14 / 29
2017.5.4.Thu
処刑と襲撃② 【 三日目 夜 】
しおりを挟む◇
暗く、黴臭ささえ感じる丸太小屋の一室で。最多数票を獲得し、処刑されるその時を待ちながら、私、呉神楽は覚悟を決める。
私が死んだ後、霧隠荘の管理人を継ぐ者は現れるだろうか。そう考えてすぐに、それは難しいだろうと思い直した。
何せ、今回の事件は、遅かれ早かれ公になる。そうなれば、不吉だと忌み嫌われ、誰も近寄らなくなってしまう可能性の方が高かった。
せっかく気に行って、お祖父様から譲り受けたこの場所を、私の勝手な行いで駄目にしてしまうのは、本当に申し訳無いと思う。それでも、今回の計画について、後悔した事は一度と無い。それくらい、彼らの事が許せなかったのだ。
六年前。***の通夜に駆け付けた時。私には何が何だか判っていなかった。あの子が突然死んだ事も、そこに至る経緯をすべて聞いても、頭が混乱していたからだ。
どうして、あの子が? その疑問だけが、私の心を支配する。両親を、祖父を、事故で一度に失った私にとって、あの子は大切な存在だったというのに。
それを奪ったのが彼らだと知って、愕然としたものだ。だって、誰一人として、そんな残酷な事をするような子達では無いと、信じていたのだから。
けれどすぐに、そんな事はどうでも良くなった。
彼らがあの子を死に追いやったというなら、私は鬼になるつもりだった。お祖父様の遺したこの別荘を惨劇の舞台にするのは、とても申し訳なかったのだけど、……それでも私は、あの子を見捨てた、彼らの裏切りが許せなかったから。
彼らはきっと、本当の意味であの子を友達だと思っていなかった。だから、あんな残酷な事が出来たのだ。
彼らがあの子の信頼を裏切ったから、今度は、私が彼らの信頼を裏切ってやったのだ。
(私がやるべき事は、……私の出来うるすべての事は、やった筈。後はもう、運命に委ねるしかない……)
叶うならばせめて、あの子達の正体が知られませんように。
そう祈った時、誰かがドアをノックする音がした。……あら、もうそんな時間なのね。鍵は元々かけていなかったので、訪問者に対し、「入って」と一言促すと、ギィィ、と耳障りな音でドアが開く。
「待っていたわ」
歓迎するつもりで、訪問者に笑顔を向けると、相手は悲しさと悔しさが入り交じったような表情をこちらに向ける。
「……そんな顔しないで。あなたの計画にのった事、後悔していないから。寧ろ、……謝らなくちゃいけないわね。本当にごめんなさい。あなた達を、置いていかなければならない事」
訪問者に言葉をかける内、私の中で、何かが込み上げて来る。死ぬ事は、怖くなかった。ただ、目の前の相手を残して逝かなくてはならない事が、何よりも辛かった。
「でも、あなた達なら、きっと大丈夫。絶対に***の無念を晴らす事が出来るわ」
私の言葉に、相手の眉間の皺が深くなる。けれど、仕方が無い事なのだ。だって、これは人狼ゲームだから。正体がバレてしまった人狼は、退場しなければならない。そういう、ルールなのだから。
それに、私は人を殺した。その罪を抱えて生きていけるほど、私は強い人間ではない。もちろん、私が人狼だとバレずにゲームに勝利した場合は別だ。守るべきものの為に、死物狂いで生きるつもりだった。しかし、化けの皮が剥がれてしまった今では、もう。
「……ほら、情けない顔しないの! あなたは一人じゃないんだから。私がいなくなっても大丈夫よ! あなたは、自分の信じた道を進みなさい。それで良いと決めたのなら、決して振り向かないこと! それでも辛い時は、……泣いて良いわ。我慢なんかしないで、全部吐き出してしまいなさい。そうすればきっと、前に進める筈よ。あなたは強いから、大丈夫。いつでも、自分らしくありなさいね」
涙が零れそうになるのを必死に堪えて、私は相手に最期の言葉を告げる。大丈夫。あなたにはまだ、あなたを大事に思ってくれる人がいる。だから、私がいなくなったとしても、生きていける。
だから、勝って。このゲームに勝ってあなたは、あなた達は生きるの!
