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2017.5.4.Thu
第六章 錯綜 【 三日目 裁判 】
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時刻は八時四十五分。“人狼裁判”開始を告げるアラームが、物音一つしない食堂内に響き渡る。今宵もまた、私達は贄を決めなければならないのだ。
「時間だな。それじゃ、今日の“人狼裁判”を始めようじゃねぇか」
兄がギリ、と音がしそうな程の鋭い視線で、着席している全員を睨み付ける。まるで、その中にのうのうと潜んでいる人狼達を射殺さんばかりの勢いだった。
私もまた、食堂内をぐるりと見渡す。皆、一様に能面の如く表情を殺してはいたが、肌に突き刺さる程にぴりぴりした空気が辛い。
「でも、一体何を決め手に人狼を特定すれば良いの? 今回は、アリバイの確認は無意味よね?」
比美子の途方に暮れたような声に、兄がぐっ、と喉を詰まらせる。それに倣うように、全体の空気が一気にざわめいた気がした。私も瞬時に頭を働かせる。
そうだ。今回は、前回のようなアリバイ確認は通用しない。深夜の室外出禁止というルールのせいで、昨晩は全員が部屋に籠っていたのだから。
つまり誰も、互いはもちろん、自分のアリバイすら証明する事が出来ないのだ。貴重な情報源が使えないという事実に、全員が黙り込む。
「なら、じゃあ、どうすりゃ良いんだよ……!?」
聖が、苛ついたようにそう吐き捨てる。これは今回の“裁判”は荒れるな、と私が覚悟しかけた矢先の事だった。
「悩む必要などありませんよ」
「黎名ちゃん?」
研ぎ澄まされた刃の如く、不安な空気を切り裂いたのは我らが黎名ちゃんだった。その可憐な花を思わせるような華奢な身体が、いつにも増して頼もしく見える。
「今回の処刑先は、決まっているも同然です。それは、前回の“裁判”の時点で見当が付いています」
周囲が、一気に驚愕に支配される。昨晩の時点で、人狼の目星が付いているだって? 一体どうして、そんな事が言えるのだろう?
「もちろん、当てずっぽうなどではありませんよ。きちんと根拠があっての話なんです。その上で、告発します」
言うがいなや、黎名ちゃんは真っ直ぐに伸ばした人差し指を、びしりと ある人物に突き立てる。その人物の戸惑う顔を真顔で見据えながら、少女は良い放ったのだ。
「神楽さんは、人狼です。なので今回は、彼女を処刑先にする事を提案します」
無感情に述べられたその言葉を、一瞬理解出来なかった。だが、戸惑う私に認識させるかのように、黎名ちゃんの声がゆっくりと頭の中に捩じ込まれて行く。
神楽さんが、人狼? あの優しくて素敵な人が、仲間を殺した? しかも、私への復讐の為に……?
頭をガツンと殴り付けられたようなショックで、頭が真っ白になる。しかし、一番ショックなのは他でもなく、前触れ無く名指しされた神楽さんだろう。案の定、神楽さんは、信じられないものを見るような目を、“告発者”に向けている。
「ち、違います! 私は村人です! 黎名さん、どうしてそんな事を……!?」
「申し訳ありません。ですが、あなたが人狼であると推測出来るだけの材料を、私は既に掴んでいます」
「う、嘘です! 事実無根です!! 私は人狼じゃありません!! 信じて下さ……!!」
感情が昂ったせいか、神楽さんはその場で跪いて咽び泣く。彼女の血を吐くような悲痛な叫びは、最後まで届く事無く虚空へ消えた。
だが、その痛ましい姿にさえ、黎名ちゃんは眉一つ動かす事はない。慈悲も容赦も一切排除したその振る舞いは、さながら罪人に鉄槌を下さんとする、正義の女神を思わせた。
混沌と混乱が一気に襲いかかる状況に、置いてきぼりにされた思考が迷子になったように途方に暮れている。もはや、“裁判”を続けられる状態ではなくなっていた。
このままではいけないと思い、私は堪らず口を開く。だが、声を発するより先に、ポケットに潜んでいたケータイが、突然鳴き出した。
騒音の余韻が、胸をざわめかせる。震える指でつまみ上げは“敵”を繋げる連絡手段だ。今度は一体、何を告げるつもりなのだろう?
