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人類進歩の大役
81話 エスペランダー・カーン
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「野田周君、初めまして....かな? 僕はエスペランダー・カーンと呼ばれている。長いからカーンとでも呼んでくれ。遠慮はいらないよ?」
目の前には絶世の美男子がいる。
やはり神ともなると、人間離れした美しさを持つらしい。
ヘマタイトのように輝く漆黒の髪に、切れ長の目に銀色の瞳。
冷徹なまでの賢さをその眼力に感じる。
ただ.......不可解な点がある。
なぜ、この神様はアロハシャツに半ズボンを着ているんだろう。
超絶イケメンの兵士長のような外見に、その服装は少しも似合っていないのだが。
日が昇って、今日はエスペランダー・カーン様が来る日だなと思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
そして、玄関のドアを開けたら、この男性がいたのだ。
「はあ、どうも。では、カーン様と呼ばせて頂こうと思います」
「あはは、水臭いなぁ~、君と僕との仲じゃないか~。まあ、今は初対面だから仕方ないか...」
おぉ.....さらに外見と合わない陽気な口調で話しかけてきた。
どうも、目の前の神様と俺の過去が知り合いだったらしい。
「じゃあ、本題に入ろうか。野田周君、君の導きは見事だったよ。君の叩き出したポイントは、僕達、神々の間でも見た事が無いほどだった。
そこで、君にさらに3000人を預けようと思う。
新たな領民3000人が訪れるのは、一週間後ぐらいかな。
それにあたって何か気になることは無いかい?」
「ええと、俺は組織のトップなんて経験したことが無いんですが、そんな俺で務まりますかね....」
「あれだけ見事な導きをしておいて、何いってんの~。いいんだよ、テキトーにやっとけば、きっとできるんじゃない?」
うわっ!!軽っ!?
この神様、今まで見た事が無いほどの色物かもしれん。
「そ、そうですか....」
「まあ、あえて言うなら、組織化のポイントは、信賞必罰を徹底することかな!組織化には恐怖も必要だろう?」
と言って、ニヤリと笑った。
陽気でテキトーかと思ったら、何かマッチョな発言が飛び出した。
俺、この神様苦手かもしれん......
「それでね.....今後の組織化にあたって、僕が君のアドバイザーを務めることになったんだ。
よろしくね!」
グッと親指を立てるアロハシャツの神様。
「ええ!?そうなんですね....」
まじかよ。考えられる限り最悪の展開だ.....
「アドバイザーといっても、特に口出しする気はあんまり無いから........まあ、街の片隅にある銅像とでも思っててよ」
いきなり職務放棄宣言か。
うん.....待てよ?
この神様、明らかに俺と価値観が違う。
俺が望んでいた”領民の俺に対する盲信”を外してくれるのに相応しい人間なんじゃないか?
正直、俺はこの男が苦手だが......もしかしたら、俺に反対意見をぶつける団体のトップとして適任かもしれん。
自殺行為になるか、それとも、英断になるか...
頼んでみるか。
「アドバイザーに関連する事でお願いがあるんですが、一つ宜しいでしょうか?」
「うん?何だい??」
「俺と同等の発言力を持つ団体を作ろうと思っていて、そこのトップをカーン様にお願いしたいのです」
俺がそう言うと、目の前の神様の眉がピクリと動いた。
カーン様の周囲から陽炎が立ち昇り、心なしか空間が歪んだ気がする。
「なぜ、君と同等の発言力を持つ団体なんかつくるんだい?君が街の領主だろ?」
この神様にはまるで理解しがたい発想で、なおかつ、自信の無い及び腰の態度に見えたのかもしれない。
今までの発言から推察するに、この神様は大胆で自信のある人間を好む傾向があるのだろう。
「俺は領民の進歩も担っています。領民の進歩にとって一番の障害が”俺への盲信”です。それを外すために、俺に公の場で反対意見をぶつけてくれる存在が必要なんです」
俺がそう口にした瞬間、空間のひずみがおさまった。
「部下に君を盲信させないために、君に反対意見をぶつける存在を自分から作ろうと言うのか?...........あは...はっはっはっはっはぁ!!こんなに愉快なのは久しぶりだなぁ。分かったよ。その願い、聴き入れよう」
やはり自信のある人間が好きなのか。
反対意見をぶつけてくる存在を自分から作る態度が”敵をあえてつくれるほどの不動の自信の持ち主”として認識されたのかもしれない。
「ありがとうございます」
まじでいいのかな、こんなお願いをして。
もう引き下がれんな.....
