
赤に黄色が混ざったような髪色で活発そうな顔をした女性。
何か俺が前に立って話してるな。
客観的に観ると、自分で言うのも何だが、美しい。
深紅色と金の混じった長髪が宝石の如く輝き、美女とも美男ともつかない両性具有のただただ美しい何かだ。
人間という感じが全然しない。俺がこんな容姿でいいのか?中身とギャップありすぎだろ。
「人間がそれぞれの課題点を克服するにあたって、まずは自信をつけさせる事が大切だと思う」
声は、透き通って染み入る感じの.....女性と言われても納得できそうな声だ。
聴いていて心地いい。俺、こんな声なのか?
.........3人がふむふむと話を聴いている。
あ、場面が変わった。
何か様子が変だ。場の雰囲気が酷く悪い。
今度は俺が頭を下げている。
「人間にとって”自信”というものがこんなに厄介だったとは.....すまない。浅はかだった。」
「ん....これは、周さんのせいではないです」
メガネの委員長がフォローの言葉を投げかける。
「だけど、これで島崎さんは進歩の道筋を外れることになりそうだぞ。パーゲトルの連中の意のままになっちまう。島崎さんの守護神に何といったらいいか」
「ちょ!ケンゴ、口を慎みなさいよ。今回は運が悪かっただけ」
場の雰囲気から分かるが、俺が何か大きな失敗をやらかしたようだ。
・・・・・・・
おや、明晰夢は終わったらしい。
意識が通常に戻った。
今のは一体なんなんだ。
目を開いて、今観た明晰夢?の意味を考える。
自信が人間にとって厄介?
どういうことだ。
この先、見守り仕事をする上で重要そうな内容なんだが。
んん、まあ、考えてもよく分からん。
その後も、瞑想を続けたり、夜の街を散歩してみたりしていたら、いつのまにか空は明るくなっていた。アースよりも大分、昼と夜のサイクルが短いらしい。
そして.........顔合わせの時がきた。
どういうことだ。これ。
さっき明晰夢で見た会議室に3人が入ってきた。
俺はエスパーになったらしい。
「ん....この先、周様と共に見守りの仕事をさせて頂くユーリ・アルサレムと申します」
「俺.....いや、私はカシワザキ・ケンゴと言います」
「私はマルメ・クロムと申しますっ!」
容姿は明晰夢で見た通り。
って、領民って....3人かよ。
これは予想外。
あれだけ大きな街が作られたのだから、さぞかし、領民は多いのだと思ったが、来たのは3人だけだった。
しっかり一人一人と関係を築きたい派の俺には好都合だが。
どうやら話を聴いてみると、見守りの仕事の成果に合わせて領民が増えていくらしい。
「俺は野田周と申します........って敬語はやめませんか?今後、一緒に仕事する仲だし、気楽にいきましょう」
「おお!流石は話が分かりますね。じゃあボス、これからヨロシク頼む」
「ケンゴ....ちょっとそれくだけすぎじゃない?でも、堅苦しい人じゃなくて良かったよ」
おお!確かに、何か俺と波長が合う。
この二人はどうやら知り合いらしい。
「ん......私は敬語のままでも良いでしょうか?これがデフォルトなもので。でも、見た目ほどは堅苦しくないので安心してください」
だよな。メガネの委員長タイプのユーリがいきなり敬語を外したら、逆に驚きだ。
残りの二人も「ああ、全然構わないよ」と、にこやかに了承した。
ユーリさんは大和撫子という言葉がそのまましっくりくる、相当なメガネ美人だな。
他の二人は、ケンゴは精悍な顔つきで、暴走族のリーダーかというようなやんちゃさが滲み出ている。ただ、笑った時の目尻の皺が人の好さを醸し出している。
マルメは面倒見の良い感じがする。ちなみに、眼も体形も全然まるめではない。どちらかというと全体がキリっとしていて、ポニーテールの近所にいる美人のお姉さんといった感じだ。
真相界は精神の成長と共に容姿が整っていく傾向があるが、そういう意味では、彼らの容姿もかなり整っている。
ただ、何と言うか、アガパンサや主任のような、神のような感じとは少し違う。
やはり、人間という範囲の容姿だ。ある意味、すごく親しみやすい。
とりあえずは、俺を含めたこの4人で人類の見守りの仕事を進めていくのか。
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