チカチカと嫌らしく点滅するライトが、不安を煽る。固唾を飲んだ私は、覚悟を決めてケータイを操作し、“敵”からの報せに目を通した。
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From:香澄ちゃん
Sub:お知らせだよ☆ (*・∀・*)ノ
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まずは、ルール追加のお知らせだよ♪ o(^o^)o
破ったらおこ!o(`^´*) だからねッ!
追加ルール↓
④以後の投票の際、自分自身に投票する事は禁止だよ。
必ず、他人の中から処刑対象を選ぶ事!
誰かを犠牲にするくらいなら…… なんて、甘い考えは許さないよ。逃げ道なんて、潰してやるんだから!
それと、もう一つ。“人狼”探しに苦労している皆に、特別に情報をあげるね。(o⌒∇⌒o)
黎名さんは、村人だよ☆ ♪ヽ(*´∀`)ノ
だから、処刑するのは止めておいた方が良いかもね♪
「さぁ、今一度状況を整理してみましょうか」
これを信じるか否かは、皆次第。(((*≧艸≦)
さぁさ、どうぞ悩んで迷って苦しんで。(*´∀`)♪
そしてもっと、私達を楽しませてね♪ (*^ω^)ノ
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相変わらず、顔文字を散りばめたふざけたメールだったが、内容を理解した途端にどきりとする。
GMは私達、というより私に釘を刺したのだ。思い出すのは、最初の投票時。やはりあれはGMにとって見過ごせる物では無かったわけだ。 投票における数少ない逃げ道を潰された事に、私は落胆する。
いや、そんな事は取りあえず良い。今、それ以上に気にしなければならないのは……。
「黎名ちゃんが、村人?」
比美子が、今まさに私が思った事を口にする。そうだ。何故このタイミングで、正体のカミングアウトが為されたのだろう。しかも、私の記憶が正ければ、この台詞は、“ユダの箱庭”での探偵・カノンのものだ。
「黎名ちゃんがカノンなら、……彼女は、シロ、って事か?」
「いや、でも、これはあくまでも犯人側からの情報でしょう? 鵜呑みにして良いものなのか……?」
将泰さんの疑問に、光志郎はやや疑いがちに返す。突然投じられた情報に、私達はただ困惑してしまう。話題の渦中にある本人でさえも、戸惑ったような瞳をして呆然とした様子で固まっている。
この情報が本当なら、黎名ちゃんは人狼ではない。寧ろ、現実でもカノンのような“探偵”として戦力となってくれるかもしれない。彼女の頭脳ならきっと、出来る筈だ。
けれど、これをもたらしたのは、他でもないGMだ。もしかしたら、黎名ちゃんは実は敵陣営で、私達を翻弄する為にこんな事をした可能性だって、……否定は出来ない。
「……私は、人狼ではありません。信じて下さい」
静かな、しかしはっきりとした声色で、黎名ちゃんは言った。つい先程まで神楽さんを追い詰めていた人物とは思えない程に、その姿は酷く頼り無い。
だが、私は感じた。彼女の瞳の奥に潜む、燃え上がるような激しさを湛えた強い輝きを。その挑戦的にも思える感情からは、嘘の欠片すらも感じ取れなかった。
やっぱり、この子は信じても大丈夫なんじゃないだろうか。確信めいた想いを抱いた私はほっ、と胸を一撫でした。その直後の事だった。
「騙されちゃダメですぅ! その女は人狼ですぅ!」
突然席を立ち、黎名ちゃんを指差しながら叫ぶように言葉をぶつけて来たのは、唯だった。その過剰な様子に、私達は一瞬反応が出来なかった。その間にも、唯は言葉を放って行く。
「このタイミングで、こんなふざけたメール送って来るなんてどーゆー神経しているわけぇ!?」
「違います。私は」
「惚けんじゃないわよぅ! そんな小細工したって、あたしは誤魔化されないわぁ。この人殺しが!」
「駄目だ唯! 落ち着いて……!」
咄嗟に紫御が、唯と黎名ちゃんの間に滑り込む。そうでもしなければ、唯はすぐにでも黎名ちゃんの胸ぐらに掴みかかっていたかもしれない。
