上 下
10 / 63

第十話 吸血鬼と異世界探索

しおりを挟む
ブルーが口を挟む。人間はやられたらやり返す生き物、それは彼女にも分かっていた。ブルーの言葉に肯定するアサキシ。

「そうだ。人々も立ち上がり魔物を退治する『封魔』を組織した。メンバーの多くは魔物に恨みを持っている者らしい。私も詳しくは知らん、何しろ人の街が出来る前に出来た組織だからな」

「そうか。なるほど殺し殺されか、泥沼だなどうやって和解した?」

「それは『大災害』によってだ」

 アサキシは表情一つも変えず話続ける。大災害と聞きなれない言葉が出てきて、ブルーは自分の知っている災害を頭に浮かべる。

 (……災害とつくからには地震か洪水、火事か? 大とつくからにそれらが余程のモノだったのか?)
 そんなブルーの考えとは違う答えをアサキシは口にする。

「大災害とは、地震や火災、洪水などとは全くの異質なもので、よく分からん」

「わ、わからない!?」

「ああ、夢幻界に突然光が出現し、辺り一面を荒れ地に変えて黒い雨を降らせた。管理所はそれらの出来事を『大災害』名付けた」

 何だ何を言っている!? ブルーは驚き、困惑しながらも話を聞き続ける。

「なぜ大災害が起きたのか正体不明だが、大災害は人間と魔物どちらにも大きな被害をもたらした。人と魔物は生活できなくなりで力を落とした」

「とんでもない被害だな」

「両者は安定を図るため今までの事は水に流して和解することになった。この時被害を免れた私の村に、多くの人が避難してきた。それに伴いその村は里へ成長し、今居る現在の人の街になり、私が管理所を作った」

「なぜ管理所を作った?」

「この世界はお前のように力を持ち暴れるものが多い。そんな危険な奴らから生活を守るために設立して運営している。その他にも人里の安全管理やエルカードみたいな物の管理が目的だ」

「了も管理所に属しているのか?」

「ああ、彼女は管理所に属していて、私の部下でもある」

 アサキシは他に質問はあるかと聞きブルーはあると肯定した。

「先導師とは何者だ。化け物か」

「先導師の詳しい素性は分からんが人間世界からやって来たらしい」

「人間世界の連中はみんな力と駆出した科学や知識をを持っているのか」

「いやそれは無かった、他に人間世界からやってきた者に聞いてみると人間世界でもありえない技術らしい」

「先導師の名は何という?」

「……『アカネ』と名のったらしい」

「なぜソイツがきたんだ?」

「わからん 自分もいつの間にか来ていた、だと」

「先導師はそれからどうなった?」

「奴は大災害後、姿を消した。そのため大災害は奴が起こしたと考えられている」

「どんな力を持っていたんだ、妖怪を恐れさせるほどのオーバーテクノロジーを与え、大災害を起こしたと考えられる力とは」

「……科学に関するものを操る能力」

 アサキシの言葉にブルーはピンときなかった。それは彼女が妖怪であり、科学とは遠い存在だからだ。そして聞き返した。

「すまん。どんなことが、出来るんだ」

「要は何でも出来たと考えてくれれば良い」

 ブルーはその言葉を聞き顔を引きつった。本日何度目かのショックを受ける。
 (何でもできるなら神に等しい力を持っていた奴が居たとは世界は広いな …… もう驚かんぞ)

