女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第六章:焦燥のバトル・ロード 1

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 オレ達は自転車で河川敷かせんじきを爆走中。
 先頭は茶々、続いてこがね。最後尾がオレだ。その周囲をななやミサキちゃん達が飛んでいる。
 向かう先は晩出市の最南端に位置する海岸、澱神無が復活したと思われる場所だ。川沿いに走り続けて海まで向かうのだ。
 もし車があればすぐに到着していたであろうが、残念ながらこの中で運転免許証を持っている人なんて存在しないのだ。
 タクシーやバス、電車などの公共交通機関という手も考えたが、そのどれもが一般人を戦いに巻き込んでしまう可能性が高い。
 ゆえにこれが最善の選択なのだ。

―やはり自転車は遅いワン―
「うるさいっつーのっ!っていうか、お前昨日は “しばらくは大丈夫”って言っていたじゃねーか !澱神無復活してるみたいですけど!?」
―我が予測した以上の早さ……邪怪の活性化で効率よく負の感情を集めたようだワン―

 先程の邪怪が心の汚い人間を喰らったのは歪んだ正義によるものではなく、もしかしたら悪人をエネルギー源にすることで負の感情を濃縮するためだったのではないだろうか。
 もしそうだとしたら澱神無は意図的に邪怪を発生させて操っているということになる。そう仮定して考えると他の場所でも同様の事件が起きているかもしれない。
 そして同数の邪怪もいるのだろう。

―しかし、それでも復活が早過ぎるワン。おそらく完全体になるのを待っていられないようなことがあったと思われるワン―
「それってもしかすると、お前に元の力を取り戻されると困るってことなのかもな」
―察しが良いワン―
「勘で言ったんだけどな」

 澱神無にとって一番の脅威は、かつて自分を倒した霊獣……つまり狼慈丸が本来の姿に戻ること。現状ではオレ達が圧倒的に不利だが、それをひっくり返して逆転勝利に持ち込める切り札が狼慈丸だ。
 だからこそ、柴犬状態の今のうちに暴れ回ろうという魂胆こんたんなのだろう。今なら自分を邪魔出来るヤツは殆どいないし、倒すことなど到底不可能。好き勝手晩出市を恐怖の渦に巻き込むことが出来るし、伝承通り土地の掌握しょうあくをすることも容易たやすい。あわよくば柴犬状態の狼慈丸を始末、なんておいしい展開に持ち込める。
 多少不完全でも、それをするだけの価値があるのだ。

「因みに、不完全でもどれくらい強いんだ?」
―実際に不完全体を見たことはないが、多分邪怪よりは百倍強いワン―
「ざっくりした意見だな、オイ」

 滅茶苦茶強いのは分かりきっている。今更だ。
 だが、狼慈丸が語彙力ごいりょくを喪失するくらいには強い、ということだけでも恐怖は増す。

「駆郎、伏せろっ!」

 茶々の叫びが木霊こだました。
 次の瞬間には暴風が吹き荒れ、オレの体は投げ出されてしまう。
 視界がぐるぐると高速回転して、景色がマーブル模様を描いていく。
 どすん。
 そして、地面に叩きつけられた。
 転げ落ちた先が芝生で良かった、おかげで特に目立った怪我をせずに済んだ。
 一体、何事だ。
 物凄く大きな物体がオレの真横を通過していった感じがしたぞ。

「駆郎にぃ、邪怪が来たよっ!」
「マジかよ、こんな忙しい時に!」

 すぐさま立ち上がり、状況を確認。
 オレを吹き飛ばしたであろう邪怪は空中にいた。
 乗用車の胴体の周りには邪怪らしいドロドロの肉塊。その体からははとのような翼と無数のチューブが生えている。晩出市特有の海洋生物部分はカサゴのひれ。そして捕食器官は乗用車のライト二つの間にあった。ご丁寧にすぐ真下には餌を捕捉するための眼球もしっかり付いている。

