女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる

文字の大きさ
145 / 149
女児霊といっしょに。~晩出霊獣伝説~

第七章:澱神無 7

しおりを挟む

 ――ずずずずずずっ……!

 海が震えて、波が小刻みに飛沫しぶきを散らす。
 両目を失った澱神無はその体を伸ばし、陸へと揚がろうとする。
 その体は一本の丸太、それが流木になって海の生き物の住処すみかになったような姿だった。
 だが、不完全な体と重量が釣り合っていないようで、体が折れ曲がりそうになっている。それを補うように澱神無は胴体から飛び出して蠢く触手を絡め合わせて、体を支える足を作っていった。

『相手もいよいよ切羽詰せっぱつまってきたようだな!』

 ガトリングが呻り、澱神無の即席の足を撃ち抜こうとする。が、それは読まれていており、数々の貝殻を組み合わせて作られた分厚い盾に阻まれてしまう。削ったそばからまた貝殻が追加されていき、らちがあかない。

『根比べってか。なら乗ってや――』

 行兵衛のその予想は、外れた。

 ――ドゴッ!!!

 これまでで最大級――電車くらいに太い触手が、新兵器のヘリコプターに叩きつけられた。
 プロペラがへし折られ爆煙を上げる。
 制御不能となった機体は上空で回転、墜落必至の急転直下で砂浜へと落ちていく。

『くそ、開発費いくらだと思っているんだ磯臭野郎!?』

 悪態あくたいをつきながら、行兵衛は墜落していくヘリコプターから飛び降りる。その手の中にはお姫様抱っこ状態の母さん。とっても嫌そうな顔をしている。
 霊達によるポルターガイストの浮遊状態がクッションとなり、二人は怪我なく無事に着地。それと同時にヘリコプターは砂浜に突き刺さり、べきべきと真っ二つに折れていく。

 ドガァァアアアンッ!!!

 そして、燃料に引火したようで内部から大爆発を起こした。
 こうして機体は完全な鉄屑と化した。

「あーあ、これは大目玉食らいそうだな」
「それより早く下ろしてほしいんですけど」

 死を紙一重で回避した直後だというのに、二人は普段と変わらずの様子だ。ベテランなだけはあるというか、なんというか。
 そんな二人へと澱神無の捕食器官がしゅるしゅると忍びより、頭から食らいつこうとしていた。

「っと、邪魔するなよタコ」

 噛みつく直前に、行兵衛は触手を素手で捕まえた。しかも、目視をせずに。
 ぎりぎりと締め付けられて触手は苦しそうにのたうち回るが、行兵衛の手から逃れることは出来ない。挙げ句、そのまま浄怪させられてしまった。
 仕事服も浄怪道具もなし、完全な素手で浄怪なんて……凄い。母さんにセクハラさえしなければ尊敬出来るのに。

「核は残り一つか!?なら、あと一息だな!」

 行兵衛が母さんをお姫様抱っこしたまま、こちらにやってくる。何様のつもりなのだろうか。

「そうですけど、何か?」
「あいつは滅茶苦茶に攻撃してくるはずだ。ならこっちもやりたい放題してやろうぜ」
「それには賛成しますが、母さんを早く下ろしてくれません?」
「それはつまりだ、オレもこのはさんにやりたい放題ってこと――ぐべっ」

 顎へ垂直なアッパー一撃。
 行兵衛は舌を噛んでしまったようで血を吹いている。

「次は本気で殴りますよー?」

 母さん、もう今ので十分本気のパンチだったと思うよ。
 あと行兵衛はもう少し時と場合を考えて発言してくれ。

 そんな二人のことは置いておくとして。


「ボクは遠距離射撃を担当するから……」
「あたしと駆郎で中距離から弾丸と矢をばら撒いてやるか」
「んで私は至近距離から肉削ぎってことで♪」
「あたいらがお前達を浮かせてフォローする……で、いいよな!?」
―我は澱神無を倒せればそれでいい―
「私達のことも忘れては困りますね」
「オレ様だって活躍したいぜ」
「よ~し。あとちょっとだ、頑張ろーっ!」
「これが本当の最終決戦にしようじゃないか!」

 澱神無のダメージは大きい。体は大きく損壊しており、崩れかけ。核も残り一つとなり、いつ浄怪してもおかしくない。
 だが、その戦闘力は未だ健在。むしろ土壇場どたんばに立たされて余裕がなく、なりふり構わない猛攻を仕掛けてくる。
 それでも、オレ達は最後……勝利の瞬間を目指して戦う。

 最終ラウンドのゴングが鳴った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...