 そんな決意を誓いアサキシの話に耳を傾けるブルー。

「先導師もといアカネが生み出したオーバーテクノロジーやらは全て管理所で保管している。無暗に使うと、どうなるかわからんしな。他に質問は?」

「あ、ああ次は『エルカード」について聞きたい」

「『了』に会ったもんな。エルカードとは一年前から 突如現れた謎のアイテムだ」


「誰が作ったかも分からんのか?」

「『アトジ』と言う者が作った。そいつは何か困っている者に、エルカードを与えている様だ。普段どこに居るのかわからない」

「それなら良いじゃないか。誰かの為なら」

「そうはいかない。エルカードは誰にでも力を与える。悪人だとしてもな」

「エルカードも科学で作られてるのか?」

「違う。エルカードはどうやら科学では説明できない物だ。そこら辺は重要では無い」

「エルカードはみんな持っているのか」

 ブルーは了を思い出し尋ねる。もしみんな持ってるなら私も欲しい。と彼女は考えていた。

「いや持つ者は少ない、珍しい物だ」

「了のやつはたくさん持っていたぞ?」

「実はそれについては良く分かってない。了はエルカードが現れた後やってきた正体不明人物だからだ」

「そうなのか?」

「了と初めてあったのは、悪党がエルカードを使い暴れていた時だ。今まで大した力のない奴が突然、特殊能力を使いだし、困ってた所に了が現れた」

「了はエルカードを使い、瞬く間に悪党を倒してしまった。私は謎のカードを持つ了に話しかけた」

「それで」

 ブルーは前のめりになり興味深そうに聞いている。自分を負かした了とエルカードの話だからだ。

「了は自分がどこから来たのかわからなくて、知っているのは自分の名前とエルカードの事だけ。悪党を倒したのはエルカードを持って暴れていたからだと」

「その後はエルカードの事を聞き、了を管理所に務めさせてた。行く当てが無いらしいしな」

「エルカードを使い何かしないか、監視するためだろ」

 ブルーは少し毒づく。苦笑するアサキシ。

「まあその通りだ。エルカードは使い方次第で凶器になりかねんからな。了についてもエルカードを持たせたままにし、平和利用すべきと考えて手元に置いといた。了自身は善良な奴だ」


「…………」

 ブルーはあることに気づいた。それはアサキシが吸血鬼を微塵も恐れていないことだ。
 謝罪したとは言え問題を起こした者と二人っきりで話しているのだ。ただ者でないことが分かった。
 彼女はその事に気づいたのを隠しながら、アサキシを相手する。

「ちなみに、どこかでエルカードを見つけたら管理所に持って来てくれ。大金と交換する。さて、次の質問は?」

「この世界の文化について知りたい ここは異世界だがなぜ西洋の文化が存在する?」

「多くの妖怪が西洋諸国から流れ込んだからだ。それに伴い西洋の文化がこの世界に流れ込んで根付いた。まっ世界が違えど人が作るものは似たようなものになる」

「東洋の建物や見たことのない服装の輩もいたぞ?」

 ブルーは東洋の建物や現代の服装であるTシャツとジーンズを着た若者を思い返した。

「夢幻界は西洋以外の文化も流れ込む。だから東洋の建物や道具も文化もある。この夢幻界は景観こそは古風なヨーロッパだが、中身は違う」

「なるほど納得した」

「ちなみにだが、先導師アカネは日本という国から来たらしい。 以上が夢幻界の文化について簡単な説明だ。では次は何を知りたい」

「この世界、もしくは人の街のルールについて」

「それなら簡単だ一つ人の街で魔物は人を襲ってはならない逆も然り。二つ魔物のテリトリーには無闇に入らない。三つ人里の法は人の街でのみ機能する」

「良し、そこまでで十分だ」

 話を途中まで聞き、話を区切る。相手はきょとんとした。

「む、まだあるがまあ大切なのは言ったしいいかな。お前も守ってくれよ」

 彼女に釘を刺した。そして、他に何か尋ねる事は無いかと聞くと、彼女は無いと答え、アサキシに対し謝辞を述べ、管理所を後にした。


 ―――ブルーが管理所を出るころには、昼から夕方になっていた。ブルーは花屋で花を買い、広場にある石碑に花を献花した。そして今日の話を振り返っていた。

(謎の多い世界だとわかったがアサキシがただ者でないこともわかった。今日聞いた話の中に嘘の部分がる)

「……面白そうな世界だ」

 吸血鬼は微笑み、自分の館へ飛び去った。
しおりを挟む

処理中です...