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女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~
第六章:焦燥のバトル・ロード 2
しおりを挟む「うわっ、汚えっ!?」
下水道の邪怪の足、そのホースから泥水を連射してくる。オレは芝生の坂を転げ落ちるように駆け下りながら逃げるが、その全ては避けきれない。
「ここは私に任せなさいっ」
だが、その泥水をフタチさんがポルターガイストを用いて防いでくれた。
「駆郎君、無事?」
「はい!……って、フタチさんこそ大丈夫ですか?」
フタチさんの白装束が見事に泥色に染まっている。霊だからよかったが、本物の服だったら洗濯だ大変なレベルの汚れだ。って、それより毒とかないのか!?
「いえ、別に何とも」
どうやら有毒ではないようだ。てっきりヘドロの類いかと思ったぞ。高水圧にだけ注意することにしよう。
「フタチさんっ!体を透けさせないと汚れちゃうよーっ!あと痛いかもーっ!」
ななからの助言である。
フタチさんは霊体の状態を切り替えるのが苦手らしい。少々太り気味だからだろうか、と失礼なことを考えてしまう。
「今度はこっちの番だこの野郎!」
オレは撃罰を手に猛突進。一気に下水道の邪怪の元へと肉薄。当然それを許すはずもなく泥水連射が放たれるが、それらをフタチさんが弾いてくれる。
「そら、爆ぜろっ!」
すれ違いざま、邪怪の土管部分に撃罰を貼り付けて爆砕。コンクリートの欠片が周囲に飛び散っていく。対霊の技術のため当然浄怪は出来ないが、これで核があるかどうかの確認は出来る。
少なくとも、土管の中はハズレだ。中身はほぼ空洞、こびり付いたように邪怪の汚い肉片があるだけだった。
「げ」
爆発時に巻き上がった粉塵に紛れて、邪怪にくっついていたウニの針が放たれる。細くて長いそれが刺さったらまずい。ウニは美味しいけどこれはまずい。
「だーっ!てい、てーいっ!」
オレに直撃する寸前で、なながその針全てをチョップで叩き落とした。……謎の掛け声をしながら。
「駆郎、避けて!車がそっちに行った!」
こがねの叫びからコンマ数秒後、オレの頭上を自動車の邪怪が通過。遅れて吹き荒れた突風でオレの体が宙に舞った。またかよ。
「嘘だろ、オイ」
空中で身動きが取れないオレに向かって自動車の邪怪が大口を開けて接近。オレを一口で丸呑みにする気だ。鳥だけに一口でごっくんってか?ふざけるな。
――ばしゅんっ!
自動車の邪怪の体を、一発の弾丸が貫く。
その衝撃でよろけて邪怪の動きが一瞬鈍くなる。
「こっちです……!」
オレの体はヨスズちゃんによって引き寄せられる。そのおかげで邪怪に丸呑みされず、無事に地面へ戻ることが出来た。
「ごめん駆郎、無事だよね?」
申し訳なさそうに駆け寄るこがね。その手に握られたのはスコープが付けられた狙撃用の念導銃――狐ノ静寂。先程邪怪の体を撃ち抜いたのはこれの弾丸だったのか。
「気にするな、謝るより先に倒しちまおうぜ」
「……ありがと」
伏せ目になりながら、こがねはまた自動車の邪怪との戦いに戻っていった。
そんなそぶりがちょっと可愛いな……と思っていたオレだったが、その直後後頭部に硬い何かがぶつかって顔から地面に倒れ伏すハメになった。
「ってー……」
「あ、こぶができてる~わはははっ!」
ムマシちゃんが大爆笑している。何かと思ったら、どうやらオレの後頭部に石が当たったようだ。しかも割と大きめのサイズ。野球のボールくらいはある。
で、そんなものが何故飛んできたかというと。
「あっぶねっ!?こいつの一撃重すぎでしょ!?」
茶々が戦う相手、郵便局の邪怪が振り下ろすポストが地面の石を弾き飛ばしているからだ。河川敷とはいえ狭い範囲の中で三体の邪怪と戦っているため色々余波が飛んでくる、ということだ。ヒノエさんやイツマちゃん、ナルカちゃんが周囲への被害を食い止めようとしているが、その内の一つがすり抜けてしまったらしい。
