女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第三章:異なる理 5

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「うぇっ……げほげほっ」

 埃が凄い。これは絶対何年も掃除していないな。
 物をどかす度に真っ白な埃が巻き上がって、鼻と口からどんどん進入してくる。マスクを持ってくるべきだった、と後悔。
 この教材庫って本当に使っているのか?埃の被り方が尋常じゃない。子供が掃除で入らないアンド教師は忙しくて掃除する暇がないのダブルパンチで汚さ倍増。呼吸は苦しいし気分は悪くなる。
 出てくる物には昭和何年寄贈とか書いてあるし書籍の発行も古過ぎるし、これじゃあ物置部屋より物置している。まさか教材庫がこんな有様だからまだ使えそうな物があっちの部屋に詰め込まれているんじゃないだろうか。
 子供の頃は大人はしっかりしていて凄い、なんて思っていたけどそんなことない。ずぼらな人も行き当たりばったりな人もいる。その筆頭は……オレの母さんかな。
 疲れる。
 汗と埃で体中べとべとになる。
 でも、何故かとてもわくわくする。
 まるで探検している気分だ。よく通る場所のすぐ横にあるのに全然知らない道。通学路から外れた細い路地や道路の下を流れる用水路。デパートの地下空間なんかも良い。一歩踏み入れたら別次元に迷い込んだかのように錯覚してしまう、そんなロマン溢れる場所。
 小学生の時は後先考えず自分から迷子になったな。狭い場所があったら兎に角入ってどこに繋がっているか調べたくなっていた。
 奥部小にだって秘密の抜け道がある。オレが見つけた、隠し通路。
 校門がある敷地の東側に面した道路。防犯のため木々が生い茂り、周囲から中の様子が見えなくなっている。そんな木々の下、丁度兎小屋の真下に排水溝跡がある。現在の校舎が建設される前、旧校舎時代では兎小屋辺りは給食室だったらしく、その名残として未だにある排水溝なのだ。当たり前だが、現在は使用されていない。
 その排水溝は狭いがその気になれば潜り込むことが出来る。オレは冒険者の気分で突き進み、どこに繋がるか調べた。冷静に考えると超絶危険な行為だ。もし途中で体が突っ掛かって抜け出せなくなったらと思うとゾッとする。だが当時はそんなこと微塵みじんも考慮せず冒険していたし、結果的にゴールを見つけることも出来た。
 着いた先は現在の図書室の真下。正確に言うと奥の書庫だ。そこの床板の一つが偶然外れており、そこから学校内に入ることが出来たのだ。
 それこそオレが見つけたとっておきのルート。もしもの時はそこから学校に入ったり脱出したり、なんてよく妄想した。結局そんな一大事が起きることはなく、普通に卒業したんだけれども。そもそも不法侵入だし。
 でも、初めてあの穴に入った時のわくわくは一生忘れることはないだろう。そうそう、こんな感じに狭くて暗くて不安をあおるような道で、それでも前に進みたくなってしまう罪作りなロマンルート。

 おい、ちょっと待て。
 ここ何処どこだよ。

 思い出に浸りながら作業をしていたらいつの間にか四方八方真っ暗闇。ここは何処?私は誰?いや、天宮駆郎だよ。記憶喪失のななじゃあるまいし。
 さっきまでは確かに教材庫の中にいたはずだ。そして思い出の中の通路を思い浮かべながら……そうだ、部屋の隅っこに黒い穴があって入ったんだ。二度目の小学校生活、三週間目に突入して、童心に返ってしまったのかオレは。穴があったらダイビングしたいなんてよく考えていたけれども、本当に入る馬鹿がいるか。いるな、オレだわ。
 おかげで本当に迷子になってしまった。入ってきた穴は既に見えない。オレが入ったから消えてしまったのか。それとも見えなくなるほど遠くまで歩いてきてしまったのか。まさか長距離歩いて気付かないなんて、そこまで脳味噌が幼くなったとは思えない。思いたくない。絶対あり得ない。……はず。
 なんだろう。昔こんな感じの状態になったことがある気がする。部屋から飛び出したら真っ暗闇で、にっちもさっちもいかなくなるヤツ。
 あー、ゲームだわ。
 なんかのゲームで滅茶苦茶めちゃくちゃなプレイをするとバグを起こして変な空間に飛ばされちゃう、昔それをやってしまってセーブデータが全部消えたまわしき個人的事件があった。二度と同じてつは踏まないと誓った、あれとよく似ている。
 それならここはゲーム空間?そんなことがあってたまるか。この世界はゲームの世界で自分はプレイヤーに操られていただけでした、ってか?哲学みたいな話をしている場合じゃないわ。
 ぐだぐだ考えていても事態は好転しない。早く出口を探さないと。
 オレは早歩きで全方位漆黒の空間を歩き回る。有り難いことに足元には障害物はなく、転ばずに歩ける。見えない壁にぶつかる、なんてこともない。
 本当に闇しかない空間のようだ。

「ん?あれは……」

 視界の遙か先、白い点のようなものが見える。
 光だ。
 つまりは、出口。
 オレは全力を込めて白い点に向かって駆け出す。
 ぐんぐんと、白い点が近づいてくる。黒い闇との境界線がもやでぼやけており、差し込んでいるのが外の光であることを物語っていた。
 よかった。
 こんな訳の分からない場所から抜け出せる。
 これが、解放感。
 そうだ。オレが狭い場所を探検したがるのはゴールを見つけて解き放たれる気持ちよさが大好きだからだったんだ。日常の大切さの再確認再発見、子供心にそれを求めていたんだ。
 やっぱり、自由で開けた世界の方がいい。
 そんなありきたりな感想を言いたかった……のだが。

「は?何なんだよここは……?」

 光の先にあった景色は教材庫ではなく。
 奥部小のどこかではなく。
 ましてや自宅でもなく。
 全く見知らぬ、この世のものとは思えない奇っ怪な景色が広がっていた。

 空は極彩色ごくさいしき、水の上に垂らした色とりどりの絵の具をかき混ぜたようなマーブル模様。勿論ぐるぐると動いていて、目が回りそうだ。
 地面は平ら、のはずだが立っているだけで揺れているように感じる。まるで船上にいる気分だが、それにしては規則正しい揺れ方。三半規管が狂っているみたいだ。
 周囲には四角い物体を組み合わせた幾何学きかがく的なオブジェ。それが地面から生えている。いや、刺さっているのか?しかもこのオブジェ、ほぼ平面だ。
 そして暗闇空間の中に差し込んでいた光。その光源は太陽や月ではなく、マーブル空の向こうでぐねぐねとうごめく物体。強いて言うなら柔らかい蛍光管の集合体、とでも表現すれば良いのだろうか。他に適切な言葉が思い浮かばない。
 そんな不可思議な光源のせいか地面に伸びる影も常に動いており、四角い平面オブジェの影が生きているように見える。












 何なんだ、ここは。
 対霊処を継ぐために怪異全般の知識は幅広く学んだつもりだ。浅い知識しかない分野もあるが、それを差し引いてもおかしい。こんな場所の話なんて、どこにも書いてなかった。
 オレの全細胞が叫んでいる。「これは自力でどうにか出来るレベルじゃない」、と。
 戻ろう。
 こんな場所にいるくらいなら真っ暗闇の方がまだ幾分かマシだ。
 だが既に出口だった穴は綺麗さっぱりなくなっており、そこには岩らしき物体が積まれているのみ。……岩?岩かコレ?巨大な塊だけれども表面は出来の悪いポリゴンみたいだぞ。色も汚い緑色をしているし、岩じゃないな。じゃあ何だと聞かれると困るけど。
 って、正体不明の物のことを考えている場合じゃない。今度こそ出口、せめてさっきの暗闇空間に戻れる穴を探さないと。こんな色も形も光さえも常識外れな場所にいたら気が変になりそうだ。

 道標はない。
 ここは一つ、運に任せてみよう。
 オレは黒烏を垂直に立てて、手を離す。
 倒れた方向、先端が指し示す先を目指すことにした。
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