まくらさんとわたりさん

おやすみさんかいめ

おきゃくさん：僕はひとつになりたいんだ、この世界と。その方法を考えていたら、いつの間にやらこんな見知らぬ場所に⋯⋯もしかしてここは、時空の狭間？

まくらさん：いらっしゃい。ここは不眠治療専門クリニック『おやすみやさん』だよ。

おきゃくさん：あぁ！！　すごい！！　動物が！！　バクが喋っている！！

まくらさん：僕はバクのまくらさん。こっちのニンゲンは助手のわたり。よろしくね、おきゃくさん！

おきゃくさん：あぁなんという奇跡⋯⋯君が僕と世界をひとつにしてくれる存在なのかい！？

まくらさん：ヤバいよわたり！　この人だいぶメンタルが激ヤバだよ！　早急におやすみしないとダメだよ！

わたりさん：わかるよ、何かとひとつになりたい、その気持ち。俺もダーリンと⋯⋯。

まくらさん：おきゃくさん、メンタルが激ヤバだから早くおやすみした方が良いよ！

おきゃくさん：失敬な！！　僕のメンタルは激ヤバではない！！　この世界とひとつになりたいと思わない奴ら方が激ヤバだ！！

まくらさん：怖い怖いだよぉう⋯⋯。

わたりさん：おきゃくさん、考える事は大事だけど、休む事はもっと大事だよ。ちょっと落ち着こう？

おきゃくさん：ご心配なさらず、僕は落ち着いている。

わたりさん：そう？

おきゃくさん：えぇ、僕はただ、僕と世界がひとつになる方法を研究しているだけなので。

まくらさん：ちょっと頭を休めた方が良いよ。それに隈だってすごいし⋯⋯わたり、おやすみの用意して。

わたりさん：はいはーい。

おきゃくさん：待て！！

わたりさん：なに。

おきゃくさん：もう少しで、あともう少しで世界を掴めるんだ！！　今ここで眠るわけにはいかない！！

まくらさん：大丈夫。おやすみして起きたら、きっと世界は変わっているから。

おきゃくさん：それはどういう⋯⋯？

まくらさん：今はただ、おやすみしてるだけで良いんだよ。

わたりさん：おやすみなさい。

まくらさん：おやすみなさい。




アナウンサー：おはようございます、ニュースの時間です。本日早朝、〇〇県のオフィスビルにて「社員が首を吊っている」と通報があり、その後駆け付けた警察が死亡を確認しました。死亡していたのはこのオフィスビルに勤務するーーーーさん。傍には『世界とひとつになる。』と書かれた、遺書と思しきメモ書きがあり、警察は自殺と見て、調査を進めています。




わたりさん：あーぁ⋯⋯。

まくらさん：どうしたの、わたり。

わたりさん：今日の新聞なんだけどさー。ここ、読んでみて。

まくらさん：なになに？　世界とひとつになる？　変なのー！　というか何その死因？　こわぁい。

わたりさん：ねー？