だが何故、唯はいきなりこんな事を言い出したのか。
確かに唯は、最初の投票で黎名ちゃんに入れていた。だから、彼女の事は疑っているのは事実だろう。
でも、だからといって、ここまで敵意を剥き出しな反応をするものなのか? 私の知る限り、唯は出会った当初は黎名ちゃんに好印象を持っていたように見えたのに。
あまりに暴走する唯に、今度は比美子が紫御に加勢する。
「ちょっと! どうしたのよ唯!? 何で急に黎名ちゃんに噛みつ付いているのよ!? 」
「止めないで下さい比美子センパァイ! この女は、嘘のメールで皆を混乱させようとしているんですぅ!! あんたが人狼なんでしょぉ? それともGMゥ? どのみちあんたが、このゲームの首謀者なのよねぇ? その為に霧隠荘に来たんじゃないのぉ?」
その一言により、食堂内に動揺した空気が走る。次の瞬間には、困惑した視線が、黎名ちゃんに突き刺さっていた。
「もっと早くに気付けば良かったんだわぁ! 身内でもないあんたが、何でこんな山奥に来たのかとか! 何で手紙に上げられていた名前に、偶然ここを訪れた筈のあんたが頭数に入っていたのか! 考えてみればいくつも妙な点があったのにねぇ!!」
唯が暴言を吐けば吐く程、黎名ちゃんを見る目が厳しくなって行く。そしてそれは言外に問いかけているのだ。“この女は何者なのか”と。
「さぁ!! とっとと白状なさいよぉ!!!『自分こそが黒幕だ』ってぇッ!!!!」
唯は口角泡を飛ばしながら、なおも黎名ちゃんを指差して喚き散らす。それなのに、誰も止めようとはしない。それは、少女への無言の糾弾のように思えた。
このままじゃ、まともな議論もせずに投票時間になってしまう。それだけは、何としても避けたい。
何とかしなくちゃ!そう思った私は──。
「イェェェェェェェェェェェェイッ!!!!」
取りあえず、今流行のギャグを叫びながら、力の限り、テーブルに両手を叩き付けた。息が続かなくて、最後まで言えなかったのは残念だ。すると、先程まで騒がしかった室内が、一瞬にして水を打ったように静まりかえる。
突然の私の奇行に、皆が一斉にポカン顔を向けて来る。止めろこっち見るな。今この瞬間、何かを失った気がするのは、私が一番判っているんだ。
「……冷静になりなさい、唯。今は争っている場合じゃない。判っているでしょ?」
私は、何事も無かったような素振りで話し始める。その間にも、可哀想なモノを見るような皆の視線が注がれるが、気にしてはいけない。
「今、すべき事は何? 少なくとも、互いに潰し合う事じゃないでしょ? そんなの、人狼の思うツボよ。あんたを信じていないわけじゃないわよ。相手を頭ごなしに否定するのは良くない、と言っているの。ただでさえ、“裁判”の時間は限られているのに。感情的になって場を乱すな。あんたは、私達を殺す気なの?」
私の率直な言葉に、唯は黙り込む。そのまま俯いてしまった彼女を尻目に、今度は事態を傍観していた仲間達に矛先を向ける。
「皆だって同罪よ! 何で誰も止めようとしないの!? こういうのって、双方の話を聞くべきでしょ!? 片方だけを一方的に信じて、こんなのイジメじゃない!!」
誰も、何も反論しなかった。まさか本当に、誰一人として考えていなかったのか。あるいは、単に見てみぬフリをしていたか。どちらにせよ、がっかりな事だ。
すっかり呆れ返った私は、盛大な溜め息を吐き、「最低」とだけ口にする。どうしようも無いな、と思いながら、私は視線を唯に向けた。
「だから私は、あんたと黎名ちゃんそれぞれの言い分を聞く事にするわ。というわけで、まずは唯から!」
言いつつ私は、「どうぞ」とばかりに掌を唯に向ける。だが、彼女は戸惑ったような視線をこちらに向けながらも、一向に言葉を発しようとしない。
「……唯?」
不審に思って唯に呼びかけてみるが、本人といえば、「えぇとぉ」とか「そのぉ」とか呟くだけで、一向に話し出そうとはしない。
(どういう事? さっきまであんなに自信たっぷりな様子で、黎名ちゃんを詰っていたのに……)
