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2017.5.7.Sun

第十三章 虚構 【 六日目 夜 】

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 傍らに置いていたケータイが、メールの受信を伝える。机に突っ伏していた私は、のろのろと顔を上げ、寝ぼけ眼のまま手探りでそれを掴んだ。ついでに時刻を確認すれば、もうすぐ午前零時になるところだった。……思ったより、長く寝入っていたのか。通りで身体の節々が痛むわけだ。
 取りあえずメールを確認しようと、手早くケータイを操作し、受信ボックスの最上にあるメッセージを開く。内容は、先程の投票の結果発表だった。

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From:香澄ちゃん
Sub:結果発表~~~!
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さぁさぁさぁさぁ! いよいよ! 最終投票の結果発表! ですよ!! (*´∀人)キャー

果たして~勝つのは人狼か村人かどっちだァ~?
発表します!!(ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルル……チーン☆)

紫御さんは、……人狼でした! (*_*) イャー
つまりぃ~これで、人狼は全滅。村人側の勝利決定で~す。( -д-)ノ∠※。.:*:・'°☆ オメデトー

「僕は村人だ。信じてくれ」

だから明宣お兄ちゃんは村人! という事デスネ!!
まぁ、死んじゃったからあんまり意味無いかな。
お姉ちゃん、独りぼっちになっちゃったね。( ゚ー゚)

「信じてくれるかい? 俺が人狼じゃないって」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 無駄にテンションの高いメールとは裏腹に、私の気分は沈んで行く。確定した勝利を、喜ぶ事も出来なかった。だって、失ったものがあまりにも多過ぎたから。

 ──お前の小説が、ついに世間に認められたのかと思うと、俺は嬉しくて仕方ないよ。ここまで来るのに、お前がどれだけ頑張っていたか、判っているつもりだ。
 ──朱華、辛い時はいつでも頼って良いよ。何があっても僕達は、君の味方だからさ。

 孤独感と虚無感が胸に一気に押し寄せて来て、思わず泣きそうになる。楽しい同窓会になる筈だったのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 最初は十三人居た仲間は、次々といなくなっていった。ついさっきまで一緒だった兄も紫御もいなくなって、とうとう私は、独りぼっちになってしまった。
 運命に抗おうと必死に足掻いても、大切なものはこの手をすり抜け、零れ落ちて行く。それが、堪らなく悔しい。やはり私では、何かを変える事は出来ないのか……。

「………………あれ?」

 そう言えば、何で普通にメールが届くんだろう。
 GMが誰であれ、この別荘にはもう、私一人しか生き残っていない筈なのに……。
 ふと浮かんだ疑問に背中を押されるように、私は机の上に置きっぱなしのメモ帳を手繰り寄せ、開いた。そして、舐めるようにじっくりと見直す。

「……これ、まさか。………そんな」

 口元に手をやり、呆然とそう呟く。何故、これを纏めている時に気付けなかったんだ? 普通に考えたら、おかしいのに……。
 危ないところだった。何が“勝利”だ。何が“独りぼっち”だ嘘っぱち野郎。危うく、騙されるところだった。
 思い出せ。確か、このゲームの勝利条件は、“人狼三人を処刑し、GMを見つけ出す事”だ。たとえ、人狼全てを処刑出来ても、GMを確保出来なければゲームに勝った事にはならない。つまり、……ゲームはまだ終わっていない!
 まずいと思った私は、再びケータイで時刻を確認する。午前零時まで後僅か。今日が終わるタイムリミットは、刻一刻と迫って来ていた。
 現状、人狼は全て処刑されているので、本来なら襲撃が起こる筈は無い。しかし、まだGMが野放し状態である以上、油断は出来ない。何故なら……。

(私の考えが正しければ、GMは、処刑人を兼ねている可能性が高い……!)

 その場合、GMは何かしらの凶器を持っている筈だ。そして、今まで丸太小屋に送られた生贄達のように、私の首を刈らんと襲って来るかも知れない。

(そう考えた時、タイムリミットは恐らく、人狼の襲撃時刻と同じ、午前零時以降。手紙にあったルールには書かれていなかったけど、用心するに越した事は無いしね……)

 大体、普通に考えて、復讐したいほど憎んでいる相手に、一から十まで教えてくれる奴がどこに居るというのか。下手したら、奇襲の一つくらいして来そうだ。
 ならば、部屋に来るイコールアウトだと思って良いだろう。つまり、このまま室内に留まっている事自体非常にマズイ。では、一体どうするべきか。

(……そんなの、決まっている………!)

 向こうが来る前に、こちらから会いに行くしかない。
未だGMが誰か確信があるわけではないが、候補は絞れている。後は、勝負に出るだけだ。

(今日が終わるまでにGMを見つける事が出来なければ、ゲームオーバーか……)

 狩られるのはGMか私か。
 ここまで来たらもう、運任せだ。恐らく、人生最大級の賭けになるだろう。
 私は簡単に身支度を済ませると、足早に部屋を出る。
 この悲しくも残酷なゲームに終止符を打ち、すべてに、決着を付ける為に。



 暗い、夜の廊下を不安な気持ちで進む。そうして辿り付いた、ある人物の部屋の扉の前に立つと、私の心臓は破裂しそうなほどに暴れていた。
 いざ行かん、とばかりにそっとドアノブに手を伸ばし、……そのまま手を引っ込める。いや、駄目だろ。と、我ながら、思わずツッコミを入れてしまった。
 いやいや、判ってはいるんだ。一刻も早くGMを見つける為には、確かめなくてはいけない事は。そして、その確かめるべき部屋が、ここである事も。
 だけどもし、私の考えが外れていた場合、この部屋にあるのは、……遺体だ。それも、大分時間の経っている、それ。今は初夏だから、最悪の場合……。深く考えるのはよそう。それよりも。
 私は何とかドアノブを掴もうと、再び手を伸ばす。正直メッチャ怖いが致し方ない。いざ………。
 そう決意した、まさにその時、コツ、と背後から足音が聞こえた。一瞬にして、全身がフリーズする。
 終わった、と思った。ぶっちゃけ、後ろを向くのが怖い。だが、このまま固まっているわけにもいかない。そう覚悟してブリキの人形よろしく、ぎこちない動きで足音のした方向を向けば……。
 私から、ほんの少し離れたところに、そいつはいた。明らかにサイズの大きな服を着て、フードを深く被ったその姿は、思っていた以上に小柄だった。
 けれど、隠し切れないほどの明確な殺意を感じた時、私は自分が間違っていなかった事を確信した。

(間違いない。こいつが、数時間前にガチメール戦争をやり合った、GM……!)

