137 / 984
136
しおりを挟む
周がまわりの者に頼んで用意した水を雪也に差し出す。それに柔らかな笑みを浮かべた雪也は、お小夜の土で汚れた手を水で清めた。
「……あんた、何者だ?」
先ほどの剣捌きを見るに、ただの町人であるはずがない。雪也の腰に刀は無いが、武人でもない人間が重さのある真剣をそう易々と扱えるなど、あり得ない。探るような男の視線に気づいているが、雪也は振り返ることもせずにお小夜の手当てを続けた。
「ただの薬売りですよ。それ以上でもそれ以下でもありません。あぁ、周ありがとう。もう大丈夫だよ」
カゴの中から必要なものを手渡していた周に礼を言って、お小夜の手に巻いた包帯の端を結ぶ。捻った足はあまり動かさず冷やすしかないだろう。
「これは痛み止めです。あまり乱用してはいけませんが、痛みがひどかったり、熱が出たら服用してください」
用意していた薬包を三包みほどお小夜に握らせる。そこでようやく我に返ったお小夜は慌てた。
「あ、あのお金……」
薬は雪也の商売道具だ。それがわかっているお小夜は立ち上がり店へ銭を取りに行こうとするが、雪也はやんわりとそれを止めた。
「今回はいいですよ。僕が勝手にしたことですから。また何か入用になったら、その時は僕の薬をぜひご利用くださいね」
悪戯っ子のように笑いながら宣伝する雪也に、お小夜はポカンとしたものの、次の瞬間には耐えきれぬとばかりにプッと吹き出し、肩を震わせながら小さく笑った。その笑い声に緊張の糸が切れたのか、まわりの者達も小さく笑い始め、どこか和やかな空気が流れる。そんな中で、お小夜に手を貸しながら立ち上がった雪也に破落戸の男が近づき、おもむろに雪也へ手を伸ばした。
「……あんた、何者だ?」
先ほどの剣捌きを見るに、ただの町人であるはずがない。雪也の腰に刀は無いが、武人でもない人間が重さのある真剣をそう易々と扱えるなど、あり得ない。探るような男の視線に気づいているが、雪也は振り返ることもせずにお小夜の手当てを続けた。
「ただの薬売りですよ。それ以上でもそれ以下でもありません。あぁ、周ありがとう。もう大丈夫だよ」
カゴの中から必要なものを手渡していた周に礼を言って、お小夜の手に巻いた包帯の端を結ぶ。捻った足はあまり動かさず冷やすしかないだろう。
「これは痛み止めです。あまり乱用してはいけませんが、痛みがひどかったり、熱が出たら服用してください」
用意していた薬包を三包みほどお小夜に握らせる。そこでようやく我に返ったお小夜は慌てた。
「あ、あのお金……」
薬は雪也の商売道具だ。それがわかっているお小夜は立ち上がり店へ銭を取りに行こうとするが、雪也はやんわりとそれを止めた。
「今回はいいですよ。僕が勝手にしたことですから。また何か入用になったら、その時は僕の薬をぜひご利用くださいね」
悪戯っ子のように笑いながら宣伝する雪也に、お小夜はポカンとしたものの、次の瞬間には耐えきれぬとばかりにプッと吹き出し、肩を震わせながら小さく笑った。その笑い声に緊張の糸が切れたのか、まわりの者達も小さく笑い始め、どこか和やかな空気が流れる。そんな中で、お小夜に手を貸しながら立ち上がった雪也に破落戸の男が近づき、おもむろに雪也へ手を伸ばした。
3
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる