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その後、ヒバリは母と長く話をしていた。閣下の側に戻れなかったからか、それとも母との話が弾んだのか、幼い凪にはわからない。それでも凪は終始心がポカポカとして気持ちがよかった。その日の夜は興奮して眠れなかったくらい、小さくて大切な思い出になった。
全ての予定を終え、ヒバリが帰国するという日、凪は母と一緒に見送りに行った。そこでも貴族は勢揃いしていて、きっとヒバリからは凪の姿など見えなかっただろう。けれど閣下の後ろを歩くヒバリの姿がチラと見え、凪は周りに負けぬようブンブンと手を振った。そして彼らが乗った飛行機が見えなくなるまで、ずっと、ずっと空を見上げていた。
側から見たら、きっとちっぽけな思い出だろう。長い人生の中の、ほんの一瞬の出来事に過ぎない。きっとヒバリは外交で訪れた小さな国の小さな子供のことなど忘れているだろう。
輝く思い出というには小さ過ぎて、特別というには細やかに過ぎる。けれど凪にとってあの二回の出会いは美しく温かいものだった。
だから、本当は嬉しかった。
あの日、兎都を離れて不安と恐怖に襲われていた時、母に連れられた先で彼に出会ったことは。
また秘密のお友達に会えたと、その瞬間だけは現実の何もかもを忘れて心が弾み、笑みが溢れた。
けれど……。
〝凪、私ね、この王宮に上がることにしたわ。国王陛下が私を必要としてくださったの〟
再会した彼は一瞬で凪にとっての悪魔に変わってしまった。
秘密のお友達は、消え去ったのだ。
全ての予定を終え、ヒバリが帰国するという日、凪は母と一緒に見送りに行った。そこでも貴族は勢揃いしていて、きっとヒバリからは凪の姿など見えなかっただろう。けれど閣下の後ろを歩くヒバリの姿がチラと見え、凪は周りに負けぬようブンブンと手を振った。そして彼らが乗った飛行機が見えなくなるまで、ずっと、ずっと空を見上げていた。
側から見たら、きっとちっぽけな思い出だろう。長い人生の中の、ほんの一瞬の出来事に過ぎない。きっとヒバリは外交で訪れた小さな国の小さな子供のことなど忘れているだろう。
輝く思い出というには小さ過ぎて、特別というには細やかに過ぎる。けれど凪にとってあの二回の出会いは美しく温かいものだった。
だから、本当は嬉しかった。
あの日、兎都を離れて不安と恐怖に襲われていた時、母に連れられた先で彼に出会ったことは。
また秘密のお友達に会えたと、その瞬間だけは現実の何もかもを忘れて心が弾み、笑みが溢れた。
けれど……。
〝凪、私ね、この王宮に上がることにしたわ。国王陛下が私を必要としてくださったの〟
再会した彼は一瞬で凪にとっての悪魔に変わってしまった。
秘密のお友達は、消え去ったのだ。
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