女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~学校の七不思議~

第五章:ミステリー・オブ・ミッドナイト 9

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「――という訳で、オレの相棒の霊に尾行してもらったんだ」
「嘘っ、何ソレ怖い!」

 夜中に学校に来る奴が怖がるな。あと、手を口元に持ってくるな。落ち武者頭のおっさんがやっても可愛くないわい。

「それじゃあ次はあんたの番だ。どんな事情で不法侵入したのか話してもらおうか」
「仕方ない……。で、でも聞くからにはオ、オレの熱い思いを受け止めてくれよ!?」

 どうした、急に。
 さっきまでのぼそぼそしゃべりと裏声は何処へやら。前のめりで勢いよく語り出したぞ。

「いいか、オレはこの学校の生徒だったんだ。とっても薔薇ばら色の学校生活だった!毎日が煌めいていた!」

 過去編から入るのかよ。長引きそうだな。
 多少は聞き流そう。

「だがしかし!社会に出てからは最悪だ、どん底だ、無法地帯だ!息苦しい肥だめの中、オレはそれでも幸福を掴もうとした……けど、リストラさ。簡単に見捨てられたんだ。それからは何してもうまくいかない、頑張っても報われない、もうやる気なんて出なくなった。体もおじさん化して、生きる希望なんてなくなった……」

 社会の闇ですか、コレ。半分くらいは聞き流しているが、それでも残りの半分が闇成分のダメージを与えてくるんですが。

「糞社会に汚されて腐ってしまったオレの性格じゃあ友達はおろか家族すら助けてくれない。日々ネットで嫌がらせに明け暮れるだけ。オレに残されたのはもう孤独死するだけ……そう思っていた。だけど、オレにはまだ希望が残されていた!そう、オレの近所にはかつてのパラダイス――奥部小学校があったのだ!」

 あ、やっと本題に入った。
 あと少しでこっちが鬱になりそうだったぞ。

「今では女性と話すことなんて皆無なオレでも、当時はいっぱい話すことが出来た。むしろけがれきった大人の女性に意味はない、小学生だからこそ意味がある!神聖なる小学生の女の子こそが死にかけのオレに生きる力をくれるんだ!だが、こんな腐れおじさんが小学校に入るなど許されない。その瞬間アウト、一発でお巡りさんがサイレン鳴らして飛んできてしまう!ああ、折角見つけた希望すらまやかしだったのか!?」

 おかしいな。本題に入ったと思ったのにまだ前置きが長いぞ。
 はよ終われ。

「否ぁっ!まだ最後の手段がある!そう、それこそがオレが子供の時に見つけた秘密の通路だ!あそこから入れば小学校の中へ行ける!そう気付いた瞬間、オレの体中に電流が走ったのさ!」

 お前も小学生時代にあの抜け道を見つけていたのか。子供の頃の変態落ち武者おっさんと同じ思考だったということは、オレも将来こんなのになってしまうのだろうか。
 嫌だわ。

「そして女の子達に触れずにいかに神聖なる力を得るのか、その答えはただ一つ!彼女達の体から排出される聖水を体に取り込むことなのさ!そう、聖水とは知っての通り尿、小便、おしっこだぁっ!」

 ……うん?
 そこで何故おしっこに行き着いたんだ?
 考えちゃ駄目か。深淵ヘンタイを覗く時、深淵ヘンタイもまたこちらを覗いているらしいし。

「オレは一年生から六年生までの全ての女子トイレを巡り、その便器にこびり付いて濃縮された聖水を舐め取る!その度にオレの体は幼き頃の輝きを取り戻せるんだ!あの黄ばみの鮮やかさが、爽やかな塩味が、鼻を刺すようなかぐわしき匂いが最高なんだ!学年によって聖水のテイストも違う、別物なんだ!勿論その日によっても違う。使った女の子によって十人十色の味を作り出している!それを思い切りしゃぶり尽くし、愛でてレビューする。これこそ芸術、オレは聖水ソムリエさ!」

 やばい、こいつの力説を聞いているだけで吐き気が込み上げてきた。実際にやっている場面を見たななのショックはいかほどだったのか、想像したくない。辛い役目を任せてしまった。

「おぅげぇぇっ」

 なながまた便器に顔を突っ込んでいる。
 改めて説明を聞いて思い出してしまったのだろう。

「げぼろろろろろっ」

 オレも一緒に吐かさせてもらおう。
 おぅ、いっぱい出るわ、出るわ。

「……何してるんだ?急に吐いたりして」
「そりゃ……おぇ。お前の気持ち悪さのせいだわ」
「オレの熱い思いを受け止めてくれるんじゃなかったのかよ!?」
「限度があるわボケ!秘技“あまみや流聞き流し”でダメージ半減させても心が満身創痍まんしんそういになったわ!」
「聞き流していたのかよ!?」
「無駄に長いからだよ!」
「まだまださ、オレの聖水愛はここからだよ!この思いを語るには一晩では足らない、全国ツアーでトークショーしたいくらいだっ!」
「その意欲を仕事することに回せよ」
「………………それは……言わないで」

 またぼそぼそ喋りに戻った。情緒不安定なのか、この人。頭の病院に行ってくれ。あとついでに健康診断も受けてこい。

「ふん、社会の荒波に揉まれたことのない若造にこれ以上話すことなどない。オレはそろそろ失礼させてもらうぞっ!」
「このまま逃がすと思うか?」

 オレは脱出口――トイレの窓の前で通せんぼう。
 絶対に逃がせない。こいつを捕まえれば窓開き現象は解決、変態は脳味噌更正施設行き。万事解決、万々歳だ。

「悪いがまだ捕まりたくない。全ての女の子の聖水を味わうまで!オレは歩みを止められない!」

 格好良く決めても内容が最低過ぎて共感出来ないし、やっぱり声が裏返っていて締まらない。
 早く終わらせよう。
 オレは黒烏を構える。相手は聖水タイプの変態とはいえ一般人、念導札は効かないし刃で切り裂いたら刃傷沙汰にんじょうざただ。やはり石突いしづきで殴打して気絶させるのが一番楽だろう。
 相手もそう考えなしに突っ込んでくることもないだろう、と思ったら馬鹿正直に真正面から向かってきた。
 ガリガリの男が両手をぶんぶん振り回しながら突撃してくる。体型から想定していたが、喧嘩の類いは不得意で体力もないのだろう。勿論戦法なんて持ち合わせていない。だから無策で特攻か。
 ならば鳩尾に石突の一撃を――

「ぶっふぁああああああっ」

 ――男の口から放たれる、吐息。
 それは透明な空気のはずなのに、黄ばんで見えた。

「うっ……おぅげぇっ……臭ぇぇぇっ……!?」

 何年も掃除していない公衆トイレのようなアンモニアが濃縮されたブレスが、オレの目と鼻と口を完全封殺。
 その隙に男はオレの横を余裕で通過し、窓へと一直線。

「なな……っ、頼むっ」

 あまりの臭気で動けないオレは相棒に援護を願うが――駄目だ。ななは便器に顔を突っ込んだまま体を弛緩しかんさせている。多分気絶している。

「ひひひっ、大人には敵わないってことさ。ではさらばっ」

 男はその身軽な体を活かして跳躍、近くまで伸びている樹木の枝へと飛び移る。
 猿かお前は。

 ずるっ。

 あ、落ちた。

「うわぁっ――ああああああああああぐげぶっ」

 下の方から悲鳴が聞こえた。あと断末魔みたいな声も。
 窓からそーっと覗くと、駐車場近くの花壇でぴくぴくしている男の姿があった。子供達が頑張って育てた花を滅茶苦茶にしたのは腹が立つが、その上に落ちたおかげでどうやら死なずに済んだようだ。

「…………とりあえず、通報しよ」

 ほったらかしにしておけないので警察と救急車を呼んでおくことにした。

 後日、ニュースで知ったのだが。
 この一件の犯人の名前は滑田なめた明斗あきと。無職の四十歳で、本人から聞いた通り近所に住むかつての奥部小生徒だそうだ。犯行動機はかなりオブラートに包んで報道されており、「小学校の空気を味わいたかった」ということになっていた。本当のことをお茶の間に流したら一種のテロだろう。
 一命は取り留めたようで現在入院中。奥部小という怪異まみれの地で愚行を繰り返したあげく転落したのに生きていたのは奇跡的……いや、いつもうまくいっていた飛び移りに失敗したことこそが怪異のせいかもしれない。
 
 こうして五年生の怪は無事解決したのだが、警察沙汰になったのがまずかった。
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