女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第一章:迷える霊が、そこにいた 5

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「ねぇねぇ、駆郎にぃ?」
「何だよ。布はあげないからな」
「そうじゃなくて、あの人達のことだよ」
「あぁ、白装束の方ね」

 奥部小からの帰り道。
 秋を感じさせる、紅葉した木々が彩る歩道。
 落ち葉や木の実をき分けながら、オレ達は今回の件について話し合っていた。

「どうしてあんな風になっちゃったのかなぁ?」
「さぁな。でもかなりヤバイことが起きたってのは確かだ」
「そのヤバイことって?」
「それは分からん」
「え~、役に立たないな~」

 本当のところ、分からないんだから仕方がない。
 が、何をされたのかいくつか候補はある。
 カルト教団による信者育成の洗脳や調教、薬物投与に拷問ごうもん。人の心を破壊する手段なら吐き気を催すほどこの世にある。
 だが、そんなことをななに語りたくはない。ななの心を社会の闇や悪意で汚したくないのだ。いつぞやの変態無職さんの行為を見た時点で手遅れなのかもしれないけどさ。

「そういえばまだ同じようなのが来るかも、って言ってたけど。どうしてそう思ったの?」
「それはぶっちゃけ勘だ」
「うわ、テキトー」
「でも、あり得ない話じゃないだろ」

 これも仮定の話だが、似た性質の霊がバラバラのタイミングで奥部小に吸い寄せられたことを考えると、まだ市内をうろついている霊がいる可能性は高い。

「それに、この問題はあの霊達だけじゃないと思うんだ」

 宗教的な理由による死だとしたら、しかもそれに未練を持つ信者か誘拐ゆうかいされた被害者だとしたら。それはオレ達の管轄かんかつではない大規模な事件、警察沙汰かもしれない。
 何か良くないことが起きようとしている、確証はないがそんな気がしてならない。

「うぇ……」

 苦虫にがむしみ潰したような表情をして、ななが歩みを止めた。いや、浮いているから正確には空中で静止したのだが。

「どうした……ってアレは……」

 ななの視線の先には小さな公園、そこで立っている一人の少年がいた。
 学生服を着ているその子には見覚えがあった。

禄矢ろくや君じゃん」

 かつて奥部小で凶悪な悪霊に取りかれていた可愛い美少年、樫戸かしど禄矢君。今は卒業して中学校に通っているようなのだが……。

「あ……く、くく駆郎さん!?」
「おう、久しぶり……」

 オレの存在に気付いた禄矢君はさっと左腕を背中側に隠した。その左腕は何故か包帯でぐるぐる巻き、しかも変な紋章が書いてあった。間違いなく怪我をしているからではなく、別の病気による症状であることが分かる。

「あはは……、奇遇ですね。どうしてこんなところに?」

 誤魔化ごまかし、話を逸らそうとしているが目が大海原を泳ぎまくっており、動揺していることが丸わかりだ。
 それに「どうして」と聞きたいのはこっちの方だ。
 どうしてそうなった。あの頃の可愛い美少年が何故なぜ中二病になった。しかも一年早いし。
 ……いや、髑髏どくろマークを付けまくっていたあたり素質はあったか。

「こんなところに……ってそりゃ対霊のお仕事かな」
「あ~、また奥部小に何か出たんですね!」
「違う違う、君の後ろにいる霊に用があるんだ」
「へ?」

 これは嘘ではない。
 丁度ちょうど禄矢君の真後ろに、白装束を着た女性の霊がいるのだ。先程物置部屋にいたのと全く同じタイプの、オレが危惧きぐしていた通りの絶賛ぶらり徘徊中の霊だ。

「ねぇ、駆郎にぃ……」
「分かってるさ」
「いや、そっちじゃなくて……」

 ななが縮こまりながらオレの背中の後ろに隠れようとする。別に悪霊ではないし、どうしたんだ?

「あの、駆郎さん。本当にいるんですか?」
「いるいる。でも取り憑いてるとかじゃなくて、ただそこでふらふらしてるだけだから心配しなくていいよ」
「因みに……どんな霊さんですか?」
「う~ん、髪が長くて少しふくよかな女性かな?」

 オレが正直に外見について伝えたその瞬間、禄矢君の表情が凍り付いた。
 しまった。髪が長い大人の女性といえばかつて彼に取り憑いた悪霊と特徴が一致している。いくらオレ目線から別物だとしても禄矢君からしたら――

「す、すいません!用事を思い出したので帰ります!」

 ――やっぱり、思い出していたか。
 禄矢君は陸上選手もたまげるスピードで走り去ってしまった。
 嫌なことを思い出させてしまって、ごめん。
 あと、中二病は早めに治した方がいいぞ。

「さて、と。どうするかな……」

 本題の方。
 このふくよかな女性の霊をどうしようか。このまま放っておいても徘徊しながら徐々に奥部小に向かうだけだし、ここは先に連れて行ってあげた方がいいだろうか。

「ねぇ、駆郎にぃ……」
「どうしたんだよ、さっきから」

 またななが縮こまりながらか細い声を出している。悪霊じゃないのにどうしたというのか。確かにさっきから悪しき気配はするけどこの霊は悪霊じゃないし……。

「あそこに、いる」

 ななが、公園の隅に建てられたトイレを指さす。

「まさかとは思うが、気持ち悪い塊がいる……とか言わないよな?」

 嫌な予感がする。
 ふくよかな女性の霊ではない何かが悪しき気配を放っている。そしてそれを見ることが出来ているのはななだけ。
 それはつまり――

「正解……って言ったら怒る?」
「マジか」

 ――人々の負の感情が凝り固まった怪物、邪怪。

「しかもすごく大きい」
「どれくらいかな~……」
「学校で戦ったのと同じくらい」
「それもうほぼ完全体じゃねーか」

 ずるるっ。
 ねばついた液体をすするような音がして、公衆トイレの横にそいつは姿を現した。
 四足歩行で背中には雲梯うんてい
 右後ろ足には滑り台、左後ろ足にはブランコが絡みついている。
 左前足には落ち葉にドングリ、マツボックリ。あとミミズ。そして右前足は何故かフジツボまみれ。
 安心安定のキメラモンスター。

 ぐばぁっ。

 切り株――頭部の底がずるけ、禍々しいあごあらわになる。
 今、まさに完全体になる瞬間を目撃した。対邪処の念導者でも早々お目にかかれないレアな場面らしいが、オレ二度目だぞ。そんなラッキーいらないから。












「なな、その霊を連れて逃げろ」
「駆郎にぃはどうするの!?」
「対邪処の連中が来るまで時間稼ぎするよ」

 対霊処所属のオレではこの邪怪を倒すことは出来ない。その役目を担えるのは浄怪じょうかい技術を持つ者――対邪処の念導者だけだ。
 異常に気付いた周辺の住民が避難を開始している。電話をかけている人もいるから対邪処に連絡も行っているはず。
 ならオレに出来ることは少しでもこいつを食い止めて、誰も食べられないようにすることだけだ。

「ホントに駆郎にぃだけで大丈夫なの~?」
「いいからはよ行け」

 ななはまだ心配らしいが、オレはこの程度の邪怪で死ぬような念導者じゃない。去年の経験を活かせば専門外の敵相手でも戦える。
 まぁ、その去年の戦いでは食われかけたけどな!

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