 復讐する側と、される側が、邂逅した瞬間だった。
 ゲームという手段を用いて私達に殺し合いをさせ、絆を壊し、弄んで来た張本人が今、ここにいる。静に支配された世界の中、私達は互いに微動だにする事無く、ただ見つめ合う。窓から差す月明かりだけが、時折微かに揺れていた。

「………ジュン、だよね。………私を、殺しに来たの?」

 意を決して問い掛けるが、相手は応えない。ほぼ確実にこいつがGMなのは判り切っているが、だんまりされると不安になる。やばい。私、間違えた?
 内心、汗ダラダラな私を余所に、相手は変わらず黙ったままだ。何故だ。何故答えない。あれか。ファイナルアンサーか。ファイナルアンサー言ってないからか。
 焦りと恐怖で頭の中がカオスな事になって行く中、くすりと鈴を転がすように相手が笑っていた。おかしい。私、今笑えるような事したかな……?
 そいつは笑いを納めると、不意にくるりと方向転換をすると、こちらを省みる事無くすたすたと歩き出した。その様子に、てっきり襲いかかられると思っていた私は、何だか拍子抜けしてしまう。
 暗闇故に、衣服の色さえ判別出来ない人影を、私はぼうっと突っ立ったまま見送っていた。その内人影が、少しずつ遠ざかって行って──。

(…………いや、何ボケっとしてるし! あいつが本当にGMなら、捕まえないと!!)

 ここに来た己の本来の目的を思い出した私は、棒と化した足を叱咤し、慌てて人影を追い掛ける。“彼女”を捕らえ、ゲームを終わりにする為に。



 後を追った先は、キッチンだった。一般家庭のそれと比べれば広めだが、それでも別荘内の施設としては、狭い方に入る場所だ。
 ここで襲われたら身動き取れそうもないな、と一人ごちる私の目線の先にその人はいた。奥の冷蔵庫の傍らに、こちらに背を向けるようにして佇んでいる。
 不意に、その人がこちらを振り向いた。目深に被っていたフードを脱ぎ、晒された素顔を目にした瞬間、私はやるせなくなった。ああ。やはり。

「…………香澄ちゃん。……あなた、だったの」

 そんな筈ないと、あり得ないと拒む己の心を嘲笑うように、“彼女”はにっこりと微笑んでみせる。その顔は、私の知る香澄ちゃんのものだった。

「直接こうして会うのは初めまして、だね。朱華お姉ちゃん。私が、このゲームのGMゲームマスター、ジュンだよ」

 不敵な笑みで、自信たっぷりにそう言い放つ香澄ちゃん。その姿も声も、ここで久しぶりに会ったあの子なのに、雰囲気は全くの別人だ。その差に得体の知れない何かを感じて、私はぞっとする。

「…………いつから? いつから騙していたの? ……ううん。もしかして最初から?」

 ここに来て最初に、楽し気に駆け寄って来た時も。
 私を祝うパーティーでの楽しい団欒の時も。
 仲間達と駄弁ったり、ゲームで遊んでいた時も。
 その、あどけない笑顔の下に、憎悪を隠して。私達への復讐を思い、牙を研いで来たというのだろうか。この、人形の如く愛らしい従妹の少女は。
 齢十四にして女優張りの演技力を見せる少女に、私は舌を巻く。よもや、あの純粋無垢を形にしたこの子が、こんな策士になるなんて思いもしなかった。
 半ば放心状態となった私を尻目に、香澄ちゃんは側のコンロに近付き、ヤカンを取り出して水を入れ始めた。程無くカチリという音の後、片隅にぽっと青が灯る。
 ……まさか、お湯沸かしている? why?
 ぽかんとする私を余所に、香澄ちゃんはてきぱきと台所内を動き回る。やがて彼女は、皿やカップの乗ったお盆を私にぐいと差し出してこう言い放った。
「ちょっと、お腹空いちゃったんだ。取りあえず、お茶にしない?」
「……………………は?」
「あ、毒とか入れるつもり無いから、身構えなくて大丈夫だよ」

 いや、そこじゃない。確かにそれも警戒したけど、そこじゃないんだよな。



 今の状況を整理しよう。
 深夜の台所にて、目の前の簡易テーブルの上に乗るは、インスタントのコーヒー入りマグカップが二つ。その中央には小皿があり、可愛らしいレースペーパーの敷かれたそこには、小麦色と焦茶色。一口サイズの様々な形のクッキーが盛られている。
 お茶会だ。紛う方なきお茶会だ。問題なのは、復讐する者と復讐される者が、向かい合って着席している事にある。どうしてこうなった?
 件の少女はと言えば、クッキーを摘まみながら楽しそうに笑っている。何だその顔可愛いな。というか君、私を殺しに来たんじゃないのかよわけが判らないよ。
 ヤバい。頭の中がツッコミスパイラルだ。一度、冷静になる為にも、今はこのお茶会を楽しんだ方が良さそうだ。そう思い、私はマグカップに口を付ける。
 ふわ、と香りが鼻を擽る。うん、少し落ち着いて来た。せっかくだからと、小麦色のクッキーを口にすれば、さくりと軽い歯触りの後、ほんのりとバニラが香る。

(うま………)

 このクッキーめちゃうまなんだが。どこのかしら。つられて今度は焦茶色のそれを口に放り込む。噛み砕けば、今度はココアの風味が広がった。うむ。こっちも美味しい。けれどこのクッキー、初めて食べた気がしない。前にも、食べた事あったっけ?
 不思議に思った私は、皿の中のクッキーを観察する。
丸に四角に楕円に花形。様々な形に型抜きされた、白黒二色の小さなそれら。普通だ。何の変哲も無い、普通の一口クッキーにしか見えない。なのに、何かが引っかかるのだ。
 うんうん唸って頭を働かせてみても、一向に思い出す気配は無い。何だよ私の頭ポンコツか。それでも思い出そうと奮闘しようとした時だった。

「ねぇ、朱華お姉ちゃん。聞いても良いかなぁ」
「…………へ?」
「どうしてさっき、私の部屋の前にいたの?」

 突然、香澄ちゃんにそう問われ、思わず鼻白む。目線の先では、香澄ちゃんが、酷くつまらなそうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
 あぁ、このゆったりしたお茶会も終わりか。
 私はコーヒーを一口飲み、一息吐くと、ゆっくりと口を開いた。

「……きっかけは、結果発表メールが届いた時だよ」

 生存確定者三人中二人が死に、自分だけが残った。そんな状況で何故、GMからメールが届くのか。そこで思い出したのは、光志郎の愛読書だった。
 実は、証拠品の一つであった栞を見つけた後、他に何か手がかりがあるかも知れない。と思った私は、ついでに栞の挟まっていた本も調べた事があった。
 パラパラと捲っている内に、あぁコレ一度読んだわ懐かしいわ、と思ってしまい、結局一気読みする羽目になってしまったのだが、それが功を奏した。

「詳細はネタバレになるからはしょるけど、兎に角、あの本が私の思考を柔軟にしてくれたんだよねぇ」

 違和感に気付いた後、私が行ったのは、仲間達とゲーム内の“役職”を洗い直す事だった。そうして改めてメモ帳を見直した時、ある事実に気付いたのだ。

「……その、気になった箇所が、コレよ」

 そう言いながら私は、部屋から持ち出して来たメモ帳をめくり、問題となる箇所を香澄ちゃんの前に突き出して見せた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
役職 → 人狼:3 GM:1 村人:9
      (+処刑人)

・一人で複数の役職を演じている人がいる。
 (ジュン情報)

役職の重複
 ・村人とGM?  ・村人と処刑人?
 ・人狼とGM?  ・人狼と処刑人?
 ・処刑人とGM? ・人狼≠GM?

