女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

文字の大きさ
35 / 149
女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第二章:息を潜めて 7

しおりを挟む

 そして、木曜日。

「あ~、やってられねぇ」

 休み時間、オレは掃除道具のロッカーに背を預けて大きく伸びをする。
 今日も全く悪霊が出る気配なし。お天道様も味方して、だらだらするには丁度良い日向ぼっこ日和だ。もしオレが小学生だったら芝生の上でごろ寝をしているだろう。
 いいよね、芝生。
 ごろごろ転がって体中に草をくっつけて遊びたい。

「眠くなってきたなぁ……あぁ、あったかくていいね……」

 教室では子供達が貴重な休み時間を大騒ぎして消費しているが、その喧騒けんそうも心地よいBGMのようだ。日差しの温もりが全ての物を包み込んでまろやかにしてくれる。

「……一眠り……してもいいよね………」
「ってコラー!何、ぼけっとしてるのよー!」

 目の前でぷかぷか浮いてぎゃーぎゃー叫ぶななだが、オレは気にしない。少し喧しいが日差しの優しさで効果半減、まろやかさにちょっぴりのスパイスといった塩梅だ。
 喩えるのなら、カルボナーラにブラックペッパー……みたいな?美味しいよね。料理下手が作ると炒り卵パスタになっちゃうけど。でもふわとろ卵なら許せるな~。
 ふわふわと言えば、ななはいつも浮いてるな……。

「全然話関係ないけどさ、浮いているのって気持ちいい?」
「そりゃあ気持ちいいよ。やってみる?」
「出来ないんだけどね」
「霊になってみたら出来るんじゃない?」
「んじゃ、ちょっくら霊になってみるわ」
「はい?」

 オレは おもむろにベランダへと向かう。

「駆郎にぃ!?待って、早まっちゃ駄目!冗談だから!っていうかそっちは行っちゃ――」

 ななが必死に止めようとするが、それよりも早くオレはベランダへと出る。
 そこへ、待ってましたとばかりに灰色の手がオレの足首を掴む。

「やっぱりいるじゃねぇか、四つ目」

 オレは背中に差し込み隠していた黒烏を引き抜き――悪霊がそれに反応するより速く刃で霊体を貫いた。
 黒烏の龍鎧石には浄魂の札が既に巻き付けられている。増幅された浄霊の思いが、間髪入れず悪霊の体を駆け巡っていく!

 悪しき気配が消え、悪霊の体が光の粒子に変化し始めた。

「よかった……。駆郎にぃ、飛び降りてなかった……」
「当たり前だろ。全部作戦だよ」

 二日間、悪霊が出ないことで奴がオレのことを警戒していることがよく分かった。
 しかし念導者、自分にとって天敵である人間を快く思うはずがない。機会があればまたオレの命を狙ってくるはず。
 機会――つまりはまた油断してのこのことベランダにやってくる時。
 ならばその機会をこちらから作ってしまおうというのが今回の作戦だった。いや、作戦なんて大仰おおぎょうなものでもないのだけれどね。
 試しにだらけた様子を演じてみた。何も知らないななは当然怒る。それに対して暢気なオレの様子を見て「いける」と思ったのか、ほんの一瞬悪霊の気配が漏れた。だからオレはうまく会話を繋げて自然な流れでベランダへ向かう……手ぶらで。もう一度言おう、手ぶらで。浄霊道具は背中に入っているのだから、誰が何と言おうと手ぶらだ。
 そして好機と勘違いして出てきた悪霊に対してカウンターを叩き込んで――今に至る。

「ったく、時間かけさせやがって。でも、これでお前も無事に浄化されるな」

 徐々に消えていく悪霊に目線を合わせてみる。
 自分がやった手と同じ虚を突く戦法で負けて、さぞ悔しそうにしているかと思って顔を見てやろうとしたのだが――

「ゴ…メンナ…サイ……」

 ――四つ目の男の子は、泣いていた。
 よく見ると、体中カタカタと震えている。まるで怯えているように。

「ボク、イイコニ……シテ……ル、カラ……モウ……タタクノ……ヤメ…テ……」

 消え入りそうなほどかすれた声で許しを請う姿は、悪霊よりも可哀想な子供にしか見えなかった。

「……もう終わったんだ。もう嫌なことは……終わったよ」

 ぽろぽろとしずくを落とす男の子の頭を、そっと撫でた。触れることは出来なかったが、優しくでた。
 自分でもどうしてそんなことをしたか分からない。
 でも、してあげたくなった。

 男の子は光の粒子になり――日差しの中に溶けて消えていった。

「これで、二つ目も解決だな」

 後味が少々悪い気がするが、これで無事終了。
 オレが入学するより前から続いていたであろうあの子の悪霊人生に終止符が打たれ、二年三組にも平和が訪れたのだ。

 そろそろ次の授業が始まる時間だ。戻らなくては。
 オレは教室に戻ろうとして――

「うおぅっ!?」

 ――ななが血涙を流していた。
 しかしいつもと違い眼は真っ黒になっておらず、血涙も一筋だけだった。














「どうしたんだ、なな?」
「え……、あれ?泣いちゃってたんだ……」
「うん、そうだな。血だけど」
「何でかな。あの子を見ていたら……ちょっと……」
「………それ以上言わなくてもいい。オレも、何となく分かったから」

 ななにハンカチを手渡す。いつでもななの血涙を拭けるようにと多めに用意していたのだ。
 オレは慰めるように肩をぽんぽんと優しく叩いてから教室に戻る。

「駆郎にぃ……」
「気にするな。血まみれになってもいい」
「そうじゃなくて……駆郎にぃの方が大惨事だよ」
「は?」
「いや、背中が」

 ななに指摘されて自分の背中を触ると、ぬるっとした感触。とても生温かい液体が掌にべっとり付いている。
 これは……見るまでもないな。血だ。
 黒烏を背中から引き抜いた時、刃が華麗にオレの背中を切り裂いたのだろう。あまりの切れ味の良さに、切れていることに全然気付かなかった。
 切れたと自覚した途端、今更じんじんと痛みが伝わってきた。
 傷はそんなに深くないっぽいので、回復の念を背中に送っておこう。
 だが、血まみれの制服はどうしようもないので……。

「……保健室行って代わりの服もらってくるわ」

 保健室までの道中、子供達の悲鳴が絶えなかったのは言うまでもない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

30日後に巨大隕石が衝突すると知らされた世界で、本当に大切なものを見つけた

てるぽに中将
SF
20××年、突然に世界中で同時に「30日後に恐竜を絶滅させた隕石よりも何倍も大きいものが衝突する予測」があり、「この隕石によって地球上のすべての人間が消滅する」との発表があった。 最初は誰もが半信半疑だった。映画の中の世界だと思った。だが、徐々に秩序を失い周りが変化していくうちに自らもその世界の変化に対応しなくてはいかなくなっていくのだった――。 読者の皆さんも「一番大切なもの」は何か? それもついでに考えていただければと思います。  ※小説家になろう にて「中将」の名前で同じ作品を投稿しています。

処理中です...