唯の煮え切らない態度が、どうにも気になる。だが、こうしている間にも、時間は刻々と削られているわけで。次第に焦りと苛つきが募って行く。
程無くして、唯の態度に痺れを切らしたらしい兄が、口を開いた。
「……もう良い。時間の無駄だ。先に黎名ちゃんの言い分を聞こう」
「ま、待って下さぁい明宣さぁん」
「却下だ。今のお前に合わせていたら間に合わん。黎名ちゃん! 疑うようなマネして悪かった。さぁ、話してくれ!」
兄の苛つきはピークに達していたのか、なおもすがり付く唯を怒鳴り付けると、黎名ちゃんに話すよう促した。
それを受けた黎名ちゃんは、兄の方を向くと「ありがとうございます」と礼を言う。そしてそのままふぅ、と一息吐くと、テーブルをぐるりと見回し、口を開いた。
「では、お言葉に甘えまして、発言させて頂きます」
そう宣言すると、黎名ちゃんはカツン、と靴音を立て、食堂の中央に移動し、口を開いた。
「まず、私が何者なのか。何故、こんな山奥を訪れて来たのか。皆さんは知りたい事と思います。ですが、その話は一先ず置いておいてくれませんか? 今は、今回処刑するべき人物を決める事が先なんです。……後で必ず、お話しますから」
黎名ちゃんは真剣な口調と共に、頭を深く深く下げる。その姿は、彼女の誠実さを感じ取るには充分過ぎるものだった。
加えて、彼女の言い分は正しかった為、この場にいた者達は、今は引き下がる事にしたようだ。それを確認してから、彼女は続ける。
「……ありがとうございます。では早速お話ししましょう。神楽さんを人狼と称する根拠を」
黎名ちゃんは、そう一言置いてから、推論を話し始めた。
「まず一つとして、神楽さんは初日の夜から未明にかけて、最も動き回っていた時間が多く、アリバイの少ない人物だと言う事です。ですが、これだけではまだ確定的とは言いがたいです。そうであれば、早々に自室へと引き上げた、比美子さんや光志郎さんもまた、アリバイの少ない人物と言えますからね」
黎名ちゃんは、比美子と光志郎にそれぞれ目を向けながら話すと、今度は神楽さんに挑むような視線を送った。
「しかし、お二人とは違い、神楽さんは霧隠荘の管理人です。別荘内の事は誰よりも熟知している事でしょう。それに、他の人間の場合、鍵を手にする際には必ず神楽さんに許可を取る必要がありますが、彼女自身にはその必要は無い。鍵もキーボックスも思いのままです」
黎名ちゃんはそこまで話すと、休憩のつもりか一息吐いた。その瞬間、すかさず唯が反論する。
「……成程ねぇ。つまりアンタは、たったそれだけの理由で、神楽さんを人狼だと言いたいワケよねぇ? 一応納得は出来るけど、それだけじゃあまだ決定的とは言いがたいわよねぇ」
唯は是が非でも、黎名ちゃんに難癖をつけるつもりなのだろうか。黎名ちゃんの言葉に対し、マシンガンを撃つように更に言葉を放つ。
「確かに、こういった状況において最も疑わしく見えるのは、その場所を管理している人物よぉ。けれど、管理人室もキーボックスも施錠されていなかった以上は、鍵を手に入れるチャンスは誰にでもあったわぁ。ならば、“部外者”であるアンタにだって、その機会はあった筈よぉ。別荘内をじぃっくり探索出来る時間は、充分あったんだしねぇ!」
わざとらしく部外者の部分を強調して、唯が蔑む。小馬鹿にしたように黎名ちゃんを鼻で笑う様から、余裕綽々である事が感じ取れた。
しかし、対峙する少女は、その程度では顔色を変えたりはしなかった。冷静な表情を、声色を保ったまま、黎名ちゃんは反撃の一手を打つ。
「仰る通りです。確かにこれだけでは、神楽さんを人狼として処刑する理由としては、薄弱過ぎる。ですが、彼女が疑わしいと言える根拠は、他にもあります。……皆さんも覚えていらっしゃる筈ですよ。香澄さんの遺体発見後、居間に集まるまでの事です」
黎名ちゃんにそう問いかけられ、私は昨日の出来事を思い出す。
本来ならば、記憶の奥底に仕舞い込んでしまいたい程に辛い出来事だ。だが、その時起きた事こそ、今回の処刑先を決める決定打となるらしいのだ。あの時、何があったっけ?
