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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~
第二章:息を潜めて 8
しおりを挟む白い制服に綺麗な裂け目。その周りは自分の血で赤黒く染まっている。
悪霊を浄霊する過程で出来た名誉の傷……ではなくミスで思いっきり自分の背中を切ってしまったのだ。
とてもじゃないが二度と着ることは出来ない。どう見ても殺人事件の証拠品にしか見えないんだもの。
というわけで、休日を使って制服を買いに行ってきた。店主には「もう駄目にしたの?」なんてぼやかれたけど、反論の余地なし。素直に謝って、無事新品を手に入れることが出来た。
その帰り道、ぶらりと本屋に立ち寄ることにした。別に買いたい本はないのだが、暇潰しの立ち読みとしゃれ込むのだ。幼い頃からよく立ち読みをしていたから店員とも顔馴染みだし、多分「また来てるよ、あの子」なんて思っているだろう。辟易としていたら……ごめんなさい。面白そうな本があったらちゃんと買っていくので許して下さい。
因みにななは家で留守番、母さんと一緒にまったりしている。なので立ち読みする本が趣味全開フルスロットルでも茶化してくる奴はいない。
これはチャンスなのである。千載一遇、とまではいかないが大チャンスだ。特に秘蔵本を封印している現在、平和な気持ちで読めるのだからテンション上がる。
「……なんかないかな~……」
ななには刺激が強い本でも問題なし。さてさて、オレの琴線に触れる本はないか……と棚の周りをうろうろしていると、一人の女の子を発見した。どこかで見たことがある顔…………そうだ、図書委員のボーイッシュな子だ。
華奢な体つきで、健康面が少し心配になるほど手足がすらりと細い。ボブカットヘアーで可愛らしい顔だが、それに反して服やバッグには髑髏マークが付いている。不良気取りをしたい年頃なのだろうか。
だが、そんなことよりも年頃感が出ているのが、手に取ろうとしている本。
可愛らしい女の子が。
本屋の奥まったコーナーで。
官能小説を手に取ろうとしていた。
今、まさに大人の階段を上ろうとしているようだった。
こういうスケベ心に抗えず隠れて読もうとするのは男子ばかりかと思っていたが、案外女子もムッツリだったんだな。なんか初めて読んだ時のドキドキ感を思い出して、関係ないオレも息苦しくなってきたぞ。
色白な肌を真っ赤にしながら、緊張して震える手で小説へと手を伸ばしている。その本の表紙はおじさん御用達のリアル系ではなく、アニメ調の絵柄で魔法少女物っぽいキャラクターが描かれていた。題名こそ官能小説だろうことが分かるが、表紙だけ見ればただのライトノベルで間違って読んじゃったという言い訳もギリギリ通る良いチョイスだ。この子、なにげによく考えて行動しているな。そういうスキルは今後も役立つぞ。
意を決したようで、女の子は遂に本を手に取る。
その瞬間、ざわっと嫌な感覚がその子から漏れ出た。禍々しい、まるで色んな絵の具が混ざり合って出来た形容しがたい汚泥のような気持ち悪さ。
女の子がページをめくる度、禍々しさが増していく。明らかに異常、一般人から出てきて良いはずのない邪悪な気配だ。
そして、挿絵のページを開くと邪悪な気配は彼女を包もうとして――
「き、君……ちょっといいかな?」
――耐えきれず、オレは女の子に声を掛けてしまった。
体をびくんと大きく震わせると、女の子は勢いよく本を元の場所に戻して足早に逃げていった。
官能小説を読んでいるところを知り合いに見られたのが恥ずかしかったのか、それとも下心を持って近づいてきた不審者と間違えられてしまったのか。どちらでも良いが、とにかくオレが話しかけたことで邪悪な気配は引っ込んでいた。だが、残り香が凄まじい。常人には感じられないだろうが、どぶ川かゴミ処理場を連想させる不快さだ。
あの子は一体何者なんだ?
どうしてこれ程の邪悪さを持ち合わせているんだ?