「飛べるタイプかよ」
「ならボクの出番だね」

 こがねは強襲サードニクスの弾倉をセットして、銃口を車の邪怪へと向ける。遠距離からの攻撃に長けたこがねなら楽勝、ということなのだろうか。

「駆郎、こがね。一つ、悪いニュースがあるんだけど」

 茶々が珍しく、映画に出てきそうな冗談みたいな台詞を告げてくる。だが、その声は引きつり気味で、冗談で済まないレベルなことが分かる。

「あと二体、邪怪が来てるんだけど」
「それは、本当に悪いニュースね」
「同感だ」

 こちらへ向かってくる二つの影。
 その異形っぷりはどう見ても邪怪だ。
 一体は二足歩行の邪怪。その体はでっぷりと太っており、切手がべたべた貼り付いている。右手のポスト、左肩のペーパーナイフから察するに郵便の要素が組み合わさっているようだ。左足が万年筆なのは手紙を書く筆記用具ってところか。そしてそのイメージからか頭部が山羊やぎなのだが、左右で色が違う。白山羊さんと黒山羊さんの頭を無理矢理縫い合わせてあるからだ。そして晩出市名物の海洋生物部分はウツボ。左腕に付いていて捕食器官を兼ねているようだが、それは胴体を一周した上で、尻尾にもなっている。巨体と合わさって、シルエットだけは特撮怪獣のようだ。

 もう一体は足らしきホースを無数にくねらせている邪怪。ホースの真上に鋭いきばが生えた捕食器官、更にその上にはネズミとこれまた名物のウニがくっついている。胴体の肉塊には旗やら下水管が刺さっており、それらの中心部には太くて薄汚れた土管がそびえ立っている。おそらく下水道で生まれたであろう邪怪で、鼻が曲がりそうな臭気を放ちながら近づいてくる。












「これってさ、絶対おかしいよな」
「当たり前でしょ。私だってさすがにこんなこと初めてだよ」
「右に同じ。っていうか晩出市っておかし過ぎ」

 邪怪が同じ場所で複数発生することは不思議ではない。それだけ生まれる条件を満たしているからだ。ただし、それは全て同じタイプである場合に限る。何故なら邪怪の身体的特徴は誕生した土地の影響を多大に受けるからだ。
 しかし今、この場にいる邪怪は自動車、郵便局、下水道。それぞれ全く別の形態であり、何よりもそれらと関係性の薄い住宅街近くの河川敷に現れている。念導者の視点から見ても明らかに異常な光景だ。
 この異常事態の理由は、おそらく澱神無を討伐しようとするオレ達を潰すため。つまりこいつらは所謂刺客という連中なのだ。
 澱神無は他の邪怪と違って知性があり、そして晩出市全体を俯瞰ふかんし邪怪を使役出来る圧倒的な能力を有することが嫌という程感じさせられる。かつて年に一度の生け贄や細かなルールを決めていただけはあるな。

「くそ、やるしかねーか」

 時間も体力も惜しい中で、更に余計な戦いをいられている。だが無視して強行突破する訳にはいかないし、そもそも通してもらえそうにない。刺客達は確実に全力で進路妨害してくるだろう。

「駆郎、これを使って」
「お、おう」

 こがねがリボルバー型の拳銃を乱雑に渡してくる。透明な龍鎧石に狐の尻尾のストラップ。ましろが使っていた狐ノ清絶フォクシーダイヤモンドと同型だ。

「これも清絶ダイヤモンド、だよな」
「そう。姉ちゃんから使ったことがあるって聞いたから」
「ってことはつまり、オレ達三人で一体ずつ仕留めようってことだな」
「そういうこと」
「ちょっと、私抜きで勝手に決めないでよ~、同意だけどさー」

 これで邪怪に対応出来る念導者が三人になり、対等に浄怪が出来るようになった。
 こがねは自動車の邪怪を。
 茶々は郵便局の邪怪を。
 そしてオレは下水道の邪怪を。

「って、オレがあいつ相手かよ」
「だって臭いから。ボクは相手したくない」
「いつもグロい敵相手にしているのにかよ……」
「にゃはははっ!まぁそこは男子の仕事ってことで」
「酷いなお前ら」

 因みにななやミサキちゃん達、霊の皆様方には随時ずいじサポートしてもらうことになった。要するに、一人ひとりに指示を出している余裕はない、ということだ。

―我はどうするワン?―
「だ・か・ら、お前ははよ元に戻れるようにしてくれってば」
―うむ、善処ぜんしょするワン―

 こうして、だいたい三対三のバトルが幕を開けた。
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