香澄ちゃんの死体を見て、動転して、確か……そうだ。相田先生が冷静に対処してくれて、警察を呼んでくれって指示して。……待てよ? もしかして……。
「……最初の“裁判”の時にも問題になった、……居間の、花束?」
「その通りですよ、朱華さん」
まさか、と思いつつも零してしまった言葉に、返って来たのは肯定の意。あぁやっぱりか、と納得した。同時に、外れて欲しかった、とも。
「昨日もそれについて議論しましたよね? あの花束は事件発覚以前に置かれた事は有り得ない、と。ならば、花束が置かれたのは事件発覚後の事です。混乱の最中、どさくさに紛れてさりげなく置いた。確か、そう話したのは神楽さん、あなたでしたよね?」
黎名ちゃんはそう言いつつ、蒼白な顔色で俯く神楽さんを見据える。多くの視線を一斉に浴びる事となった彼女はただ、唇を震わせ、何も語ろうとはしない。
「議論に参加する事で、疑われる事を回避するおつもりだったのでしょうが、失敗でしたね。あの時、それが可能だったのは、警察に通報する為に部屋を出た、あなたと美津瑠さんの二人だけだった。室内に留まっていた他の全員には、不可能です。しかし、美津瑠さんは村人でした。となれば、花束を居間に置く事が出来たのは、あなたしかいない。それ即ち、あなたが人狼であると言っても過言では無い筈です。違うと仰るならば、どうぞ反論して下さい。お聞きしますよ?」
その瞬間、勝負ありだ、と思った。反論を許された神楽さんは、牙を少女に向ける事無く、目を閉じたまま沈黙を貫く。それが表すのは恐らく、肯定の意だ。その祈りにも似た美しい姿からは、最早諦めの色さえ感じられた。
それを見て、神楽さんの劣勢を感じた唯が、焦ったように神楽さんの援護をする。
「ぬ、濡れ衣だわぁ! 神楽さんが人狼の筈無いものぉ! きっと、誰かに嵌められたのよぉ!! 例えばぁ、……別荘内を自由に動ける神楽さんが邪魔だからぁ、余計な探索をされる前に人狼に見立てて排除しようとしたとかぁ!!」
「確かに、その可能性もあり得ますが、それならまず、神楽さんを襲撃すれば良かった筈です。その方が、より自然に邪魔者を排除出来たでしょう。私なら、そういった不安要素は真っ先に消してしまいますけどね」
「黙りなさいよ探偵気取りがぁ! 大体アンタ、部外者のクセに偉そうな事を……」
唯が更に言い募ろうとしたその時、再びアラームが時を告げる。ハッとして時計を見上げれば、もうじき九時になろうとしていた。
また、あの瞬間が訪れる。この中の一人を処刑台に送る、あの瞬間が。
例え直接的では無いとは言え、この瞬間確かに私達は、自らの手で人を一人殺す事になるのだ。急に喉がカラカラになり、手先が震えて来る。
「騙されないでぇ!! 人狼はこの女ですぅ!!」
あれだけ、完膚無きまでに叩きのめされてもなお、唯は黎名ちゃんを指差し、喚く。
確かに、黎名ちゃんへの疑いは、完全には消し去れてはいない。しかし、理論的に考えれば、最も怪しいのは神楽さんである。実際、黎名ちゃんの主張には納得出来る部分が多々あったわけだし。
寧ろ、ここまで黎名ちゃんを目の敵にする唯自身も、何か引っ掛かる物を感じてならなくなって来た。
人狼は神楽さん? 黎名ちゃん? それとも唯? あるいは、……他の人物?
