必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 いつの間にか日常となっていた静かな町の影を湊はボンヤリとしながら歩いていた。母は相変わらずで、だからどこか冷たく思える家に居たくなくて外に出るが、心のどこかに小さな棘が刺さっているような感覚がして蒼の店に行くこともできず、だからといって独りで庵に行くのも道中の広さが怖くて足を向けることさえできない。ひとつ恐れれば、この世界のすべてが恐ろしくなる。湊は冷たさを恐れ、人の視線を恐れ、同時に静寂も恐れて、そうして毎日あてもなく影から影へ、あるいは森の木々に紛れて歩いた。
 湊は取り繕うのが下手だから、きっと蒼は気づいているだろう。そう思えば思うほど、蒼の顔を見るのが怖くてならない。何を恐れているのかと自分でも疑問に思うが、それでも恐れて、恐れて、湊は今日も店の中にいる蒼の姿を視界に映しただけで去った。――去ってしまった。
 湊が異変に気が付いたのは夕刻のことだった。流石にこれ以上森を彷徨っていては、辺りが真っ暗になって迷子になってしまう。町から遠く離れないように気をつけてはいるが、それでも自然界を侮ってはならない。そう思っていつものように帰路へつき蒼の店の近くを通った時、ザワザワと多くの人の声が湊の耳に届いた。
(人の声? それも、こんないっぱい……。また何かあった?)
 以前ならば当たり前であった人々の騒めきも、今は異常と思えるほどに珍しい。あまり厄介ごとに近づいてはいけないと自らに何度も言い聞かせるが、なぜか胸騒ぎがしてゾワリと気持ちの悪い靄が鼓動を歪める。
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