「それで、僕は何をすればいいんだい?」
「はい、時折、領民が行う会議の場に出て頂き、俺のやり方とは違うやり方を領民達にアドバイスして頂ければ幸いです。こういう考え方もあるよ!ってな感じで。あと、俺に対してもお願いします」
「領民にはアドバイスするとして.....あんまり君にアドバイスする気は無いんだがなぁ。まぁ、何かあれば君にもアドバイスするよ」
なんで俺にはアドバイスする気が無いんだよ。
元々、俺のアドバイザーじゃないのか。
「ちなみに、僕からも質問があるんだ。
”盲信が進歩を妨げる”という概念、僕は誰からも聴いた事が無い。
他の神々もそういう考えを持っている人間なんていないんじゃないか?
一応、その考え、理屈の上では何となく理解できるんだけど。
それは誰かから学んだものなのかい?」
「いえ、特に学んだ覚えはないですね。何となくそういうもんだと思っているというか.....」
「ふーん.....そうなんだぁー。まあ、そういう君だからこそ、たった一人の導きであのポイントを叩き出すことが出来たのかもしれないなぁ」
主任が盲信を解く事について知らなかったのは、俺の実体であるエルトロンとの進歩に差があったからじゃないのか?
どうやら神々の世界でも、盲信が進歩を妨げるっていう概念を知らないらしい。
そこそこ重要な事だと思うのだが、みんなそれらを知らないって....どういうことなんだ?
「............うああああぁあああー!!」
突然、大声で叫ぶカーン様。この神様、何でそんなにいちいちカオスなんだ。
「なんですか?」
「大事なこと忘れてたよ。街の名前は決めたかい?」
「フルブライドという名前に決めました」
「ふむふむ、フルブライドね.....」
なにやら顎に手をやり、両目を瞑って頷いている。
・・・・・・・・・・
その後、カーン様は転移して帰って?いった。
転移の際になぜかハイビスカスの花びらが飛び散るようなエフェクトが生じていたのだが、あれになんか意味があるのだろうか?
神様風のオシャレ?
そして.....
俺はキノコの仕事場で3人と再び、新たな導き対象を見つけていた。
「この人が島崎凛子さんだ。今は2歳の女児の育児中。女児の名前は島崎瓜子ちゃんだ」
俺は、島崎さんと瓜子ちゃんの二人をモニターに写しつつ説明した。
そういえば、島崎って.....以前、瞑想した際に観えた、俺の失敗場面で出てきた名前だな。
石英さんもそうだったと思うが、この人の場合でも自信をつけさせたら失敗するのだろうか。
「ボス.....育児中の女性相手に導けることなんてあるのか?」
その瞬間、育児経験者の女性二人がケンゴを睨んだ。
まあ、そりゃそうだろう......
「ケンゴ、お前の今の人格の基礎はいつ作られたと思う?」
「そりゃ、子供の頃......あ.....」
「そうだ。人間の人格は幼少期の頃に形成される。しかも、0歳~5歳までのかなり若い頃に、すでに人格の基礎はかなり組みあがっている状態だ。
だから、世界に善を成すならば、育児中の親への導きを重要視しなければならないだろう」
「な...なるほど」
「それで.....瓜子ちゃんがより良く育つために、3人はどうするのが良いと思う?」
俺は島崎凛子さんの情報をモニターに表示しつつ、問いかける。
-------------------
島崎凛子27歳。大工の父、着物の営業をする母の間で育つ。自立を重んじる家庭で育ち、自立心の強い性格へと育った。アパレルの仕事をしていて、かなりの仕事好きであったが、転勤族の夫の仕事の関係で、仕事を辞めることになった。
仕事好きであった事もあり、育児中、つねに自分に対して無価値感を抱えている。
-------------------
という情報だけ乗っている。
ただ、俺の脳裏に浮かんでいる島崎凛子さんの情報はこれとは違う。
つくづく思うが....この情報、随分と簡素すぎないか?
うーん.....山田石英さんの時もそうだったが、俺が思うに、こうした情報は閲覧者にとって理解できる範囲でしか表示されないのではないか?
確かに、全部が表示されてしまったら、答えを見ながらやるテストのように、無意味なものになりかねないよな。
「ん...そうですね。凛子さんの息抜きを図りながら、できるだけ瓜子ちゃんに愛情をもって接しられるようにするのが良いと思います」
さすがは育児経験者。導き対象者に寄り添った答えだ。
「私もユーリと同じ。ただ、本人も仕事が好きなようだし、近い内に仕事ができるようにしてあげたいな。瓜子ちゃんも、少し放任なぐらいの方が育つんじゃないかしら?」
おそらく、アースの育児時代、マルメも仕事好きだったのだろう。
「俺は凛子さんに育児関係の本を多く読んでもらうのがいいんじゃないかと思う」
知識を得る...か。実情に沿わない面もあるが、それほど悪い意見ではない。
「3人とも良い意見をありがとう。それで、俺の意見も話しておく。
まず大切なのは”瓜子ちゃんの世界観の構築”だと思う。
世界観は、知能よりも、能力よりも遥かに大切なんだ。
例えば、人間は優しいもの、っていう価値観を持って育った人は、以降も優しい人間と出会いやすくなるだろう。また、相手が実際に優しくなるような振る舞いをし、それは優しい世の中を作ることにつながる。
それで、子供はまず、親との関係を通して、人間に対する見方を決める。
だから凛子さんの愛情が瓜子ちゃんに伝わるように導く必要があるだろう」
「なるほど....確かに、人は優しい存在だと思ってた人は、実際に優しい人とよく出会っていた気がする。人間への不信感を持っていた人で、逆のパターンも観てきたけど.....」
「ああ、そうだな。世界観だけで人生全体が出来上がるわけじゃないんだが、確かに、人間への不信感を持つほどに、実際に人から裏切られることは増えてくる。
ただ、それを持って、取り返しがつかないと思ったり、人間不信を持つ人を悪いと思わないでくれ。
なぜなら、人間の進歩は優しいだけじゃダメなんだ。だからこそ、色々な世界観を持つ人により世界が形成され、奥深さもでてるんだ。
それに、世界観は自力で変えることもできるしな」
「ボス、世界観を自力で変える方法ってどんな方法があるんですか?」
「ん、まあ、それについては機会があったら教えるよ。
今は瓜子さんの育児の導きについて考えようじゃないか。
それで、次に大切なのは、”凛子さんの精神的課題”だ。
凛子さんは幼少期に親から自立を促されていて、放任主義で育てられてきた。
本人もそれを心地いいと思ってきた事から、自身も瓜子ちゃんが2歳児になるまで、ある程度放任で育ててきているらしい。
親の影響から放任主義が良いと思っている状態だ。
しかし....だからこそ、瓜子ちゃんは、逆に、放任しては上手く育たないであろう性質を持って産まれてきている。
現に今、2歳児まであまり注意せず放任で育てたことから、瓜子ちゃんはかなりやんちゃで、ルールを破る事に抵抗が無くなってきている。
親による価値観で上手くいかないのは、石英さんの時にも言った、親の影響を脱するための原理の一つだろう。
人生全体が親の影響から脱するよう様々な出来事を引き起こしてくるんだ。
産まれてくる子供の個性もその一つだよ。
凛子さんの場合では、子供としっかり向き合い、スキンシップを取ることが大切になるだろう。
どうやら幼少期に受けたスキンシップが少し足りない事が原因で、子供との接し方が分からない面もありそうだから、その点もフォローが必要だろう」
「「親から受けた影響によって、産まれてくる子供の個性が決まる!?」」
ユーリとマルメが驚いているようだ。
「ああ、そうだよ。ほら、親の影響によって出来た価値観で全てうまくいくなら、人生の意味なんてないだろ?だから、育児も親の影響から脱する過程でうまくいくようになっているのも不思議じゃないと思うが」
「「・・・・・・・・」」
二人は沈黙している。
育児中の女性への導きをきっかけに、育児の責任を強く感じはじめたか?
いや、別に、それほど多くの責任があるわけじゃないんだが.....
