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人類進歩の大役
82話 インフルドによる人間への悪影響
しおりを挟む凛子さんはスマホをいじって何やら携帯ゲームをしていたが、ママと遊びたい、と娘に言われ一緒に積み木を始めた。
途中まで二人でお城を作って遊んでいたが、すぐに凛子さんは娘から離れ、ソファーの上でスマホをいじりだしてしまった。
瓜子ちゃんはママをちらちらと見てふてくされつつ、積み木で一人遊びを始めた。
そして、30秒後......「ママ、ジュース飲みたい!」と不機嫌そうに言った。
客観的に観ると明らかだが、これはママの気を引くために言った言葉である。
しかし、凛子さんはジュースを取ってきて、またスマホのゲームに戻ってしまった。
そして、ついに......
「うわぁあああああん!!!」
瓜子ちゃんは泣き出してしまった。
その声に驚いた凛子さんは瓜子ちゃんに駆け寄り、抱っこして瓜子ちゃんをなだめている。
その表情は怒りでもなく、ただただ困惑の様子だった。
その様子からして、瓜子ちゃんが泣いている原因が何なのか、凛子さんは全く分かっていなさそうだ。
俺達4人はその様子を見ていて、切ない気持ちになった。
「何だか二人とも可哀そうです....」
ユーリがそう呟く。
俺は、瓜子ちゃんの泣いている理由が分からない凛子さんを責めるような言葉を口にしなかったユーリに感心しつつ....
「ああ、そうだな」
と口にした。
子供の自立心を育てるために放任することが愛と無自覚に思っている凛子さん。
直接、一緒に遊んでもらうことで愛を感じられる瓜子ちゃん。
この二人の愛はだいぶすれ違っている。
このままいくと、瓜子ちゃんは母親のことを完全に諦めてしまうだろう。
”ママに対しては適当にふるまっておこう”という意識が育ち、そういう関係が続けば、他の人間を信じられなくなったり、蔑むことにつながる。
すると自立はできるが、他の誰かのために行動したり、他の誰かを信じられなくなっちまう。
さて........どうしたもんか......
うん..?
瓜子ちゃんをなだめている凛子さんの背後に何か灰色のオーラが滲んでいるのが見えた。
俺はその灰色の内側をのぞき見るように、意識を集中させた。
げ...........何だ、これ。
蜘蛛だ。
しかも、けっこう大きい。
それが四方八方に糸を張り巡らせていて、その一つが凛子さんについてる。
「凛子さんの背後、お前たちは何か見えるか?よーく見てみてくれ!灰色のオーラが....」
「何も見えないが....」
「ん...何かありますか?」
「何もないよー?」
どうやら3人には観えないらしい。
そうか....これも俺だけが観えるものなのか。
それなら......
「分かった。ちょっと行ってくるから、凛子さんと瓜子ちゃんの様子を観察していてくれ!」
俺は凛子さんの元へと転移した。
実は俺はキノコの仕事場にいなくても導きの仕事ができる。
アガパンサの時同様、直接、アースに行くことができるからだ。
俺は凛子さんの背後に出現した。仮に凛子さんが振り返っても俺の事は見えないだろう。存在している世界が違うのだ。
そして、俺は凛子さんの背後のオーラに意識を集中させ......その蜘蛛が存在する場所へと向かった。
俺は蜘蛛の目前に姿を現した。
「ぬわ!!?なんだお主はぁ!!!」
俺の出現に、蜘蛛の巣の真ん中にいる蜘蛛が仰々しい声をあげた。
コイツしゃべれるのか。
近くで見ると見の丈は6mほど。
目は8つで、色は灰色。
全体が灰色で固そうな装甲のような殻で包まれている。
周囲を見渡せば、森林の中のようだが、色が全部灰色である。
空も灰色だし、地面の落ち葉も何もかもが灰色なのだ。
ここの世界には灰色以外無いのか。
ん......空を見てみると、目の前の蜘蛛の巣の端が空の歪みに突き刺さっている。
その先に色々な世界の人達がいるのだろうか。
「俺は野田周だ。ちょっと聴きたいんだが、お前、人間に何かしてるのか?」
「人間?何だそれは.......お主が何をほざいているかは知らないが.......」
と蜘蛛が言った瞬間、地面に積もっていた枯れ葉が蜘蛛の糸に姿を変え、俺を捕らえた。
コイツの糸は偽装できるのか。
もしかしたら、このあたりにある木なども全てコイツの糸かもしれない。
蜘蛛の糸は這い上がってきていて、すでに俺の腰辺りまで全て包み込んでいる。
うわぁ........