・村人:2 人狼:1(通常)
     or
・村人:1 人狼(+処刑人):1 GM:1
     or
・村人:1 人狼:1 GM(+処刑人):1
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「人狼は三人。GMも含めて、敵陣営は計四人。つまり、人狼とGMはそれぞれ別カウントという事。人狼とGMのかけ持ちがあり得ない以上、今日の時点で、村人と人狼とGMが、同時に存在している状況って事になる。……おかしくない? 人狼とGMは味方同士なんだから、今日の時点で村人詰んでるよね?」

 状況を思い出してみる。今朝の時点で生存者は三人。ゲームが継続している以上、この内最低一人は、人狼である事が確定している。
 人狼三人の内、二人が退場しているので、人狼”は一人だけ。GMも、今まで生死が言及されていない以上、未だ潜伏していると考えて良いだろう。
 つまり、生存者の内訳は村人、人狼、GMがそれぞれ一人ずつ、となる筈。だが、この状態なら、GMは自らの役職をカミングアウトすれば、二対一で人狼側の勝利が決まる。裏切者が存在する通常のゲームでも、良くある展開だ。
 だが実際はそんな展開も無く、今まで通りに投票を行う形となった。そうなったのは恐らく、生存者の中にGMがいないからだ、と私は考えたのだ。

「そうかなぁ? もしかしたら、GMは生存者の中に居て、わざとカミングアウトをしなかったのかも。例えば、敵陣営二人で村人を徹底的に責め立てて、精神的に追い詰めて自滅させるつもりだった、とか」

 不意に、香澄ちゃんがそんな反論を挟む。その表情は微笑みを湛えていて、未だ余裕がある事が見て取れた。まぁ、それも想定の範囲内だったのだけど。

「それもちょっと考えたけど、……そのつもりなら、そもそも最終議論を無くしたりしないかなぁ、って」

 最終“裁判”参加者は、三人。変に疑われたら二対一になりかねない危機状況だ。そうなったら最後、反論も許されず、完膚無きまでに言い負かせられてしまう。
 私達が互いに傷付け合う事を喜んでいたジュンが、この絶好の機会を逃すとは思えなかった。まして、内一人がメインターゲットの私なら尚更の事。
 もし人狼とGMの両方が“裁判”参加者なら、揃って私を人狼と断じ、処刑に追い込んだだろう。そうして村人は全滅。ジュンも大喜びだ。
 けれどジュンは、最終投票を“裁判”無しの一発勝負にするという、私の提案を退ける事はしなかった。つまり、本当に最終“裁判”は必要なかったのだ。

「よって、生存者は人狼一人と、……処刑人掛け持ちも持たない、ただの村人二人という事になる。だからといって、GMが既に死んでいるとも思えなかった。それだとゲームが成立しなくなっちゃうし。ならGMはどこに行ったのか。生存者の中にいないのなら、……死者の中にいるとしか考えられない」

 いや、正確には“死者に成り済ました者”と言うべきだろう。あたかも、舞台から退場したように見せかけて、実際はその陰で糸を引く、裏方の支配者。
 通りで気付けないわけだ。同じ土俵に立っていない相手と対等に戦うのは、難しい。だからこそ、何とか相手をこちら側に引き摺り込まなければならなかった。

「成程。それで死んだ人間の部屋を調べようと思ったんだ。流石、朱華お姉ちゃん。良かったね。運良く私が見つかって」
「……違うよ。まぐれ当たりじゃない。だって私は、考えた上で“城崎香澄”の部屋を選んだんだから」

 私が断言すると、香澄ちゃんの肩が一瞬ぴくりと動く。その、剣呑な視線がこちらに向けられた時、私はようやく、彼女を引き付けられた手応えを感じた。

「……ずっと、考えてたの。どうしてあなた達は、人狼ゲームにこだわるんだろう。普通に連続殺人を起こした方が、スムーズに復讐を行えるのに、って。それは彼女が書いた小説、……“芳香と咆哮”が人狼ゲームをモチーフとしていたから。だよね」

 いつだったか、光志郎が言っていた。敵陣営の奴らは、人狼ゲームの基本ルールを破るような行為をするとは思えないと。
 事実、人狼の襲撃に見立てて律儀に夜に殺人を行ったり、仲間が処刑されるリスクを覚悟した上で、投票を実行するところからも、その片鱗が窺えた。
それは、“周潤水の手がけた物で復讐したかった”彼らにとって、人狼ゲームは絶対的でなものだから。故に、彼らは人狼ゲームになぞらえて殺人を犯すのだと、私は考えたのだ。

「これは、リアル人狼ゲーム。多少アレンジしているとは言っても、基本は通常のルールと変わらない。始めに送られて来た手紙にあった文句よ。そして、……その手紙には、こうも書かれていた」

 ──確か通常の人狼ゲームでは、「第一被害者がGMを勤めるのが普通」だよね?
 ──だから私は、今回の「第一被害者である城崎香澄になりきって」ゲームを進行して行く事にするよ。

「これが、答えだった。あなたは“第一被害者”という“死者”のフリをする事で、私達の目を眩ませたの。だから、最初の“裁判”で検討した、あの夜の皆のアリバイに、あまり意味はなかったというわけ」

 正直これに気付いた瞬間、やられたと思った。「第一被害者が進行役」という設定は、オンラインゲームとかだと良くあるので、全く違和感がなかったのだ。
 ついでに言うなら、今までに届いた手紙やメールは、如何にも香澄ちゃんらしい文章で書かれていた。それも、勘違いを加速させた原因だったのだろう。
 “GM”は第一被害者が勤める。故に手紙やメールを送る時は“城崎香澄らしい書き方”をする事で、“城崎香澄になりきる”。少なくとも、私はそう解釈した。
 通りで香澄ちゃんの真似が上手いわけだ。だって、それらを綴ったのは“香澄ちゃんのフリをした誰か”ではなく“香澄ちゃん本人”だったのだから。

「……最初に事件が起きた前日は、ほぼ全員が酔っていたから、思考が鈍ってまともに考えられなかった。しかも、殺人事件なんて事態、そうそう巻き込まれる事なんて無いから、皆パニック状態だったもん。私なんて、動転して腰砕けちゃったし」

 だから、彼らの計画は上手くいったのだ。前日どんちゃん騒ぎしていた自分達には、あんなスプラッタは刺激が強過ぎた。そんな混乱した中で、何人がベッドの上の少女の様子をきちんと確認出来たのだろう。傷口の深さや出血量に脈の有無。そして肝心な、……生死の確認。
 その混乱具合はまさに、“死体成り代わりトリック”なんて荒業を実行するのにはうってつけだったと言える。寧ろ、あのタイミングしかなかっただろうと思う。

「……うんうん。それで、最初に犠牲になった私が怪しいと、お姉ちゃんは考えたんだね」
「そう。ついでに言うと、今まで最多数票獲得者の処刑を行っていた処刑人も、香澄ちゃん、あなただと思ってる」