揺れる想いと、過ぎる時。大切な人達の中から一人を差し出す、贄選びの儀式。この間にも人狼は、私達を心の内で嘲笑っているのだろう。
せめて、僅かでも顔に表れていないだろうか。そんな薄い望みは、ポーカーフェイスを決め込まれた表情達を前に、飛散する。ならばもう、決めるしかない!
二本の針が重なり合う瞬間、決心した私は、力強く右手の人差し指をある人物へと向ける。
そして。程無くしてアラームが、審判の時を告げた。
私は、びしりと上げた人差し指をそのままに、急いで投票先の確認をする。
黎名ちゃん、比美子、兄さん、光志郎、私が神楽さんに、聖と唯が黎名ちゃんに、将泰さんと紫御が唯に、そして神楽さんが、……何と私に、それぞれ投票していた。
嗚呼、と私の口から僅かに嘆きの声が漏れる。今回処刑されるのは、……神楽さんだ。
「そう。残念だわ」
それだけを呟くと、神楽さんはすっくと立ち上がる。そして、そのまま颯爽と扉の前まで進むと、くるりと向きを変えて、私達ににっこりと微笑んだ。
「……どうしたの? 早く丸太小屋へ行きましょう? 私一人だと、逃げちゃうかもしれないわよ」
茶化すようにそうのたまう神楽さんからは、恐怖や絶望といった感情は一切感じられなかった。まるで、いつかこうなる事を予測していたかのように。
やがて、将泰さんがゆっくりと席を立ち、それに続くように兄と紫御、光志郎が動いた。神楽さんが、四人の男達と共に食堂を出て行く。その際ふと、神楽さんがこちらを振り向いた。
最後の最後で私に票を入れた、憧れの人。そんな彼女が見せた、酷く感情の抜け落ちた顔が目に焼き付いた。あぁ。そんな。
彼女の瞳を見た瞬間、私は本当の意味で理解する。信じていたものは、呆気なく崩れ去るのだという事を。
裏切られた気分だった。何せ、神楽さんは私が本気で目指していた、理想の女性像だったのだ。だからこそ信じたくなくて、……悲しかった。彼女が、私に票を入れた事に。
あの時、特別マークもされていなかった私に指名した理由など、一つしか考えられない。
(あれはきっと、神楽さんの最後の足掻きだ)
“人狼裁判”を終えた後の浴室で、容赦無く降り付けて来る熱いシャワーを浴びながら、私は考える。その中で思い出されるのは、神楽さんと過ごした記憶だ。
あの笑顔は、偽りだったのだろうか。もしそうなら、いつから? 考えても答えの見えない問いかけが、頭を支配する。……止めよう。もしかしたら、私の思い過ごしかもしれないし。
寧ろ、そうであって欲しい。最悪な想像を振り払うようにして、私は身体が冷えぬ内にと浴室を後にした。
「朱華、ちょっと良いか?」
お風呂から上がり、廊下をぶらぶらしていると、光志郎が話しかけて来た。いやに、深刻そうな顔付きだ。何となく、ただならぬ雰囲気を感じる。
しかし、先程の“裁判”を思い出した私は、正直、今は誰とも話したくなかった。あの時、黎名ちゃんに手を差し伸べなかったこいつらの事は、……はっきり言って、幻滅している。
けれど、今それを言ったところで、この胸に渦巻くモヤモヤが消えるわけではない。だから、取りあえず相手の話を聞く事にした。
「……何」
「悪いが、もう少しこっちに。……あまり、他の奴らに聞かれたくないんだ」
光志郎はそう言って、廊下の端まで移動し、警戒するようにきょろきょろと周囲を見渡す。そして、人の気配が無い事を確認すると、光志郎はようやくこちらへと向き直った。私は焦れったくなって、つい口を開く。
「で、何なの? 聞かれたくない事って?」
「単刀直入に言う。俺のケータイの画像が消された」
「……は?」
