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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第一章:迷える霊が、そこにいた 2
しおりを挟む家に帰る頃には日が沈み、紺色の空が大半を占めていた。
季節も秋になって、夜になるのも段々と早まっている。怪談といえば夏だが、実際は夜の長い冬場が最も怪異の脂がのっている時期だ。体の芯まで凍り付きそうな真冬の深夜に出る空気の読めない悪霊も結構いるわけで、個人的に霊の旬は冬だと思っている。いや、旬って何だよ。食材かよ。
「たっだいま~」
脳天気な声でななは扉をすり抜けて家の中へ。遅れてオレは扉を開けて帰宅。霊だから関係ないだろうが、せめてオレが開けるまで待っていてくれよ。
「あら、おかえり。遅かったわね~」
玄関にはななとわちゃわちゃじゃれ合っている母さんがいた。
「そうなんだよ~、駆郎にぃったら悪霊叩きに時間かかってたんだよね~」
「言わんでいいから」
ほらすぐ余計なこと言う。
「あ~、今日の相手は踏切のとこだっけ。ああいうところのはしつこくて嫌なのよねぇ」
「一撃食らわせたら飛び散って後が面倒だったよ」
「まぁ実際轢死体って飛び散って集めるの大変らしいし、その辺の再現でしょ」
リアルなグロい話はやめてくれ、母さん。
「って、そんなことはどうでもいいのよ。それより駆郎宛てに依頼が来ているのよ」
「は?“あまみや”宛てじゃなくて?」
「うん、駆郎にって名指しで。因みに可児校長先生から」
珍しいな。
仕事の依頼は基本的に対霊処宛てが基本、対応にあたる念導者まで指定されることなんてなかなかない。あったとしてもそれは母さんのように実力がある念導者ではないと意味がない案件だからであって、オレのような見習いのひよっこを呼び出すことなんてあり得ない。何を考えているんだ、カニボウズは。
「明日の夕方……子供が帰ったくらいの時間に来てほしいそうよ」
「オッケー、了解」
何にせよ、どんな事情なのかは本人に聞いてみればいい。分からないことでごちゃごちゃ悩んだところで意味はないし、疲れているので今は休みたい。
「ちょっとシャワー浴びてくるわ」
浄霊道具がみっちり入った鞄を下ろし、仕事服を脱ぐ。
悪霊のせいで汚れたというわけではないが、血がこびり付いた手の霊体に纏わり付かれたのでひとっ風呂浴びたい。気分の問題というヤツだ。
「ねぇねぇ、ななも一緒に入ってもいいかなぁ?」
なながニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。
いつものことだ。人のことをロリコン扱いして、あの手この手でオレの反応を楽しんでいる。
「よし、じゃあ入るか!」
「ふぇっ!?」
なので、ちょっと逆襲。
あえてバッチコイウェルカムな反応をしたらどうなるか、今度はこっちがおちょくるターンだ。
知識を身につけているとはいえ、ななの精神年齢はまだ子供。しかも中途半端に恥じらいがある微妙なお年頃。本気で一緒に風呂場へレッツゴーする気もないのだろうし、さぁどうする?
「うぅ、しょうがないなぁ……」
ななは、そう言っておずおずと服を脱ぎ始める。
「え、いや……、待て待て待て!」
オイオイ、本当に一緒に入る気かよ!?
それは想定外だ、やめろ。やめてくれ。
いくらななの方が先に生まれた、もし生きていれば年上のお姉さんだからといっても現状ちびっ子を風呂場に誘う変態お兄さんにしか見えないぞ。いや、もし年上のお姉さんでも完璧にアウトだけれども。
「……駆郎」
ぽん。
オレの肩に母さんの柔らかい手が乗せられる。
優しく掴まれている――はずなのに、動けない。完全に動きを抑えられている。
「ななちゃんを困らせたら、ダメでしょ?」
「……いや、でも先に仕掛けてきたのはななの方――いでででででで」
万力の如き締め付けがオレの骨をへし折って木っ端微塵に砕こうとしている。
ああ、これはアレだ。
子供の悪戯に本気で張り合おうとしたら負け、ということなんだ。
でも、ななは一応年上だから。見た目も中身も子供だけど――
「早く行ってらっしゃい」
「……は、はい」
――母さんに喧嘩を売る程馬鹿なことはないので、引き下がることにした。
全く、母さんのななに対する愛情は深すぎて困る。まるで天宮家に本当の娘が出来たかのような可愛がりっぷりだ。
気持ちは分からなくはないけど。
「おー、痛ぇ」
がっつり掴まれた肩が未だに痛いが、不思議なことに手型も痣もない。流石、一流の念導者だけあって力の加減も的確ということか。
だったら最初からやらないでほしかったけどな。
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