後々にフォローしていこう。
「だから、今回も、凛子さんの親からの影響を脱する方向で導きを行おうと思う。
その過程で、瓜子ちゃんに根付く世界観がより良いものになるよう、頑張っていこう、というのが俺の考えだ」
「ボスはやっぱり流石だな」
「いや、全員の意見に正しい点がある。俺だけが正しいわけじゃないよ。だから、今後の導きの中で、全員の意見の良し悪しを見ていこう」
やっぱり.........俺と3人の知識に差がありすぎて、どうしても3人が俺への盲信の域を出ないな。
もう少し俺が引っ込まないとダメなのかな。
それだと導き対象者が遠回り.....いや、この発想がダメなのだろうか。
俺も葛藤しつつ、凛子さんと瓜子ちゃんへの導きの方針を決めていくことになった。
目の前には絶世の美男子がいる。
やはり神ともなると、人間離れした美しさを持つらしい。
ヘマタイトのように輝く漆黒の髪に、切れ長の目に銀色の瞳。
冷徹なまでの賢さをその眼力に感じる。
ただ.......不可解な点がある。
なぜ、この神様はアロハシャツに半ズボンを着ているんだろう。
超絶イケメンの兵士長のような外見に、その服装は少しも似合っていないのだが。
日が昇って、今日はエスペランダー・カーン様が来る日だなと思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
そして、玄関のドアを開けたら、この男性がいたのだ。
「はあ、どうも。では、カーン様と呼ばせて頂こうと思います」
「あはは、水臭いなぁ~、君と僕との仲じゃないか~。まあ、今は初対面だから仕方ないか...」
おぉ.....さらに外見と合わない陽気な口調で話しかけてきた。
どうも、目の前の神様と俺の過去が知り合いだったらしい。
「じゃあ、本題に入ろうか。野田周君、君の導きは見事だったよ。君の叩き出したポイントは、僕達、神々の間でも見た事が無いほどだった。
そこで、君にさらに3000人を預けようと思う。
新たな領民3000人が訪れるのは、一週間後ぐらいかな。
それにあたって何か気になることは無いかい?」
「ええと、俺は組織のトップなんて経験したことが無いんですが、そんな俺で務まりますかね....」
「あれだけ見事な導きをしておいて、何いってんの~。いいんだよ、テキトーにやっとけば、きっとできるんじゃない?」
うわっ!!軽っ!?
この神様、今まで見た事が無いほどの色物かもしれん。
「そ、そうですか....」
「まあ、あえて言うなら、組織化のポイントは、信賞必罰を徹底することかな!組織化には恐怖も必要だろう?」
と言って、ニヤリと笑った。
陽気でテキトーかと思ったら、何かマッチョな発言が飛び出した。
俺、この神様苦手かもしれん......
「それでね.....今後の組織化にあたって、僕が君のアドバイザーを務めることになったんだ。
よろしくね!」
グッと親指を立てるアロハシャツの神様。
「ええ!?そうなんですね....」
まじかよ。考えられる限り最悪の展開だ.....
「アドバイザーといっても、特に口出しする気はあんまり無いから........まあ、街の片隅にある銅像とでも思っててよ」
いきなり職務放棄宣言か。
うん.....待てよ?
この神様、明らかに俺と価値観が違う。
俺が望んでいた”領民の俺に対する盲信”を外してくれるのに相応しい人間なんじゃないか?
正直、俺はこの男が苦手だが......もしかしたら、俺に反対意見をぶつける団体のトップとして適任かもしれん。
自殺行為になるか、それとも、英断になるか...
頼んでみるか。
「アドバイザーに関連する事でお願いがあるんですが、一つ宜しいでしょうか?」
「うん?何だい??」
「俺と同等の発言力を持つ団体を作ろうと思っていて、そこのトップをカーン様にお願いしたいのです」
俺がそう言うと、目の前の神様の眉がピクリと動いた。
カーン様の周囲から陽炎が立ち昇り、心なしか空間が歪んだ気がする。
「なぜ、君と同等の発言力を持つ団体なんかつくるんだい?君が街の領主だろ?」
この神様にはまるで理解しがたい発想で、なおかつ、自信の無い及び腰の態度に見えたのかもしれない。
今までの発言から推察するに、この神様は大胆で自信のある人間を好む傾向があるのだろう。
「俺は領民の進歩も担っています。領民の進歩にとって一番の障害が”俺への盲信”です。それを外すために、俺に公の場で反対意見をぶつけてくれる存在が必要なんです」
俺がそう口にした瞬間、空間のひずみがおさまった。
「部下に君を盲信させないために、君に反対意見をぶつける存在を自分から作ろうと言うのか?...........あは...はっはっはっはっはぁ!!こんなに愉快なのは久しぶりだなぁ。分かったよ。その願い、聴き入れよう」
やはり自信のある人間が好きなのか。
反対意見をぶつけてくる存在を自分から作る態度が”敵をあえてつくれるほどの不動の自信の持ち主”として認識されたのかもしれない。
「ありがとうございます」
まじでいいのかな、こんなお願いをして。
もう引き下がれんな.....