 自分にしては強い口調でそう言い放つと、私はぴしり、と己の人差し指をその不敵に笑う愛らしき顏に向けて突き出し、ニヤリと笑ってみせた。
 処刑のほとんどが丸太小屋で行われた、という事実は現場の状況を見れば明らかだった。つまり、処刑人は最低でも深夜の時間帯には丸太小屋にいたのだ。
 “芳香と咆哮”になぞらえた上での演出なのだろうが、いざ実行するとなると、かなり厳しい筈だ。何せ、毎夜ごとに別荘と小屋を行き来する必要があるのだから。

「もし、朝までに別荘に辿り着けなかったりしたらかなり怪しまれるし。普通に考えて、無理があるわけだ。けれど、そいつが“既に死んでいると周知されている者”であれば、話は違って来るよね?」

 死体は動かないから、姿を見せなくとも何らおかしくはないし、その上、一度死んだと思わせてしまえば、そいつは被害者として認識させる事が出来る。
 おまけに、丸太小屋ならそう頻繁に近付く事はない。仮に誰かが向かう場合には、人狼の誰かが連絡を入れれば自衛も可能、というわけである。

「つまりあなたは、第一被害者・GM・処刑人”の一人三役を見事に演じ切ったというわけ。それに気付いたからこそ、私はあなたの部屋に向かったの。GMを捕らえ、このゲームに勝つ為にね」

 私は、眼前で可愛らしく首を傾げている少女を、真っ直ぐ睨め付ける。それでも表情を少しも崩さない辺りは、流石と言ったところだろうか。
 まったく、とんだ策士だ。まさかあの、純粋無垢を体現したような少女が、暫く会わぬ間にこんな頭の回る子になっていたなんて、末恐ろしい事だ。
 それでも私は、彼女に立ち向かう。こんな所で終わったら、無念にも命を散らせてしまった、仲間達に顔向け出来ないから。

「成程。それで? 見事“死者”となった私は、どうやって復讐を実行していたと考えているの?」

 無邪気に笑いながら、そう笑顔を振り撒く香澄ちゃんは、私に全部語らせるつもりらしい。本当は、この子に自白して貰いたいのだが、……まぁ仕方無い。

「取りあえず、最初から話そうか」

 一度コーヒーを飲み、口を湿らせてから、私は推論を語り始めた。

「あなたがGMだと見当の付けた私は、ゲームの一連の流れに、あなたがどう関わって来たのか考えてみたの」

 まずは、事件前夜。共に人狼ゲームで遊んでいた私達が、あなたの部屋を引き上げ、それぞれの自室に戻った後、あなたは死体に成り代わる計画を実行した。
 翌朝、朝食の時間になってもあなたが顔を見せない事を、皆が不審に思ったところで、神楽さんが部屋を訪れ、タイミングを見計らって悲鳴を上げた。
 そうして、駆け付けて来た兄さん達の前には、ベッドに横たわる血塗れのあなたの死体と、その前で立ち尽くす第一発見者の神楽さん、という光景が出来るわけだ。
 後は、皆が部屋を出て行ったのを確信してから、こっそりと部屋を出れば良い。どうせその頃の私達は、居間の花束と手紙に気を取られていたのだから。
 玄関で待機していたあなたは、程無くして「橋を見て来る」と言って外に出て来た紫御と将泰さんに合流。まずは吊り橋に向かう為に、自転車に乗った。
 ここでポイントになるのが、自転車ね。霧隠荘には自転車が三台あるけど、一人一台ずつ使うわけには行かなかった。
 何故なら、処刑人であるあなたを、丸太小屋に残して行く必要があったから。もし、あなたが自転車を使ったら、その自転車は、丸太小屋に残る事になり、結果、霧隠荘には、自転車が二台しか残らなくなってしまう。
 これはマズイよね。そんな事になったら、あの時点で唯一生きていなかったあなたが、死体のフリをしているんじゃないか、なんて誰かが言い出すかも知れない。そうなったら、計画が破綻してしまう。
 かといって、一人だけ徒歩というわけにも行かない。あなたの足で、男が乗る自転車に着いて行くのは容易ではないし、もたついて姿を見られたらアウトだもの。
 だからといって、紫御と将泰さんが、あなたに合わせて徒歩というのも駄目だった。あまりに不自然だし、何より帰りが遅くなり過ぎると、皆に怪しまれてしまうからね。なら、どうするべきか。
 そこであなたは、紫御か将泰さんのどちらかと二人乗りをしたの。これなら自転車を三台も必要無いし、さっさと霧隠荘を離れる事が出来た、というわけね。
 幸いあなたは、ここにいる誰よりも小柄で軽い。だから、どちらの漕ぐ自転車に乗っても、そこまで負担はかからなかった、というわけ。
 そうして、難なく吊り橋に到着したあなた達三人は、縄を切断、あるいは縄を燃やして吊り橋を落とし、私達の逃げ道を潰した。
 前日の日中では、都合良いタイミングはなかったろうし、夕方以降は天候が悪かった。だから、吊り橋を落とせるチャンスはここしか考えられない。
 吊り橋が崩れ落ち、使い物にならなくなった事を確認した後、あなた達は丸太小屋に向かい、そこであなたを下ろして、紫御と将泰さんは霧隠荘に戻った。
 そうして、何食わぬ顔で戻って来た二人は、私達に吊り橋が壊されている事を告げた、というところね。だからこその、相田先生とのあのやり取りだね。

 ──お帰り二人共。……少し遅かったね。それで、どうだったかね?
 ──…………霧が出始めたせいか、視界が悪くて進みにくかったので。……それより、先生。
 ──ここから逃げ出すのは、もう無理です。橋が、…………橋が、なくなっています……!!

 霧のせいで帰りが遅くなったというのは、嘘。丸太小屋に寄った分だけ、タイムロスが発生したからそれを誤魔化したかったんだ。でしょ?
 ……まぁ、結果的にそれを不審に思わなかったのも事実なんだよね。この辺りは、霧が出やすいのは本当だし。皆、動揺していて、外の様子を見ている余裕なんかなかったものね。
 あなたの方は、基本的には丸太小屋に潜伏していれば良かった。あそこは元々、宿代わりにしていた場所だから、長期滞在にはもってこいだしね。
 食料は、あらかじめ非常食を用意しておけば良いし、人狼達とケータイで情報共有出来るから、別荘内での事は粗方把握する事も可能だった。
 だからあなたは、霧隠荘にいなくとも、状況に合わせたメールを送る事が出来た。そしてそれは、あたかも“GMは霧隠荘内にいる”と私達錯覚させる事となった。
 そうやって、私達の目も掻い潜ったんだよね? 私達村人側が二回、丸太小屋に突入した時だって、あらかじめ連絡を受けていたんでしょ。私達が小屋に到着する前に、小屋を出て身を潜めてしまえば良いわけだし。
 ……道理で、家捜ししても何も見つからないよね。手がかりになり得そうなものを持ち出して小屋を出れば、後には何も残らないんだもの。
 まして、二回目の突入時は将泰さん……人狼がいたから、身を隠す際、何らかのアシストをしていたかも知れないし。さして問題はなかったんじゃないかな。
 安全地帯に身を置き、そこから人狼達に指示を出しゲーム全体を把握し操り、私達を翻弄する。そうやってあなたは、“裏方の支配者”となった。
 そして、周囲が暗くなる、夜の時間帯。午前零時を超える頃を見計らって、あなたは最初の処刑を執行を実行する為の、準備を始めた。
 丸太小屋には、鎌も斧も鉈もあるから、使い易いものを選んで。
 動き易く、返り血を浴びても良いような格好をして。
 そして、処刑人となったあなたは、部屋を出て。別の部屋に監禁されていた最初の最多数票獲得者である、美津瑠さんを手にかけた。
 ……最初の処刑を執行し終えたあなたは、遺体の側に花束を置き、部屋を出る前に、処刑現場の画像を撮影した。……翌朝、私達に送り付ける為にね。
 後は、返り血を被った衣服を隠し、凶器に付着した血液を拭き取って、元の場所に戻しておいた。これは、家捜しへの対策の為だね。
 そしてあなたは、日中はGMとして、丸太小屋の中で霧隠荘内の動きに目を光らせ、夜になると処刑人として仲間達の命を次々と手にかけて行く。
 そうやってあなたは、難なく二つの“役職”を演じた。処刑の度に、部屋が埋まって行く事になるけど、空き部屋は四つもあるから、滞在場所に困らなかった。
 そして、昨日。最多数票獲得により“処刑”が決まった希万さんが、丸太小屋に送られた。この時、移動手段に自転車を使ったと聞いているわ。今までは、丸太小屋に向かう人数が多かったから、使えなかったって、兄さんが言っていたの。
 結果的に、自転車を一つ置いて行く事になってしまうけど、処刑はずっと丸太小屋で行われていたから、まさか使われるとは思ってなかったみたいね。
 それとも、紫御が兄さんを説得したのかな? 三人で自転車で丸太小屋に行くよう仕向けて、向こうに自転車が残るようにしたのかも知れないね。
 かくして、その目論見は上手く入った。昨晩、あなたは部屋に閉じ込められていた将泰さんを助け出し、霧隠荘へ向かうべく、丸太小屋を出た。あなたを霧隠荘に送る、その為に自転車が必要だったというわけ。
 当然、この時も二日目同様二人乗り、……あなたが将泰さんが乗る自転車の後ろに乗って、霧隠荘へと向かった。
 霧隠荘に辿り着いた後は、……何の障害も無く中に入れたんじゃないかな。多分だけど、紫御が鍵を開けておいたんだと思う。彼、そういう気遣い出来るしさ。別荘に戻ってくれば、後は簡単だった、というわけ。
 あの時点で、次に比美子を襲撃する事は決まっていた。裏切者が自白しちゃったからね。もう用済みになっていただろうし、余計な事喋る前に処分しよう、ってところだよね。
 後、これは予想なんだけど、比美子を襲撃したのは、将泰さんじゃないかな? 相手が彼なら、比美子は簡単に部屋に入れてくれるだろうと、あなた達は考えたんじゃない?
 その目論見は当たって、比美子は警戒する事無く、将泰さんを部屋に招き入れた。その後の展開は、……考えたくもない。
 そして、襲撃が完了した後は、部屋の外で様子を見ていたあなたが、頃合いを見て将泰さんを処刑した。だから、将泰さんは霧隠荘ここで発見されたのよ。
 そうして、処刑を済ませたあなたは、比美子の部屋を出て、どこか空き部屋に潜伏していれば良かった。
 最後の投票が終わる、“その時”が来るまで──。



「……これが、私が推理した、あなたが復讐を実行した一部始終よ。……どうかな?」
「……へぇ。それがお姉ちゃんの答え? ……うん、良いと思うよ」

 一見、褒めているような言い方だが、直前に鼻で嗤われてる時点でお察しだろう。けれど、否定もされないところを見ると、あながち的外れでもないのかも知れない、と思いたい。
 多分香澄ちゃんは、己の犯行が暴かれる事等どうでも良いのだ。ただ、戯れに私を試して、その反応を楽しんでいる。この子にとっては、これも復讐の一環なのだろうか。
 これ以上話を続けたところで、まともに答えてくれる事はなさそうだ。なら、この辺りで引き下がるべきだろう。それより、私にはどうしても聞きたい事があった。

「それはそうと、どうしてあなたがこんな、……周潤水の仇討ちなんて企てたの? あなただけじゃない。神楽さんも将泰さんも紫御も。どうして、命を懸けてまでこんな事をしたというの?」

 それは、この子がGMで、三人が人狼だと気付いた時から、ずっと思っていた事だった。
 だって、そうするだけの理由が思い付かない。いや、他三人はどうか判らないけれど、少なくとも香澄ちゃんは、復讐に加担するほど、周潤水と親しかったとは考えられない。
 そう思った私が、疑問を投げかけると、それまで可愛らしい雰囲気を保っていた、香澄ちゃんの表情が変わった。

「……それ、本気で言ってるの? ……はは。呆れて笑うしかないよ」
「え?」
「まだ気付いてないんだ? ……まぁ、最後に会ったのが十年程前らしいから、仕方ないかも知れないけどさ」

 淡々とした口調で、香澄ちゃんが言う。その声に何の感情も読み取れない事が、却って不気味だった。言い知れぬ不安に、身体が震える。
 瞬間、かちりと脳内で地雷を踏んだ音がした。知らぬ間に禁忌に触れてしまった事実に怯え、狼狽える私に、香澄ちゃんが、何気無い様子で声をかける。

「ところでそのクッキー、ある人から教わったレシピで作ってみたんだけど、どうかな?」

 その言葉に、私は再び皿に盛られた菓子に目をやる。これがこの子の手作りなら、十年ぶりに会った私が口にするのは初めての筈だ。それなのに。

(……やっぱりこのクッキー、前にも食べた事ある気がする! ……いつだ? いつ、食べたっけ………?)

 思い出せ、思い出せ……と唸っている内、私の頭にある光景が浮かぶ。その時の明確な状況は曖昧だが、それでもその記憶は、妙に鮮明なものだった。

 ──はい。これ、お裾分け!
 ──昨日焼いたんだけど、作り過ぎちゃってさー。良かったら食べてみて。
 ──……美味しい? ふふ、ありがとう。これ、ウチの××も大好きなんだよー!

 ほんの一瞬とも言える程の、日常を切り取ったような記憶の欠片。けれど、それだけで察してしまった。
 私は、私達はずっと、騙されていた事に。

「あなたまさか、……香澄ちゃんじゃない………?」

 ぱちり、とパズルの一ピースが嵌まった気がした。瞬間、私の中で消えた筈の記憶の一部が、ひょっこりと顔を出す。
 このゲームの発端となった少女の、大切な人。“彼女”の事を話す少女の顔はいつだって輝いていた事を、今になって思い出す。そうだ。“彼女”は……。

「その様子だと、ようやく思い出したんだ。そうだよ。ボクは、周鮮美あまねあざみ。君達に死に追いやられた、周潤水の妹さ」

 さらり、と行われたカミングアウトは衝撃的だった。と同時に、今まで思い出されもしなかった記憶が、私の中に次々と溢れ出て来る。

「……う、嘘。本当、に………?」

 やっと思い出せた親友との記憶と、衝撃的な展開に思考が追い付かず、私の頭は真っ白になる。何故、こんな大切な事を忘れていられたのだろう。
 親友だった、周潤水。事故で両親を喪った彼女に遺された、たった一人の家族。会った事は無いけれど、彼女がいつも話していたから、良く覚えていた。
 一度会ってみたいと思っていた。けれど、待ち望んだ筈の邂逅は、こんな悲しい形で実現してしまった。ひとえに、私が過ちを犯したせいだ。
 しかし、ここで私は疑問に思う。本当に、今日までここにいるのが香澄ちゃんではなかったというのなら、何故今まで誰も気付けなかったのだろうか。

「ところで、キミはおかしいと思わなかった?」
「え? 何が?」
「“死んだフリ”だよ。本当に、誰にも気付かれる事無く上手く誤魔化し切れると、キミは本気でそう思っているのかい?」

 突然、そんな事を言い出した鮮美ちゃんに、私は言い知れぬ不安を感じて、思わず聞き返していた。

「…………どういう、意味?」
「そのままの意味さ。大体、素人演技であれだけ沢山のギャラリー全員を騙し切れるわけがないだろう。俳優でもあるまいし、簡単に出来るモノじゃない。すぐにバレてしまうのがオチさ」
「…………何が言いたいの?」
「簡単な事さ。ボクは“死んだフリ”等していない。ただ、“身代わり用の死体を用意”しただけだ。つまりね、二日目にキミ達が見た死体。あれは正真正銘、“城崎香澄の死体”なんだよ」

 一瞬、何を言われたのか判らなかった。
 私達が見たのは、本物の死体だった? ならいつ、入れ替わったというのだろう。というか、それはつまり。

「……殺したの? 自分の身代わりを用意する、その為だけに、本物の香澄ちゃんを………」

 私は信じられない思いでそう口にした。しかし目の前の少女は、遠足帰りの子供のように、嬉々として己の行った残酷な行いについて語り始めた。



 実は、ボクと香澄はちょーっとだけ縁があってね。色々あって、親友になったんだ。
 けれど、それは長続きしなかった。香澄が、キミの従妹だと知ってしまったから。その瞬間、あいつが急に穢らわしい存在に見えたんだ。
 ずっと、姉を奪ったキミ達に復讐したいと思っていた。そんなボクの前に、キミの従妹が現れたんだ。……運命だと、思ったよ。
 ある日、憎しみに身を焼く日々を過ごすボクの前に、チャンスは転がり込んで来たんだ。それが、今回のパーティーの事だよ。
 あいつははしゃぎながら、今年のゴールデンウィークは、知り合いの別荘で従姉を祝うパーティーをするのだと、話してくれた。
 すぐに、従姉の神楽さんの別荘だと判ったよ。
 だからボクはあいつに、自分が呉神楽の従妹である事を打ち明けた。そしたら、あいつは一瞬驚いた後、すぐに喜んで、ボクをパーティーに誘ってくれた。
 そこからはトントン拍子さ。あいつは色んな事をべらべら喋ってくれた。キミ達の事とか、パーティーの内容とか、そんな事を。
 そんなあいつに、ボクはある計画を持ちかけたんだ。殺人事件風のドッキリをキミ達に仕掛けて、驚かせようって。あいつは、すぐに飛び付いて来た。
 計画は、こうだ。まずボクが香澄を名乗ってキミ達と接し、香澄本人は別室に身を潜めておく。そして、夜になったらボクが自室で死体のフリをする。
 翌朝、ボクの『死体』を発見し、パニックに陥る皆の前に、別室に隠れていた香澄がひょっこり出て来てネタバラシ! ……というものさ。
 ボク達二人は、同じような髪型だからか、良く似た見た目でね。寄り添って話していると、双子の姉妹のようだと言われたものだよ。
 だから、十年ぶりに会う君達なら簡単に騙されるだろうと思った。そう言ったらあいつも同調して、なら神楽さんも説得しなくちゃ、って笑っていてさ。
 馬鹿だなぁ、って思っていたよ。この時点でボクは、あいつを殺すつもりでいたからさ。
 そして当日。朝の内にボクと香澄はここに来ていた。この時、“計画”の全容を知っていたのは、ボクと神楽さん、それと、幼馴染の将泰さん、そして、姉の恋人だった紫御さんだけだった。
 そう、実はこの時にはもう、ボク達はこの、リアル人狼ゲームによる復讐を計画していたのさ。
 神楽さんお手製の毒入りドリンクを飲ませ、殺した香澄をボクがあてがわれた部屋のクローゼットに隠しておいたんだ。
 そして、夜。頃合いを見て死体をクローゼットから出し、ベッドに寝かせた後、襲撃されたように見せかける為に香澄の首を掻き切ってやった。



「──その後ボクは、朝までクローゼットに身を潜め、死んだ香澄に右往左往するキミ達の愚行を、笑いながら見ていたというわけさ」

 己の成果を語り終えた少女は、誇らしげに胸を張る。何故、人一人の命を奪い、弄んだ事をそんな風に話せるのか、判らなかった。
 私は、霧隠荘で過ごした最初の夜、皆で夜通し人狼ゲームで遊んでいた時の事を思い出す。
 私の部屋に移動する前、香澄ちゃんの部屋で、私の座っていた位置から真正面にあった、何の変哲も無い、どこにでもあるようなクローゼットの扉。
 あの扉の奥に、香澄ちゃんの遺体があった?
 私達が、馬鹿みたいに笑い、ふざけ合っていたあの時点で、香澄ちゃんは暗く、狭いだろう場所に一人──?
 その時の様子を思い浮かべて、愕然とする私に、鮮美ちゃんの容赦無い罵倒が降りかかる。

「酷いと思うかい? それとも残酷? 鬼畜? 非人道的? 何とでも言えば良いさ。少なくとも、そんな事を言われるスジアイは無いよ。キミだって同じだろう? ボクから姉さんを奪っておいてまさか、あんな上っ面だけの謝罪で許されると思っていないよね?」

 少女の無邪気な声が、ぐさりと心に刺さる。
 彼女の言う“謝罪”とは恐らく、昼間に送ったメールの事だろう。やはり、私の想いは届かなかったのだ。
 ……いや。そもそも彼女からしてみれば、自分から姉を奪った敵の言葉など、言い訳にしか聞こえないのだろう。まして、過去から逃げた相手では、尚更。
 当然か、と内心自嘲した。だって、今も私に向けられる視線は、氷の如く冷たい。それだけで、彼女を心を知るには十分だった。

「……許されたかったわけじゃないよ。許されるわけがないの。私は親友と、その妹であるあなたから大切なものを奪い、挙げ句その罪から逃げた。どんなに言葉を尽くしたところで、償えるわけじゃないのも判っている。それでも、……それでも、私は」

 その後は、言葉に出来なかった。
 突然、鮮美ちゃんが立ち上がったと思った後、次の瞬間、ドン、という軽い衝撃を感じた。と同時に、左の脇腹が熱くなり、徐々に脈打つような痛みを訴え始める。

「え、何……?」
「もう、どうでも良いよ。謝ったところで、姉さんが帰って来るわけじゃないし。大体、それって自己満足だよね。取りあえず、謝っておけば許して貰えるだろうって思っているんだろう?」
「……違うよ鮮美ちゃん。私は」
「うざ」

 鮮美ちゃんはそう言って、勢い良く私から距離を取った。刹那、熱さを感じていた部位から、何かを引き抜かれるような感覚がして、そこから何かが吹き出した。
 その匂いが、そこら中に充満した瞬間、私はようやく、自分が脇腹を刺されたのだと気付いた。途端、じわじわと蝕んでいた痛みが、明確に牙を向いて来た。

「…………!」

 あまりの激痛に、口から音にならない声が漏れる。その内、椅子に座っている事も出来なくなって、その場に倒れ込んだ。どんどん息が荒くなり、だらだらと汗が流れて行く。
 ふと視線を上げれば、表情を消し去った鮮美ちゃんが仁王立ちしていた。手に、サバイバルナイフを持って。

「良いだろう、コレ。丸太小屋で処刑していた時は、そこにあった鉈を使っていたんだけど、やっぱり、持ち運びが出来る分、こっちの方が使い易くてイイよね!」

 そう言って、ナイフを見せびらかすように翳す鮮美ちゃんは、随分と楽しそうだ。けれど、私の血で半分以上染まった刃は、彼女の年相応な笑顔と対象的で、酷くアンバランスに映った。
 いや、思った以上に真っ赤だな。これ私、死ぬんじゃない?
 思考が纏まらない頭で、そんな事を考えていると、突然、脇腹に追い打ちをかけるように、更なる痛みと衝撃が走る。いつの間にか、近くに来ていた鮮美ちゃんが、蹴りを入れたのだ。
 口から、意味の無い言葉の羅列を吐く私を前に、鮮美ちゃんは、私の脇腹をぐりぐり踏み締め始めた。

「お前本当、気持ち悪いよ。加害者の分際で被害者ヅラするなんて、烏滸がましいと思わないの? それとも慰謝料で済ませるつもりなのかな? 流石はお嬢様。金の使いどころを良く理解していらっしゃる」

 踏み締められる度に、脇腹から嫌な水音が聞こえて、私に痛みと不安と不快感を一気に伝えて来る。止めて下さい。情報過多でオーバーヒートしそうです。
 しかし、私の口は相変わらず、日本語を喋ってはくれない。そもそも、頭の方に余裕が無いのだ。

「……何で、お前が生きているんだ。姉さんは、死んだのに。……ボクには姉さんが、必要、なのに。本気で詫びるつもりなら、お前が死ねよ。誠意も見せないで、のうのうと生きているクセに。この、……偽善者が!」

 弱点を一歩一歩踏み締められる度、私にぶつけられるのは、魂の叫びだ。吐き散らすようなそれからは、慟哭にも似た激しさとやるせなさを感じた。痛みで頭がぼうっとする中、私は、目の前の少女に対して、ひたすらに申し訳ないと思う。
 この子は、最早復讐の鬼と化してしまった。何事もなければ普通の女の子として過ごせていた筈のこの子を、ここまで歪めてしまったのは、私だ。私のエゴが、この惨劇を生み出してしまったのだ。だが、この想いを伝える資格は、私には既に無い。
 しかし、ここで命を散らせてしまった皆や、私の帰りを待つユーガ君の為にも、……このまま、ここで果てるわけにはいかない。だから私は、軋む身体を無理矢理起こし、顔を上げた。

「……返す言葉も無いよ。だから、ここで殺されても仕方無いと思うし、文句を言う資格も無い。でも私は、償いの為に生きると決めたから。だから、……ごめんなさい。まだ、死ねないかな」

 我ながら、自分勝手な言葉だ。しかし、私にだってプライドがある。死んで再び過去から逃げるくらいなら、後ろ指を指されても這いつくばって生きるべきなのだ。
 真正面から、私の覚悟を浴びた鮮美ちゃんは、躊躇無く私の横っ面を引っ叩くと、その綺麗な髪をぐしゃぐしゃに掻き乱ながら、深く息を吐いた。

「……そりゃそうだ。死ねと言われて了承するヤツなんて、いるわけないもんね。判り切った事だったよ。でも駄目。キミの想いとか、知ったこっちゃないよ。これから、ボクが殺す。未来なんか与えてやるもんか」

 そう言いながら、鮮美ちゃんはナイフを構え、その切っ先を私の左目に突き付けた。殺される、と悟った瞬間、私は全身の筋肉が強ばるのを感じた。多分、今の私はさぞ滑稽な顔をしているに違いない。恐怖に支配された身体は、動く事を放棄してしまった。
 ここで終わりか、と死を覚悟した時、不意に鮮美ちゃんがこんな事を言い出した。

「一つ、聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「え……何……?」
「キミは、この小説をどう思う?」

 何で今、そんな事聞くの?というのが、私の本音だ。私、たった今、あなたに刺されてそれどころじゃないんだけど。
 けれど、何か意味があってそんな質問をするのなら、きちんと答えた方が良いのではないか? と、意識が混濁しかけながらも、私は慎重に言葉を選ぶ。

「……正直に言って良いの?」
「もちろん、例え、どんな酷評をしたとしても、いきなりキミに止めを刺すような真似はしないよ」

 それ、最終的には止め刺すって事ですよね。……まぁ今は置いて置くか。取りあえず質問に答えようと、私は口を開いた。

「……はっきり言って、お粗末だと思う。所々、詳細を端折っているし、矛盾とかも、結構残っているもの。駄目ね。……私でも、判るよ」

 私は、鮮美ちゃんの怒りを買うかも知れないと覚悟しながらも、正直に言う。
 申し訳ないと思うが、……“芳香と咆哮”は、駄作だ。こそあど言葉はそこそこ出来ているが、作中に説明不足なところも、ツッコミどころもある。アマチュアによる作品、と言ってしまえばそれまでだが、少なくとも、これで新人賞を狙うのは無理だろうと思った。ぶっちゃけ、“ユダの箱庭”とは雲泥の差だ。
 と、ここまで遠慮無しに語ってしまったのだが、大丈夫だろうか。はっきり言って、鮮美ちゃんの顔が見られないのだが。

「うんうん。それが、キミなりの批評なんだね。……へぇ。凄いな。何だかんだ言って、ちゃんと判っているんだね。曲がりなりにもプロ、って事かな」

 何か、色々ディスられている気がするが、怒りを向けられなかったのは意外だった。寧ろ、感心されている。状況が掴めず、呆けていると、鮮美ちゃんは訳知り顔で口を開く。

「キミの指摘は正しいよ。何せ、“芳香と咆哮”は、とても表に出せる代物じゃない。姉さんが始めて一人で作り上げた、所謂、プロトタイプだ。この作品に、姉さんやボク達の意見も取り入れて、改良したのが、“ユダの箱庭”なのさ。だから、こっちの作品には、色々ツッコミどころがあるのは否定出来ないんだ」

 それだけいうと、鮮美ちゃんは、いつの間にか持ち出していた“芳香と咆哮”の冊子を取り出し、ページを捲ると、該当部分を私に見せて来た。

「例えばここ。シノブが、人狼に襲撃された時、“担いでいた椅子が、床に叩き付けられて派手な音を立てる”とあるだろう? 椅子が派手な音を立てているなら何故、両隣の部屋の奴は気付かないんだろう? おかしいと思わないかい? 他にも、……ここ」

 そう言って鮮美ちゃんは、また別のページを捲り、こちらに見せて来る。
 
「森の探索中、池で浮遊物─証拠となる野球ボール─を見つけるシーン。浮遊物についての説明が曖昧。いつミズキが捨てたのか。何故カノンは手に入れる事ができたのか。色々経緯を端折っている。良くないよね。後は……」

 他にも、探りながら作品の穴を次々と指摘している鮮美ちゃん。けれど私は、彼女の言いたい事が判らない。まさか、姉の作品を貶める為にこんな事をしている訳ではないのだろう。真剣に考えたいところだが、生憎、私は殆ど、頭に血が回っていない。
 だんだんぼやけて行く思考に喝を入れていると、鮮美ちゃんがまた、こんな事を言って来た。

「ボクはね、推理小説を読むと、時々疑問に思う事があってねぇ」
「……疑問?」
「そう。見立て殺人、みたいなのってあるだろう? 今回の事件みたいに、小説とかゲームとか、何かの暗号とかになぞらえて起こる殺人事件、とか、そういうの」

 いきなりの話題変更に、私は頭の中に“?”が浮かぶのを禁じ得なかった。正直、血が抜け過ぎて思考が飛んでいるのだが、何とか話を続けようと目論見る。

「……確かに、あるね。……でも、それ、今回の事件と、……何か関係、あるの?」
「あれさぁ、完璧になぞらえるのって、無理ゲーだと思わない? 小説とかとは違って、現実は、そんなに思い通りに行くものじゃぁないだろう?」

 そう、オーバーアクションを交えながら語る鮮美ちゃん。しかし、言いたい事は何となく判った。
 例えば、小説でも漫画でも良いが、殺人やアリバイ工作の為に、犯人が大がかりなトリックを仕掛ける描写の場合。実際に現実でそれを使っても、百パーセント成功させられるとは限らない。
 もしかしたら、装置の作りが甘かったとか、天候のせいで仕掛け自体が駄目になったとか。そういう予想外の事が起こらない可能性はゼロではない。そして、そうなったら計画は破綻し、事件は未遂になってしまう。
 けれど、創作物はそうならない。多少、不自然な事があったとしても、黙殺されるものだ。首吊り死体や、銃殺死体のの壮絶な状況が省かれるのもその一貫だと、私は考えている。
 物語の根底、つまり犯人の計画や、探偵の推理が、他の要因に邪魔される事はない。そうでないと、お話が成立しなくなってしまうからだ。犯人の復讐は阻止され、誰も死なず、探偵も何もしなくてハッピーエンド、なんて推理小説、誰が読むというのか。

「今回のゲームだって、そうだ」

 ぼんやりと、事の流れを見ていた私に、鮮美ちゃんは更に言葉を続ける。

「今の時点で、復讐計画は滞り無く進み、これから最後の仕上げを迎えるところだ。けれど、ここまで来るのに、どれほど多くの“不安要素”があると思う?」

 もし、吊り橋がきちんと落ちなかったら?
 もし、そもそも去年、落雷で大橋が落ちず、今も現役だったら?
 もし、皆の予定が揃わず、標的が集まれなかったら?
 もし、物語をスムーズに進行してくれる“探偵”が訪ねて来なかったら?
 もし、霧が発生せず、すぐに警察が動いてしまったら?
 もし、手紙のルールを破って暴走する奴がいたら?
 もし、人狼ゲームを誰かが拒んだら?
 もし、ゲームが嫌になって逃げる奴がいたら?
 もし、丸太小屋の移動の際、蛇や熊に襲われたりしたら?
 もし、襲撃を誰かに見られたりしたら?
 もし、人狼や処刑人が返り討ちにされたりしてしまったら?
 もし、早い段階で人狼が全滅してしまったら?
 もし、ボクと香澄の入れ代わりに気付く奴がいたら?

「どれか一つでも、この“不安要素”が立ち塞がったら、ボク達の計画は駄目になっていたかも知れない。今、上げたのはこのくらいだけど、もしかしたら、他にもたくさんあるかもね。それでも、これだけある“不安要素”がある中、見立て殺人を実行するなんて、難しいと思わないかい?」

 確かに、と私は納得する。何せ、今出せるだけでも、これだけの要素があるのだ。だからこそ、判らない。それだけ“不安要素”を抱えていると判っているにも関わらず、何故彼女達は、この復讐計画を実行したのか。

「そこで! ボクは考えたんだ。これらの“不安要素”を無くしてしまえば、復讐計画はスムーズに進める事が出来るんじゃないか、って」
「な、……何、言ってるの? ……そんな事、出来る、わけが」
「出来るよ」

 狂気を孕んだ目が、こちらに向けられる。……いや、そもそも、鮮美ちゃんは今、私を認識して話していないんじゃないか? そう思わせる恐ろしさがあった。
 そして、鮮美ちゃんからもたらされたその答えは、あまりにも現実離れしたものだった。

「ある、親切な方がいてね。ボク達の復讐の為に、素敵なシナリオを用意してくれたんだ。姉さんの作品、“芳香と咆哮”を元に書いて下さって、現実は、このシナリオから一切外れる事無く復讐を遂行出来る、ってね」
「もちろん、シナリオがあると言っても、結局復讐を実行するのは、ボク達人狼サイドだから、ボク達がちゃんと動かないと、シナリオが成立しないシステムなんだって。だから、処刑・襲撃に関しては、何のトリックも存在しない。ボク達自身による犯行さ」
「でも、裏を返せば、それ以外の事は、狂う事無くシナリオを辿る。登場人物はもちろん、天候も状況も小説の通りだ。
例え、少しの矛盾があったとしても、物語から外れるような
イレギュラーは起こらない。用意されたシナリオ通りに進む。そして、一度シナリオが進み出したら、そこから出る事は許されない。謂わばここは、……姉さんの作品から作り出された虚構。つまり、“虚構フィクションの檻”だ」

 矢継ぎ早に明かされる、解答に、理解が追い付かない。
 それは何? 超能力的な何かが、働いていたという事? ……有り得ない。そんな物が、存在して良い筈がない。いや、もし本当に存在したとして、……私達が虚構フィクションに囚われていたというなら、いつから、私達は現実から離れていたのだろう………。
 纏まらない思考。徐々にぼやける視界。今更ながらにズキズキと痛みを訴える脇腹。そのすべてが、私から感覚を奪って行く。正直、今自分がどこにいるのかさえ、判らなくなっている。

「姉さんの作品に囚われ、姉さんの作品内で死ね。それがボク達と、姉さんの復讐だ。さぁ、終わりだよ等々力朱華。キミも、シナリオ通りの結末を歩め!」

 鮮美ちゃんの力強い宣言が、はっきりと耳に届く。それはまるで、最後の審判だった。その言葉を最後に、私の意識は闇に呑まれる。
 本当に、ここは現実ではないの? もしそうならせめて、……夢であって欲しい。
 惨劇もデスゲームも疑心暗鬼も何も無くて、目が覚めたら、皆がいてくれて、今までと変わらず笑ってくれて──。
 そうであれば、良いのにな。
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