たいせつなおくりもの

hanahui2021.6.1

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ゆめを見ていた。
大きな手に うでをひかれ、あるいている。
手は大きいけれど、すごくしわくちゃで。でもぜんぜんいやじゃない。
ふしぎなおじいさんだった。

そのおじいさんが、おびげをもごもごさせながらきいてきた。
「なんで、お母さんにあいたいの?」
ぼくは ちょっとかんがえてから、言う。
「きいてみたいんだ。本とうに ぼくを好きだった?って」
答えたぼくに、おじいさんは少しこまったかおをする。
「,きみは【おかあさんにあいされてない】って、思っているの?」
「だって…ぼくのなまえ。さくっていうんだよ」立ち止まる。
「おじいさん、【さく】って知ってる?
お月さまも見えない、まっくらな日。からっぽな日のことなんだよ。
母さんは、そんななまえを ぼくにつけた…」
泣きそうだ…。目のふちに ジワリとなみだが たまってゆく。
グッとはをかみしめ、なみだをこらえる。 

「母さんは、ぼくがきらいなんだ。だから、こんななまえ…」
ことばと いっしょに、なみだが、一つぶ こぼれおちる。
「ガマンしなくていいんだよ」
おじいさんは、ぼくの前でしゃがむと、ぼくをやさしくだきよせた。
かわいげのないぼくをわらいもせず、ゆっくりとはなしだす。
「きみのお母さんにあったことないから、せいかいとはかぎらないけど、ちがうんじゃないかな」
「わたしはきみがからっぽ…なんて、おもわないよ、ぜんぜん」
言いきるおじいさんに
「…なんで…」べそをかきながら、たずねる。
さっきから泣いているほくのかおは、グチャグチャでひどいありさま。
なのに、そのばで、体をかがめたおじいさんは、ためらいもせず、そのほおに手をおいた。

「そのなまえって、たぶんだけど【お月さま】と、かんけいある」
コクリ。
ぼくがうなづいたことをかくにんすると
「いいかい?まず【さく】っていうのは、お月さまが、あたらしく生まれかわる日のことをさすんだ。
それは、しっているかな?」
コクリ。
ぼくのりかいをさいど、かくにんして、また口をひらいた。
「ところで君は、これまで生きてきた中で、しっぱいしちゃったこと、
少しじかんがもどらないかなってこうかいしたことはないかい?」
「いっぱいあるよ」
ぼくのこたえに、やさしくほほえむと
「そんなとき、たいがい、なにもできないで おわる。
みんな【また一からやり直せばいい】ってことに、なかなか気づけないんだ。
でもきみは、そのなまえのせいで、いち早く、そのことに気づける。
そんな、すばらしいなまえだと、わたしは思うよ」
おじいさんはそう言ってわらった。
ぼくは、そんなおじいさんのかおを もういちど、ジッと見つめていたとき、
だれかにかたをゆさぶられた。
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