「それで、僕は何をすればいいんだい?」
「はい、時折、領民が行う会議の場に出て頂き、俺のやり方とは違うやり方を領民達にアドバイスして頂ければ幸いです。こういう考え方もあるよ!ってな感じで。あと、俺に対してもお願いします」
「領民にはアドバイスするとして.....あんまり君にアドバイスする気は無いんだがなぁ。まぁ、何かあれば君にもアドバイスするよ」
なんで俺にはアドバイスする気が無いんだよ。
元々、俺のアドバイザーじゃないのか。
「ちなみに、僕からも質問があるんだ。
”盲信が進歩を妨げる”という概念、僕は誰からも聴いた事が無い。
他の神々もそういう考えを持っている人間なんていないんじゃないか?
一応、その考え、理屈の上では何となく理解できるんだけど。
それは誰かから学んだものなのかい?」
「いえ、特に学んだ覚えはないですね。何となくそういうもんだと思っているというか.....」
「ふーん.....そうなんだぁー。まあ、そういう君だからこそ、たった一人の導きであのポイントを叩き出すことが出来たのかもしれないなぁ」
主任が盲信を解く事について知らなかったのは、俺の実体であるエルトロンとの進歩に差があったからじゃないのか?
どうやら神々の世界でも、盲信が進歩を妨げるっていう概念を知らないらしい。
そこそこ重要な事だと思うのだが、みんなそれらを知らないって....どういうことなんだ?
「............うああああぁあああー!!」
突然、大声で叫ぶカーン様。この神様、何でそんなにいちいちカオスなんだ。
「なんですか?」
「大事なこと忘れてたよ。街の名前は決めたかい?」
「フルブライドという名前に決めました」
「ふむふむ、フルブライドね.....」
なにやら顎に手をやり、両目を瞑って頷いている。
・・・・・・・・・・
その後、カーン様は転移して帰って?いった。
転移の際になぜかハイビスカスの花びらが飛び散るようなエフェクトが生じていたのだが、あれになんか意味があるのだろうか?
神様風のオシャレ?
そして.....
俺はキノコの仕事場で3人と再び、新たな導き対象を見つけていた。
「この人が島崎凛子さんだ。今は2歳の女児の育児中。女児の名前は島崎瓜子ちゃんだ」
俺は、島崎さんと瓜子ちゃんの二人をモニターに写しつつ説明した。
そういえば、島崎って.....以前、瞑想した際に観えた、俺の失敗場面で出てきた名前だな。
石英さんもそうだったと思うが、この人の場合でも自信をつけさせたら失敗するのだろうか。
「ボス.....育児中の女性相手に導けることなんてあるのか?」
その瞬間、育児経験者の女性二人がケンゴを睨んだ。
まあ、そりゃそうだろう......
「ケンゴ、お前の今の人格の基礎はいつ作られたと思う?」
「そりゃ、子供の頃......あ.....」
「そうだ。人間の人格は幼少期の頃に形成される。しかも、0歳~5歳までのかなり若い頃に、すでに人格の基礎はかなり組みあがっている状態だ。
だから、世界に善を成すならば、育児中の親への導きを重要視しなければならないだろう」
「な...なるほど」
「それで.....瓜子ちゃんがより良く育つために、3人はどうするのが良いと思う?」
俺は島崎凛子さんの情報をモニターに表示しつつ、問いかける。
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島崎凛子27歳。大工の父、着物の営業をする母の間で育つ。自立を重んじる家庭で育ち、自立心の強い性格へと育った。アパレルの仕事をしていて、かなりの仕事好きであったが、転勤族の夫の仕事の関係で、仕事を辞めることになった。
仕事好きであった事もあり、育児中、つねに自分に対して無価値感を抱えている。
-------------------
という情報だけ乗っている。
ただ、俺の脳裏に浮かんでいる島崎凛子さんの情報はこれとは違う。
つくづく思うが....この情報、随分と簡素すぎないか?
うーん.....山田石英さんの時もそうだったが、俺が思うに、こうした情報は閲覧者にとって理解できる範囲でしか表示されないのではないか?
確かに、全部が表示されてしまったら、答えを見ながらやるテストのように、無意味なものになりかねないよな。
「ん...そうですね。凛子さんの息抜きを図りながら、できるだけ瓜子ちゃんに愛情をもって接しられるようにするのが良いと思います」
さすがは育児経験者。導き対象者に寄り添った答えだ。
「私もユーリと同じ。ただ、本人も仕事が好きなようだし、近い内に仕事ができるようにしてあげたいな。瓜子ちゃんも、少し放任なぐらいの方が育つんじゃないかしら?」
おそらく、アースの育児時代、マルメも仕事好きだったのだろう。
「俺は凛子さんに育児関係の本を多く読んでもらうのがいいんじゃないかと思う」
知識を得る...か。実情に沿わない面もあるが、それほど悪い意見ではない。
「3人とも良い意見をありがとう。それで、俺の意見も話しておく。
まず大切なのは”瓜子ちゃんの世界観の構築”だと思う。
世界観は、知能よりも、能力よりも遥かに大切なんだ。
例えば、人間は優しいもの、っていう価値観を持って育った人は、以降も優しい人間と出会いやすくなるだろう。また、相手が実際に優しくなるような振る舞いをし、それは優しい世の中を作ることにつながる。
それで、子供はまず、親との関係を通して、人間に対する見方を決める。
だから凛子さんの愛情が瓜子ちゃんに伝わるように導く必要があるだろう」
「なるほど....確かに、人は優しい存在だと思ってた人は、実際に優しい人とよく出会っていた気がする。人間への不信感を持っていた人で、逆のパターンも観てきたけど.....」
「ああ、そうだな。世界観だけで人生全体が出来上がるわけじゃないんだが、確かに、人間への不信感を持つほどに、実際に人から裏切られることは増えてくる。
ただ、それを持って、取り返しがつかないと思ったり、人間不信を持つ人を悪いと思わないでくれ。
なぜなら、人間の進歩は優しいだけじゃダメなんだ。だからこそ、色々な世界観を持つ人により世界が形成され、奥深さもでてるんだ。
それに、世界観は自力で変えることもできるしな」
「ボス、世界観を自力で変える方法ってどんな方法があるんですか?」
「ん、まあ、それについては機会があったら教えるよ。
今は瓜子さんの育児の導きについて考えようじゃないか。
それで、次に大切なのは、”凛子さんの精神的課題”だ。
凛子さんは幼少期に親から自立を促されていて、放任主義で育てられてきた。
本人もそれを心地いいと思ってきた事から、自身も瓜子ちゃんが2歳児になるまで、ある程度放任で育ててきているらしい。
親の影響から放任主義が良いと思っている状態だ。
しかし....だからこそ、瓜子ちゃんは、逆に、放任しては上手く育たないであろう性質を持って産まれてきている。
現に今、2歳児まであまり注意せず放任で育てたことから、瓜子ちゃんはかなりやんちゃで、ルールを破る事に抵抗が無くなってきている。
親による価値観で上手くいかないのは、石英さんの時にも言った、親の影響を脱するための原理の一つだろう。
人生全体が親の影響から脱するよう様々な出来事を引き起こしてくるんだ。
産まれてくる子供の個性もその一つだよ。
凛子さんの場合では、子供としっかり向き合い、スキンシップを取ることが大切になるだろう。
どうやら幼少期に受けたスキンシップが少し足りない事が原因で、子供との接し方が分からない面もありそうだから、その点もフォローが必要だろう」
「「親から受けた影響によって、産まれてくる子供の個性が決まる!?」」
ユーリとマルメが驚いているようだ。
「ああ、そうだよ。ほら、親の影響によって出来た価値観で全てうまくいくなら、人生の意味なんてないだろ?だから、育児も親の影響から脱する過程でうまくいくようになっているのも不思議じゃないと思うが」
「「・・・・・・・・」」
二人は沈黙している。
育児中の女性への導きをきっかけに、育児の責任を強く感じはじめたか?
いや、別に、それほど多くの責任があるわけじゃないんだが.....
後々にフォローしていこう。
「だから、今回も、凛子さんの親からの影響を脱する方向で導きを行おうと思う。
その過程で、瓜子ちゃんに根付く世界観がより良いものになるよう、頑張っていこう、というのが俺の考えだ」
「ボスはやっぱり流石だな」
「いや、全員の意見に正しい点がある。俺だけが正しいわけじゃないよ。だから、今後の導きの中で、全員の意見の良し悪しを見ていこう」
やっぱり.........俺と3人の知識に差がありすぎて、どうしても3人が俺への盲信の域を出ないな。
もう少し俺が引っ込まないとダメなのかな。
それだと導き対象者が遠回り.....いや、この発想がダメなのだろうか。
俺も葛藤しつつ、凛子さんと瓜子ちゃんへの導きの方針を決めていくことになった。
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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