まぁ、当たったのがオレで良かった。一般人だったら死んでいたかもな。
と、周りのことばかり気にしている場合ではない。
「さ、オレも下水道野郎を倒さないと――ぐほっ!?」
オレの脇腹に激流が直撃。
高水圧の泥水をぶち込まれたオレはもんどり打つ。
油断したところを思い切り喰らってしまった。仕事服のおかげで幾分威力は抑えられているはずだが、結構痛い。骨が折れなくてよかった。あとどろどろに汚れた。浄怪したらキレイな状態に戻ることを祈っておこう。
「もーっ!駆郎にぃ、油断禁も――へぶっ!?」
ななも喰らって吹っ飛んでいった。
人に助言しておいて、自分も食らうのかよ。
「よくもななを殺したな、この汚物!」
「ミサキちゃん、ご立腹のところ悪いけどななはもう死んでるから」
「うるせぇっ!小言をほざくんじゃねぇっ!」
何故オレが怒られるんだ。
あと口が本当に悪いな。名家の娘……とはやっぱり思えないよな。
「うえ~、どろどろ~」
「戻ってきたところ悪いがなな、それとミサキちゃん。オレのフォローよろしく」
「おい、勝手に――」
オレは返答を待たずに走り出す。待っている場合ではないからだ。下水道の邪怪はもう攻撃を開始している。
迫り来る高水圧の泥水――ななが水流をねじ曲げる。
飛来するウニのトゲトゲ――ミサキちゃんが防御。
下水管から泥の弾丸――ななが打ち返す。
旗がミサイルの如く発射――ミサキちゃんが川へと受け流す。
「ナイスフォローだぜっ!」
二人のサポートのおかげで無事最接近したオレは、邪怪の肉体のあちこちに撃罰を貼り付ける。
どん、どん、どんっ!
次々と爆発を起こして、汚い肉片を河川敷の上に撒き散らしていく。細切れ肉はぷるぷる震えながら本体に戻ろうとしているが、それに関してはどうでもいい。
お目当ての物を発見出来たからだ。
一気に体全体を破壊したことで遂に核が露出。一撃で完全浄怪となる急所があるのはネズミの頭があった場所だった。
オレは清絶を取り出し、核へ向けて磁轟弾を発射!
決まった、そう思った瞬間。
「再生早過ぎだろ!?」
核を撃ち抜くより先にネズミの頭が再構築され、光に還元されたのはネズミの部分だけ。他の部位も次々と元の場所に戻っていく。
どうでもいいと思っていた肉片達に決定打を邪魔された。自分の考えの浅はかさが恨めしい。
「どうして復活してるんだ!?」
「浄怪したのに戻るなんて……!」
茶々とこがねの方でも異常事態が発生していた。
オレの方ならまだしも、彼女達の場合は確実に浄怪技術により光になった部分すら復活しているようだった。
本来邪怪が浄怪されかけの状態から復活するにはそれ相応の純度の高い負の感情が必要で、しかもそれは長時間かけて行われるはず。
それがこの短時間に起きているということはやはり、澱神無がここでオレ達を足止めするために力を貸しているということ。
「ふざけやがって……!」
千年前の超強力な怪物だからって、やり方が反則級だ。圧倒的な戦力を有している上に戦場にすら辿り着かせようとしないなんて、まさにゲスの所業だ。
「どうする茶々、こがね!?」
「私だって聞きたいよっ!何かいい案ないの!?」
「ごり押ししかなさそうだけど」
ダメだ、対邪処ですら未知の状況下だ。こがねの言う通りオレ達の持つ戦力をぶつけて、一瞬の隙を突いて核を破壊するしかない。
だが、それだけの戦力を投入した後に本丸で戦う余裕は残るのだろうか。せめてもう少し念導者が欲しい。このままでは全員満身創痍の疲労困憊だ。
「これは本格的にピンチだな……」
河川敷が、絶望という名の闇で満たされた。
だが。
その闇を引き裂くように。
一台のワンボックスカーが飛んできた。
文字通り、飛んでいる。
河川敷の道路からフルスピードで。
どかんっ!
車体は郵便局の邪怪を川の中へと撥ね飛ばして、無事着地成功。対して邪怪は水飛沫を上げて山羊頭から川底へ突っ込み、太めの足と尻尾だけを水の上に出してじたばたしていた。
つい最近似たような光景を見た気がするが、“りばやし”の所有する車ではない。それを示すかのように車体には馬と牛のマークが刻まれていた。
「よぉ~う、間に合ったみたいだな」
「助太刀に来ましたよ」
そこから降りてきたのは二人組の男。
一人は大柄で装甲のような物が付いた服を着た、モノクロ調の頭髪の男。
もう一人は細身で白いスーツを着た、眼鏡で茶髪な男。
「…………どちら様?」
「私が依頼した、フリーの対邪念導者だよ」
茶々が協力を要請したのはこのコンビだったのか。晩出市に大量発生中の邪怪を片っ端から潰して回っていたという腕利きの対邪念導者。
「オレ様は牛来舵良」
「そして私が――」
「で、こいつは相棒の相馬謳我だ」
「ってオイ!私にも名乗らせなさい!」
なんだ、この面白コンビ。
大柄の男――牛来さんと細身の男――相馬さんは邪怪そっちのけでボカスカ争っている。余裕があるのかお馬鹿なのか……。
やはり念導者は変人ばかりなのか。
「てめーら、いつでも出来るような痴話喧嘩は後にしろや。うちの妹が待ってるんだよ」
そしてもう一人。
車の中から、女性の声。
ああ、一年ぶりに聞く荒っぽいその声の主は――
「姉ちゃん!やっと来たのね!」
「やっと、は余計だ」
白い髪に緋色のメッシュ。
西部劇の登場人物が着ていそうな仕事服。
――狐火ましろ。
こがねの姉で、昨年の邪怪退治で共に戦った対邪処の念導者だ。
「久しぶりだな、ましろ」
「あ……あぁ、そうだな駆郎……」
何を照れているんだよ、ましろ。まさかデートの件じゃないよな?赤点で遅刻したことでだよな?
「……そういや、ましろは何でフリーの人達と一緒にいたんだ?」
「さっき駅に着いたら邪怪がいっぱいいてさ、そこの二人が戦ってたんだよ。で、ついでにあたしも準備運動を兼ねて参加させてもらったのさ」
「よく初対面の念導者と連携して戦えたな……」
「初対面じゃねーぞ?牛馬コンビは鉱輝市にもよく来るからな」
そうなんですか。
対邪の人脈とか知り合いの関係とかは全然分からない。
とりあえず問題なく戦えて、そして応援に駆けつけてくれたことに感謝感激だ。
「駆郎にぃっ!ましろさんとイチャイチャしてる場合じゃないよっ!」
「「してねーよっ!?」」
ななが茶化してくるので思わず反論、しかもましろと同時に。それに気付いてましろはまた照れていた。
で、何がそれどころじゃないかというと。
当然なことだが、邪怪についてだ。
霊達が総出でポルターガイストを使い、邪怪達の攻撃を防いでくれていたのだ。
どうりでさっきから一発も攻撃が飛んでこない訳だ。映画みたいに感動的なシーンでは静かになる、なんて現実ではあり得ないもんな。
「それで、あたしらに望むのはどんなことだい?」
「追加戦力ってところかな」
オレはましろと牛馬コンビに邪怪の異常な再生速度について伝える。そして首魁と言える澱神無が海から援護をしていることも話した。
「つーことは……どうすればいいんだ?」
「私達が一人ずつ加わって、六対三でごり押すのが一番手っ取り早いということです」
首を傾げている牛来さんに、相馬さんが作戦の概要を噛み砕いて説明している。
「それならあたしが駆郎のところにつくから、こがねとよく分からん女の方をよろしく頼むぜ」
ましろは人員配置をすぐに決めて指示を出す。確かにましろとオレは面識があるし、牛馬コンビのことはこがねと茶々も知っている。しかし――
「いいのかよ、妹の……こがねのことは?」
――そこだけは気になった。
本来であれば姉妹で戦った方が安心なのではないか、と。
「はっ、人の心配している場合かよ。これが一番いいんだし、あたしの妹はそんなにやわじゃないってことぐらい身にしみてるんじゃないのか?」
どうやら余計な心配なようだった。
それもそうか。ましろとこがねだって伊達に鉄火場を経験している訳じゃない。お互いを信頼しているからこその判断、一人でも遠く離れた土地で戦えるくらいなのだから。
「そうだな、その通りだよ」
「トークタイムはここまでだ。こっからは久々のタッグ戦だぜ、準備はいいか?」
「当然!」
「上等だ、いくぜ駆郎!」
頼もしい戦力が加わった。
ここからが、本当の全力全開最大出力バトルだ!
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