『吾輩の前に姿を現したからには、お主は吾輩に食われなければならぬ!』
なんだその理屈は。
昭和のいじめっ子か。
「見るに、お主が纏うそのオーラ......お主を食したらさぞかし天へと近づけるのだろうなァ」
と、言い、ニチャアと蜘蛛が笑った気がした。
人を食べて天へと近づくってなんだよ。
どうもこの蜘蛛とは生きる世界が違う気がする。
いや、実際に違うのか。
俺は蜘蛛の糸に捕らえられたが、焦りの感情はどうも湧いてこない。
俺を捕らえている蜘蛛の糸に意識を集中させた。
『我が偉大な魂の糧になるがよい!!』
と、顎門を開き俺の頭部に食らいつくべく、こちらへ飛び掛かってきた。
『がぁ!?』
蜘蛛が何かに引っかかった衝撃と共に、苦し気な声をあげた。
俺の1mほど手前の空中で蜘蛛が静止している。
蜘蛛の足8本の内、5本に蜘蛛の糸が巻き付いている。
やや横に傾きながら身動きできず、ジタバタしている。
『吾輩の糸が...なぜ...』
「捕らえられて食われる気持ちが分かったか.....いや、頼まれても俺はお前のことは食わないけど」
蜘蛛の糸を構成する要素を、俺が操作できる要素へと作り替えた。
そして、蜘蛛を捕らえたのだ。
これが創造魔法なんだか空間魔法なんだか知らないが。
おや?もしかして、俺が操作できる要素ってのがエーテルなのか?
それにしてもどうしよう。
住む世界が違いすぎて、話が通じ無さそうだ。
そもそも人間の事知らないみたいだったし、無自覚に凛子さんに悪影響を出している可能性が高い。
質問を変えよう。
ただ、コイツが素直に答えるとは思えない。
仕方がない......
俺は自分から灼熱のオーラが吹きあがるイメージをした。
同時に、ボンッ!!という爆発音と共に、俺の身体から熱波が怒涛に吹きあがった。
どうやら灼熱のオーラは30mほどの高さまで吹き上がっているようだ。
相変わらず色は灰色だが。
『ウガガァアアアア!!何だこの熱はぁああ!お主は何者....グアアアァア熱い!!』
高熱に焙られて悶える蜘蛛。
「質問だ。お前が天に近づくと何になるんだ?」
『グアアァアア!答える、答えるからそれを止めてくれェ!!』
灼熱のオーラを俺へと収束させていった。
「答えてもらおうか」
『吾輩が天に近づくと....今よりも広大な縄張りが...得られる。新たな姿や能力まで含めてな....』
蜘蛛が荒い息を吐きながら答えた。
そうなのか。
俺のいる世界と近い概念だな。
精神の成長によってそうなるか、何かを食してそうなるかの違いだ。
しかし、コイツの存在は凛子さんに何か影響している。
成長すればもっと多くの人間に良からぬ影響が及ぶ危険性が高いだろう。
一体、人間とどういう関連があるのかもっと詳しく知りたい.....
「君はインフルド退治までしてるのか」
隣から声がした。
驚いて振り向くと、アロハシャツと半ズボンの神様がいた。
エスペランダー・カーンである。
「隠れて見せてもらっていたよ。君達の導きがどんなものか実際に観たくてね。君が慌てた様子で凛子さんの元へ行ったから何かと思ったよ」
「ご覧になられてたんですね。.....俺はインフルドが何か知らないのですが、それって何ですか?」
「無意識に人間の精神に干渉している魔物だよ。コイツらの成長は人間の世界における障害になる。凛子さんの場合だったら、娘に関心を向けにくくなる、といった影響だろうな。元は凛子さんの幼少期の環境が原因だが、それに加えてコイツらの影響がある」
「それを断ち切る方法ってあるのでしょうか?」
「なに、簡単さ。君もこうしようと思ってたんだろ?」
なにやら、カーンは蜘蛛の元へ歩いていった。
右腕が光り始めている。
蜘蛛はひどく怯えた様子で狼狽している。
『ま...まま待て!!吾輩がすまなかったァ、何でもするから...』
「カーン様、ちょっと待っ...」
俺が静止の言葉を口にした瞬間、光った右腕を蜘蛛に突き刺した。
突き刺された場所を覆う殻が砕け散り、グゥウ!!と蜘蛛が苦しそうな声をあげる。
そして、カーンの右腕の光が蜘蛛の身体に注入されるように入っていった。
次の瞬間、蜘蛛の身体が分解されたように、細かく千切れ始め、光の粒子へと変わっていった。
「これでコイツの影響は無くなる。凛子さんの導きもやりやすくなるはずだよ」
爽やかな笑顔で右手を開いたり閉じたりして、こちらに見せている。
俺はそんな爽やかな気分には慣れなかった。
この蜘蛛も一個の知性ある存在だ。何とかお互いにとって良いように対策を考えるつもりだった。
だが、カーンを責めることもお門違いだろう。
俺は神のやり方を良く知らないし、インフルドがどういう存在かも知らないのだから。
「カーン様....インフルドの人間に対する脅威はどれほどのものなのでしょうか?」
「ん~、アースの人間の大部分は影響を受けてるんじゃないかなぁ。直接にしろ、間接的にしろね」
「そうですか....」
ひどく後味の悪い最後だったが、凛子さんや他の人達への負の影響が除去できるなら、少しは納得できる思いもした。
それにしても、あの蜘蛛が天とやらに近くほど人間にとっての障害に繋がるらしいこの構造....何ともやりきれない感じがする。
その構造、根本的に変えることはできないのだろうか。
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