「……お喋りが過ぎちゃったわ。さぁ、一思いにやりなさい。どうせなら潔く、散らせて頂戴」
私が静かに話を終えると、相手は泣き出しそうな顔で、凶器を構える。すぐに首に感じた衝撃を受けて、私の身体は薙ぎ倒された。
「……三日目の処刑、…………完了」
哀し気な涙声を漏らした相手は、私に捧げるようにそぅっと花束を置くと、早々に部屋を後にしたようだ。……そう。それで良いの。
冷たい床に横たわっているからか、身体がどんどん冷えて行くのが判った。徐々に、瞼が重くなる。
「……待ってて***。……お従姉ちゃん、今からそっちに逝くから、……ね」
ごぽ、と口から血が迸って、それ以上言葉が続かなくなる。……もう、終わりが近いみたいだ。
皆、置いて逝ってごめんなさい。
私はここで脱落してしまうけれど、後はお願いするわね。
◇
(クソ。……いつまで、こんなのに耐え続けなきゃいけねぇんだよ……。オレんとこ来た時の事ばっかり考えちまって、このところ全く寝れてねぇ。めちゃくちゃ腹立つわ)
夜、眠れないまま室内をうろうろしているオレ、嵯峨聖は焦る。
ここに来てからずっと、ツイていなかった。
せっかく、気持ち良くゴールデンウィークを楽しめると思っていたのに、ダチから金の催促されるとは思わなかった。
あの野郎。返さねぇ内にまた貸してくれって言うから嫌なんだよな。その電話が夜中にかかって来たせいで、怪しまれて票入れられちまうし。最悪だ。
……そもそも、こんなゲームに巻き込まれたのが、最大の不幸だ。デスゲームなんてのは、漫画やゲームとかだけで良いんだよ。
これ、絶対***関係だろ。オレらが関わってるヤバイ事って、それくらいだろうし。……いや、勝手にダチに金渡してンのもマズイだろうけど。兄貴とかにバレたら、殺され……いやいやいや。兎に角、そういう事だろう。
あの時は正直、ヤバイけど、最終的には何とかなると本気で思っていて、「“誓い”なんて格好ェ」とか馬鹿みたいな事考えていた。でも、馬鹿ながらに知られたら駄目だってのは判っていて、家に帰ってからもビクビクしてた。
唯にも「おじさんにもおばさんにも話すなよ!」って釘刺して、……そこからはあまり覚えていない。
つぅか、オレらそんなに関係無くね? 確かに、***の事無視したりしたけど、一番の原因って朱華だろ。オレらまで、こんな思いするなんて、……いやでも。
……やっぱり、オレらも悪いよな。何で今更気付くんだよ。あの時に気付いてたら。もしかしたら。
ゴールデンウィークが明けたら、***の墓参りに行こうかな。今更だとは思うけど、きちんと謝るべきだと思うんだよな。
よし。そうと決めたら、ゲームに生き残らなくちゃな!
(もし本当にこっちに来たら、返り討ちにしてやる。幸い、ここには頑丈な椅子がある事だしな。ドアの前で待ち伏せして、……開いた瞬間にこいつを叩き付けてやりゃ、一発で御陀仏だ!)
大丈夫。オレは柔道やってたし。体格もここにいるヤツらより──まぁ、明宣さんには劣るかもだが──デカい。速攻で襲いかかれば、勝てる筈だ!
「さぁ、来るなら来やがれ! ここを選んだ時点で、てめぇの運のツキってヤツだぜ。来いよ人狼ゥ!!」
自分を奮い立たせるつもりで叫んだまさにその時、タイミングを見計らったかのようにガチャリ、とドアから音がする。瞬間、思わず「……ぅおぉう!?」と情けない声が出てしまった。き、来やがった! 今だ!!
「うおりゃあああああッ!!!」
ギィ、とドアが開かれ、人狼が侵入するその時を狙い、俺は恐怖に押されるように椅子を振り上げる。
仲間とかダチとかどうでも良い。向こうが殺すつもりだというなら、もう敵だ。こっちだって、殺す気で行く! その頭、潰してやらぁ!!
力も体格も、オレに勝てる奴なんてそういない。だから、返り討ちは難しくないだろうと踏んでいた。筈なのに。
「ぐぁ……!」
一瞬、風を切るような音がしたと思ってすぐ、何か硬い物がオレの左目の辺りにぶつかる。その勢いと痛みに怯んだオレは、バランスを崩して床に倒れ込んだ。同時に、担いでいた椅子が、床に叩き付けられて派手な音を立てる。
「いッ! ……てぇ~…………!!」
倒れ方が悪かったらしく、強く打ち付けてしまった腰を庇いながら、オレは改めて侵入者に目を向ける。デスクに設置されている、電気スタンドが照らす二人組の顔を見た瞬間、驚愕のあまりオレは目を見開いた。
「……は? 人狼ってあんたらかよ!?」
信じられねぇ。こいつらが、人殺しかよ。今までオレ達を騙して馬鹿にして欺いて、無害そうな顔してのうのうと村人のフリしていたのか。許せねぇ!!
「ざっけんなよてめぇら! 殺してやる……!?」
今度こそその顔面に一発食らわせてやる。そう思いオレは、近くに転がった椅子を掴もうとして──。
「……あ?」
伸ばした手の先。そこに椅子は無かった。それを認識するのと、頭に再び衝撃を感じたのは、ほぼ同時だった。
「がッ! ちょ……ッ。待っ…………」
オレの静止を待たずして降りかかる、椅子の連打。反撃さえ許さないほど怒涛の勢いの攻撃は、明らかにオレの力の強さを警戒してのものだろうと、馬鹿なオレでも判った。
それにしたって、容赦無さ過ぎだろ。仮にもオレら、仲間だったろ。なんて思う自分に反吐が出る。さっきの自分に、思いっ切りブーメラン突き刺さっているわ。
ボコボコに殴られる内に、だんだん感覚がなくなって行く。……て、オイ。今目に当たったぞ。目ぇ見えなくなったら、どう責任取ってくれンだよ。
最初は抵抗していた身体が、徐々に動かなくなる。……くそ。マジでオレ死ぬのかよ。
「三日目の襲撃、…………完了」
ばさ、と近くに何かを投げ捨てて、人狼のヤツらは部屋を出て行った。
何やってんだよオレ。アイツら野放しにしたらヤバイだろ。動けよ。追えよ。アイツらとっ捕まえてぶっ殺さないと、皆が。
……畜生。身体が、全ッ然動かねぇ。畜生、動け。動け動け動け! ……動けよォ!!!!
身体は言う事を聞かず、ただ悔し涙が流れる。心なしか、どんどん眠くなって行くような気がする。クソ、……墓参り、行けなくなっちまうな。
悪い、唯。オレ、ここまでだ。
せっかく、大嫌いになった占いをしてまで、怪しいヤツを見つけてくれたのにな。
アイツらは、危険だ。気を付けろ。
せめてお前だけは、生き残ってくれよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる