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016『よく似た境遇』
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何度願った事だろう。
夢ならさっさと覚めてほしい。
叶わない願いだと知りながら、願わずには居られなかった。
本当なら、本当の俺達はどんな風に過ごしていたんだろう。
俺が両親と同じ茶色の髪だったら、きっとこんな事には⋯⋯こんな事にはならなかった、と言い切れない自分が嫌になる。
ーーーーゴメンな。
風に揺れる【淡紫の花】は心底、困った顔をしていた。
ーーーー俺が子孫を残した結果が、こんな未来で露見するとは⋯⋯。
は? なにそれ、どういう⋯⋯。
ーーーーレオの牙は、今はまだ痛いだろうけど、いずれ慣れるから⋯⋯安心して。
すごい、こんなにも不安な「安心して」を聞いたのは初めてだよ。
ーーーーその証が、いついかなる時もお前を助けてくれるから。早く召喚んでやれ。
待って。
ーーーー知ってるだろうけど、アイツ、拗ねるとかなり面倒だから。
消えないで、ラッフィカ。
ーーーーあと⋯⋯数日は自由に動けないから。覚悟しとけよ、シオン。
✲
「おっ、やっとお目覚めか? 久々の手刀だったから、すこーし加減を誤って⋯⋯な?」
ベッドに寝かされたシオンを、口付けできそうな距離で見ていたヘラクレスがヨォと軽く手を挙げた。
「ッ!?」
無謀にもヘラクレスを押し退けようと腕を伸ばしたシオンは自分の両手首を見て、事を思い出す。
アンドロメダの鎖。星獣を部屋に閉じ込めて、契約者をただの人間にしてしまう、厄介な手枷。
契約者が何らかの武に優れていれば問題無い。だが所詮シオンは国王陛下のフリをしている一般人だ。しかも簡単な護身術すらも心得ていない、脆弱な一般人だ。
「ここは⋯⋯?」
なんとかヘラクレスを剥がして、上体を起こしたシオンがキョロキョロと身体を動かすたびに、手枷の鎖が音を立てる。
きっちりベッドメイキングされたキングサイズのベッド、綺麗な草花の装飾が施されたキャビネット、綺麗に整頓された窓際のテーブル⋯⋯素人がパッと見ただけでもわかる、高級な家具の数々。
「もしかして、ここって⋯⋯」
「そう。俺の主、アスティルの部屋だぜ!」
デスヨネー、と感情が消えていくのを感じつつ、シオンはベッドサイドに目を向けた。
「⋯⋯⋯⋯」
どんな時でも、シオンが手を伸ばさなくても届く距離に必ず居る、レオの姿が無い。どうやらアンドロメダの鎖は本当にレオを封じているようだ。
「アスティル様はどこ?」
シオンの発言に、ヘラクレスがポカンと口を開けた。
「いやいや、そこ普通は手枷外せーとかだろ。なんで1番にアスティルが出てくる?」
主が不在の部屋で「ありえねー」と頭をかくヘラクレスに、シオンは言葉を詰まらせながらも、懸命に伝えようとする。
「だ、だって⋯⋯ここまでする、って事は、なにか⋯⋯話したい事が、あるんじゃないか?」
レグルス城内でシオンに近付ける者は、レオが接近を許可した者は妻のヒイラギと、一緒にレグルス軍に入隊したシオンの幼馴染の、計2名。
他の者はシオンに近付いたその瞬間に、レオに警告として牙を向けられる。その警告を無視した者はレオの爪に身を裂かれ、速攻で医務室へ。
そんな状態で対話するなんて、とても不可能。
「アスティル様の境遇はわかってるつもりだし、レオをどうにかしないと俺と話せない事も、わかってる」
レオに見付かったせいで、本来はアスティルの場所だった玉座を奪ってしまった事に、少なからず罪悪感を抱いていたシオンが真っ直ぐな眼差しで言う。
「会わせて、俺も話がしたい」
トン、ヘラクレスに肩を押されたシオンの背中をベッドが迎えた。
「え⋯⋯?」
いつまで経っても情報処理能力が低下したままのシオンに構わず、ヘラクレスが躊躇わずにシオンの上に覆い被さる。
「驚いた⋯⋯こういう所まで似てるんだな」
似てるって誰に? なんて聞かなくてもとうに答えを知っていたシオンはヘラクレスから逃れようと暴れたが、さも当たり前の如く状況は変わらない。
それどころか、シオンが暴れるたびに鳴る鎖の音が、より一層ヘラクレスを駆り立てる。
「大丈夫。ちょっと味見したらすぐレオに返すし、痛い事はしないから」
楽しげに首元に触れてきたヘラクレスを見て、ようやく状況を理解したシオンは、自身の持てる力を全部出し切るような勢いで、手枷をヘラクレスの手に打ち付けた。
「痛いっ!!」
流石にシオンから手を離したヘラクレスが呆れた声音で言う。
「手枷の金属で殴るのはナシだろー、痛ぇ⋯⋯」
「せ、正当防衛? だ!」
こんな状況でもまだ抗おうとするシオンに、更に駆り立てられたヘラクレスは懐から怪しげな液体が入った小瓶を取り出すと、これ見よがしにアピールした。
「これ、なんでしょーか? 正解は⋯⋯」
「ぅん!?」
有無を言わさずシオンの口に怪しげな液体を流し込んだヘラクレスは笑顔だが、目だけが笑っていない。
「ごほごほ、けほっ⋯⋯⋯⋯?」
大した抵抗もできないまま、怪しげな液体を飲んでしまったシオンは自身の異変に気付く。
「なに⋯⋯?」
身体が、熱い? 酔ったみたいにクラクラする⋯⋯。
「正解は⋯⋯『花を手折りやすくする、魔法のお薬』でしたー」
嫌だ、怖い⋯⋯逃げられない。
「さて、シオンは何回絶頂べるかな?」
せめてもの抵抗として振り下ろした手枷の鎖は、難なくヘラクレスに受け止められた。
夢ならさっさと覚めてほしい。
叶わない願いだと知りながら、願わずには居られなかった。
本当なら、本当の俺達はどんな風に過ごしていたんだろう。
俺が両親と同じ茶色の髪だったら、きっとこんな事には⋯⋯こんな事にはならなかった、と言い切れない自分が嫌になる。
ーーーーゴメンな。
風に揺れる【淡紫の花】は心底、困った顔をしていた。
ーーーー俺が子孫を残した結果が、こんな未来で露見するとは⋯⋯。
は? なにそれ、どういう⋯⋯。
ーーーーレオの牙は、今はまだ痛いだろうけど、いずれ慣れるから⋯⋯安心して。
すごい、こんなにも不安な「安心して」を聞いたのは初めてだよ。
ーーーーその証が、いついかなる時もお前を助けてくれるから。早く召喚んでやれ。
待って。
ーーーー知ってるだろうけど、アイツ、拗ねるとかなり面倒だから。
消えないで、ラッフィカ。
ーーーーあと⋯⋯数日は自由に動けないから。覚悟しとけよ、シオン。
✲
「おっ、やっとお目覚めか? 久々の手刀だったから、すこーし加減を誤って⋯⋯な?」
ベッドに寝かされたシオンを、口付けできそうな距離で見ていたヘラクレスがヨォと軽く手を挙げた。
「ッ!?」
無謀にもヘラクレスを押し退けようと腕を伸ばしたシオンは自分の両手首を見て、事を思い出す。
アンドロメダの鎖。星獣を部屋に閉じ込めて、契約者をただの人間にしてしまう、厄介な手枷。
契約者が何らかの武に優れていれば問題無い。だが所詮シオンは国王陛下のフリをしている一般人だ。しかも簡単な護身術すらも心得ていない、脆弱な一般人だ。
「ここは⋯⋯?」
なんとかヘラクレスを剥がして、上体を起こしたシオンがキョロキョロと身体を動かすたびに、手枷の鎖が音を立てる。
きっちりベッドメイキングされたキングサイズのベッド、綺麗な草花の装飾が施されたキャビネット、綺麗に整頓された窓際のテーブル⋯⋯素人がパッと見ただけでもわかる、高級な家具の数々。
「もしかして、ここって⋯⋯」
「そう。俺の主、アスティルの部屋だぜ!」
デスヨネー、と感情が消えていくのを感じつつ、シオンはベッドサイドに目を向けた。
「⋯⋯⋯⋯」
どんな時でも、シオンが手を伸ばさなくても届く距離に必ず居る、レオの姿が無い。どうやらアンドロメダの鎖は本当にレオを封じているようだ。
「アスティル様はどこ?」
シオンの発言に、ヘラクレスがポカンと口を開けた。
「いやいや、そこ普通は手枷外せーとかだろ。なんで1番にアスティルが出てくる?」
主が不在の部屋で「ありえねー」と頭をかくヘラクレスに、シオンは言葉を詰まらせながらも、懸命に伝えようとする。
「だ、だって⋯⋯ここまでする、って事は、なにか⋯⋯話したい事が、あるんじゃないか?」
レグルス城内でシオンに近付ける者は、レオが接近を許可した者は妻のヒイラギと、一緒にレグルス軍に入隊したシオンの幼馴染の、計2名。
他の者はシオンに近付いたその瞬間に、レオに警告として牙を向けられる。その警告を無視した者はレオの爪に身を裂かれ、速攻で医務室へ。
そんな状態で対話するなんて、とても不可能。
「アスティル様の境遇はわかってるつもりだし、レオをどうにかしないと俺と話せない事も、わかってる」
レオに見付かったせいで、本来はアスティルの場所だった玉座を奪ってしまった事に、少なからず罪悪感を抱いていたシオンが真っ直ぐな眼差しで言う。
「会わせて、俺も話がしたい」
トン、ヘラクレスに肩を押されたシオンの背中をベッドが迎えた。
「え⋯⋯?」
いつまで経っても情報処理能力が低下したままのシオンに構わず、ヘラクレスが躊躇わずにシオンの上に覆い被さる。
「驚いた⋯⋯こういう所まで似てるんだな」
似てるって誰に? なんて聞かなくてもとうに答えを知っていたシオンはヘラクレスから逃れようと暴れたが、さも当たり前の如く状況は変わらない。
それどころか、シオンが暴れるたびに鳴る鎖の音が、より一層ヘラクレスを駆り立てる。
「大丈夫。ちょっと味見したらすぐレオに返すし、痛い事はしないから」
楽しげに首元に触れてきたヘラクレスを見て、ようやく状況を理解したシオンは、自身の持てる力を全部出し切るような勢いで、手枷をヘラクレスの手に打ち付けた。
「痛いっ!!」
流石にシオンから手を離したヘラクレスが呆れた声音で言う。
「手枷の金属で殴るのはナシだろー、痛ぇ⋯⋯」
「せ、正当防衛? だ!」
こんな状況でもまだ抗おうとするシオンに、更に駆り立てられたヘラクレスは懐から怪しげな液体が入った小瓶を取り出すと、これ見よがしにアピールした。
「これ、なんでしょーか? 正解は⋯⋯」
「ぅん!?」
有無を言わさずシオンの口に怪しげな液体を流し込んだヘラクレスは笑顔だが、目だけが笑っていない。
「ごほごほ、けほっ⋯⋯⋯⋯?」
大した抵抗もできないまま、怪しげな液体を飲んでしまったシオンは自身の異変に気付く。
「なに⋯⋯?」
身体が、熱い? 酔ったみたいにクラクラする⋯⋯。
「正解は⋯⋯『花を手折りやすくする、魔法のお薬』でしたー」
嫌だ、怖い⋯⋯逃げられない。
「さて、シオンは何回絶頂べるかな?」
せめてもの抵抗として振り下ろした手枷の鎖は、難なくヘラクレスに受け止められた。
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