間髪入れずにされた告白に、私は一瞬理解が出来なかった。相手に合わせて声を潜めつつ、私は更に問いかける。
「えっと、……画像って、もしかしなくても、……事件現場の画像よね?」
「いや、入っていた画像全部やられた。でも、目的は確実にそれだろうな。全消しの方が楽だったんだろう。風呂に入る時に、脱衣籠に着替えと一緒にケータイ置いといたんだけど、その時に手ェ付けられたっぽい。気付いた時には全部パァだ。……保護設定しとかなかったのが、運の尽きだったな。クソッ」
自嘲気味に話す光志郎の様子に、私は二の句が告げず、ただ立ち竦む事しか出来なかった。が、同時にある疑問が頭に浮かぶ。
「でも、どうやって脱衣場に? あそこは、鍵がかけられる筈なのに……」
そう、霧隠荘の脱衣場のドアは、内側から鍵をかける事が出来る。かつてペンション経営をしていたが故に、取り付けられた物だった。
だが、そこまで考えて思い至る。マスターキーが存在する以上、それは脱衣場とて例外では無いだろう。万が一の事があったら、大変だろうし。
施錠の突破は可能だ。何せマスターキーは人狼達が所持している。まぁ、こんな事をするのは奴らしかいないのだろうけど。
「人狼の奴ら、大胆な動きをして来たわね。それだけ本気で、私達を潰す気なのかしら」
「いや、……そうじゃないんだ、朱華」
俯き加減にそう口を開く光志郎に、私は首を傾げる。
どういう事だろう。私は、何かおかしな事を口にしたのだろうか。
「違うって、何が? だって、こんなのどう考えたって人狼の仕業に決まっているでしょ?」
「朱華、人狼がアクションを起こせるのは夜だ。それは人狼ゲームにおける基本ルールだろ?」
突然質問を質問で返されて、私は戸惑う。それでも、今は光志郎の話を聞くべきだと思い、ひとまず頷いて見せた。
「そう、夜。このゲームでは、午前零時から二時までの二時間程度。その時間帯が、人狼の活動範囲なんだ」
「……何が言いたいの?」
「つまり、その活動範囲時間外の今、奴らが動くとは考えられない。それは、奴らからすればルール違反だからだ。手紙にはそんな事は書かれていなかったけど、少なくとも基本ルールを破ると同等の行為を、奴らはしないと思うんだよな」
「待ってよ。じゃあ一体誰が、あんたのケータイの画像を全消ししたのよ? だって、マスターキーは人狼が所持しているんでしょ!? 神楽さんは、……ここにはもういないから無理だし、人狼じゃないなら、他に誰が」
「朱華、今から言う事は誰にも言うなよ? あくまで仮定の話だが、あまり聞かれたくはない」
光志郎が、真剣な目付きで私を見据える。かつて部活の試合時に見せていた、勝負事に挑む時の目だ。
そんな気迫に満ち溢れた目をして、光志郎は私に、おおよそ信じられない事を言い放ったのだ。
「誰かが、人狼と繋がっている可能性がある」
時が一瞬、止まった気がした。光志郎の言葉を受け入れたくないと、脳が拒否反応を起こす。
それでも、カラカラに渇いた口をこじ開けて、何とか反論するために、私は言葉を発した。
「…………な、何それ……!? 私達の中に、裏切者がいるっていうの!?」
「確証は持てないが、そう考えざるを得ないな」
「まさか、そんな……嘘でしょう!?」
「俺だってそう思いたいさ。だが、その方が人狼の仕業だと考えるよりもしっくりくるんだ」
光志郎は、そこで一息吐くと、畳みかけるように推論を語り始めた。
「そもそも人狼には、夜を待たずに行動するメリットがない。誰かに目撃されるリスクを犯すくらいなら、深夜に行動する方が都合が良いからな。だが、犯行は深夜前に起きた。つまり、犯人にとって深夜に動く事は都合が悪いんだ。というか動けなかったんだろうな。それは、犯人が深夜自室から出る事が叶わない者……即ち村人だから、リスクを犯してまで犯行に及んだわけだ。そしてそいつが裏切者なら、鍵を所持していてもおかしくない。恐らく、人狼が貸し与えたんだ。だから、そいつと人狼は、繋がっていると考えて良い。でなければただの村人が脱衣場の鍵を開けられる筈がない」
まさに立て板に水とばかりの勢いだ。こちらに反論させる隙すら見せる事無く話すその様は、圧巻だった。流石、弁護士の息子だ。物凄く弁が立つ。
内心、舌を巻く私の前で、しかし光志郎は力無く、こう言って推論を切ったのだった。
「……それでも何故、そんな危険を犯してまで、そいつが人狼に加担したのかは、判らないんだけどな………」
光志郎と別れた後、私は、自室のベッドに潜り込んだは良いものの、眠れずにいた。
光志郎の推論が、頭を離れない。はっきり言って信じたくない。仲間内に人殺しがいる状況だけでも辛いのに、更にそいつらと結託している奴がいるなんて。
けれど、光志郎の言う通りだと思った。少なくとも、人狼達には彼らなりの信念があるように思えた。実際、今までの殺人は全て、夜中に行われている。
そもそもどうして、人狼ゲームなのだろう。“ユダの箱庭”になぞらえる為? そんな理由だけで、ここまで忠実に再現させる必要があるのだろうか。
だってこれだと、下手をすれば人狼自身だって危険だ。いくら状況を再現出来たとしても、自分達が処刑されない保証など、どこにもない。寧ろ、忠実さを求める事は、人狼の処刑も、きっちり再現しなくてはいけない事になってしまうのだが。
(……まさか、死を覚悟した上で、ゲームに臨んでいるわけ? そんな事、有り得るのかしら)
そんな事を考えた時、ふと、居間に置かれた手紙の最後の一文が、脳裏を過る。
──全ては、復讐の為。
──お前達の犯した“罪”を、私達は決して許しはしない
復讐。それも死を覚悟出来る程の、強い恨みを持つもの。果たしてそれは、どんな事なのだろう。
……あぁ、もう判らなくなって来た!! 頭が、考える事を拒否している。イライラしながら起き上がり、机に置いていたケータイを確認すると、時刻はもうじき十時になろうとしていた。
(……十時まであと数分か。もう、寝た方が良いよな………)
そう思ってベッドに寝転がろうとした時、不意に声が聞こえた。ドア越しだから判りにくいが、どうやら言い争っているようだ。
気になった私はベッドから抜け出し、ドアを少しだけ開いて隙間から覗いてみる。声の主達はすぐに判った。唯と聖だ。唯の部屋の入り口で二人、言い争いをしている。
「……だからぁ! 何でも無いって言っているでしょぉ! もう、ほっといてよぉ!!」
「そんな様子で何でも無いわけねぇだろ! 大体お前、今朝からおかしいぞ!」
「……気のせいじゃないのぉ? あたしはいつも通りよぉ。何にもおかしくなんかないわぁ。それより、さっさと部屋に戻ればぁ? もし、十時過ぎたら、真っ先に人狼に襲われちゃうわよぅ?」
「……なぁ唯。オレ思っていたんだ。お前が急に黎名ちゃんが怪しいって喚き始めた時から、ずっと」
「…………何言っちゃってんのぉ?」
「そんな筈ねぇって思っていた。お前もうやらねぇっつってたし……けど、それしか考えられねぇなって」
「何言ってんのよぅ! そんなわけ無いでしょぉ!? 良いから早く帰って! 帰ってよぅ!!」
「なぁ唯。お前さ…………占ったんだろ。黎名ちゃんの事」
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