あと何故官能小説を読み進めることで禍々しさが増していったんだ?
「あ、お兄さんだ~!」
底抜けに明るい声がして、その声の主が美羽ちゃんだと気付く頃にはオレは押し倒されていた。無論、飛び込んできた美羽ちゃん本人に。
「いてて……。どうしたんだい美羽ちゃん?」
「だってだって、お兄さんがいなくて寂しかったから~」
「仕方ないだろ。順番で色んなクラス回ってるんだから」
美羽ちゃんはいなくなったオレのことが恋しかったらしい。慕ってくれるのは嬉しいのだが、気持ちの表現の仕方をもう少し優しくして欲しい。あと早く降りろ、馬乗り体制はやめてくれ。
「こら、美羽!駄目でしょ!」
むんず、と首元を掴まれて、クレーンゲームのように美羽ちゃんが持ち上げられていく。アーム部分になっているのは文字通り紅花さんの腕だ。
「ごめんなさい、駆郎さん。もう美羽ったら、ママの恩人なんだから失礼なことしちゃいけませんよ!」
「そんな恩人だなんて。対霊処として尽くしただけです。それに慣れてますから」
「慣れてるから大丈夫だって~♪じゃあじゃあいいじゃん!」
「「よくないです」」
紅花さんと台詞が被った。なんだか可笑しくって、お互い笑ってしまった。
久しぶり……と言っても一週間ぶりくらいだが、紅花さんは憑きものが取れたようにすっきりした表情になっていた。相変わらず暴れん坊な美羽ちゃんに手を焼いているようだが、以前ほど神経質に気を遣って疲れているようではないみたいだ。
「今日は美羽ちゃんの絵本探しですか?」
「ええ。絵本というか、アニメの方ですけど。あと私の分ですけどレシピ本を買いに。駆郎さんは何を?」
「あー、オレはぶらっと立ち寄っただけで…………」
はっ、として思わず本棚に目を向けてしまった。釣られて紅花さんの視線も本棚の方へ行き――
「えっ」
――そこにある本は当然ながら官能小説。しかも最悪なことに題名に「人妻」「不倫」「間男」「夫に内緒で」なんて文字が入っている本がいっぱい。見事に紅花さんの立場にぶっ刺さるワードてんこ盛り博覧会だ。
「もしかして駆郎さん……」
「ち、違います!違いますよ!?」
「いけません、私には夫がいます!それに美羽も……。それなのにお世話になった、しかもこんな年下相手に……」
「落ち着きましょう、一旦!ね、一回ね!はい、深呼吸――」
「一回だけって、そんなのずるずる泥沼じゃないですか!それに恩返しでも結局それを弱みにして……」
「しませんから!あと、一回っていうのは深呼吸のことですよ!?妄想が暴走してますから!」
「ねーねー、それって鶴の恩返しのこと?」
「ああ、いけません!美羽、恩返しに体を使ってはいけませんよ!」
「紅花さん!?美羽ちゃんにはまだそういう話早いんでは!?」
「あ、そうだ!この女の子って新しいピカリンマジカルの子?」
ニコニコうっきうきな顔で美羽ちゃんが持ってきたのは――さっきのライトノベル風官能小説。
「美羽ぅっ!?どっどどどどこからこんな物っ!?見ちゃいけません!はい、目隠し!サンバイザー!」
紅花さん、すかさず自分のサンバイザーを被せる。
「これはピカリンマジカルじゃないから!断じて!別物!パチモン!それっぽいヤツ!」
オレは紛らわしい本を思いっきり引ったくり、元の場所へ突き刺し戻して事なきを得る。否、見なかったことにする。
「じゃあこっちの本の子は?」
「新しく出さないでくれるかな!?」
「うわ~。なんかねーなんかねー、ぬるぬるしたタコみたいなのにやられちゃってるよー?頑張れー負けるなー」
「だーかーらーっ!駄目だって!頼むからああああああっ!」
もう大パニック。
この後、馴染みの店員に三人揃ってこってり怒られました。
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